『パルメット』:1998、アメリカ&ドイツ

新聞記者だったハリー・バーバーは、スクープ記事を取り消すための賄賂を拒否して罠にハメられ、刑務所に入れられた。しかし新証言が出たため、彼は2年ぶりに出所することになった。故郷のパルメットに戻ったハリーは、同棲していた恋人ニーナと再会する。
ハリーは大富豪フェリックス・マルルーの後妻レアと知り合い、リスクはあるが報酬の高い仕事があると告げられる。レアはハリーに、フェリックスの連れ子オデットを偽装誘拐し、50万ドルの身代金を要求するという仕事に誘われる。その偽装誘拐にはオデットも関わっており、ハリーには報酬として5万ドルを支払うという。
ハリーはオデットを偽装誘拐してコテージに宿泊させ、フェリックスに身代金を要求する。レアはフェリックスが絶対に警察には連絡しないと話していたが、警察はすぐに誘拐事件の情報を得る。ハリーはレニック警部補とメドウズ地方検事から、警察の連絡係になってマスコミを仕切ってほしいと依頼され、その仕事を承諾する。
ハリーは指定した場所に出向き、フェリックスが用意した身代金を入手した。だが、コテージに向かった彼を待っていたのは、オデットの死体だった。やがてハリーは、レアとボディガードのドネリーが手を組んで、自分を罠に掛けたのだと確信する…。

監督はフォルカー・シュレンドルフ、原作はジェームズ・ハドリー・チェイス、脚本はE・マックス・フライ、製作はマシアス・ウェンドラント、製作総指揮はアル・コーリー&バート・ローゼンブラット&ユージーン・マッソー、撮影はトーマス・クロス、編集はペーター・プルツィゴッダ、美術はクレア・ジェノーラ・ボーウィン、衣装はテリー・ドレスバック、音楽はクラウス・ドルディンガー、音楽監修はデヴァ・アンダーソン。
出演はウディー・ハレルソン、エリザベス・シュー、ジーナ・ガーション、マイケル・ラパポート、ロルフ・ホッペ、クロエ・セヴィグニー、トム・ライト、マーク・マコーレイ、ジョー・ヒッキー、ラルフ・ウィルコックス、ピーター・ポール・デレオ、ハル・ジョーンズ、サルヴァドール・レヴィ、リチャード・ブッカー、ミッキー・マッキーヴァー、ビル・ラーソン、ティム・W・テリー、ジム・ジャニー他。


ドイツのフォルカー・シュレンドルフ監督がアメリカでメガホンを執った作品。テレビ放送では『パルメット/誘拐の甘い香り』や『レア/魔性の肉体』といった別タイトルになる場合もある。
ハリーをウディー・ハレルソン、レアをエリザベス・シュー、ニーナをジーナ・ガーション、フェリックスをロルフ・ホッペ、ドネリーをマイケル・ラパポートが演じている。

アメリカの映画製作スタイルがシュレンドルフ監督の肌に合わなかったのか、それとも脚本が合わなかったのか、理由はともかく、この作品は「世界的な名監督(と称されるシュレンドルフ監督が撮った、底抜けヘロヘロ映画」になってしまった。
序盤から底が割れちゃってるし、もう取り戻すことは不可能だろうと推測できてしまう。
けだるくて妖しい雰囲気のサスペンスにしたかったのかもしれないが、無理のある設定や展開を、キャラクターの魅力やカメラワーク、ムードなどで隠すことも出来ていない。

完璧なはずの計画が破綻するのではなく、オデットが勝手な行動を取るなど、最初から計画は破綻している。もはやコメディー・タッチでドタバタ喜劇として作る以外に無いような話にも思えるのだが、当然ながら、ものすごくマジでシリアスに作られている。
一向に緊張感が生まれないのは、狙いなんだろうか。
意図的にしろ、違うにしろ、どっちにしても成功しているとは言えない。
最もスリリングなのは、ハリーが車で事故を起こしたシーンかもしれない。
しかし、錯乱して事故を起こすというのは無理がある。
ただ、そんな無理でもしなければ、緊張感を持ち込めないということなのだろう。

まず、ハリーがレアと知り合う段階で、引っ掛かりを覚える。
「レアが電話ボックスに起き忘れたバッグにハリーが気付き、しかも中から財布を盗む」といいうこがきっかけで、2人は知り合っている。
後の流れを考えると、レアはハリーを利用するために彼に接近している。
だから電話ボックスにバッグを忘れたのは、ワザとだったということだ。
しかし、良く考えてみると、電話ボックスに起き忘れたバッグに、ハリーが気付くとは限らない。
もし気付いたとしても、金を盗むとは限らない。
つまり、ハリーと知り合うきっかけとしては、確実性が低すぎる。もっと確実に知り合える方法を選ぶべきだろう。

そもそも、ハリーが金を盗むという時点で、ちょっと妙なことになってしまう。
彼は確か、賄賂を拒んで刑務所送りになったはずである。
つまり、正義感があったはずなのだ。
そんな人間が、簡単に他人の金に手を出すというのは引っ掛かる。
だったら最初から、ハリーが小悪党で、犯罪に手を出して捕まったということにすれば良かったのだ。
で、金を盗んだだけに終わらず、ハリーはレアの持ち掛けた犯罪行為にホイホイと乗ってしまう。
女の色香に惑わされたという形にしたいのかもしれないが、レアが誘う前に、むしろハリーの方から積極的に彼女にアプローチを仕掛けている。

ハリーが初めて会ったレアの持ち掛けた怪しい儲け話に興味を抱くのも、電話してくれと言われたのにズカズカと屋敷の敷地に上がり込むのも、良く分からない。
他に行動理由が思い当たらないので、レアに惹かれたということなのかもしれないが、その時点では彼女がエロティックなフェロモンを撒き散らしている印象は全く無い。

レアと会う直前のシーンで、ハリーは久しぶりに再会したニーナとイイ感じになっている。
ニーナに不満があるわけでもない。
会ったばかりのレアに惑わされるのなら、ニーナは色気が無く、モッサリした女にしておけば良かったのだ。そうすれば、セクシーでエロティックなレアにハリーがすぐにハマってしまうというのも分かりやすい。

もしかすると、エリザベス・シューを『氷の微笑』のシャロン・ストーンみたいな扱いにしたかったのかなあ。
しかし、だったら、もっと脱がないと。
まあ、ほとんど脱いでいないのに、レアが安いズベ公に見えてしまうのは、ある意味では凄いことなんだろうけどね。
でも、レアの安さが強く影響したのか、映画全体が安くなっちゃってるわな。

あまりにハリーの行動が穴だらけなので、「わずかなミスを隠そうと必死になる」という行為から緊迫感が生まれるということが成立しない。
どれだけ頑張ったところで、隠し切れないほど穴がデカい。
バカな奴のバカすぎる計画が失敗しても、そりゃ当然だ。

ハリーが「夫は警察に連絡しない」というレアの言葉を完全に信用するのも、幾つも証拠を残すのも、かなりアホである。
そんなバカなハリーが、どれだけ追い詰められても全く同情できず、「自業自得だろ」と冷たく突き放したい気分になってしまう。

 

*ポンコツ映画愛護協会