『ベスト・キッド』:2010、アメリカ&中国

父を亡くした12歳の少年ドレ・パーカーは、母親であるシェリーが北京の自動車工場へ転勤することになったため、デトロイトから中国へ 渡った。引っ越し先のアパートに到着したドレは、そこで暮らす白人少年のハリーと知り合った。だが、中国行きを嫌がっていたドレの顔 は晴れないままだ。シェリーは会社の付けてくれたコーディネーターから、「大家さんは中国語しか話せないので、困ったことがあれば 英語の分かる管理人のハンさんに行ってください」と説明を受けた。
シャワーの湯が出なかったため、シェリーはドレに管理人を呼んで来るよう頼んだ。しかしドレが管理人室へ行くと、ハンは無表情のまま 何も言ってくれない。ドレは諦めて、ハリーから誘われていた公園へ足を向けた。そこで彼は、ヴァイオリンを持ってベンチに座っている メイ・インという少女に一目惚れする。いいところを見せたいと考えたドレは、卓球をやっていた老人に誘われて勝負をする。だが、ドレ は全く相手にならず、一方的に負けてしまった。
ドレはハリーに背中を押され、メイに話し掛けた。ドレが楽しく喋っていると、メイに好意を抱く同級生のチョンが子分たちを率いて 現れた。チョンは嫉妬心からメイの楽譜を投げ捨て、激しく怒鳴り散らす。ドレが楽譜を拾ってメイに渡そうとすると、チョンは彼を 突き飛ばした。ドレは腹を立てて喧嘩を吹っ掛けるが、まるで歯が立たなかった。ドレは学校でも、チョンたちに嫌がらせを受けた。 ドレは講堂で北京音楽学校の入学オーディションに向けた練習をしているメイを見つけ、声を掛けた。メイと話せて浮かれた気分になった ドレだが、講堂を出た所でチョン一味に嫌がらせを受けた。
シェリーと買い物に出掛けたドレは、大勢の子供たちが屋外でカンフーをやっている現場を通り掛かった。ドレは興奮し、屋内の道場へ足 を踏み入れた。すると、道場の先生であるリーが「弱さ、痛み、情けは捨てろ」と生徒たちに教訓を唱えさせ、厳しい稽古を付けていた。 生徒の中にチョンの姿を見つけたドレは、途端に不機嫌になり、すぐに道場を去った。シェリーから「どうしたの?」と訊かれたドレは、 泣きながら「こんなトコは嫌いだ。デトロイトへ帰りたい」と訴えた。
紫禁城への校外学習の帰り道、ドレはチョンと仲間たちに見つからないよう、車の裏に隠れた。ドレはチョンたちに泥水を浴びせて逃走 するが、追い詰められて殴られる。倒れたドレにチョンが拳を食らわそうとした時、ハンが現れて彼の腕を掴んだ。ハンが立ち去るよう 促しても、チョンは拒絶した。チョンたちはハンに襲い掛かるが、あっけなく叩きのめされた。ハンはドレを管理人室へ連れ帰り、中国の 古い医術で傷を手当てした。
ドレはハンのカンフーに腕前に感心し、チョンたちに仕返しするために教えてもらいたいという素振りを示す。だが、ハンは「カンフーは 身を守るための知識だ。戦うためでなく、平和のための武術だ」と告げる。ドレが「あいつらは、そんな風に教わってないよ」と反発する と、ハンは「それは先生が悪いんだ」と言う。ドレは「じゃあ道場に乗り込んで先生に話を付ければいいんだ」と言い、ハンに同行を依頼 する。一度は断ったハンだが、結局は道場へ行くことを承諾した。
ハンはドレを伴って道場へ行き、「仲直りに来た」と言う。しかしリーは同意せず、「ここで試合をしろ」と要求する。ハンが帰ろうと すると、リーは腕を掴んで「道場へ来たからには、どちらかが戦え」と凄んだ。ハンは道場に貼ってあったカンフー大会のポスターを見て 、「あそこで試合をやろう」と持ち掛けた。ハンはリーに、「それまではドレに手出ししないよう、子供たちに約束させてほしい」と要求 する。リーはチョンたちに対し、大会まではドレに手を出さないよう告げた。
試合に出ることを説明されたドレは文句を言うが、ハンが「本物のカンフーを教えてやる」と言うと顔が輝いた。翌日、ドレはハンの家へ 赴き、余裕の態度で「考えてみたら体操やカポエイラを習っていたこともあるし、下地はいいものを持っているんだ」と言う。ハンは彼に 、「ジャケットを柱の杭に掛け、外して身に着け、脱いで、落として、拾って、柱の杭に掛ける」という行動を指示する。ドレが不満を 抱きながらも実行すると、ハンは何度も繰り返すよう指示した。
ドレはカンフーの練習が出来ると思っていたが、ハンは毎日、ジャケットを使った一連の行動を繰り返すように指示するだけだった。 そんなある日、ドレはメイから、七夕祭りに誘われた。シェリーがハンを誘ったので、ドレは3人で行くハメになった。ドレはシェリーに 「何か食べて来る」と嘘をつき、メイとの待ち合わせ場所に行く。ドレとメイは、互いにカンフー大会とオーディションを見に行くことを 約束し、そしてキスを交わした。
七夕祭りの翌日も、またドレはハンからジャケットを使った行動を指示された。我慢できなくなったドレは、「こんなの馬鹿げてる」と 吐き捨て、その場を去ろうとした。するとハンは、ジャケットを使わずに同じ動きをやってみるよう命じた。ドレが不機嫌な態度のまま 実践してみると、それはカンフーの動きになっていた。ハンはドレに、「カンフーはあらゆる動きの中にある」と説いた。
ハンはドレを伴い、かつて自分が父に連れて行ってもらったある山へ赴いた。頂上の山寺では、多くの人々がカンフーの修業に励んでいた 。その中でもドレは、コブラと対峙して同じ動きをしている女性の姿に目を奪われた。ハンをドレを「龍の泉」に案内し、その水を飲む よう促した。それを飲めば、誰でも無敵になれるという伝説があるのだ。水を飲んだ後、ドレは先程の女性について語り、「女の人が蛇と 同じ動きをしていた」と言う。するとハンは「蛇が動きを真似していたんだ。女性が気で蛇を操っていたんだ」と説明した。
山から戻っても、ドレの稽古は続いた。もうハンはジャケットを使った動きを命じず、他の方法でカンフーを教えた。そんな中、ドレは 学校で不安そうな表情を浮かべているメイに声を掛けた。メイはオーディションを翌日に控え、心配になっていたのだ。ドレは彼女を デートに連れ出した。楽しい時間を過ごす2人だが、メイに電話が掛かって来た。オーディションが急に繰り上がり、20分後に始まると いうのだ。メイは急いで戻り、両親の迎えの車に乗り込んだ。
メイは何とかオーディションに間に合い、ステージに立ってヴァイオリンを演奏した。ドレも会場に駆け付け、その演奏を見学した。 オーディションが終わった後、ドレはメイに「すごく良かったよ」と明るく話し掛ける。だが、事前に両親からドレとの付き合いについて 注意されていたメイは、「もう貴方とは会えない」と悲しそうに告げる。ドレが落ち込んだ気持ちで稽古に行くと、ハンは車を壊していた 。驚いたドレが話し掛けると、ハンは自分が運転を誤って妻子を死なせてしまった過去の出来事について涙ながらに語った…。

監督はハラルド・ズワルト、原案はロバート・マーク・ケイメン、脚本はクリストファー・マーフィー、製作はジェリー・ ワイントローブ&ウィル・スミス&ジェイダ・ピンケット・スミス&ジェームズ・ラシター&ケン・ストヴィッツ、製作総指揮はダニー・ ウルフ&スーザン・イーキンス、撮影はロジャー・プラット、編集はジョエル・ネグロン、美術はフランソワ・セギュアン、衣装はフェン ・ハン、音楽はジェームズ・ホーナー。
出演はジェイデン・スミス、ジャッキー・チェン、タラジ・P・ヘンソン、ハン・ウェンウェン、ユー・ロングァン、ウー・ツェンスー、 ワン・ジーヘン、ワン・ツェンウェイ、ジャレッド・ミンス、ルー・シージャ、チャオ・イー、チャン・ボー、ルーク・カーベリー、 キャメロン・ヒルマン、ガイ・サミュエル・ブラウン、ロッキー・シー、ワン・ジー、ハリー・ヴァン・ゴーカム、テス・リウ他。


ジョン・G・アヴィルドセンが監督を務めた1984年の映画『ベスト・キッド』をリメイクした作品。
監督は『エージェント・コーディ』『ピンクパンサー2』のハラルド・ズワルト。
ウィル・スミスとジェイダ・ピンケット・スミス夫妻がプロデューサーを務め、その息子であるジェイデン・スミスが主演している。
ハンをジャッキー・チェン、シェリーをタラジ・P・ヘンソン、メイをハン・ウェンウェン、リーをユー・ロングァン、チョンをワン・ ツェンウェイが演じている。

オリジナル版はヒットしたし、4作目まで作られたけど、そんなに出来栄えが良かったわけではないんだよね。
特に日本人からすると、空手の取り扱われ方がメチャクチャで、ほとんどバカ映画みたいな印象になっていた。
普通に教えた方が合理的なのに、変なトレーニング方法を取り入れたりしていたし。
ノリユキ・“パット”・モリタは武術が達者なわけじゃないから、そこに説得力も無いし。
最終的には、ダニエルがカマキリ拳法まで使っていたしね。

で、そんなオリジナル版と比較すると、今回のリメイク版は、格闘アクションがしっかりとしたモノになっている。
ジェイデン・スミスは3歳から空手を習っていたらしいが、そういう下地もあってか、格闘シーンの動きはちゃんとしている。
また、師匠の役をジャッキー・チェンが演じることによって、そこに説得力も生まれている。
ただ、この映画で評価できるのは、それぐらいかもしれない。

1984年のオリジナル版は、邦題は『ベスト・キッド』だが、原題は『The Karate Kid』だった。
このリメイク版では、主人公が学ぶ武術をカラテからカンフーに変更している。
ところが、原題は『The Karate Kid』のままだ。
いやいや、そりゃダメでしょ。
例えばさ、『燃えよ!カンフー』(原題は『Kung fu』)のリメイクで、主人公が使う武術を空手に変えたのにタイトルが『Kung fu』の ままだったら、変だと感じるはず。
この映画がやっているのは、そういうことだよ。
1980年代ならともかく、2010年になっても、まだ大半のアメリカ人は空手とカンフーの区別が付かないレベルってことなのか。

主人公の会得する武術をカンフーに変更するなら、原題も『The Kunfu Kid』にしなきゃダメでしょ。
『The Karate Kid』というタイトルを使いたいのなら、主人公が学ぶ武術はカラテのままにしておかないと筋が通らないよ。
そりゃあ、オリジナル版でミヤギさんが主人公のダニエルに教えていた武術も、空手というよりカンフーに近いモノだったけどね。
ただし、それでも一応は「カラテ」という設定になっていたわけだから、その原題を引き継ぐのなら、やっぱりカラテをやらないとね。
それが仮にカンフーにしか見えないようなモノだったとしても、「カラテ」として押し通すべきだし、師匠は日本人の設定じゃないとね。

ザックリと言うならば、これはウィル・スミスとジェイダ・ピンケット・スミス夫妻が作った親バカ映画である。
「ウチの可愛い息子が映画の中でカッコ良く活躍する姿を見たいなあ」ということで、スミス夫妻はこの映画を製作している(ってのは私 の邪推だけどね)。
とにかく息子が可愛くて仕方が無いので、ジャスティン・ビーバーとのコラボでエンディング・テーマ曲も歌わせている。
さらに、この夫婦は映画に出演していないのに、クロージング・クレジットの中でジェイデンと一緒にいるスチール写真を挟み込んでいる。

オリジナル版の主人公は高校生であり、ティーンズ・ムービーとなっていた。
このリメイク版ではジェイデン・スミスに合わせて主人公の年齢設定を12歳に引き下げているので、キッズ・ムービーになっている。
でも、キッズ・ムービーとして考えると、倒れている相手の頭部を容赦なく蹴るとか、かなりアクションシーンの暴力性が強すぎる よなあ。
しかも、リー道場の面々を「情けを掛けない戦い方をする」という設定にしてあるけど、ドレにしたって、大会でのファイト・スタイルは 相当に激しいぞ。

あと、キッズ・ムービーとしては、上映時間が長すぎるよなあ。
っていうか、キッズ・ムービーじゃなくても、この話で140分は無いわ。
例えば、山へ無敵の水を飲みに行くエピソードなんて要らないでしょ。
蛇の動きや「気」によって人間を操る術については、他のトコロで持ち込むことも出来るし。
「東洋の神秘」を描きたいとか、観光映画として壮大で美しい景色を写したいとか、そういう意図が製作サイドにはあったのかもしれん けどさ。

主人公&戦う相手の年齢設定を高校生から小学生に引き下げたことで、ハンがチョンたちを叩きのめす行為が、ちょっと大人げないモノに 感じられてしまう。
ハンはチョンたちと比べて圧倒的に高いカンフーの能力を持っているんだから、攻撃を全て防いだり受け流したりした上で、それほど ダメージを与えずに追い払うことも出来たんじゃないかと思っちゃうのよ。
コミカルなテイストは皆無で、ものすごくシリアスに描いているので、余計に大人げなさを感じてしまう。

ドレはチョンたちから嫌がらせを受けているんだから、ホントは同情すべきキャラのはずなんだけど、生意気なクソガキに見えるんだよな 。
ハンに「体操やカポエイラをやっていたし、下地はいいモノを持ってる」と吹聴するのも、文句を言うのも、ものすごく生意気だよな。
見た目がチャラチャラした感じなのと、ウィル・スミス夫婦の息子ってのが、そういう印象に拍車を掛けている。
路地で追い詰められて暴力を振るわれるシーンに関しては、仕返しとして泥水を浴びせたんだから、「そりゃあ殴られるだろ」と思って しまう。

ドレがオーディション前日にメイをデートへ連れ出すのは、「このままだとメイが本番でもガチガチになってしまうだろうし、彼女の不安 を少しでも取り除くため、気分転換に連れ出そう」という彼女のことを考えての行動ではなく、単に「自分が彼女とデートしたいから」と いうことにしか思えない。
ただ、急にオーディションがその日に繰り上がるってのは、有り得ない話だけどね。
しかも電話が入ってから20分後って、どんだけ急な変更なんだよ。
北京音楽学校って、かなり名門の立派な学校なんでしょうに。
そんなに唐突にオーディションの時間が変更されたら、遠くから受けに来る奴なんて絶対に無理じゃねえか。

オリジナル版のミヤギさんは、ダニエルに対して車のワックス掛けや床磨きを命じる。で、ダニエルは納得できないながらも続けていて、 不満を吐露すると、ミヤギはそれが空手の動きになっていることを教える。
そのエピソードを、このリメイク版ではジャケットを使った一連の行動に変更している。
そのために、序盤から「ドレはジャケットを脱いでも放置したままにする癖がある」というネタ振りをしている。
ただ、ワックス掛けや床磨きだと、空手の練習じゃないけど、「ミヤギさんの家の用事をやらされている」という感じなのよね。
それに対して、ジャケットを使った動きの場合、「ホントに何の意味も無い非生産的な行動」になっている。
そこは、どうなのかね。
あと、そういうことを、あれだけ生意気なドレが何日も続けているのは不可解だし。

後半に入ると、ハンが過去に自分の運転ミスで妻子を死なせていたことが明らかになるが、そういうのも要らないなあ。
ドレが大会に出場することで、ハンが心の傷から解放されるってわけでもないんだし(だって何の関係も無いからね)。
そもそも、そんな重すぎる過去について語られても、まだ12歳で、しかも思慮深さに欠けるクソガキのドレには、受け止め切れない でしょ。
実際、涙ぐむハンから過去の話を聞かされたドレがどうするかっていうと、カンフーの稽古に連れ出すだけ。
いやいや、何の励ましにもなってないから。

大会の直前、ハンはドレに「君は大切なことを教えてくれた。人生でどん底まで落ちた時、這い上がれるかどうかは自分次第だ」と語って いるが、なんで妻子を失ったショックから立ち直れているんだよ。
いつ、どこで、どんな風に、ドレから「大事なこと」を教わったんだよ。
ドレが稽古に連れ出したことで、ハンは「ああ、這い上がれるかどうかは自分次第だ」と悟ったのかよ。
だとしたら、それはドレのおかげじゃなくて、そう感じたハンの感性がスゴいんだよ。
ドレは、そこまで考えてねえと思うぞ。

チョンが路地でドレに止めを刺そうとした時に、仲間の一人が「もう、やめとけ」と制止する。その仲間は、道場でリーが「倒れた相手に 止めを刺せ」と命じた時に逡巡し、そのせいで殴られる。
そのように、優しさを持っているキャラなのだが、リーに命じられて準決勝でドレに怪我を負わせる。
でも、彼に対する物語上でのフォローは無い。
で、ずっと卑劣な悪党キャラだったはずのチョンが、なぜか決勝になると突如、リーの「ドレの痛めた足を狙え」という命令に迷いを 示す。
最後は優勝したドレを称えてトロフィーを授与し、道場の生徒が全員でハンに一礼して敬意を示す。
いやいや、何の流れも無かったじゃねえか。
そこは無理がありすぎるぞ。

途中でハンが「カンフーは身を守るための知識だ。戦うためでなく、平和のための武術だ」と説くシーンがあるんだけど、それをドレが 理解するという物語は、まるで描かれていない。
大会の決勝直前、ドレの中に「最後まであきらめずに戦い抜く」という気持ちは芽生えているけど、「カンフーは敵をやっつけるための 武術ではなく、身を守るためのモノだ」という考えに至ることは無い。
ハンもドレがチョンを倒して優勝したら手放しで喜んでいるし、「カンフーは戦うためではなく云々」という考えは完全に忘れ去られて いる。
そうそう、忘れ去られていると言えば、ハリーはドレが中国へ来て最初に親しくなった友人であり、メイと仲良くなるきっかけを作って くれた人物なのに、いつの間にか消えているのね。

(観賞日:2012年9月11日)

 

*ポンコツ映画愛護協会