『パシフィック・リム:アップライジング』:2018、アメリカ&中国&イギリス&日本

海底の裂け目から出現したプリカーサーが怪獣を操って襲って来た時、人類はイェーガーを開発して対抗した。スタッカー・ペントコスト司令官は命を捨てて人類を救い、裂け目は塞がれた。それから10年後、ペントコストの息子であるジェイクは仲間と酒を飲んで自堕落に遊び、違法な転売で金を稼いでいた。ある夜、彼はイェーガーの部品を入手して大きく稼ぐため、商売相手の連中と共に廃棄場へ侵入した。しかし目当ての部品は既に盗み出されており、商売相手の連中はジェイクを始末しようとする。
ジェイクは慌てて廃棄場から逃げ出し、部品を盗んだ人物の居場所を突き止めた。彼が倉庫へ乗り込むと、犯人はアマーラ・ラマーニという少女だった。ジェイクを尾行していた警察が駆け付けたため、アマーラは自作した小型イェーガーのスクラッパーに搭乗する。するとジェイクも勝手に乗り込むが、アマーラは倉庫から脱出した。そこへPPDC(環太平洋防衛軍)が差し向けたイェーガーのノーベンバー・エイジャックスが立ちはだかるが、アマーラは煙幕を張って逃亡した。
ジェイクはイオン電池を使い、ノーベンバーを感電させて逃亡を手助けする。しかしノーベンバーはすぐに再起動し、スクラッパーの動きを停止させた。アマーラとジェイクは逮捕され、牢屋に収容されて激しく口論する。スクラッパーを売らないのに作った理由を問われたアマーラは、「いつか怪獣が戻って来るからよ。その時は誰かに助けてもらうのを待たずに戦う」と語った。ジェイクだけが牢から出され、取調室へ連行された。するとホログラムの森マコが出現し、「またここに来たの?」と口にした。
ジェイクが「これが最後だ。義姉さんの力を貸してくれ」と釈放するよう求めると、マコは「別の形なら」とPPDCへの再入隊を持ち掛けた。「訓練生は嫌だ。俺はもう若くないし」とジェイクが嫌がると、マコは「訓練する側になるの」と教官としての復帰であることを説明する。ジェイクは拒むが、マコは彼を教官として、アマーラを新入隊員として基地へ送ると通告し、一方的に通信を打ち切った。ジェイクはアマーラと一緒にモユラン・シャッタードーム基地へ移送され、同期生だったネイト・ランバートと再会する。レンジャーのネイトは「ここは軍の基地だ。兵士らしくしろ」とジェイクに言い、「ここでは何も盗むなよ」と釘を刺した。
アマーラは基地に置いてある様々なイェーガーを見て、興奮した様子を見せた。ジェイクはネイトから自分が乗るジプシー・アベンジャーを見せられ、技師のジュールス・レジェスからは皮肉を浴びせられた。ネイトは8人の訓練生がいる部屋へ行き、ジェイクとアマーラを紹介した。ジェイクとネイトが去った後、他の訓練生が「ペントコストが教官に」と嬉しそうにする中で、ヴィクだけは冷淡に「裂け目を閉じた英雄とは大違いよ。実戦も経験してない」と告げた。
アマーラがヴィクに話し掛けると、「イェーガーを作ったらしいね。ガラクタいじりがしたいなら技師になりな」と冷たく突き放された。訓練生のジナイはアマーラに、「ヴィクは3度目の試験でやっと入隊できたから君に嫉妬してる」と教えた。アマーラは訓練生のスレシュと組んでイェーガーの操縦シミュレーションに臨むが、失敗に終わった。ネイトが「期待外れだ」と厳しい態度を示すと、ジェイクは「俺を嫌うのはいいが、まだアマーラはガキだ」と告げた。
食堂で2人きりになった時、ネイトが「訓練生は俺たちを見本にしてる。いがみ合うのはやめよう」と提案すると、ジェイクは「俺はお前を嫌ってない。訓練が終わるまで、お前が兵士っぽいことを言う度に、俺はその通りだという顔でうなずく」と語った。ジェイクはネイトから、翌日に新型無人機のプレゼンがあり、自分たちは用無しになるかもしれないと聞かされる。ジェイクは全く教官としての仕事にやる気を見せなかったが、ネイトは「お前は本気を出せば偉大な兵士になれる」と告げた。
次の日、シャオ産業のリーウェン・シャオ社長が研究開発主任のニュート・ガイズラー博士たちを伴って基地を訪れ、チュアン司令官が出迎えた。ニュートはマコと言葉を交わし、ジェイクがペントコストの息子だと知って興奮した。ハーマン・ゴットリーブ博士はニュートに、自分の研究を手伝ってほしいと頼む。彼はニュートをラボへ案内し、イェーガーの配備に時間が掛かる問題を解決するため、ロケット推進器を開発しようと考えていることを明かした。
「このパワーを出せる燃料は存在しない」とニュートが言うと、ハーマンは怪獣の血とレアアースの要素を混合すれば可能だと説明する。ニュートは「こんなのは無駄だ。ボスの無人機が承認されれば問題は解決する。1年以内に無人機は世界中に配備される」と告げた。彼はリーウェンに呼び戻され、ハーマンとの関係を問い質された。ニュートは「ハーマンは研究仲間です」と何の問題も無いことを釈明するが、リーウェンは「忠誠心を私に疑われないように」と鋭く告げた。
リーウェンは基地の面々の前で、無人機が配備されれば世界各地から遠隔操作が可能になり、ドリフト適合するパイロットを見つける必要も無くなると語る。しかし多くのパイロットは納得できず、激しく抗議した。ジェイクは無人機の配備に賛同するが、マコは「リモート・システムはハッキングされる恐れがある」と言う。マコが最高評議会に出席することを話すと、ジェイクは「付いて行ってやるぜ。ここを出たいしな」と告げる。既にマコはジプシー・アベンジャーの最高評議会の警護役に要請しており、ネイトと一緒に操縦するパイロットとしてジェイクに同行を求めた。
オーストラリアのシドニー。怪獣を崇拝する大勢の暴徒が集まる中に、ジェイクとネイトの乗るジプシー・アベンジャーがドロップした。ネイトはジェイクに、互いの頭に入っている間、ジュールスのことを考えるのはやめろ」と釘を刺した。リーウェンは車で会場に到着し、マコもヘリで向かう。その時、海からオブシディアン・フューリーという正体不明のイェーガーが出現し、チュアンの呼び掛けを無視してミサイルを発射した。
ジェイクとネイトは敵と戦うが、マコのヘリが墜落しそうになっているのを見て救助に向かう。しかしネイトが伸ばした腕は届かず、マコは死亡した。基地に戻ったジェイクは、アマーラからドリフトできずに困っていることを聞いて訓練を手伝う。アマーラの記憶を見た彼は、彼女が怪獣の襲撃で家族を失った幼少期の出来事に囚われていると知った。チュアンに呼ばれたジェイクは、マコが墜落直前に送ろうとしていたメッセージの断片があることを聞く。ハーマンが断片の修復を始めると、チュアンは「詳しく調べろ。なぜ送ったのか知りたい。あのイェーガーに誰が乗っていたのかもな」と告げた。
リーウェンは上海のシャオ産業ビルに戻り、全ての無人機を48時間以内に配備するようニュートに命じた。ニュートは帰宅してリーウェンへの愚痴をこぼし、水槽で飼っている怪獣の第二の脳に話し掛けた。アマーラはスクラッパーのことをヴィクに侮辱され、嫌味で返した。ヴィクが怒って掴み掛かると、アマーラは反撃して捻じ伏せた。そこへネイトが来て2人を叱責し、「俺も入隊当時はお前らと一緒だった。もっと酷かった。だが、入隊した者は家族だとマコが教えてくれた。その言葉を信じろ。イェーガーを信じろ」と説いた。
チュアンはネイトとジェイクを呼び、ハーマンはマコのメッセージがシベリアの廃工場を示していると説明する。以前はイェーガーの動力コアを作っている工場だったが、現在は閉鎖されていた。ジェイクとネイトがジプシー・アベンジャーで廃工場へ行くと、オブシディアン・フューリーが襲い掛かって来た。廃工場は崩壊するが、ネイトとジェイクは敵イェーガーを退治した。2人がパイロットを捜索すると、操縦席にいたのは怪獣の脳だった。ハーマンは帰還した2人に、それが昔の戦争で死んだ怪獣から取り出した物だと教えた。
アマーラは回収されたオブシディアン・フューリーの中を見たくなり、ジナイ、スレシュ、メイリンに誘いを掛けた。誰も賛同しなかったが、アマーラが1人でフューリーへ侵入しようとすると3人とも同行した。アマーラが怪獣の脳を調べていると、ジナイが怪我を負ってしまった。アマーラは助けを呼ぶようスレシュたちに指示し、侵入していた罪で追放処分を下された。「最初から無理だった」という彼女の言葉を聞いたジェイクは、「俺も昔、そう言ったことがある」と告げた。
入隊した理由をアマーラから問われたジェイクは、「俺の親父は部隊のリーダーだったし、会えるかもしれないと思った」と答える。彼はネイトと喧嘩になったこと、1人でも動かせることを見せようとしてイェーガーに乗ったが失神したこと、追放処分になったと父から通告されたことを語る。その1年後、スタッカーは死亡していた。彼はアマーラに、「自分が何者か決めるのは自分だ。人がどう言おうと関係ない」と説いた。
アマーラは「フューリーはシャオ産業のテクノロジーを使っている」とジェイクに知らせ、その証拠を具体的に挙げる。ジェイクはネイトとハーマンに、アマーラが突き止めた情報を伝えた。ハーマンが「ニュートなら何か知っているかもしれない」と口にすると、ジェイクは目立たないよう会いに行く任務を指示した。ニュートは無人機の輸送を完了させるが、接続が中断してしまう。シャッタードーム基地でも無人機の異変が発生したため、チュアンはジェイクとネイトにジプシーへの搭乗を命じた。
2体の無人機は暴走を開始し、チュアンは全パイロットにイェーガーで応戦するよう指示した。ハーマンはニュートの元へ行き、無人機が暴れていることを知らせた。彼は「君は騙されてる。あの女は君の研究を間違ったことに使ってる」と訴え、協力を要請した。ニュートとハーマンは連行しようとする警備員たちを叩きのめし、ラボからリーウェンと部下たちを追い出した。ニュートはハーマンに、「無人機を止める裏技がある。万が一に備えて司令プログラムを仕込んでおいた」と告げた。
ハーマンが異変に気付くと、ニュートは「10年も計画してきたことだ。この世界を滅ぼす」と宣言した。彼は無人機を動かし、裂け目を開いた。シャッタードームは無人機の攻撃を受け、チュアンが死亡した。ニュートの様子を見たハーマンは、彼がプリカーサーに感染したことを悟る。説得しようとするハーマンにニュートが襲い掛かると、リーウェンが戻って拳銃を構えた。リーウェンが射殺しようとするとハーマンが「やめろ、彼は正気じゃないんだ」と叫んで妨害し、その隙にニュートは逃亡した。
ハーマンはジェイクに通信を入れ、ニュートが無人機を暴走させていることを教えた。ジェイクたちはイェーガーに乗ることも出来ず、逃げるのに精一杯だった。リーウェンが必死で無人機を制止させ、裂け目は閉じられた。だが、既に3体の怪獣が出現しており、ジェイクはハーマンに基地へ戻るよう命じた。太平洋沿岸の基地は全て壊滅し、使えるイェーガーはジプシーだけになっていた。パイロットも大半は重傷を負っていたが、まずはイェーガーの修理を急ぐ必要があった。
ジェイクはアマーラを呼び、部隊に復帰して修理を手伝うよう指示した。ハーマンはリーウェンたちと共に、基地へ到着した。ハーマンは出現した怪獣に、シュライクソーン、ハクジャ、ライジンという名前を付けていた。リーウェンは怪獣の2体が海中を進んでいることについて、東シナ海にいるハクジャと合流するつもりだろうと述べた。ハーマンはジェイクたちに、他の基地から出動したイェーガーが怪獣に倒されたことを知らせた。
ジェイクは「戦時中に怪獣が狙ったのは都市ではなく、他のどこかじゃないか」と言い、ハーマンは怪獣が富士山のレアアースを目指していることを確信する。怪獣の血液はレアアースに反応し、それが引き起こす連鎖で環太平洋中の火山が爆発して有毒物が放出され、世界は壊滅してしまう。ハーマンは修理が完了した4機のイェーガーに推進器を取り付け、ジェイクたちが出撃することになった。ジェイクは自分とネイト以外のパイロットとして、訓練生を起用することに決めた。彼は訓練生に熱弁を振るい、任務をやり遂げて世界を救うよう説いた。ジェイクたちは準備を整え、イェーガーに乗り込んで東京へ向かう…。

監督はスティーヴン・S・デナイト、キャラクター創作はトラヴィス・ビーチャム、脚本はスティーヴン・S・デナイト&エミリー・カーマイケル&キラ・スナイダー&T・S・ノーリン、製作はメアリー・ペアレント&ケイル・ボイター&ギレルモ・デル・トロ&ジョン・ボイエガ&フェミ・オーガンズ&ジョン・ジャシュニ&トーマス・タル、製作総指揮はエリック・マクロード&ドリー・ウー&ホップミング・チェン、共同製作はジェン・コンロイ、製作協力はブルック・ウォーリー&ジェイク・ライス&ジェイ・エイシェンフェルター、撮影はダン・ミンデル、美術はシュテファン・デシャント、編集はザック・ステーンバーグ&ディラン・ハイスミス&ジョシュ・シェファー、衣装はリズ・ウォルフ、視覚効果監修はピーター・チャン、ヴィジュアル・コンサルタントはギレルモ・デル・トロ、音楽はローン・バルフェ。
出演はジョン・ボイエガ、スコット・イーストウッド、ジン・ティエン、チャーリー・デイ、マックス・チャン、ケイリー・スピーニー、菊地凛子、バーン・ゴーマン、アドリア・アルホナ、ウェスリー・ウォン、カラン・ブラル、イヴァンナ・ザクノ、新田真剣佑、リリー・ジー、シャーリー・ロドリゲス、ラハート・アダムス、リーヴァイ・ミーデン、ダスティン・クレア、チェン・ジートン、ユー・シャオウェイ、チャン・ヨンチェン、ツェッペリン・ハミルトン、チアミン・グオ、ラン・インイン、ニック・E・タラベイ、ダン・フューリーゲル、ジェイミー・スレイター、ヴィクター・マットヴィーヴ他。


2013年の映画『パシフィック・リム』の続編。
前作の監督を務めたギレルモ・デル・トロは降板し、ヴィジュアル・コンサルタントと製作を担当。
今回の監督は、TVドラマ『ヤング・スーパーマン』や『Marvel デアデビル』を手掛けたスティーヴン・S・デナイト。
ニュート役のチャーリー・デイ、マコ役の菊地凛子、ハーマン役のバーン・ゴーマンは、前作からの続投。
ジェイクをジョン・ボイエガ、をスコット・イーストウッド、ネイトをジン・ティエン、リーウェンをマックス・チャン、アマーラをケイリー・スピーニー、ジュールスをアドリア・アルホナ、リョウイチを新田真剣佑が演じている。

第1作の公開から第2作が製作されるまでに、その環境には大きな変化があった。
製作しているレジェンダリー・ピクチャーズが、中国の大連万達グループに買収されたのだ。
それを受けて「中国の大手企業が無人機を開発している」という設定が用意され、さらにマックス・チャン、ウェスリー・ウォン、リリー・ジーンといった中国系の俳優も起用されている。
大連万達グループの大株主を恋人に持つジン・ティエンは、もちろん今回もレジェンダリー・ピクチャーズの過去作である『グレートウォール』や『キングコング:髑髏島の巨神』と同様に、主要キャストの1人として起用されている。

無人機の暴走によって大きな危機が生じるのだから、そのままだとリーウェンやシャオ産業は悪玉ってことになってしまう。
しかし何しろ大連万達グループ傘下のレジェンダリーが作っているんだから、中国企業や中国人を悪玉のまま終わらせることなんてない。ちゃんと「全てはニュートの独断」という設定を用意して、リーウェンの汚名を返上させている。
裏方だったはずのリーウェンが、最終バトルではイェーガーを遠隔操作して活躍するんだから、もはや苦笑しか無い。
しかし前述したように、ジン・ティエンは単に中国人の女優ってだけじゃなくて特別な存在なので、そんな扱いになるのは当然なのだろう。

そんな「中国と中国人は特別扱いする」という配慮の煽りを食ったのが、前作から続投しているマコとニュートという2人のキャラクターである。
マコは前作のヒロインだが、今回はジン・ティエンがいるので彼女は邪魔になる。そのため、前半のうちに雑な方法で殺されてしまう。
せめて「彼女の死を受けてジェイクが成長する」というドラマでもあれば救いになるが、そんなトコを膨らませる意識は皆無だ。
マコが死んだ直後は落ち込んでいたジェイクだが、すぐに「アマーラの訓練に付き合う」という行動を取り、「マコの死を受けて云々」という流れは消える。そのため、マコは「完全なる無駄死に」と言ってもいい。

ニュートは前作において、敵を倒すために命懸けで奮闘した功労者だ。そんな称賛すべき人物を、今回は悪玉にしている。
悪玉に変貌した理屈はサッパリ分からんが、そんなことより「なんでニュートを悪玉にするのか」という部分の方が大きな問題だ。
彼が悪玉に変貌しているにしても、これが「まだ良心が残っていて葛藤する」とか、「ハーマンの命懸けの行動でニュートが正気を取り戻す」みたいな展開があれば何とかなったかもしれないが、そんなのは無い。ハーマンの首を絞めて殺そうとした時、「済まない、奴が頭の中に」と力を弱めるシーンはあるものの、ほぼ純然たる悪党になっているのだ。
それは前作のファンに対する裏切り行為と断言してもいい。

前作の主人公であるローリー・ベケットが登場しないのは、決して「ジェイクを主役に据えようとしたら邪魔だから排除した」ってことではない。
本来はローリーが再登場する予定だったが、演じていたチャーリー・ハナムがスケジュールの都合で出演できなくなったため、ジェイクが主人公の物語に変更したという経緯がある。
ただ、それでもチャーリーは前作の主人公なんだから、何にかの形で触れるべきだろう。
しかし劇中で、誰もチャーリーに言及しない。彼の存在は、完全に「無かったこと」にされているのだ。
これもニュートの扱いと同様に、前作のファンに対する不誠実な態度だと思うぞ。

ジェイクの大まかな初期設定が、大コケした超大作『バトルシップ』に近いことには苦笑してしまった。
そんなジェイクは、PPDCの規律を守らないだけでなく犯罪行為にも手を染めているような奴だ。そんな男を、まだ訓練生として復帰させるならともかく、教官として再入隊させるなんて、正気の沙汰とは思えない。これが「PPDCが人員不足で猫の手も借りたい状態」とかならともかく、そうじゃないんだしさ。
マコに義姉としての温情があり、さらには「ジェイクには兵士としての才能がある」と感じていたとしても、教官ってのは単に兵士としての能力が高けりゃいいってわけではない。名選手が名監督になるとは限らないように、教える立場には教える立場としての才覚や資質が必要なはずだ。
そして、その資質を考えた時、規律を守ろうとしないジェイクは明らかに不適格だ。

アマーラが追放処分を下された時、ジェイクは自身の体験を語り、「自分が何者か決めるのは自分だ。人がどう言おうと関係ない」と説く。
だけど、それは立派な指導者が言うべき台詞であって。
本人が「そこから逃げたい。教官なんて辞めたい」と思っていた状態から何の成長も見えない奴なのに、どの口が言うのかと。
いつの間にかジェイクは基地の連中を引っ張る役割を担っているけど、いつの間に彼は「立派なリーダー」に成長したのかと。その過程が全く見えないぞ。

ジェイクには「偉大な父を持ったことに対する強烈なコンプレックス」ってのがあるはずで、「それを乗り越えて人間的に成長する」という展開は必須条件と言ってもいいだろう。
しかし、そんな物は全く無い。
また、ネイトとは反目関係あるはずだが、「反目から和解へ」というドラマも全く膨らまず、いつの間にか反目はフワッと消滅している。
この2人はジュールスを巡る恋のライバル関係でもあるのだが、ここも申し訳程度にしか使われずに終わっている。

アマーラを「勝手な行動が目立つ問題児」というキャラ設定にしておくのなら、それを導く役目を果たすジェイクは「規律を守る立派な大人」にしておいた方がいい。
そいつも「問題の多い男」にしておくのなら、アマーラとの関係は「彼女を導く中で、自分も成長する」という形にでもすればいい。
だけど、この映画だと、ジェイクは「自分のことは棚に上げて、アマーラには立派な講釈を垂れる」という形になっている。
なので、「お前ごときが偉そうなことを言うな」と指摘したくなっちゃうのよ。

アマーラは訓練生になった時、ヴィクに辛く当たられる。
この2人を出会った時点で険悪な関係にしているのだから、そこからは「2人が対立するが、次第に仲良くなっていく」とか、「何かのきっかけで絆が芽生える」とか、そういうドラマは必須と言えるだろう。
でも実際のところ、アマーラが追放されて基地を去る時にヴィクが「次にイェーガーを作る時は、デカいのにしな」と語るシーンでは、もう完全に反目関係は消滅している。
そこまでに、2人が和解する流れも、きっかけとなる出来事も、何も無かった。つまり本来は用意すべきドラマを完全に排除した上で、「初期段階」から「結果」へと強引に繋げているわけだ。

ヴィクに限らず、アマーラを除く訓練生のキャラ描写は総じて薄っぺらい。
訓練の様子もチラッとしか用意されておらず、「致命的な欠点があったが、訓練で克服する」とか、「最初はチームワークも無くてバラバラだったが、訓練を積む中で結束力が芽生える」とか、そんなドラマも皆無。
誰が誰なのかを判別することさえ、簡単とは言えない状態になっている。
そのため、クライマックスで訓練生がイェーガーのパイロットとして戦う様子を見せられても、ちっとも高揚感が刺激されないのだ。

前作の出来栄えが良かったとは、お世辞にも言えない。
ただ、少なくとも前作には、日本の怪獣映画や特撮物に対するギレルモ・デル・トロの強烈な愛とリスペクトが感じられた。彼のオタク魂が、確実に感じられる仕上がりではあった。
そんな偏愛的なオタク魂が、今回の続編には決定的に欠如している。
スティーヴン・S・デナイトにオタク的な感覚が、全く無いとは断言できない。しかし、ギレルモ・デル・トロとは意識が全く異なっているってのは間違いないだろう。
だからイェーガーは日本のロボットアニメ的なモノではなく、すっかり『トランスフォーマー』の模倣へと変貌してしまっているわけだ。

(観賞日:2019年10月18日)


2018年度 HIHOはくさいアワード:第1位

 

*ポンコツ映画愛護協会