『ハード・キャンディ』:1999、アメリカ

レーガン高校に通うコートニーと仲間のジュリー、マーシー、リズの4人は完璧な美しさを誇り、学校で憧れの的となっている。その中でもリズは優しい性格で、格別に人気が高かった。コートニーが悪魔なら、リズは天使だった。17歳の誕生を迎える朝、彼女は仮面で顔を隠したコートニー&ジュリー&マーシーに寝室で襲われた。リズは大きくて硬い飴玉を口に押し込まれ、ガムテープで口を塞がれる。彼女はコートニーたちに手足を縛られ、車のトランクに閉じ込められた。
それは誕生日のイベントとしてコートニーが考えた計画だったが、駐車場でトランクを開けるとリズは死んでいた。3人は激しく動揺するが、コートニーは「リズは病死したことにする」と言う。「どうせバレる。知らせた方がいい」とジュリーは反対するが、コートニーは「みんなに集中攻撃されるわよ。誕生日の悪戯ぐらいで人気を無くすなんて耐えられない」と述べた。彼女はリズの母として女性校長のシャーウッドに電話を掛け、娘の具合が悪いので休ませると語った。
学校に到着すると、コートニーはジュリーとマーシーに普段通りに振る舞うよう指示した。3人はトイレに入り、生徒のファーンたちを追い出した。3人がメイクを整えているとシャーウッドが現れ、リズに宿題を届けるようコートニーに指示した。コートニーはジュリーとマーシーに、リズは連れ込んだ男に飴玉を押し込まれて死んだことにしようと持ち掛けた。コートニーはシャーウッドから校長室へ宿題を受け取りに来るよう言われていたが、すっかり忘れていた。
校長室を訪れたファーンは宿題のことを知って、自分が届けると申し出た。地味で冴えないファーンは、リズに憧れていた。それを知ったコートニーたちは、先回りしてリズの遺体をベッドまで運んだ。コートニーとマーシーが遺体を動かしている間、ジュリーは手伝わずにリズの所持品を見ていた。ファーンはマーシーの発した大声を聞き、不審を抱いて邸内に侵入した。コートニーは全く気付かず、会話の流れで「リズは私が殺したんだから」と口にする。
ジュリーが「もう降りる。警察に行かせて。事故だと言えば分かってくれるわ」と訴えると、コートニーとマーシーは反対する。非難するコートニーを突き放して部屋を出ようとしたジュリーは、廊下に立っているファーンを見つけて驚いた。コートニーから問い詰められたファーンはリズの遺体に気付いて逃げ出そうとするが、すぐに捕まる。コートニーはファーンに、「アンタも私たちのような太陽になれる。クールに変身させてあげる。今日からは仲間よ。今日のことを内緒にしていれば、貴方の夢が叶う」と持ち掛けた。
ファーンは取り引きを快諾し、見た目を大きく変えてコートニーたちの仲間になった。リズの両親は帰宅して娘の遺体を確認し、警察が動き始めた。ジュリーはコートニーたちの仲間から外れ、他の生徒たちと付き合うようになった。コートニーはジュリーに、「喋ったらアンタは終わりよ。マーシーもファーンもアンタが殺したと証言する」と脅しを掛けた。彼女はファーンに、クールな女としての振る舞いを教えた。そこにレスリング部員のデーンが来ると、コートニーはファーンを「転校生のヴァイオレット」と紹介した。
ヴァイオレットとして行動するよう促されたファーンは、笑顔で受け入れた。ヴェラ・クルーズ刑事はシャーウッドの元を訪れ、リズの一件で事情を聞く。放課後、ジュリーは演劇部員のザックに声を掛けられ、車で家まで送ってもらう。ザックに好意を抱いた彼女は、電話番号を教えた。ジュリーは小学生時代にファーンと撮った写真を眺め、彼女に電話を掛けた。彼女はファーンが家へ泊まりに来た出来事を語り、「怖いの。時間は何もかも消しちゃう」と漏らした。ファーンが「時間じゃなくて人間が消すのよ」と話しているとコートニーからキャッチホンが入り、誰よりも自分を優先するよう要求した。
コートニーはデーンを寝室へ連れ込んで楽しもうとするが、警官2人組がやって来た。マーシーは父親から幼い頃のことを聞かされ、辟易した表情を浮かべる。コートニー、マーシー、ジュリーはクルーズに呼ばれ、1人ずつ事情聴取を受けた。学校では校内放送でリズの死が伝えられ、生徒たちは悲しみに暮れる。クルーズはシャーウッドと話し、リズの母親が病欠の電話を入れていないことを教えた。教科書を持った女子生徒が目撃されていることをクルーズが話すと、シャーウッドはファーンに宿題を届けてもらったことを証言した。彼女は「ここ数日、ファーンの姿を見てない」と言うが、「とても優しい子なので、殺人なんて有り得ない」と容疑を否定した。
ヴァイオレットとして登校するファーンはチアリーダーのブレンダと仲良くなったり、女子生徒から羨望の眼差しを向けられたりする。コートニーはファーンに「彼氏が必要よ」と告げ、人気者のザックと付き合うよう勧めた。コートニーはザックと親しくなるため、芝居に参加するようファーンに指示した。ジュリーから名前を呼ばれたファーンは、「私はヴァイオレットよ」と告げた。ジュリーはザックに誘われ、ドライブデートに出掛けた。
クルーズはファーンを事情聴取し、「今はヴァイオレットよ。内緒にしてくれる?」と言われて承知する。リズについて訊かれたファーンは、彼女から親切にしてもらったこと、ずっと憧れていたことを楽しそうに語る。だがクルーズが「そんな友達を失うなんて悲しいわね」と言うと、彼女は「もう友達ごっこは卒業した」と冷めた口調で告げた。コートニーはクルーズに会い、「リズは男好きで、行きずりの男とセックスしていた」と嘘をついた。
ヴァイオレットはザックに近付き、自信に満ちた態度を取った。彼女は自動車販売店の男を虜にして高級車を手に入れ、登校する時に使う。彼女はコートニーとマーシーの前でも、遠慮しない態度を取るようになった。ジュリーはザックから「ヴァイオレットって知ってる?」と彼女への違和感を告げられ、その正体はコートニーが変身させたファーンだと教えた。「なぜコートニーが変身させたの?」と問われたジュリーは、戸惑いながら「リズの事件と関係があるの」と真相を打ち明けた…。

脚本&監督はダーレン・スタイン、製作はリサ・トーネル&ステイシー・クレイマー、共同製作はトム・コルウェル、製作協力はアダム・シルヴァーマン、撮影はエイミー・ヴィンセント、美術はジェリー・フレミング、編集はトロイ・T・タカキ、衣装はヴィッキ・ブリンクコード、音楽はスティーヴン・エンデルマン、音楽製作総指揮はアレックス・ステイヤーマーク、音楽監修はピーター・コキラード。
出演はローズ・マッゴーワン、レベッカ・ゲイハート、ジュリー・ベンツ、ジュディー・グリア、パム・グリア、キャロル・ケイン、ザ・ドナス、マリリン・マンソン、イーサン・エリクソン、チャド・クリスト、シャーロット・アヤナ、タチアナ・アリ、P・J・ソールズ、ウィリアム・カット、ジェフ・コナウェイ、レイチェル・ウィンフリー、ソフィア・アブ・ジャムラ、ドナ・ピエローニ、レベッカ・ストリート、トミー・マッケイ、サンディー・マーティン、ブライアン・ガッタス、クローディン・クラウディオ他。


『ミセス・ラスベガスの幸せになれる方法』のダーレン・スタインが脚本&監督を務めた作品。
コートニーをローズ・マッゴーワン、ジュリーをレベッカ・ゲイハート、マーシーをジュリー・ベンツ、ファーンをジュディー・グリア、ヴェラをパム・グリア、シャーウッドをキャロル・ケイン、誤認逮捕される男をマリリン・マンソン、デーンをイーサン・エリクソン、ザックをチャド・クリスト、リズをシャーロット・アヤナが演じている。
ガールズバンドのザ・ドナスが登場するのは、高校時代に結成された4人組ってことも意識してのキャスティングだろう。

原題となっている「Jawbreaker」は、冒頭でリズが口に押し込まれる飴玉のこと。「顎を破壊するほど硬くて飴」という意味だ。
そのまま「ジョーブレイカー」とカタカナ表記にしても何のことだか意味が伝わらないので、『ハード・キャンディ』にしたんだろう。
でも原題を使わないのは分かるけど、もはや「飴玉」の部分を大事にする必要も無いよね。
『ハード・キャンディ』というタイトルが内容と合致しているとは到底思えないし。

いきなりコートニーたちがリズを拘束して車のトランクに押し込めるシーンが描かれ、それが誕生日祝いの悪戯であることが明かされる。
しかし、下半身はパンティーしか履いていない状態でトランクに押し込み、「パンケーキを口に詰め込み、ブラとパンティーだけにして学校も門に縛り付ける」とコートニーが楽しそうに話していることからも分かるように、明らかにイジメである。
ただし、「じゃあ3人は彼女を疎ましく思っていたのか。その人気を妬んでいたのか」と思ったら、そうでもなさそうなのよね。

まあ妬んでいたとしたら事前の描写をしておくべきだろうとは思うが、でも妬みが無かったとしたら、その行動は不可解極まりないぞ。
最近になってからの仲間じゃなくて随分と前からの仲間という設定みたいだけど、そんな友人にシャレにならない悪戯(っていうか悪質な犯罪行為)を仕掛けるかね。
何がOKかの基準がぶっ壊れているとしても、親友には仕掛けないんじゃないかと。
そういうことを本気で「きっと相手が喜ぶだろう」と思って誕生日に仕掛けているとしたら、それが初めてじゃないはずで。だとしたら、リズに嫌がられていることは確実なはずで。

諸々を考えると、そこは「コートニーがリズを妬んでいた」という設定の方が受け入れやすくなる。
ただし、「コートニーとリズは天使と悪魔」とか「リズは優しくて学校での人気がコートニーと桁違い」ってのはナレーションで軽く触れているだけだと全く足りていないので、そこは厚くする必要がある。事件が起きた後からでもいいので、「いかにリズが生徒たちから愛されていたか」ってのを描くべきだろう。
っていうか、冒頭で少し時間を割いて、4人が生徒たちから羨望の的だとか、優しいリズが特に人気者とか、そういうのをアピールしておけばいいんじゃないかと思うけどね。86分という短い上映時間だから導入部から忙しくなっているけど、そういう描写なんてせいぜい5分もあれば済む作業だし。
それを付け加えて91分の尺になったとしても、何のダメージもならないでしょ。

「殺人を犯した女子高生たちが、それを隠蔽するために奔走する」ってのをシニカルな喜劇として描くのかと思ったら、すぐに「ファーンがメンバーに入れてもらって変貌し、どんどん増長していく」という要素が強くなる。
そうなると、「こっちだけでいいよね」という印象を受けてしまう。
殺人という要素を排除して、「何らかの理由で、スクールカースト上位のグループが下位の女を仲間に加えざるを得なくなる。上位に憧れていた下位の女は当初はオドオドしていたが、その環境に馴染むと、同じように嫌な女になる」という話に絞り込んだ方が、1つの話として面白くなるんじゃないかと。

この映画は「殺人を隠蔽しようとする女子高生」と「スクールカーストの立場が逆転した途端に変貌する女子高生」という2つの要素を組み合わせた結果、まるで上手く融合せずに邪魔し合っているように感じられる。
っていうか邪魔し合うという以前に、どっちもスカスカなのよね。
1つだけだと薄っぺらくて86分という短い上映時間でさえ埋め切れないから別の要素を足してみたけど、それでもスカスカになっているという感じだ。
「ファーンが膨らませる変身の妄想」や「ジュリーが見るリズの幻影」といった映像が挿入される箇所もあるが、単なる時間稼ぎにしか思えない。

「殺人隠蔽」という要素の方は、クルーズが捜査を開始しても遅々として先へ進まない。
そこは丸ごと時間稼ぎにしか思えないし、パム・グリアに関しては完全に役者の無駄遣いと化している。
「ファーンの変貌」の方は、「少しずつ変化」でも「急激に豹変」でもいいけど、どっち付かずで中途半端になっている。
演劇への参加をコートニーに指示された時にファーンは「お芝居の経験なんて無い」と臆病な様子を見せるのに、そこへジュリーが来て名前を呼ぶと「私はヴァイオレットよ」と高慢な態度で口にする。
「どっちなんだよ」と言いたくなるし、それだとキャラの見せ方がデタラメにしか見えないぞ。

リズを襲って拘束する計画にしろ、殺人を偽装する計画にしろ、主導するのはリーダー的存在のコートニーだ。
しかしジュリーとマーシーも、それに協力している。
後者はひとまず置いておくとして、もはや陰湿な犯罪でしかないリズの襲撃に関しては2人とも嬉々として参加していた。その段階で、もはや情状酌量の余地は無いと断言してもいいぐらいだ。
だからコートニーのように最後まで徹底してクズ女として行動してくれた方が、ある意味では分かりやすい。

ところが厄介なことに、ジュリーはリズが死んだ直後から「私はコートニーとは違うのよ」という態度を見せるようになる。コートニーが思い付いた「男に襲われたと見せ掛ける」という計画に顔をしかめたり、遺体の細工を手伝わずリズの遺品を眺めたりする。
これが単純に「性格はクズだけど、人を殺してしまったことで怯えている」というだけなら、コートニーとはタイプが違っていても扱いとしては大して変わらない。
実際、ジュリーは偽装計画に協力する時、特に反対するような素振りは見せていない。
「もう降りる。貴方たちと関わりたくない」と言い出すのも、単純に「怖くなったから」というだけでしかない。

しかし、そこからのジュリーは、「リズを死なせたことは後悔しています」という見せ方になっている。
そのため、嬉々として遺体を細工し、その後も隠蔽工作に終始しようとするコートニー&マーシーに比べると、ジュリーの印象は随分とマシになるだろう。
ただ、「お前もリズが死ぬまでは嬉々としてたじゃねえか」と言いたくなる。
前述したように、リズが死んだことで怖くなっただけに過ぎないし、罪としては大して変わらないはずなのだ。

ところが本作品では、なんとジュリーを「改心して善玉になりました」という扱いにしてあるのだ。
いやいや、それは絶対にダメでしょ。こいつもコートニーと同じ穴のムジナに過ぎないでしょ。
陰湿な犯罪行為でリズを襲撃し、意図しなかったとはいえ彼女を死に至らしめているのだ。それなのに、コートニーに全ての罪を被せて「あいつが悪い」と糾弾するだけで自分は被害者面をするって、そんな都合のいいことがあるものかと。
アンタは何の贖罪も済ませちゃいないだろ。
それも含めて「皮肉を込めた喜劇」として作っているならともかく、どう見ても本気で「こいつは善玉に鞍替えして許されるべきヒロイン」という扱いなのよね。

(観賞日:2019年2月9日)

 

*ポンコツ映画愛護協会