『ハンテッド』:2003、アメリカ

1999年3月12日、コソボ。米軍の特殊部隊に所属する兵士アーロン・ハラムは、セルビア軍に対する攻撃作戦に参加した。激しい銃撃の 中で民間人が逃げ惑うのを目にしながら、彼は敵の本拠地に潜入した。ハラムは指揮官を襲撃して始末し、作戦を成功に導いた。その成果 を称えられ、彼は銀星賞を授与された。だが、ハラムは悪夢に悩まされるようになった。
2003年、オレゴン州シルヴァー・フォールズ。鹿狩りで森に入ったハンター2名は、ハラムに命を狙われた。ハラムは高性能ライフルを 持った男達に対し、ハンターではなく暗殺者だと言い放った。狙いは鹿じゃなく自分だと解釈したハラムは、しかし所持しているナイフで 殺害できると自信を見せた。そして彼は口だけでなく、実際に銃を持つハンター2名をナイフ1本で殺害した。
カナダのブリティッシュ・コロムビア州。野生動物保護官をしているL.T.ボーナムの元を、旧友であるFBI捜査官テッドが訪れた。 テッドは本部長ハリーの指示で訪れたことを説明し、見てもらいたいものがあると言う。L.T.は「この手の仕事はもうやらない」と敬遠 するが、シルヴァー・フォールズで起きた事件の写真を見せられ、結局は引き受けた。
L.T.はヘリでシルヴァー・フォールズの森に赴き、事件を担当するFBI捜査官アビーや部下のボビーたちに会った。L.T.はアビーの 案内で、殺人があった現場へ出向いた。ワシントンでも先週、同じ手口の殺人があったという。L.T.はアビーに、現場で捜査している 連中を撤退させるよう要求した。彼は一人で森の奥へと分け入り、ハラムの住処らしき場所を発見した。そこには、アイリーンという女性 と娘ロレッタが写っている写真が残されていた。
L.T.が写真を見ていると、ハラムが現れた。かつてL.T.は政府に雇われ、特殊部隊の教官としてサバイバル術やナイフ格闘を教えて いた。その頃の教え子の一人がハラムだった。ハラムは父親のような存在であるL.T.に対し、「手紙を送ったのに返事が無い」と怒りを ぶつけた。L.T.は自首するよう勧めるが、ハラムは拒絶した。2人は格闘になるが、L.T.は劣勢に立たされる。絶体絶命の状態に 陥るL.T.だが、アビーたちが駆け付けて麻酔銃をハラムに撃ち込み、彼の身柄を確保した。
オレゴン州ポートランド。FBIに連行されたハラムは取り調べを受けるが、殺人の動機については明確な返答をせず、「食物連鎖で人間 より上の存在がいたらどうする?」などと不適な表情を浮かべる。ハリーの元に軍の関係者ヒューイットたちが現れ、ハラムの身柄引き渡し を求めた。ハラムは非公式には消息不明で、現在も記録上は軍に籍がある。ヒューイットはハリーに、「ハラムは非公式な任務による ストレスで殺人マシーンになった」「彼を法で裁くことは許されない。彼は存在しない人間だ」と告げた。
ハラムの身柄は軍に引き渡され、護送車で連行された。軍は不祥事を隠滅するため、護送中に薬物でハラムを始末しようと企んでいた。 しかしハラムは護送車の3人を始末し、その場から逃走した。彼は元恋人アイリーンの家を訪れ、彼女の娘ロレッタとも再会する。L.T. はアビーと共にアイリーンの家に赴き、そこでハラムを発見した。しかしハラムは家を飛び出して、市街へ入って下水道に逃げ込んだ。 L.T.とFBIが追跡するが、ハラムは捜査官2名を殺害して川に飛び込み、行方をくらました…。

監督はウィリアム・フリードキン、脚本はデヴィッド・グリフィス&ピーター・グリフィス&アート・モンテラステリ、製作はジェームズ ・ジャックス&リカルド・メストレス、共同製作はアート・モンテラステリ、製作総指揮はショーン・ダニエル&デヴィッド・グリフィス &ピーター・グリフィス&マーカス・ヴィシディー、撮影はキャレブ・デシャネル、編集はオージー・ヘス、美術はウィリアム・クルーズ 、衣装はグロリア・グレシャム、音楽はブライアン・タイラー。
出演はトミー・リー・ジョーンズ、ベニチオ・デル・トロ、コニー・ニールセン、レスリー・ステファンソン、ジョン・フィン、ホセ・ ズニーガ、ロン・カナダ、マーク・ペレグリーノ、ジェナ・ボイド、アーロン・ブローンスタイン、キャリック・オクイン、ロニー・ チャップマン、レックス・リン、エディー・ヴェレツ、アレクサンダー・マッケンジー他。


『ジェイド』『英雄の条件』のウィリアム・フリードキンが監督を務めた作品。
個人的に、ウィリアム・フリードキン監督は1970年代で終わってしまった人だと思っているんだが、この映画はその意識を良い方向に 変えさせる力を持っていない。
トラッカー(追跡者)でありサバイバルの専門家であるトム・ブラウンJr.がテクニカル・アドバイザーとして映画に携わり、ハラムが 使うサバイバル・ナイフのデザインも手掛けている。また、L.T.とハラムがナイフで戦う際に使用するのは、カリというフィリピンの 武術である。
L.T.をトミー・リー・ジョーンズ、ハラムをベニチオ・デル・トロ、アビーをコニー・ニールセン、アイリーンをレスリー・ ステファンソン、テッドをジョン・フィン、ボビーをホセ・ズニーガ、ハリーをロン・カナダ、ヒューイットをマーク・ペレグリーノ、 ロレッタをジェナ・ボイドが演じている。
ナレーションをカントリー歌手のジョニー・キャッシュが担当しており、一応は本作品が遺作ということになる。

勲章を貰ったハラムが悪夢にうなされた後、場面が変わって野生動物保護官L.T.が罠を仕掛けた男に怒る場面が描かれる。
その後、ハラムがハンター2名を殺す場面があり、そしてL.T.がテッドの訪問を受ける場面へと続く。
この構成の中で、L.T.が罠に怒る場面は必要だろうか。
ただ罠に怒るという行動のためだけに、そんな場面を挟むことの必要性が分からない。
ハラムがハンターを殺す場面の後、L.T.を初登場させてキャラ紹介し、そこにテッドが訪れる形でいいんじゃないのか。

L.T.が森に到着した時、最初からアビーを始めとするFBI捜査官は協力的だ。
相手は野生動物保護官であり、捜査の専門家ではないのに、指示に従って全てを受け入れる。
そりゃ本部長が依頼した相手だから従うのは当然かもしれんが、それってどうなのよ。
誰か1人でもいいから、「ボスの指示だから仕方が無いけど、門外漢が出しゃばりやがって」的な反発を示す奴がいてもいいん じゃないの。で、そいつも捜査をするけど上手く行かず、L.T.が手掛かりを見つけて犯人に辿り着くという形にすれば、主人公の 優秀さをアピールすることにも繋がるし。

L.T.は一人で森を捜索するんだが、具体的に何をしているのか良く分からない。
トラッキングにおける作業が地味なのは、それで構わないと思う(L.T.の職業が現在も過去も「トラッカー」として提示されないのは 理解に苦しむが)。そこにケレン味や派手さを要求すると、せっかくの「渋い男どもの戦い」という味わいを壊してしまう可能性がある。
ただし、何をしているのか、どういう意味のある行為なのかを観客に分かりやすく見せるための配慮は必要だろう。
そこは例えばアビーがL.T.に同行し、いちいち色んなことに疑問を抱いたり質問したりするような形にでもしておけば、彼女に行動の 意味を説明するという形で、観客に対する説明にもなる。そうすることで、いかにL.T.が専門的知識を持っているか、いかに優れた トラッカーであるかというアピールも強まる。
一通りの捜索を終えてからアビーたちの元に戻って説明するんだが、それよりも、1つ行動したり発見したりする度に説明した方がいい。
捜査官が無闇に歩き回るようなことをL.T.が許すはずも無いというのなら、アビーを反発キャラにしておけばいい。そうすれば、強引 に同行するという形に出来る。もしくは若手のトラッカーをキャラとして登場させ、そいつに技術を教えるということで連れて行く形に してもいいだろう。
いずれにせよ、L.T.が森を捜索する際には、同行者がいた方が何かと便利だ。

森でハラムを発見したL.T.は劣勢に立たされるが、そこにアビーたちが駆け付け、麻酔銃でハラムを眠らせて身柄を確保する。
この段階で、「それなりに人員を使い、それなりの装備を整えれば、ハラムを捕まえることが出来る」ということを立証してしまう。
そうなると、終盤にL.T.が「大勢で奴を追っても犠牲者が増えるだけだ。俺が一人で追う」と主張しても、説得力が無いのだ。
大勢でも重装備でも捕まえられないからこそ、そのセリフには重みが生じるのに、もう序盤で台無しにしているのよね。

L.T.とハラムの対決を際立たせるのは当然のことだから、それでいい。だが、それにしても脇役をないがしろにしすぎている。もう 少しストーリー展開に関与させたり、メイン2人の対決に影響を与えたり、何かしらの形で活用してあげようよ。
ヒロイン的立場であるアビーは、ただ捜査の現場責任者というだけで、それ以上の必要性は皆無に等しい。アイリーンにしても、ただ出て きただけに近い。彼女との関係においてハラムが心の揺らぎを見せるとか、それをL.T.やFBIが利用しようと考えるとか、そういう 使い方をしても良さそうなものだが。
ロレッタなんて、もっと無意味だよな。
っていうか、そもそもハラムが恋人や彼女の娘に会いに行くところで、彼の甘さ・人間的な弱さを見せてしまうのは、どうなんだろうね。
もっと隙の無い殺人マシーンとして描いた方が良かったんじゃないかと思うんだが。
そういう意味では、彼が孤高の殺人犯になった動機の説明(非公式の任務で殺人マシーンになったとヒューイットがセリフで説明する)も 、どうなのかなあと。説明するなら、もっと詳しくやった方がいい。中途半端にするぐらいなら、フラッシュバック程度に留めて、「心の 奥底が見えないモンスター」的なキャラクターにしてしまった方がいい。

ハラムが市街地を逃亡する際にカーアクションが入ったりするのは見栄えを意識したのかもしれないが、そんなの要らなかったなあ。
大体、L.T.ってサバイバルと格闘術のプロだから、都会のド真ん中だと活躍の場として適さないんじゃないの。
実際、市街地のトンネルにおける追跡では、L.T.は何の技能も発揮できないままハラムに逃げられているし。
「L.T.が手掛かりを発見し、ハラムが罠を仕掛け、それをL.T.が見破り」みたいな、高度な技能を持った者同士による知能戦 みたいなものが繰り広げられるのかと思ったりもしたのだが、そういう方向性は見られない。アクション重視ってことのようだ。
で、CGやワイヤーワークなどに頼らず、ゴリゴリとした生身のアクションにこだわる姿勢は評価したい。
ただし残念なことに、トミー・リー・ジョーンズにしろベニチオ・デル・トロにしろ、動きがモッサリしてるんだよなあ。

(観賞日:2008年6月5日)

 

*ポンコツ映画愛護協会