『ハーモニーベイの夜明け』:1999、アメリカ

アフリカでマウンテンゴリラの生態を研究していた人類学者イーサン・パウエルが、森林警備隊員を殺害して捕まった。アメリカ国務省のトム・ハンリーはイーサンの身柄を引き取り、アメリカへ移送する。イーサンはアメリカの空港で暴れ出し、逃亡を図った。しかし娘リンの姿を目撃したイーサンは、暴れるのを止めて拘束された。
マイアミ大学精神医学部のテオ・コールダー博士は、師事しているベン・ヒラードからイーサンの資料を集めるよう告げられた。ベンはイーサンの精神鑑定を依頼されたのだ。テオが調べた結果、イーサンは1994年に失踪してゴリラと一緒に生活していたこと、まるで獣のように森林警備隊員を襲撃したことが分かった。
イーサンはハーモニーベイ刑務所に収容され、他の囚人ピートやニコ、レスターらと共に生活することになった。ダックス看守長は囚人に対してトランプのカードを配り、ダイヤのAを得た者だけに30分の自由時間を与えていた。しかし屈強な囚人ブルートは毎回必ずAのカードを力ずくで奪い取り、それをダックスも黙認していた。
イーサンの鑑定が出世の足掛かりになると考えたテオは、自分に担当させてほしいとベンに頼み込んだ。テオは刑務所を訪れるが、キーファー所長はイーサンに毎日会うことを禁じ、他の囚人も診察するよう命じた。拘束された時から、イーサンは全く言葉を発していなかった。テオの1回目の面談でも、やはりイーサンは何も語ろうとしなかった。しかもキーファーの指示を受けた精神科医マーリーが大量の精神安定剤を投与している影響で、イーサンは凶暴になっていた。
テオはリンの元を訪れて協力を求め、アフリカの写真を手に入れた。テオは2回目の面談で、イーサンに「リンが会いたがっている」と告げた。「娘に言いたいことは?」という質問に、イーサンは「グッド・バイ」と初めて言葉を発した。テオはイーサンから、精神安定剤を減らせば話をするという約束を取り付けた。
3回目の面談で、イーサンはアフリカでの出来事を語った。最初は遠くからゴリラを観察していたイーサンは、少しずつ距離を縮めていった。やがてベースキャンプに戻らなくなり、ゴリラと共に暮らすようになったのだった。4回目の面談では、イーサンはテオに「奪う者」や「支配」についての講義を行った。
テオはカードによる自由時間の供与システムを変えようとして、囚人を扇動する。それに腹を立てたキーファーは、イーサンとの面会期限を1週間に短縮する。テオはイーサンと何度も話す内に、彼を刑務所から出してやりたいと考えるようになっていた。テオは審問会に向けてイーサンから真相を聞きだすため、彼を動物園のゴリラに会わせる…。

監督はジョン・タートルトーブ、原案はダニエル・クイン、映画原案&脚本はジェラルド・ディペゴ、製作はマイケル・テイラー&バーバラ・ボイル、共同製作はリチャード・ラーナー&ブライアン・ダブルデイ&クリスティーナ・スタインバーグ、製作総指揮はウォルフガング・ペーターゼン&ゲイル・カッツ、撮影はフィリップ・ルースロ、編集はリチャード・フランシス=ブルース、美術はギャレス・ストーヴァー、衣装はジル・オハネソン、特殊キャラクター効果はスタン・ウィンストン、音楽はダニー・エルフマン。
出演はアンソニー・ホプキンス、キューバ・グッディングJr.、ドナルド・サザーランド、モーラ・ティアニー、ジョージ・ズンザ、ジョン・アシュトン、ジョン・アイルウォード、トーマス・Q・モリス、ダグ・スピナッツァ、ポール・ベイツ、レックス・リン、ロッド・マクラクラン、カート・スマイルジン、ジム・R・コールマン、トレイシー・エリス他。


ダニエル・クインの著書『イシュマエル/人に、まだ希望はあるか』から着想を得て作られた作品。
イーサンをアンソニー・ホプキンス、テオをキューバ・グッディングJr.ベンをドナルド・サザーランド、リンをモーラ・ティアニー、マーリーをジョージ・ズンザ、ダックスをジョン・アシュトン、キーファーをジョン・アイルウォードが演じている。

この映画には、複数のゴリラが登場する。
中には、アンソニー・ホプキンスがゴリラと密接な距離で触れ合うシーンまである。
一見すると、「すげえなアンソニー・ホプキンス」と思ってしまいそうだが、登場するゴリラ、実は全てスタン・ウィンストンのスタジオが作ったメカなのだ。
このメカ・ゴリラの出来映えは、本当に素晴らしい。

もはやメイン2人のキャスティングが決まった段階で、勝算は消えていたのかもしれない。
まずアンソニー・ホプキンスは、まるで『羊たちの沈黙』のレクター博士のセルフ・パロディーみたいな役回りを演じさせられている。
当初、この役はショーン・コネリーの起用が想定されていたそうだが、もしコネリーに決まっていても「レクターもどき」を演じさせたんだろうか。
しかし、そんなことよりも、メカ・ゴリラの動きが本当に素晴らしい。

次にキューバ・グッディングJr.だが、とてもじゃないが「野心家だったのがイーサンに感化されて次第に心境が変化していく」という男には見えない。
彼は逆立ちしても、デンゼル・ワシントンにもモーガン・フリーマンにもサミュエル・L・ジャクソンにもシドニー・ポワチエにもなれないのだ。
せいぜい、ビリー・ディー・ウィリアムズかジム・ブラウン辺りが限界だろう。
しかし、そんなことよりも、メカ・ゴリラの仕草が素晴らしい。

邦題は、原題とは全く関係が無いモノで、完全に『ショーシャンクの空に』を意識している。
しかし、この邦題は、作品の本質を上手く捉えているとも言える。
なぜなら、この映画は現在のシーンが『ショーシャンクの空に』と『羊たちの沈黙』、イーサンの回想シーンが『愛は霧のかなた』という感じの内容なので。
しかし、そんなことよりもメカ・ゴリラを見よう。

どうやら基になっているダニエル・クインの著書は、似ても似つかぬ全くの別物らしい。
この映画は、原形を留めない完全に別のシナリオを構築し、その中に原作が表現していたメッセージを込めるという方法を取っているそうだ。
しかしメッセージもへったくれも無い。
あったとしても、山盛りウンコの奥の奥に隠れている宝を見つけ出せるのは、そこに宝が隠されていることを最初から知っている奴だけだろう。
知らない奴は、手を突っ込むことをしない。
というか、そんなことよりメカ・ゴリラに着目しよう。

この作品は、「イーサンがゴリラから平和や安らぎや調和を学んだ」という話と、「劣悪な環境の刑務所で非道な支配が行われている」という話を、何をトチ狂ったのか、くっつけようとしている。
しかし、それを繋ぐ接着剤は、少なくとも一般には出回っていないだろう。
だから、そんな幻を追うよりも、目の前に存在するメカ・ゴリラに感動しよう。

ようするに「ゴリラからイーサンが教えを受けて、そのゴリラから教わったことをイーサンがテオに教える」という手順を踏んでいるのだが、ゴリラかテオか、いずれかを削った方が(まあテオだろうな)スッキリするような気もしてしまう。
だが、そんなことに気を取られている暇があったら、メカ・ゴリラを楽しんでいた方が有意義だろう。


第22回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪の主演男優】部門[キューバ・グッディングJr.]
<*『チルファクター』『ハーモニーベイの夜明け』の2作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会