『ハンターキラー 潜航せよ』:2018、アメリカ

ロシアのバレンツ海。アメリカ海軍ロサンゼルス級原子力潜水艦タンパ・ベイは、探知されずにロシア海軍アクラ級原子力潜水艦コーニクを追っていた。するとコーニクで爆発が発生し、タンパ・ベイは緊急遭難信号を受けて存在を知らせようとする。その直後、真上に敵艦が出現し、タンパ・ベイは魚雷の攻撃を受けた。国防総省国家軍事指揮センターのジョン・フィスク海軍少将は、タンパ・ベイがコラ半島沖で消息不明になったという連絡を受けてチャールズ・ドネガン統合参謀本部議長に報告した。ドネガンから現地に向かうよう指示された彼は、攻撃型原子力潜水艦(ハンターキラー)を使うよう求めた。ドネガンが「もう救難艇のある艦は無い。アーカンソーは艦長を失った」と言うと、フィスクは新任を命じたことを知らせた。
フィスクがアーカンソーの新しい艦長に指名したのは、兵学校を出ておらず艦長経験も無いジョー・グラスだった。エストランド高地のロッホアーバーで鹿狩りをしていたグラスは、ファスレーン海軍基地へ赴いた。ブライアン・エドワーズ副艦長と会った彼は、極秘命令書を渡された。グラスは外出許可で町へ行っていた乗員のウォラックやヒメネスたちを招集し、出発の準備を命じた。彼は乗員たちに自身のことを軽く語った後、タンパ・ベイを見つける任務を伝えた。
NSA局員のジェーン・ノーキストはフィスクと会い、大統領に報告するので隠している情報を出してほしいと要求した。フィスクから事件について聞いた彼女は、爆発が起きる前にロシアのザカリン大統領がドゥーロフ国防相と会うためコラ半島へ向かったことを教える。彼女は「NSAは特殊部隊の派遣を渋ってる。これが侵略なら早急に手を打たないと」と語り、極秘に動ける人員をロシアへ送るよう要請した。タジキスタンで訓練を積んでいたシールズのビル・ビーマン隊長は極秘任務を受け、部下のマット・ジョンストン、ポール・マルティネリ、デヴィン・ホールを連れて輸送機に乗り込んだ。
ザカリンはポリャルヌイ海軍基地でドゥーロフと会い、車に乗り込んだ。コラ半島に着いたアーカンソーは、シースキャンを出して周辺を探索した。アーカンソーはタンパ・ベイの残骸と遺体を発見した直後、真上で氷を砕く音を探知した。アクラ級原潜ヴォルコフの魚雷攻撃を受けたアーカンソーは何とか回避し、反撃して撃沈した。ポリャルヌイ司令部のザカリンは、ヴォルコフ撃沈を知らされた。ドゥーロフは反撃を進言するが、ザカリンは「アメリカ大統領と話したい」と告げた。
シールズはパラシュートで降下し、森を進んだ。アーカンソーは大きな穴が開いて沈んでいるコーニクを発見し、グラスは爆発が内部で起きたことを確信する。彼が生存者の救出に向かうことを決めると、エドワーズは「米艦を沈めた奴らです」と反対する。グラスは「連中は何かを知ってて置き去りにされた」と言い、情報を得る目的があることを説明した。彼は救難艇ミスティックを出し、コーニク艦長のセルゲイ・アンドロポフと2名の部下を救助した。グラスは低体温症の治療を医官に指示し、ウォラック副長補佐を呼んで「艦長を隔離し、乗員と接触させるな」と命じた。
シールズはポリャルヌイ海軍基地に到着し、駆逐艦に大型兵器が積み込まれる様子を目撃した。ザカリンはアメリカ合衆国のドーヴァー大統領に連絡しようとするが、妨害電波で全ての電話は使えなくなっていた。ノーキストはNSAの衛星バンドを使い、シールズが撮影した映像を受け取ってドネガンやフィスクたちと共に見た。ドゥーロフは部隊を率いてポリャルヌイ司令部を制圧し、「基地を封鎖して全ての通信を遮断しました。全閣僚や軍部には、貴方が病気で私が代行すると伝えました」とザカリンに語った。
ドゥーロフは「私がロシアの国益と領土を守る」と宣言し、部下たちにザカリンとSPを外へ連れ出させた。ドゥーロフの部下たちはSPを全て射殺し、ザカリンを司令部へ連れ戻した。その映像を見ていたドネガンたちはクーデターを知り、ドーヴァーに報告した。緊急閣議が開かれ、ドネガンはドーヴァーに「ドゥーロフに先手を取られた。すぐに応戦すべきだ」と進言する。ノーキストは「それでは彼の思う壷です。戦争が彼の狙いです」と言うが、ドネガンは苛立って応戦を主張した。フィスクがザカリンの救出を提案すると、ドーヴァーは戦争の準備を指示した上で「救出作戦も許可する」と告げた。
グラスはシールズとザカリンを救出するため、ポリャルヌイ海軍基地へ向かうことを乗組員に伝えた。エドワーズが「あそこは機雷原とソナー網が。気付かれずに近付くのは不可能です」と言うと、彼は「案内人が必要だ」と口にする。グラスはアンドロポフと会い、「我々は襲撃していない」と告げる。彼は証拠写真を見せ、「爆発は艦内で起きた。破壊工作だ」と言う。彼はクーデターが起きたことを教え、協力を要請して部屋を去った。
シールズはドゥーロフの部下たちに気付かれそうになるが、身を潜めてやり過ごす。しかし発砲を受け、マルティネリが脚に怪我を負った。ビーマンはザカリンを救出する任務に就くことを部下たちに告げ、マルティネリには別行動を指示した。アーカンソーがフィヨルドに入ると、発令所にアンドロポフが現れた。エドワーズは監禁しておくべきだと主張するが、グラスはアンドロポフの助言に従って原潜を進めた。アンドロポフは音響機雷があることを教え、海図に無い別ルートを進ませた。
司令部に潜入しようとしたシールズは、外で倒れていたSPのオレグと遭遇した。ビーマンが事情を説明すると、オレグは案内役を買って出た。シールズとオレグは司令部に乗り込んでドゥーロフの部下を次々に倒し、監禁されていたザカリンを発見する。オレグが敵と戦っている間に、シールズはロープで外壁を降下してザカリンを連れ出す。オレグは銃弾を浴び、敵を道連れにして爆死した。ホールは死亡し、残る3人は海に飛び込んだ。すぐに敵が追い掛けて来るが、マルティネリが山中からの狙撃でビーマンたちの逃亡を手伝った…。

監督はドノヴァン・マーシュ、原作はジョージ・ウォレス&ドン・キース、脚本はアーン・L・シュミット&ジェイミー・モス、製作はニール・H・モリッツ&トビー・ジャッフェ&ジェラルド・バトラー&アラン・シーゲル&タッカー・トゥーリー&マーク・ギル&ジョン・トンプソン&マット・オトゥール&レス・ウェルドン、製作総指揮はアーン・L・シュミット&ライアン・カヴァナー&ダグラス・アーバンスキー&ケン・ハルスバンド&ケヴィン・キング&クリスティン・オタル&ワン・ハイイー&シュー・ビン&アヴィ・ラーナー&トレヴァー・ショート&ボアズ・デヴィッドソン&ヤリヴ・ラーナー&ラティ・グロブマン&クリスタ・キャンベル、共同製作総指揮はサミュエル・ハディダ&ヴィクター・ハディダ、共同製作はジゼラ・マレンゴ&ダニエル・ロビンソン、製作協力はダニエル・カスロウ、撮影はトム・マライス、美術はジョン・ヘンソン、編集はマイケル・J・ダシー、衣装はキャロライン・ハリス、視覚効果監修はショーン・H・ファロー&スタニスラフ・ドラギエフ、音楽はトレヴァー・モリス。
出演はジェラルド・バトラー、ゲイリー・オールドマン、コモン、ミカエル・ニクヴィスト、リンダ・カーデリーニ、トビー・スティーヴンス、キャロライン・グッドール、デヴィッド・ギャーシー、ガブリエル・チャヴァリア、ライアン・マクパートリン、カーター・マッキンタイア、ゼイン・ホルツ、テイラー・ジョン・スミス、マイケル・トルッコ、ミハイル・ゴア、アレクサンドル・ディアチェンコ、イゴール・ジジキン、ユーリー・コロコリニコフ、イリア・ヴォロック他。


ジョージ・ウォレス&ドン・キースによる同名小説を基にした作品。
監督は『裏切りの獣たち』のドノヴァン・マーシュ。
プロデューサーのアーン・L・シュミットと『ゴースト・イン・ザ・シェル』のジェイミー・モスが脚本を務めている。
グラスをジェラルド・バトラー、ドネガンをゲイリー・オールドマン、フィスクをコモン、アンドロポフをミカエル・ニクヴィスト、ノーキストをリンダ・カーデリーニ、ビーマンをトビー・スティーヴンス、ドーヴァーをキャロライン・グッドール、ウォラックをデヴィッド・ギャーシー、ヒメネスをガブリエル・チャヴァリア、ジョンストンをライアン・マクパートリン、エドワーズをカーター・マッキンタイア、マルティネリをゼイン・ホルツ、ベルフォードをテイラー・ジョン・スミスが演じている。

フィスクはグラスをアーカンソーの新しい艦長に任命したことをドネガンに伝える時、兵学校を出ていないこと、艦長の経験が無いことを教えている。
そこからカットが切り替わるとグラスが登場するが、ここで彼のステータスを紹介するのかと思ったら、ただ狩りをしているだけ。
海軍基地に移動したグラスは乗員たちに「前の艦長を個人的に知っていた。私の噂で騒がしいようなので説明する。兵学校は出ていない。
色々とやった。ずっと水の中だった」と話すが、大した説明になっていない。

グラスが乗員に自分のことを語るのは、噂が広まっていることを気にしたからだ。だが、噂を払拭するような説明ではない。
しかし、それで乗員は簡単に受け入れている。
っていうか、そもそも乗員はグラスに関する噂話はしているが、それで彼の能力を疑うとか、強い嫌悪感を示すとか、そういうわけではない。そして出発した後も、「兵学校を出ていない」「艦長の経験が無い」という理由で疑念を抱いたり反抗したりすることは無い。
なのでグラスの初期設定や彼に関する噂は、ドラマを盛り上げる要素として全く機能していない。

あと、そもそも「なぜフィスクは兵学校を出ていないし艦長の経験も無いグラスを任命したのか」という部分で、ドネガンは何の疑問も抱かなかったのか。そこに関しては、「なぜグラスなのか」という説明が必要じゃないのか。
あと、アーカンソーの前任の艦長が死亡している問題についても、ただ「艦長を失った」というだけで終わっているよね。
どういう理由で死んだのかも分からないし、それが今回の話に影響してくることは皆無だし。前の艦長への忠誠心が強いせいで、グラスに反発するような乗員もいないし。
だったら、「前の艦長を失っている」という設定って、ほぼ無意味だよね。

グラスがコーニクの生存者を救出に向かうと決めた時、エドワーズは「米艦を沈めた奴らです」「命令違反です」などと反対する。
だが、それは決してグラスの艦長としての資質に疑念を抱いているとか、その経歴を理由にして反発しているとか、そういうわけではない。
単純に、融通が利かないというだけだ。
それに、「命令に忠実であろうとする頑固なエドワーズ」と「臨機応変に対処しようとするグラス」の対立は、ドラマを面白くするための軸としては全く機能していない。

それでもエドワーズは副長という役職もあるので、まだ存在感を見せている部類だろう。
他の連中は、ほぼ「ただの乗員」というレベルに留まっており、大半は名前さえ分からない。充分に個性を発揮しているキャラクター、活躍の場を与えられているキャラクターは、皆無に等しい。
フィスクやノーキストなど、アーカンソーの外にいる連中の方が、個人としての存在をアピールしている。
だからって魅力的というわけではなくて、あくまでも「比較するとマシな方」ってことだけどね。

ドネガン役のゲイリー・オールドマンはキャストの2番目にクレジットされるが、実際の役割を考えると、そんなに存在意義があるわけではない。
閣議ではロシアへの応戦を強硬に主張するなど、一応は分かりやすい役割を与えられている。ただ、仮にドネガンのポジションを無くしても、話は成立しそうなキャラだ。
なぜゲイリー・オールドマンがこの仕事を引き受けたのか疑問さえ湧く。費用対効果がいい仕事だったのかねえ。
『レイン・フォール/雨の牙』に匹敵するぐらい、やっつけ仕事の印象が強いわ。

ノーキストはフィスクに、「これが侵略なら早急に手を打たないと」と告げる。
でも、事件はロシアのバレンツ海で起きており、それを「侵略」と呼ぶのは無理があるんじゃないか。
あと、NSAが特殊部隊の派遣を渋る理由は、説明した方がいいでしょ。
そんでフィスクはシールズを派遣するんだけど、たった4人ってのはどうなのよ。数が多けりゃいいってわけじやないし見つかるリスクも大きくなるけど、4人は厳しくないか。

っていうか、そもそもシールズが動くパートって、ホントに必要なのか。偵察部隊が本当に必要なのかという部分で、ます疑問が浮かぶ。
そしてシナリオとして見た場合にも、そこを描くことで散漫になっているように感じる。ハンターキラーの活躍を描く作品のはずなのに、欲張ったせいで「二兎を追う物ホニャラララ」みたいになってるぞ。
そりゃあアーカンソーの面々は潜水艦の乗組員だから、敵と交戦してザカリンを救出する任務をシールズに任せるのは、理屈としては間違っちゃいないよ。でも、シールズの活躍を描いてアーカンソーがカヤの外になっちゃう時間帯が長く存在するのは、どう考えても話のピントがボヤけているでしょ。
根本的に、シナリオとして問題があるとしか思えんよ。

ドゥーロフはクーデターを起こす際、ザカリンを「弱い大統領」と評している。
でも、そこまでにザカリンの具体的な政治姿勢やアメリカとの関係性が全く描かれていないので、クーデターを起こしてまでザカリンを排除しようとするドゥーロフの動機が薄弱だ。
彼はアメリカとの戦争を引き起こそうと目論んでいるが、それによって何を得ようとしているのかも不明だし。勝てると踏んでのことだろうけど、ただの薄っぺらいキチガイにしか見えない。
あと、「ドゥーロフが個人で起こしたクーデターで軍部の後ろ盾は無い」という設定は、さすがに無理があり過ぎるだろ。

ドゥーロフは部下たちに命じて、ザカリンとSPを司令部から埠頭へ連れ出す。そこで部下たちはSPを射殺して遺体を海に落としてから、ザカリンを再び司令部へ連れ戻す。
この行動、まるで意味が無いでしょ。司令部でSPを殺しても、何の問題も無いでしょ。
わざわざ外へ連れ出すのは、「映像を見ているフィスクたちにクーデターを明確に分からせる」という目的を果たすためだ。
つまりシナリオの都合であり、ものすごく不細工な御都合主義ってことだ。

グラスがアンドロポフにクーデター阻止のための協力を要請し、「敵味方は関係ない。我々の未来の問題だ」などと語るシーンがある。
彼はアンドロポフの返事を待たず、部屋を去る。
そりゃあアンドロポフからすれば、いきなり「米軍と協力して自国の大統領を救い出す」という計画への協力を求められたのだから、そう簡単に乗れない話ではあるだろう。
でも、そこは間を置かず、そのままの流れで協力を承知するトコまで進めた方がいい。

たぶん「発令所にアンドロポフが現れる」というシーンの効果を期待したんだろうけど、意外性はゼロだし、アンドロポフが来ても高揚感は全く無い。
フィヨルドに入った直後だし、グラスたちのピンチに彼が現れるわけでもないしね。
なので、グラスが自分の考えを語って、それにアンドロポフもロシア人としての主張をぶつけて、イデオロギーに関する熱い問答でも用意した方がいい。
そして、その上で「海の男としてのシンパシーで結ばれる」ってな感じで、男たちのドラマを燃え上がらせた方がいい。

オレグが外で倒れているのは、どういう状況なのかサッパリ分からない。
ドゥーロフの部下たちが3人のSPを埠頭へ連れ出した時、確実に脳天を撃たれて全員が海に落下していたはず。それなのに、オレグは少し疲れている様子はあるものの、ピンピンしているのだ。設定としては怪我を負っているようだが、傷も見えないし出血もしていないし。
「たまたま銃弾が外れて、海から這い上がった」ってことなのか。色々と無理があり過ぎるだろ。
しかも、そこまで無理してオレグを生かしている意味って、そんなに無いぞ。

ザカリンがアーカンソーに保護されると、ドゥーロフは駆逐艦を差し向けて撃沈を命じる。この駆逐艦には、アンドロポフの教え子たちが乗っている。
「大統領代行になったから」ってことなんだろうけど、もはや「軍部の後ろ盾か無い個人のクーデター」という設定は無意味になっている。
それはともかく、ザカリンが保護されたら、後はアーカンソーの戦いに集中するのかと思いきや、さにあらず。
ビーマンとマルティネリがポリャルヌイ海軍基地に残っているので、こちらの戦いも描いている。

終盤、アーカンソーは駆逐艦に補足され、絶対絶命の危機に陥る。ここでグラスはアンドロポフに頼み、教え子たちに攻撃しないよう呼び掛けてもらう。そしてアーカンソーは駆逐艦の前に浮上し、今度はザカリンが呼び掛ける。
これで駆逐艦の攻撃を阻止できるんだから、最初からそうすりゃ良かっただろ。それまでの駆逐艦との戦いは、無駄な犠牲を出しただけじゃねえか。
そんでドゥーロフがミサイルを発射すると、駆逐艦が迎撃して基地も破壊してくれる。それによって米露の戦争は回避されるという、見事に都合のいい展開だ。
だけど、グラスたちがドゥーロフを倒すわけじゃないので、カタルシスは全く無いのであった。

(観賞日:2021年8月16日)

 

*ポンコツ映画愛護協会