『走れ走れ!救急車!』:1976、アメリカ

救急会社のF&Bを営むハリーは、社員たちに「怪我人や病人がいる限り、俺たちには金が入る。役立たずの連中も、俺たちには神様だ。奴らが乗るのは一番乗りの救急車だ。競争は厳しい」と語る。彼は「ライバルのユニティー救急会社は、俺たちの縄張りを狙ってる。絶対に阻止する」と熱く訴えるが、社員たちは冷めた態度だった。交換手のジャグスが「ウェイド街でお産です」と知らせたので、ハリーは社員に出動を命じた。
女子プロレスの試合が行われている会場では、場外へ投げ飛ばされたレスラーが怪我を負った。F&Bのマードックと相棒のウォーカーは会場へ赴き、レスラーを救急車に乗せる。マードックは彼女を口説いて体に触れるが、首を絞められた。F&Bのマザーと相棒のリロイは救急車を走らせている最中、ジャグスからコード3の連絡を受けた。そっちに回れるかと問われたマザーは、「後で連絡する」と答えた。マザーたちが部屋へ行くとヤク中の女がいて、ベッドで男が死亡していた。男の傍らにはヤクと注射器が転がっており、女は「その人を連れてってよ。お金は払うから」と言う。マザーは「移動するには消防隊員か警官の正式な死亡確認が必要なんだ。」と説明し、連絡を入れる許可を貰った。
マザーはバーへ行き、警官のデイヴィーとハーヴェイから急性アルコール中毒で女性が死んだことを告げられる。マザーは知らせてくれた謝礼に5ドルをデイヴィーに請求され、「役所がくれるのは30ドルだ。賄賂の相場は10パーセントだぜ」と言う。するとデイヴィーは、「物価は上がってる。嫌ならユニティーを呼ぶぞ」と告げた。あるアパートでは、黒人の女性たちがカード遊びに興じていた。しかし住人のヘレンが誤って照明にぶら下がってしまい、その重みで壁が壊れて落下した。
マザーとリロイがヤク中女性の部屋に戻ると、ユニティーのアルバートたちが遺体を運び出そうとしていた。マザーは「権利は俺たちにある」と言い、先に来ていた証拠を提示した。それでも構わずアルバートは運び出そうとするが、マザーは彼らの救急車のタイヤをパンクさせて動けなくしておいた。マードックとウォーカーはヘレンを担架で運ぼうとするが、重いので手を離してしまう。ヘレンの担架は階段を滑り落ちて道路に飛び出し、停まっていた車に激突した。ウォーカーは階段に開いた穴にハマって動けなくなり、マードックはヘレンの友人たちに「救急車を呼んでくれ」と要請した。マザーは尼僧の集団を見ると興奮し、リロイの制止も聞かずに「病気なんだ」と言う。彼は救急車をぶつけるフリをして尼僧を怖がらせ、大笑いして走り去った。
翌日、ハリーはマザーを呼び、「俺は3つも訴訟を抱えてる。運転手は入院、市議会の会議も迫ってる。そこへお前が追い打ちを掛けた。尼さんを脅かした。司教が激怒してる」と怒りを浴びせた。弁護士のモランが来て「収穫は?」と尋ねると、彼は「有望なのが2人。1人はレスラーだ。会場側の過失だな」と言う。モランは出来るだけ高額の賠償金を手に入れるため、ハリーから情報を貰って策を練るのだ。マザーは救急車にビールを持ち込んだことをハリーから批判されるが、まるで悪びれる様子を見せなかった。
元警官のスピードはF&Bに入社するため、ハリーの面接を受けた。スピードがベトナムで救急車を運転していたことを話すと、ハリーは「ちょうど1人、怪我をしたばかりだ。今すぐに始められる」とマードックと組むよう指示した。スピードはコカインを売った容疑で起訴されて調査中だが、「俺はやらない」とハリーに告げた。採用されたスピードは会社で待機していたマザーに挨拶し、リロイ、ロデオ、ブリス、マードックを紹介された。
ジャグスがマリポーザのクラインを運ぶ仕事を持って来ると、マザーはマードックに出動を促す。「この間も俺が運んだ」とマードックが嫌がると、スピードが「常連かい?」と尋ねる。マードックは「お漏らしだよ」と言い、仕方なくスピードと共に出向く。老人のクラインはベッドで尿を漏らしており、その悪臭にスピードか顔を歪めた。マードックはクラインを担架で救急車に乗せて、「毎月12回も病院に運んでるよ。医者は気休めを言うが、先は長くない」とスピードに告げた。スピードがクラインが死を伝えると、彼は「なんてことだ」と舌打ちした。
スピードがジャグスとの関係について尋ねると、マードックは「彼女には全員が振られてる。幾ら口説いても全く反応が無いんだ。きっとレズビアンさ」と語る。会社に戻ったスピードがジャグスに近付くと、彼女は「お喋りはしない。デートもダメ」と冷たく言う。スピードは役所の書類を出すよう求めて、「殻に閉じ篭もってるな」と口にした。マードックたちは真夜中までに扱う死体の数で賭けをしており、スピードも誘われるが断った。
夜になるとハリーの妻であるナオミがジャグスと交換手の仕事を交代し、スピードは彼女に挨拶した。スピードはダイナーにいるジャグスを見つけ、声を掛けた。判決が出ていない内に新しい仕事に就いた理由をジャグスが訊くと、彼は「停職中は無給でね。それにゴミ収集の資格がある」と答えた。スピードが「マードックが君はレズビアンだと言ってた」と言うと、ジャグスは「マードックは娼婦にも断られるわ」と口にした。
そこへマードックが現れ、スピードに「コード3だ。大学へ行くぞ」と告げた。スピードとマードックが大学の寮に到着すると、女子生徒が睡眠薬の過剰摂取で倒れていた。2人は女子生徒を救急車に乗せ、医療センターへ運ぶ。マードックが女子生徒に手を出そうとしたため、スピードが憤慨して制止した。マザーは馴染みのファストフード店でハンバーガーを食べ、リロイに金の支払いを任せた。ジャグスから「コード2。麻薬中毒者の収容。医者が一緒よ」と通信が入ると、マザーは「ロデオたち任せろ」と口にした。
リロイは嘆息し、「僕は25歳だ。預金は少ないし、会う女は血まみれか昏睡状態だ。社長のために働いているようなもんさ」と愚痴った。マザーは彼に、「ここは気楽な会社だ。ビールと音楽。気が向いたら働く。大手に移ったら、扱き使われて訴えられるのがオチさ」と語る。ハリーから「早く現場に行け」という通信が入ったので、マザーとリロイはコード2の民家へ向かった。リロイがドアをノックすると、ライフルを構えたヤク中の女が出て来て「ヤクを」と要求した。リロイは「君の欲しい薬は救急車に積んでいない。だけど必ずあげるから銃を置いて」と説得するが、発砲を受けて死亡した。
マザーは慌ててパトカーに出動を要請し、拳銃を手に取る。彼が拳銃を構えて「銃を捨てろ」と叫ぶと、女はライフルを自分の口に入れて自殺した。酒を飲んで会社に戻ったマザーは、死体の賭けで金を分配しようとするマードックに激怒して殴り掛かった。リロイが死んでマードックも病院送りになったため、F&Bは一気に人手不足となった。ハリーは焦りの色を見せ、マザーにスピードと組むよう命じた。マザーが「嫌だね。俺は1人でやる。コード2を俺にしろ。後はロデオとブリスに」と告げる。ハリーは「法律違反だ。来週には契約更新の会議がある。ユニティーにバレたら大変だ」と言い、マザーに命令を承服させた。マザーはスピードに「お前がどうなろうと俺は気にしない」と冷たい態度を取った。
ジャグスは夜学で救急隊員の資格を取ったことをハリーに言い、救急車の運転手として働かせてほしいと申し入れた。しかしハリーが「女の運転手なんて信用できない。ユニティーにでも行け」と突き放したので、彼女は激怒した。ジャグスは救急車を勝手に運転し、街へ飛び出した。後部座席で寝ていたスピードは目を覚ますが、ジャグスは気付かないままスピードを上げて暴走した。パトカーに追われた彼女は「コード3か」と問われ、「そうよ」と嘘をついた。
パトカーが「先導してくれ」と言うので、ジャグスはナオミに無線連絡を入れ、スイッチボードの下にあるニセ患者のリストを見るよう頼む。「州からお金が出たらリベートを渡すの」と彼女は説明するが、ナオミは「主人は真面目な人よ。そんなリストがあるわけない」と無線を切ってしまった。スピードはナオミに、「気を付けろ、ガス欠になるぞ」と忠告した。ナオミはパトカーを一時的に撒き、その間にスピードが怪我人に化けた。パトカーが去った後、スピードはナオミにキスをする。ナオミは彼を受け入れて自分からもキスし、2人は救急車で肉体関係を持った。
翌日、マザーはスピードと救急車を走らせている最中、ユニティーの無線を盗聴する。ヒルズ・カントリー・クラブでコード3という情報を得た彼は、すぐに現場へ向かった。マザーはグリーンに救急車を突っ込ませ、ボールが頭に当たって倒れている男を運ぼうとする、そこへユニティーのアルバートたちが到着し、「こっちの縄張りだ」と主張する。マザーは「俺たちが運ぶ」と言うが、アルバートはF&Bの救急車のタイヤをパンクさせていた。
ジャグスはハリーに、「モランと話した。私は認可されたドライバーよ。差別したと訴えれば会社は潰れるわ」と強気に話した。マザーは彼女を運転手として起用することに賛成し、スピードと組ませるようハリーに提案した。「俺は1人で乗る。そうすれば1台増える」と彼が言うと、ハリーは「素人を新人と組ませるのか」と反対する。ジャグスが「3人で乗れば?」と告げると、マザーは「女は乗せない」と拒否する。しかしジャグスが「モランに話して訴えるわ」と言うので、マザーは仕方なく承知した…。

監督はピーター・イエーツ、原案はスティーヴン・メインズ&トム・マンキーウィッツ、脚本はトム・マンキーウィッツ、製作はピーター・イエーツ&トム・マンキーウィッツ、製作総指揮はジョセフ・R・バーベラ、製作協力はチャールズ・マグワイア、撮影はラルフ・ウールジー、編集はフランク・P・ケラー、美術はウォルター・スコット・ハーンドン、衣装はロナルド・タルスキー。
出演はビル・コスビー、ラクエル・ウェルチ、ハーヴェイ・カイテル、ラリー・ハグマン、アレン・ガーフィールド、L・Q・ジョーンズ、ブルース・デイヴィソン、ティック・バトカス、ミルト・カーメン、バーラ・グラント、アラン・ウォーニック、ヴァレリー・カーティン、リック・キャロット、セヴァーン・ダーデン、ビル・ヘンダーソン、マイク・マクマナス、トニー・バジル、エリカ・ヘイゲン、チャールズ・ナップ、アーノルド・ウィリアムズ、リンダ・ゲレイ他。


『ホット・ロック』『またまたおかしな大追跡』のピーター・イエーツが監督を務めた作品。
脚本は『007/死ぬのは奴らだ』『007/黄金銃を持つ男』のトム・マンキーウィッツ。
マザーをビル・コスビー、ジャグスをラクエル・ウェルチ、スピードをハーヴェイ・カイテル、マードックをラリー・ハグマン、ハリーをアレン・ガーフィールド、デイヴィーをL・Q・ジョーンズ、リロイをブルース・デイヴィソン、ロデオをティック・バトカスが演じている。

冒頭、「ウェイド街でお産」というジャグスの知らせを受けて、ハリーが社員たちに出動を指示する。そしてマザーたちが救急車で出動すると、タイトルロールになる。
なので、タイトルロールが終わったら、「マザーたちが妊婦を運ぶ」という手順になるんだろうと思っていたら、別の連中がプロレス会場から女子レスラーを搬送するシーンが描かれる。
そもそも、そのレスラーを搬送する手順だけを取っても違和感がある。何しろ、レスラーが試合で怪我をするシーンがあってから救急車で運ばれる展開になるのだが、その前に出動を命じる手順があるため、「レスラーが怪我をすると分かった上で出動していたのか」と言いたくなってしまうのだ。
レスラーの怪我があってから連絡を受けて救急車が駆け付けたのか、その辺りの経緯がサッパリ分からない。

マザーたちの方にも問題がある。
こっちで妊婦を運ぶ仕事を引き受けるのかと思ったら、コード3の連絡をジャグスから受ける。そしてマザーたちがヤク中の男女の部屋に行くので、それがコード3なのかと思ったら違うのだ。
どうやら最初に救急車を走らせていた時点で、そのヤク中女の部屋へ行く目的があったらしい。で、それを済ませてからコード3の現場へ行くという流れになっているのだ。
でも、そこも見せ方や説明が下手なので、分かりにくくなっている。

ヤク中女の部屋を去ったマザーとリロイは、酒場の案件に対応する。それが終わると、再びヤク中女の部屋へ行く。2人の行動と並行して、マードック&ウォーカーの仕事ぶりも描かれる。
2組の動きを並行して描くのはいいのだが、マザー&リロイ組のパートだけでも無駄にゴチャ付いているんだよね。分割している理由は分かるけど、ヤク中女の案件は一度に片付けた方が望ましい。
あと、マザーが尼僧の集団を脅かして楽しむのは理由がサッパリ分からないし、全く笑いにも繋がっていないぞ。
まあ、それを言い出したら、それ以外のシーンでも笑えるトコなんて無いけどさ。

ビル・コスビーが主演ってことで分かる人も多いだろうけど、ジャンルとしてはコメディーだ。
マザーを始めとするF&Bの社員たちは能天気で軽薄な奴らであり、相手にするのは怪我人や病人ばかりだけど真剣さは全く無い。
それが不愉快に感じられるかというと、それは無い。
いきなりヤク中で死んだ男も登場するけど、死体を冒涜したりするわけではないので嫌な感じは無い。また、その男に死なれた女もヤク中だし、まるで悲しんでいないので、そこをシリアスに描かなくても大きな問題は無い。

ただ、スピードが登場すると、ここに喜劇のテイストは皆無なんだよね。
そもそもハーヴェイ・カイテルにコメディーのセンスがあるのかと考えた時に、向いているとは言えないだろう。
しかし、それでも「彼は真面目に振る舞うが、周りの反応や比較によって笑いを産む」というやり方なら充分に可能性はある。「無骨で堅物の男」と「能天気でお調子者の男」がコンビを組むようなコメディーも存在するしね。
でも、スピードはシンプルに無骨なだけの男で、こいつの周りには笑いが皆無なのだ。
こんなキャラを、なぜ持ち込んだのか。

スピードが登場した途端、こいつとジャグスの恋愛劇を始めるのもギクシャク感が半端無いんだよね。
「ヒロインがいて、そこにロマンスがあって」ってのは、ハリウッド映画では当たり前の光景ではあるのよ。
だから恋愛劇を持ち込んじゃいけないとは言わない。ラクエル・ウェルチを起用しておいて恋愛劇の要素をゼロにしちゃったら、何のための彼女なのかと思っただろうしね。
ただ、ここもシリアス一辺倒でコメディーとしての味わいが無く、そのせいで上手く作品の流れに乗っかっていない状態になっちゃうのよね。

マードックが昏睡状態の女子大生に手を出そうとするのは全く笑えない不愉快な行為だし、「スピードが憤慨する」ってのもマジなトーンで描いている。
笑いが微塵も無いセクハラ行為を持ち込んで、観客に何をどう受け取って欲しかったのか。
その後には、リロイがヤク中の女に射殺されるエピソードまで訪れる。当たり前だが、ここに笑いの要素はゼロだ。「マザーがショックを受けて荒れる」という様子が、シリアスに描かれる。
コメディーとして始まったはずなのに、どんどんシリアス方面へと傾いていく。

そういうテイストの変化が作品の面白さになっているか否かってのは、わざわざ言うまでもないだろう。
しかも、じゃあ全面的にシリアス一辺倒へと傾くのかというと、喜劇としての色も残している。
ジャグスがハリーにドライバーとしての起用を要求し、マザー&スピードと組むことになるシーンは、笑えるかどうかは別にして、一応はコメディーとして作られている。
でも、妊婦が産婦人科のある郡病院へ搬送する途中に出産して死亡する展開で、すぐにシリアスなテイストへ戻ってしまう。

ラスト直前のエピソードでは、悪酔いしたマードックがナオミを人質に取って発砲し、警官に撃たれて命を落とす。
そもそもマードックがナオミを人質に取るのが意味不明だし、なんで最後に虚しさ満点のエピソードなのかと。そのくせ、最後は何となく陽気に終わっているし。
そんなシリアスとコミカルの意味不明な混在が作品の面白さになっているかは、わざわざ言うまでもないだろう。
ビル・コスビー主演のコメディーとして作ったはずが、シリアスなエピソードも盛り込みたくなって、全体のバランスや構成を完全に無視して欲張ったという感じなのよね。
そして欲張った結果、味がまとまらず大失敗に終わったというわけだ。

(観賞日:2020年2月15日)

 

*ポンコツ映画愛護協会