『ブルドッグ』:2003、アメリカ

麻薬取締局(DEA)の捜査官ショーン・ヴェッターは、相棒デミトリアスと共に7年前から麻薬王メモ・ルセロを追っていた。ルセロは コロンビア人だが、メキシコでアメリカへの大規模な麻薬ルートを作っていた。ショーンとデミトリアスはメキシコ警察と協力し、ルセロ を逮捕した。連行されるルセロは、ショーンに「とんでもない間違いを犯した」と捨て台詞を吐いた。
帰国したショーンは、妻ステイシーの待つ我が家へ戻った。DEA本部では、ショーンや彼の上司フロストらを前にして、長官が麻薬 カルテルの壊滅を力強く語った。その頃、メキシコではディアブロの一味と称する連中がルセロの縄張りを荒らし始めていた。ルセロは 収容されているヴィクターヴィル連邦刑務所から電話を掛け、子飼いの検事カデナに連絡を取った。ルセロはカデナから、ディアブロの 動きを聞かされる。ルセロは腹心サントスに指示し、カデナを射殺させた。
ショーンは自宅でパーティーを開き、DEAの仲間やストリート時代からの友人であるギャングのビッグ・セクシーらを招いた。その日の 深夜、暗殺者が急襲してきた。ショーンは重傷を負い、ステイシーも弾丸を食らった。出血多量で意識不明となったショーンは、病院に 運ばれた。ショーンが目を覚ますと、ステイシーは既に亡くなっていた。
ショーンとデミトリアスはビッグ・セクシーに会い、モンローという麻薬の売人の情報を得た。モンローの自宅へ行くと、彼の仲間が殺害 され、ディアブロの文字が刻まれていた。ショーンとデミトリアスは、モンローから麻薬取引の仲介人がハリウッド・ジャックという 美容エステの経営者だと聞きだした。ショーンはジャックを問い詰めるが、信号無視ぐらいしか犯罪歴が無いため詳しい取り調べは断念 せざるを得なかった。
ルセロはサントスに命じ、妻と息子を安全な場所に移動させようとする。だが、車に仕掛けられた爆発物により、妻と息子は死んだ。 面会に来たショーンに、ルセロはディアブロの組織を壊滅させるよう依頼した。ショーンは身分を偽ってジョーという麻薬ディーラーと 接触し、取引の約束を交わした。ショーンはDEAの仲間と共に、取引現場を押さえる作戦を立てた。
作戦当日、DEAの面々が密かに張り込む中で、ショーンはジョーと会った。だが、ジョーが連れて来た男が「刑事の妻を殺してやった」 とステイシー殺しを得意げに吹聴したため、ショーンは我を忘れて暴行を加えた。作戦は台無しになり、ジョーには逃げられてしまった。 ショーンはフロストから非難を受け、警察バッジを返却した。ルセロの面会に訪れたショーンは、別の場所に移して欲しいと依頼された。 それを承諾したショーンは、正体不明のディアブロを倒すためメキシコに乗り込んだ…。

監督はF・ゲイリー・グレイ、脚本はクリスチャン・グーデガスト&ポール・シュアリング、製作はタッカー・トゥーリー&ヴィンセント ・ニューマン&ジョーイ・ニットロ&ヴィン・ディーゼル、共同製作はジョージ・ザック、製作総指揮はマイケル・デ・ルカ&クレア・ ラドニック・ポルスタイン&F・ゲイリー・グレイ&ロバート・J・デガス、撮影はジャック・N・グリーン、編集は ボブ・ブラウン&ウィリアム・ホイ、美術はアイダ・ランドム、衣装はショーン・バートン、音楽はアン・ダッドリー、 音楽監修はダナ・サノ。
主演はヴィン・ディーゼル、共演はラレンズ・テイト、ティモシー・オリファント、ジーノ・シルヴァ、ジャクリーン・オブラドース、 スティーヴ・イースティン、ファン・フェルナンデス、ジェフ・コーバー、マルコ・ロドリゲス、マイク・モロフ、エミリオ・リヴェラ、 ジョージ・シャーパーソン、マリーク・ストラウター他。


『交渉人』のF・ゲイリー・グレイが監督したアクション映画。
ショーンをヴィン・ディーゼル、デミトリアスをラレンズ・テイト、ジャックをティモシー・オリファント、ルセロをジーノ・シルヴァ、ステイシーをジャクリーン・オブラドース、フロストをスティーヴ・ イースティン、サントスをファン・フェルナンデス、ジョーをジェフ・コーバーが演じている。
ちなみに、1992年にケン・ワタナベ監督(渡辺謙ではない)による同じ邦題の映画があることを知っている人は、ほとんどいないだろう。
もちろん本作品とは無関係だ。

「妻を殺された主人公が仇討ちに燃えて戦う」という、これまでに何度も使われたような作りの映画である。
そこに捻りは加えられていない。何の変哲も無いオーソドックスな作りだ。
正直、スティーヴン・セガールやジャン=クロード・ヴァン・ダムの主演作と間違えているんじゃないのか、と思ってしまった(ドルフ・ラングレンやウェズリー・スナイプスでも可)。
これ、一応はトップクラスのアクション俳優として活躍していこうとするヴィン・ディーゼルが主演すべき映画じゃないだろ。
どう見てもB級の色で塗り潰されているシナリオじゃん。
せっかく『ワイルド・スピード』『トリプルX』と順調にステップ・アップしていたのに、A級俳優になる気が無いのかと。
ひょっとすると、カート・ラッセルのようにB級魂に満ち溢れた俳優なのか。

ショーンは犯罪多発地帯で生まれ育った叩き上げという設定で、ようするに『ワイルド・スピード』『トリプルX』でヴィン・ディーゼル が演じた「ワルの匂いがするアウトロー」のイメージをアピールしたがっているんだろうけど、全くそんな風に見えない。
ダチであるデミトリアスとビッグ・セクシーも、ただの気のいい仲間でしかない。
キレたら何をしでかすか分からないクレイジーな匂いも無いし、平然と凶悪犯罪を実行しそうな冷徹な匂いも無い。

殺し屋が襲撃してくるシーンで、ステイシーが撃たれているのに、ショーンは落ち着いて話している。
電話を掛けても、なかなか救急車を呼ぼうとしない。
そこはションボリしている様子じゃなくて、焦ってパニックになる様子を見せるべきなんじゃないのか。
その芝居のさせ方は大いに疑問だ。
また、ステイシーの死をハッキリと見せない演出にも疑問がある。

ステイシーが死んだ後も、ショーンには「復讐心で燃え上がって鬼になる」といった変化が全く見られない。
それまでの彼と同じに見える。
ヴィン・ディーゼルが大根役者ってこともあるんだろうけど、それにしても、もう少しキャラクターの動かし方があるだろ。
デミトリアスやビッグ・セクシーらが軽妙キャラで、復讐劇の殺伐で凄惨な雰囲気が出ないのもキツいなあ。

ショーンは復讐鬼の様相を呈さず、DEAという組織の一員として、あくまでも「麻薬組織の壊滅」のために行動を続ける。
組織の意向に逆らってでも仇討ちのために突き進む、という図式ではない。
ようやく、ジョーとの取引のシーンになって、妻殺しの犯人にカッとなって我を忘れる。
そこで初めて、組織としての任務より個人の怒りが優先する。
ただ、そのタイミングで自制心を失わせるのはどうなのかと。
派手な銃撃戦のために、主人公の好感度を下げているように思える。
そこまでも魅力は感じないが、ますます共感できなくなる。
そこでトラブルを起こして警察をバッジを返すというのも、タイミングとして遅すぎると思うし。

ルセロの行動には、辻褄の合わない部分がある。
ネタバレだが、実はディアブロの正体は彼だ。妻子を殺させた黒幕も彼自身だ。
だが、彼は刑務所で手下からディアブロのことを聞いた時に動揺し、妻子の死を知った時にガックリ来ている。
監視カメラで看守が見ているから芝居をしたということもあるんだろうが、でも声は聞こえていないようだし、言い訳としては、ちとムリを感じるなあ。

ルセロがディアブロという別人の組織を作った目的も、今一つ良く分からない。
考えられるのは「刑務所を出るため」というものだが、それだと辻褄が合わなくなる。
捕まった直後からディアブロの組織は動き出しているのだから、それより前から準備を進めておく必要がある。つまり、捕まってからルセロが指示を出したのでは間に合わない。
しかし、かなり前からディアブロの組織を作っていたとしたら、捕まることを想定していたということになる。それは不自然だろう。
妻子を移そうとするシーンでのサントスの驚く反応を見る限り、少なくとも終盤までは彼もディアブロの正体を知らなかったように思えるが、 腹心を使わず強大な別組織を構築することが可能なのかということも気になるし。

ショーンは復讐の鬼になったはずなのに「ルセロに手錠を掛けて、後は警官隊に任せて立ち去って終わり」って、いや終わってないから。
カタルシスとしては、例え違法であろうと私刑を完遂しなきゃ終われないから。
そこで「復讐鬼」より「正義の味方」を選んでしまうところが、この映画のヌルさ。
そこは「復讐鬼」を選んでしまうが、そんな自分に嫌悪感も抱き、虚しさを秘めたエンディングという形でいいのよ。 それは決してモヤモヤした結末じゃなくて、カタルシスもありながら余韻を残した締め括り方ということになるはずだから(上手くやればの話だけど)。

大体さ、逮捕してもルセロは今回のようにショーンの妻を殺し、自分の組織を自由に動かすことが出来ていたのよ。
ってことは、ラストでワッパをはめても、また同じように刑務所の中から自由に組織を操ることは可能だし、ショーンに手を出してくる可能性も高い。
敵が法を超えたワル、法で裁き切れないワルなんだから、法の管轄外で始末するという形でいいと思うんだけどね。
そこはポール・カージーになってくれないと、ヌルいよ。

 

*ポンコツ映画愛護協会