『人喰いネズミの島』:1959、アメリカ

船長のトーン・シャーマンは乗組員のルーク・グリズウォルドと共に、船を航行させていた。彼らは小さな島へ注文された物品を運ぶ途中 だ。空に目をやると、ハリケーンが来そうな気配だった。彼らは島に到着すると、荷物を船に残して搬入を明日に回した。上陸すると、 注文主であるマーロウ・クレギス博士、その娘アン、ライフルを持った博士の助手ジェリーがやって来た。
クレギスはシャーマンに、「物資の搬入が終ったら娘のアンを乗せて行ってくれ」と頼んだ。シャーマンが「今日は無理です、荷物も 下ろさない」と言うと、クレギスたちの顔が曇った。シャーマンはルークを船に戻らせ、クレギスたちの研究所へ向かう。そこは木造の家 で、周囲を木の柵で囲っていた。クレギスは、無線が故障して外部と連絡が取れなくなっていることを述べた。
家に入ると助手のラドフォード・ベインズが現れ、クレギスに研究の成果を報告した。彼は研究しか頭に無い様子だ。クレギスは「生物学 で遺伝子の研究をしている。体を小さくて基礎代謝を低く抑え、寿命を長くする研究だ」とシャーマンに説明した。その研究のために、 9ヶ月前から島にいると言う。シャーマンは、ハリケーンに備えてドアに窓に気を付けた方がいいとアドバイスした。
ラドフォードが再び現われると、手には一匹のネズミを持っていた。それはソーレックス・ソリシディーという種類で、実験に使っている という。彼はクレギスに指示を仰いだ。その間も、アンはずっと何かに怯えた様子だった。外で激しい風の音がすると、彼女は過剰なほど 怯えた。シャーマンは下男のマリオに案内され、入浴した。風呂から上がると、アンがジェリーに「酔っ払って扉を開けっ放しにしたから 悲惨な状況があるのよ」と非難の言葉を浴びせていた。
アンはシャーマンに、「父にも来て欲しいと言ったが頑固で拒んだ。危機は数日で過ぎると考えている」と告げる。同じ頃、ルークは ハリケーンに備えて船を固定するため、木にロープを縛り付けようとしていた。その時、数匹の巨大なネズミが出現した。慌てて逃げた ルークは、木に登ろうとする。しかし木が折れてしまい、彼は巨大ネズミの襲撃を受けて食われてしまった。
シャーマンはアンに、「船の様子を確かめに戻る」と言い出した。アンは「夜は危険だからやめて」と制止し、それでもシャーマンが 行こうとすると、ライフルを構えた。シャーマンが説明を求めると、彼女は「200から300匹のジャイアント・シュルー(トガリネズミ)が ゲートの外にいる。50から100ポンドのモンスターよ。それだけでなく、彼らは飢え始めている」と告げた。
クレギスが居間に来たので、アンは「シャーマンを止めるためにジャイアント・シュルーのことを話した」と告げる。クレギスは「異常な スピードで成長する突然変異が誕生し、逃げ出して繁殖した。根絶しようとしたが効果が無かった。日光を嫌い、夜に食料を探す。アンと ジェリーが昨晩に襲われた。2日もすれば共食いで絶滅する。それまで家の中で待機していれば安全だ」と語った。
馬小屋から馬のいななきが聞こえ、異変を感じたシャーマンは居間を飛び出した。そこへ駆け付けたジェリーは、シャーマンがゲートを 開けると思い込み、いきなり殴り付けた。クレギスは「シュルーが家畜小屋に現れたんだ。木の扉は破れない。床を掘ったんだ」と言う。 シャーマンが「奴らが逃げた時に沿岸警備隊か海軍を呼べば良かった」と告げると、クレギスは「民間の融資での研究だ、政府や軍隊の 問題ではない。この種は泳げない。シュルーにはこの島が必要だ」と述べた。
ラドフォードが「もうすぐ島ではミニチュア人口過剰が起きる。この研究の大切さが分かる」と言うと、シャーマンは「そんな学説は 要らない、心配なのは命だ」と苛立ちを示した。クレギスが「エサが無くなったから家畜を襲ったのだろう」と口にしたので、シャーマン は「ここにもエサがある」と自分たちのことを言う。クレギスは「ここは大丈夫だ。床はタイルで出来ている」と告げるが、シャーマンは 「壁は土だ。船の方が安全だ」と反論した。
夜に出歩くことは危険なので、ともかく彼らは屋内で朝を待つことにした。シャーマンは、90分交代で見張りを立てるよう指示した。深夜 、見張りを終えたマリオが次の順番であるジェリーの部屋に行くと、彼は酔っ払っていた。ジェリーは「お前に俺の代わりを任せる。お前 が終わったら次はシャーマンだが、知らせずに俺に報告しろ」と告げた。台所へ向かったマリオは、開いていた窓からシュルーが侵入し、 そこから地下室へ移動したことを悟った。
マリオから知らせを受けたシャーマンは、居間のソファーで眠っていたアンを起こした。彼はライフルを手に取り、マリオと共に地下室へ 向かった。物陰から巨大ネズミが飛び出し、マリオの脚に噛み付いた。マリオは巨大ネズミを射殺するが、死んでしまった。クレギスと ラドフォードが巨大ネズミの死骸を調べた結果、その唾液には多量の毒が含まれていることが判明した。
クレギスはシャーマンに、「数週間前、ここにある物で最も強い毒を作った。それをエサに混ぜて置いた。マリオはその毒で死んだ」と 説明した。さらに彼は「ソーレックスの組織は毒を吸収できず、唾液の分泌線に残った。かすり傷程度でも死に至る」と言う。夜明けが 近付く中、シャーマンは「死骸を囮として柵の外に置く。奴らが来れば船に行くのは諦める。もし来なければ自分が船へ行き、途中まで 戻って安全の合図を送る」と告げた。
死骸を置いて20分が経過したが、他の巨大ネズミは集まって来なかった。既に夜が明けており、風は止んでいた。シャーマンが船へ行こう とすると、アンが「一人では危険よ」と言う。ジェリーが「俺が行く」と同行を申し出て、ライフルを手に取った。林に入った時、彼は ライフルをシャーマンに突き付けて「アンに手を出すな」と脅した。シャーマンは彼を殴り付け、ライフルを奪った。
シャーマンは船着場からルークに呼び掛けるが、応答が無い。周囲を捜索すると、食い千切られたルークの衣服があった。巨大ネズミの 泣き声が聞こえてきたので、シャーマンはジェリーに自分の拳銃を渡し、前を歩くよう命じた。巨大ネズミが現われると、ジェリーは 慌てて逃げ出した。彼は研究所に入り、柵を閉じてしまった。シャーマンは柵を登って中に入り、激怒してジェリーを殴り倒した。彼は グッタリしたジェリーを柵の外へ放り投げようとするが、思い留まった。
アンがコーヒーを用意するためドアを開けると、台所から巨大ネズミが飛び込んできてラドフォードの脚を噛んだ。シャーマンが射殺する が、ラドフォードは死んだ。巨大ネズミは土壁をかじって次々に顔を覗かせ、シャーマンたちは家具で穴を塞ぐ。それでも間に合わなく なり、彼らは家の外に出た。シャーマンたち庭にあった箱を積み上げ、戸を塞いだ。ドラム缶を見つけたシャーマンは、それを個人用戦車 にして、その中に入って海まで移動する作戦を思い付いた…。

監督はレイ・ケロッグ、原案&脚本はジェイ・シムズ、製作はケン・カーティス、撮影はウィルフリッド・M・クライン、編集はアーロン ・ステル、美術はルイーズ・コールドウェル、装置はルイーズ・コールドウェル、音楽はハリー・ブルーストーン&エミール・キャドキン。
出演はジェームズ・ベスト、イングリッド・ゴウド、ケン・カーティス、ゴードン・マクレンドン、バラック・ルメット、ジャッジ・ ヘンリー・デュプリー、アレフレード・デソート他。


アメリカで出版された最初の駄作映画専門書『The Golden Turkey Awards』でも取り上げられたホラー映画。
『キラー・シュルー』という別タイトルもある。
シャーマンをジェームズ・ベスト、アンをイングリッド・ゴウド、ジェリーをプロデューサーでもあるケン・ カーティス、ラドフォードをゴードン・マクレンドン、クレギスをバラック・ルメット、ルークをジャッジ・ヘンリー・デュプリー、 マリオをアレフレード・デソートが演じている。
白黒映画。

ラドフォード役のゴードン・マクレンドンはテキサスの映画館チェーンのオーナーで、この映画のスポンサー。
この映画は最初、彼が経営する映画館で『大蜥蜴の怪』と二本立てで上映された。
最初から本作品と『大蜥蜴の怪』は二本立て上映の企画として製作されている。
レイ・ケロッグは特殊効果マン出身で、本作品と『大蜥蜴の怪』が監督デビュー作となる。

冒頭、ネズミは恐ろしい生き物だということを説明するナレーションの後、「新種の報告があった。ジャイアント・キラー・シュルー」と いう言葉があって雷鳴が轟く。
そしてタイトルロールに入るんだが、ここで流れる曲が、ちっともサスペンスフルじゃないのが困りもの。
まあ本編に突入すると、その中身は爪の先程も怖くないので、ある意味では合っていると言えるのかもしれんけど。

シャーマンが船に戻ろうとすると、アンは「200から300匹のジャイアント・シュルーがゲートの外にいる。50から100ポンドのモンスター で飢え始めている」と語る。
で、実物を見たわけでもないのに、そんなバカみたいな話をシャーマンは簡単に信じている。
単純な奴だね。
で、そこにクレギスも来て「昨晩、アンとジェリーが襲われた」と言うが、なのに2人は死んでないのかよ。
あと、そこで「日光を嫌い、夜に食料を探す」と言ってたのに、終盤、夜が明けた後も普通に襲って来てるんだけど。

マリオが見張りの交代を知らせに行くと、ジェリーは「お前に俺の代わりを任せる。お前が終わったら次はシャーマンだが、知らせずに俺 に報告しろ」と言う。
これがストーリー展開に何か関係してくるのかというと、何も関係が無い。
マリオから巨大ネズミが地下に入ったことを知らされたシャーマンは、アンを起こして「今から地下に入ったシュルーを追うので、誰にも ドアを開けさせるな」と指示を出す。
これが何か伏線になるのかというと、これまた何の伏線にもならない。

終盤、シャーマンはドラム缶に入って移動する作戦を立てる。
「上手く行く」と自信を見せているが、巨大ネズミは脚を噛んでくるのに、その脚が無防備になるので、あまり利口な作戦とは 思えない。
さすがに彼もそこまでバカじゃないので、脚を防御するため、ドラム缶の高さに合わせて中腰でゆっくり歩くんだが、ドラム缶がズルズル と地面を移動している様子は何ともマヌケである。
で、疲れたら休めばいいのに、なぜか休まない。
休んでいる間は、足元まで全てガッチリとガードされているから安全だろうに。
っていうか、そんな無理な体勢で必死に移動する前に、足元を何か硬い物で防護するアイデアは考え付かなかったのか。

ちょっと遡ると、シャーマンは作戦のために、4本のドラム缶にガスバーナーで覗き穴を開けて、ロープで束ねている。
家の中には4匹の巨大ネズミがいるのに、時間を掛けた作業を落ち着いてやっている。
そんなことしている間に巨大ネズミが土壁を破って出て来そうなものだが、1匹が窓から出て来そうになっただけで、それ以外は おとなしく待ってくれている。
北尾光司のデビュー戦の相手を請け負ったクラッシャー・バンバン・ビガロ並みの物分かりの良さである(どんな比喩だよ)。

幾つかツッコミを入れてみたが、この映画の評価については、巨大ネズミに尽きると言ってもいいだろう。
実際に巨大ネズミが存在するわけではないので、何か用意しなければいけない。
幻の大映特撮映画『大群獣ネズラ』のように、本物のネズミを撮影して合成し、巨大に見せ掛けるという方法もあるだろう。
あるいは、ネズミの作り物を登場させるという方法もあるだろう。

しかしレイ・ケロッグは、予想の斜め上を行く方法を取った。
なんと犬を使ったのである。
犬に毛皮を着せて、耳と牙を付けて、それを「ジャイアント・シュルー」と言い張ったのである(ただし顔がクローズアップになる場面 だけは指人形を使用)。
ところが残念、それは誰がどう見ても、ただの「変な物を付けられた犬」なのである。
なんせネズミとは脚部の形が全く違っているし。

大体、ネズミが異常なスピードで成長して巨大化したとしても、長い牙は生えないからね。それはまた別の変化だから。
っていうか、あの長さだと明らかに、口を閉じた時に外に出ちゃうんだが。
もしも口を閉じた時に牙を口内に収めようとしたら、口を突き破って自分が大怪我をすることになるだろう。
しかも2本だけ鋭い牙があるとかじゃなくて、全ての歯が長い牙になっているので、怪我を避けようとしたら、口を閉じた時は全ての牙が 外に出ちゃうってことになるぞ。
マヌケな突然変異だな、おい。

で、さすがにレイ・ケロッグも「これを巨大ネズミだと言い張るのは無理があるな」と分かっていたのか、長いカットや姿が大きく写る ようなカットはなるべく避けている。
でも、今となっては、そのコスプレ犬、じゃなかった巨大ネズミぐらいしかセールスポイントが無い映画なのに、それがモロに見えること を避けようとした分、バカ度数が減退しているという皮肉な結果になっている。
あと、便宜上、「巨大ネズミ」と書いたが、トガリネズミはネズミ目の動物ではない。

これだけ陳腐な映画だから、きっと興行的にはコケたんだろうと思うかもしれない。
ところがどっこい、むしろ本作品は「低予算映画の成功例」とされている。
総製作費は12万3000ドルで、アメリカ国内での収益は100万ドル、さらに海外での収入も上積みされたので、かなり稼いだ映画なのである。
っていうか、こんなチープな映画でも、作るのに12万3000ドルは掛かったのね。

(観賞日:2010年5月2日)

 

*ポンコツ映画愛護協会