『ブラボー火星人2000』:1999、アメリカ

サンタバーバラのテレビ局KGSCでプロデューサーを務めるティム・オハラは、チャニング局長に疎まれてロクな仕事を回してもらえない。ティムは熱意を訴えてスペースシャトル打ち上げの取材に回してもらうが、「ヘマをやらかしたらクビだ」と宣告される。
ティムはチャニングの娘でリポーターのブレースやクルーと共に現場に行くが、ヘマをやらかしてクビになる。その夜、ティムは帰宅途中に宇宙船の墜落を目撃する。現場に駆け付けたティムは、小さな物体を発見して持ち帰ることにした。
物陰に隠れていた火星人は、ティムの車のトランクに忍び込んだ。実は小さな物体は、火星人が特殊な機械で小型化した宇宙船だった。火星人はティムの家に侵入するが、見つかってしまう。火星人は、喋る宇宙服ズートの協力でティムを気絶させた。
KGSCのカメラマン、リジーが来たため、火星人はティムに姿を変えた。火星人はリジーにキスをして、彼女を追い返した。気が付いたティムは、管理人のブラウンに火星人の存在を知らせようとする。だが、火星人はティムの叔父マーティンだと自己紹介する。
ティムはマーティンに、壊れた宇宙船を修理する手伝いを申し出た。しかし、ティムはマーティンが火星人の姿になっているのを盗撮し、テレビ局で流そうと考えていたのだ。ティムはマーティンに入浴を勧めて、火星人の姿を撮影することに成功した。
一方、SETIの研究主任コーライや上司のアーミタンは宇宙船の墜落現場を調査し、火星人の捜索を開始した。コーライは勘違いから、グレースを連れ去ってしまう。火星人が地球に来たことを知ったグレースは、コーライを誘惑して手を組んだ。
ティムは火星人の姿を撮影したものの、マーティンに親しみを感じてテレビ局への持ち込みを中止する。しかし、ビデオテープの存在を知ったグレースが、ティムの隙を見て持ち去ってしまう。グレースは、その日の番組でテープを放送するつもりなのだ。ティムとマーティンはテレビ局に駆け付け、ビデオテープをすり替えることに成功した。
宇宙船の自爆装置が作動し、今日中に離陸しないと爆発するという事態が起きていた。しかもティムやマーティンは気付いていなかったが、小型化された宇宙船にリジーが閉じ込められていた。おまけにティムとマーティンは、コーライ達に捕まってしまう…。

監督はドナルド・ペトリ、TVシリーズ創作はジョン・L・グリーン、TVシリーズ製作はジャック・チャートク、脚本はシェリー・ストナー&ディアンナ・オリヴァー、製作はロバート・シャピロ&ジェリー・レイダー&マーク・トベロフ、共同製作はダリル・キャス、製作総指揮はバリー・ベルナルディー、撮影はトーマス・アッカーマン、編集はマルコム・キャンベル、美術はサンディー・ヴェネツィアーノ、衣装はホープ・ハナフィン、視覚効果監修はフィル・ティペット&ジョン・T・ヴァン・ヴライアット、Animatronic Martian Effects Designed and Createdはアレック・ギリス&トム・ウッドラフjr.、音楽はジョン・デブニー。
出演はジェフ・ダニエルズ、クリストファー・ロイド、エリザベス・ハーレイ、ダリル・ハンナ、レイ・ウォルストン、ウォーレス・ショーン、クリスティーン・エバーソール、マイケル・ラーナー、ジェレミー・ホッツ、T・K・カーター、シェリー・マリル、ドーン・マックセイ、スティーヴン・アンソニー・ローレンス、マイケル・チェフォー、トロイ・エヴァンス、アーサー・センジー、チャールズ・チュン他。


1960年代に放送されたTVシリーズをリメイクした映画。
マーティンをクリストファー・ロイド、ティムをジェフ・ダニエルズ、ブレースをエリザベス・ハーレイ、リジーをダリル・ハンナが演じている。アンクレジットだが、ズートの声はウェイン・ナイトが担当。
「リメイク」と前述したが、「続編」的な要素もある。ティムとマーティンという登場キャラはテレビ版と同じだが、「1964年に火星人が来た」という、テレビ版を過去の出来事として捉えていかのような設定がある。さらに、テレビ版でマーティンを演じたレイ・ウォルストンが、「アーミタン、実は1964年に地球に来た火星人ニーナート」として登場するのだ。

基になったTVシリーズを見たことのある日本人は少ないだろうが、そんなことは、この映画を見る際のマイナスにはならない。「TVシリーズを見ていなければ楽しめない、あるいは分からない部分がある」というタイプの作品ではないからだ。
だから、この映画が面白くないと感じるのは、TVシリーズを見ていないからではない。単純に、出来映えが悪いだけだ。監督のドナルド・ペトリは、この映画までに『リッチー・リッチ』『ヒミツのお願い』『チャンス!』などを撮っている。そして脚本は『キャスパー』のコンビ。まあ、最初から「低予算で製作し、元が取れりゃOK」程度の志なんだろう。

冒頭、「いかにもオモチャです、ミニチュアです」と言わんばかりの火星探査機が登場する(TVシリーズの『サンダーバード』を思い浮かべた)。一瞬、「本物と思わせてミニチュア」というオチがあるのかと思ったぐらいだ。コメディーだし、わざと「作り物です」ということを意図的に見せているのかとも思ったのだが、そうでもないようだ。
どうやらティムはダメ社員という扱いをされているようで、だから局長からはロクな仕事を回してもらえず、「今度ドジったらクビ」と言われる。だが、何がどうダメ社員なのかは良く分からない。彼が何度もヘマを繰り返しているような表現が無いからだ。

ティムとグレースの関係がファジーで、グレースは完全にティムを嫌っているみたいなのだが、ティムの車でドライブしている。どうやら最初にティムがグレースに惚れているような素振りを見せるが、その設定が生かされるわけでもないし、完全にグレースはイヤな性格のビッチに設定されているし、そこの恋愛感情は要らないと思うぞ。
マーティンの着ている服にはズートという名前があり、独自の意志を持って喋ったり動いたりする。これは映画用に新たに持ち込まれたアイデアらしいが、何故そんな設定を持ち込んだのか理解に苦しむ。何しろ、騒がしくて疎ましくて邪魔なだけなのだ。

マーティンもズートも喋りが攻撃的で、少しタイプが違うとはいえツッコミではなくボケ。つまり、キャラが被っているのだ。しかも、マーティンを放置したまま、ズートが暴れるシーンを見せたりもする。ズートを見せる暇があったら、マーティンを見せろと言いたい。
本来ならばマーティンと地球人との掛け合いで笑いを作っていこうとすべきなのに、いきなり何のコミュニケーションも無い内にティムを放っておいて、マーティンが彼に変身するという展開を持って来る。なぜ、まず最初にティムとマーティンの掛け合いを見せようとしないのか。

必死にマーティンが火星人であることを訴えようとしていたティムは、数分後には簡単に「マーティンは叔父」ということで諦めてしまう。どうやら、それは盗撮のための策略だったようだが、それが分かりにくい。というか、そもそも途中で変節するのではなく、最初から「協力すると見せ掛けて盗撮を狙う」ということで行けばいいのよ。
正体を撮影しようとするなら、それはそれで構わないが、だったら「盗撮を狙うがヘマをやらかして失敗」というパターンを繰り返し、笑いを作ればいい。あるいは、「マーティンの軽率な行動で正体がバレそうになり、慌ててティムが誤魔化す」というパターンを繰り返すのもいいだろう。しかし、繰り返しで笑いを行く姿勢は全く感じられない。

とにかくマーティンとズートだけは過剰に騒がしい(ただ騒がしいだけで、面白いことを言ったりやったりするわけではない)。しかしティムの行動も、笑いを取りに行こうとする姿勢も、「もう少し過剰になれ」と言いたくなるほど淡白で、そして散漫だ。
ティムは盗撮に成功した後、マーティンに親しみを抱いたような素振りを見せる。しかし、ちっとも納得できない。一体、どこでどんな風に親しみを感じたのだろう。せいぜい、「ありがとう、すまん」と言われた程度だ。そんなに心と心の交流なんて無かったぞ。

ティムとマーティンが仲良くなるという展開にするなら(当然、そうすべき作品だが)、2人の交流ドラマを笑いに包みつつ見せるべきなのに、そこが薄い。じゃあ代わりに何を描いていたのかと聞かれると、特に何もやっていないのだが。せいぜい、ちっとも上手く絡んでいないティムとリジーの恋愛ドラマがあるぐらいだろうか。
キャラクターの絡み、掛け合い、やり取りによって笑いを生み出すという作業を、ほとんど放棄してしまっている。マーティンと、リジーやブラウン達を絡ませるシーンが、とても少ない。地球人を放っておいて、マーティンとズートの掛け合いで笑いを取りに行ったりする。「火星人が地球に落ちてきた」という設定の意味は、どこへ行ったのか。

なぜかマーティンが変身ガムをティムに食べさせるという強引極まりない展開を用意したり、唐突に「うつ病」ということでマーティンの手足が取れたり、ティムとマーティンが車ごと小さくなってトイレに紛れ込んだり、リジーがエイリアンに変身したり、色々なことをやっているのだが、「なんかバラバラだな」という印象しか受けない。
「マーティンは透明になれる」という設定だけを取っても、複数のシーンで笑いを取りにいけるだろう。しかし贅沢にも、1つ1つの特徴は、どんどん使い捨てにされていく。「繰り返しの笑い」というパターンを拒否し、同じ特徴を使うにしても違った形で見せようとする。

CGを見せたいのか、笑いを取ろうということなのか、その場その場で取って付けたような展開が連続する。そして芯の通っていない、寄り道ばかりのような作品が出来上がる。
ちなみに「CGで見せる映画」というほど、CGに金を掛けているわけではない。


第22回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最も痛々しくて笑えないコメディー】部門
ノミネート:【最悪なTV番組の映画化】部門
ノミネート:【最も無様なコメディー・リリーフ】部門[喋る服(ウェイン・ナイトが声を担当した宇宙服のズート)]

 

*ポンコツ映画愛護協会