『ホット・シート』:2022、アメリカ

オーランド・フライアはニール公園の方から響く爆発音を耳にした後、家に戻った。彼は妻のキムに、「仕事で呼び出された。エンゾには任せられない」と告げる。キムは娘のゾーイが誕生日だと言うが、オーランドは「家族を養うためだ」と語る。するとキムは「クリスマスは実家で過ごす」と言い、離婚申請書を差し出した。「まだ許してくれないのか」とオーランドが問い掛けると、彼女は「やれることはやった。もう限界なの」と答えた。キムは「昼の12時にゾーイが電話する」と言い、その場を離れた。
爆発物処理班のウォレス・リードは、異動から4ヶ月になった相棒のジャクソンとチェスに興じていた。そこへニール公園で爆発が起きたという知らせが届き、2人は出動した。オーランドはハドソンタワーに到着し、コンピュータ会社のカスタマーセンターに入った。彼が情報通信お助け隊としての仕事を始めると、高齢の女性から「ウチのインターネットが亡くなった」という相談の電話が入った。同僚のエンゾが遅刻して出勤する中、オーランドは対応策を指示した。しかし女性がパソコンに不慣れだったため、オーランドはハッキングして問題を解決した。
テレビのニュースでニール公園の爆発事件が報じられ、犠牲者の写真が出るとオーランドぱ「見たことがある」と口にした。いつもと違う配達員がオフィスに来て、エンゾはパストラミサンドを受け取った。ウォレスは爆発した車を確認し、使用された爆弾がセムテックスだと知った。彼はジャクソンに、「遠隔操作が可能だったはずだ。プロの仕業だ。これで終わりじゃない」と述べた。オーランドは自宅からのテレビ電話でゾーイと話し、エンゾを紹介した。
エンゾが「休憩して来る」と言うと、オーランドは「ブロンドの女の所か」と尋ねる。エンゾは「それは7階のエヴァだ。彼女は独占欲が強すぎる」と語り、エレベーターでオフィスを出て行った。その直後、オーランドのパソコンには「悪い知らせだ」と匿名のメールが届き、社内スピーカーから「お前は逃げ出せない。引き出しの鏡を椅子の下に持って行け」という声が聞こえて来た。オーランドが指示に従うと、椅子の下にはセムテックスが取り付けられていた。
犯人は爆弾が感圧式であること、近くの敷物は電気の柵であることを説明した。「ハッカーの時代に軽い罪しか受けなかったようだな」と言われたオーランドは、「ずっと前に足を洗った」と返した。犯人が「2階上には銀行役員や金融関連の詐欺師がいる。そいつらから金を奪え」と要求すると、オーランドは「家族に会えなくなる」と拒否する。犯人は離婚申請書をパソコンに表示し、「結婚生活を修復したくないか」と告げた。
オーランドは犯人に「任務に失敗すれば、お前は死ぬ。友人や警察に連絡しても死ぬ。お前が死ねば、お前の妻と娘も死ぬ運命になる」と脅し、仕方なく承諾した。彼は「安全システムに侵入すれば、90秒しか時間が無い」と話し、ハッキングを開始する。すぐに警備責任者が探知し、対応に動き出した。エヴァがエンゾに会いに来たので、オーランドは爆弾があることを伝えた。犯人はエヴァに、静かにするよう命じた。オーランドはロッカーにあるUSBメモリをエヴァに持って来てもらい、それを使ってファイアウォールを無効にした。
犯人はオーランドに、奪った200万ドルを口座に送金するよう指示した。そこにエンゾが来たので、オーランドは爆弾の存在を知らせた。エンゾは「警察に連絡する」と言い、オーランドの制止を聞かずにエレベーターへ乗り込んだ。直後にエレベーターで爆発が発生し、天井から落ちた瓦礫を頭に受けたエヴァは意識を失った。
ウォレスは車の爆弾を調べ、ベトナム戦争で米軍が使用していたのと同じ物だと突き止めた。ハドソンタワーで爆発が発生したという連絡を受け、ウォレスとジャクソンは出動した。犯人はオーランドに、「直接は殺していないが、お前は大勢の命を奪ってる」と告げた。彼は公園で爆弾をテストしたことを明かし、死んだのがヴィクターだと告げる。犯人は「お前らは2人とも有名なハッカーだった。どちらも罪は軽かったな」と語り、「これは復讐か」というオーランドの質問に「言ってみれば任務だな」と答えた。
犯人は200万ドルをオーランドの口座に送金し、「お前が稼いだ。だが、私はそれ以上が必要だ」と述べた。犯人はテンプラー証券のサイトをパソコンに表示させ、「この所有者を支配したい。奴らに恐怖を与えたい」と説明した。犯人は金庫に保管してある情報を盗めと要求し、「セキュリティー装置に侵入し、私に拡散しろ。1時間でロックされるぞ」と告げた。オーランドが妻に危機を伝えるメールを送ろうとすると、その動きを知った犯人は「送信すればゾーイを殺す」と脅した。
エヴァが目を覚ますと、オーランドは作業に集中しながら「落ち着け」と声を掛けた。エレベーターシャフトで火災が発生したため、彼は犯人に「消火器を取りたい。スプリンクラーが作動すれば終わりだ」と訴える。しかし犯人が認めなかったので、オーランドはエヴァに消火を頼む。消火を終えたエヴァは、犯人を罵って怒りをぶつけた。犯人はオーランドに棚の手錠を取るよう指示し、エヴァに「棚と自分を手錠で繋げ」と命じた。
オーランドはエヴァに手錠を渡す時、キムに電話を掛けてスマホを託した。キムはスマホをバイブ機能にして離れた場所にいたため、電話が掛かった来たことに気付かなかった。エヴァは手錠を掛けた後、スマホを棚の下に隠した。犯人は「お前は有名人だ」とオーランドに告げ、テレビのニュースでハドソンタワーのテロ犯として報じられていることを教えた。自宅にいたキムとゾーイも、オーランドが爆破とハッキングの犯人として報じられるニュースを見た。
特殊部隊のトビアスたちが攻撃の準備を整える中、ウォレスは「まず状況を把握すべきだ」と意見を述べた。トビアスが「奴が怒る前に攻撃して殺す」と言うと、警察署長のパム・コネリーがやって来た。パムは「攻撃の前に容疑者の交流関係と要求を把握したい」と語り、ウォレスに1階の安全確認を指示した。彼女はトビアスに、ビルの管理者と連絡を取るよう告げた。ウォレスはジャクソンに、オーランドは犯人じゃないと断言した。
キムからスマホに電話が掛かって来ると、エヴァはオーランドに「娘の誕生日を来年も祝いたいなら、この地獄から出して」と話し掛けた。犯人はオーランドに家族が呼ばれたこと、3人の狙撃手が狙っていることを教えた。犯人は用意した告白文を読むようオーランドに命じ、テレビ局に電話を掛けた。パムに呼ばれたキムは、オーランドに前科があって起訴寸前だったことを指摘された。キムはオーランドが馬鹿げた間違いを犯したことは認めたが、「娘を失う危険は冒さない」と今回の犯行を否定した。
テレビでニュース速報が入り、オーランドが「公園とビルに爆弾を仕掛けた。このヒルと市中に爆弾を設置した。妨害しようとすれば大勢の犠牲が出る。ずっと嘘をついて来た。史上最悪と言われる金融詐欺にも関与して。死ぬ覚悟は出来てる。私が死ねば全ての爆弾が起動し、血まみれのクリスマスになる」と語る映像が映し出された。2年前、オーランドは新規事業に参加し、電話やサーバーに侵入して金持ちや政治家の口座や年金をハッキングした。破綻したシステムから証券を買い付けた人も損害を受け、多くの年金が失われた。会社の悪事を知ったオーランドは、家族のために通報した。そんな事実を、オーランドはエヴァに打ち明けた。
キムはウォレスやパムたちに、スマホに録音されていたオーランドのメッセージを聞かせた。そこには犯人の声も記録されていたが、それでオーランドの無実が証明されたわけではなかった。ジャクソンはビル管理者のハリスが行方不明だと報告し、爆抱犯かもしれないと言う。パムは悩んだ末に、オーランドの狙撃を待たせた。オーランドは犯人の命令でロックを1つずつ解除していたが、最後の5つ目に取り掛かろうとすると送電が停止された。
オーランドは犯人から対処を要求され、大量のデータを送ってサーバーに負荷を掛けることにした。彼は「こちらも負荷が掛かる」と犯人に言い、盾が必要だと主張した。ハドソンタワーに侵入したウォレスとジャクソンは、椅子の下の爆弾と人質の存在を確認した。特殊部隊はサーバー室に熱を感知し、トビアスは犯人が潜んでいる可能性があるとパムに告げる。ジャクソンはパムの指示を受け、特殊部隊と合流してサーバー室に向かった…。

監督はジェームズ・カレン・ブレザック、脚本はコリン・ワッツ&レオン・ラングフォード、製作はランドール・エメット&ジョージ・ファーラ&シーザー・リッチボウ&ショーン・サングハーニ&チャド・A・ヴェルディー、製作総指揮はマーク・スチュワート&ニール・メータ&チャド・A・ヴェルディーJr.&ポール・ルバ&ヴァンス・オーウェン&バリー・ブルッカー&スタン・ワートリーブ&アリアンヌ・フレイザー&デルフィーヌ・ペリエ&ヘンリー・ウィンタースターン&マシュー・ヘルダーマン&ルーク・テイラー&タイラー・グールド&アラステア・バーリンガム&ゲイリー・ラスキン&ポール・ワインバーグ&チャーリー・ドンベク&エリザベス・プリム&テッド・フォックス&リー・ブローダ&デヴィッド・J・フィリップス&アリ・ジャザイェリ&デヴィッド・ジェンドロン&ショーン・パトリック・オライリー&ミシェル・オライリー&フィル・ハント&コンプトン・ロス、共同製作はライアン・ブラック&アニータ・レヴィアン、撮影はブライアン・コス、美術はトラヴィス・ザリウニー、編集はR・J・クーパー、衣装はジョイス・タトラー&キム・トルヒーリョ、音楽はティモシー・スチュアート・ジョーンズ、音楽監修はマイク・バーンズ。
出演はケヴィン・ディロン、メル・ギブソン、シャナン・ドハーティー、マイケル・ウェルチ、サム・アスガリ、エディー・スティープルズ、リディア・ハル、アンナ・ハー、ケイト・カッツマン、ジョナサン・ストッダード、キース・ジャーディン、ディラン・フラッシュナー、ドリュー・テイラー、ゾラヤ・ヴェラ・エストラーダ、シャンタル・ボニート。


『サバイバル・シティ』『ドント・サレンダー 進撃の要塞』のジェームズ・カレン・ブレザックが監督を務めた作品。
脚本は初長編のコリン・ワッツと2本目の長編となるレオン・ラングフォードの共同。
オーランドをケヴィン・ディロン、ウォレスをメル・ギブソン、パムをシャナン・ドハーティー、エンゾをマイケル・ウェルチ、ビアスをサム・アスガリ、ジャクソンをエディー・スティープルズ、キムをリディア・ハル、ゾーイをアンナ・ハー、エヴァをケイト・カッツマンが演じている。

ランドール・エメット&ジョージ・ファーラのプロダクションである「EFO」は、2020年からブルース・ウィリスを起用した映画を何本も送り出してきた。
ブルース・ウィリスは主演ではなく、主役の仲間や相棒のようなポジションを担当した。
それと似たような形でメル・ギブソンを起用したのが、この映画だ。
もうブルース・ウィリスは引退したので、今後は他の「かつてトップスターだったベテラン俳優」を同じように客寄せパンダとして使っていくものと思われる。

冒頭、デジタル表示の数字が減って行く映像とニール公園の様子が交互に映し出される。そして数字が0になった次のカットでは、男が車の爆発に巻き込まれる様子が描かれる。
その描写からすると、数字は「時限式子爆破装置のタイマー」とと解釈するのが自然だろう。でも、車から降りて来た配達員がスイッチを押したタイミングで、爆発が起きているんだよね。しかも、後でウォレスが遠隔操作だと説明している。
つまり、その爆弾は時限式じゃなくて、犯人が遠隔操作で爆破させたのだ。だったら、数字の描写は何なのかと。
あと、爆弾が遠隔操作なのは、オフィスの椅子に仕掛けられている物も同様だよね。だったら感圧式にしたり、敷物を使って電気の柵を設けたりする意味は無いんじゃないの。

オーランドは爆発事件を報じるニュース番組でヴィクターの写真が出ると、エンゾに「見たことがある」と言う。だけど、そんなことを、わざわざ言う必要があるのか。
だってさ、そいつは過去にオーランドが関わった詐欺事件で、一緒にハッカーとして動いていた男なのよ。それって彼にとって、あまり公にしたくない過去に関連する情報でしょ。
むしろ、「オーランドは知っている様子たけど、それを隠す」という描写の方が良くないか。

犯人が離婚申請書の存在に触れて、「結婚生活を修復したくないか」と言う意味が不明。それは何の脅し文句にもならないし、オーランドを従わせる殺し文句にもならないだろ。オーランドが犯人の要求に応じても、それで家族の関係が修復されることなんて無いだろ。
あと、犯人が「お前が死んだら家族も死ぬ」と言うのも意味不明。
そもそもオーランドに「動いたら死ぬ」と言うだけで、脅し文句としては成立している。オーランドが「脅しに屈することを拒否し、爆死を選ぶ」なんてことは、どう考えても有り得ないでしょ。
なので、「お前が死を選んだら、その時は家族が死ぬ」という形の脅しには何の意味も無い。
その後で「両親も殺す」という脅し文句も口にするけど、これも同様だ。

犯人はオーランドに全ての罪を着せようとするだけでなく、過去の詐欺事件への関与もメディアで告白させる。さらに、テンプラー証券の情報も盗ませようとする。
もうさ、目的が多すぎて散らかっちゃってんのよ。
オーランドへの復讐が一番の目的なのか、テンプラー証券に復讐するためにオーランドを利用するのが優先事項なのか、大金を奪いたいってのが大きいのか。
それによって、わざと爆発を起こして警察が来るように仕向ける必要性が大きく変わって来る。

テンプラー証券の情報を入手するのが最優先事項であるならば、爆発を起こして警察をハドソンタワーに呼び寄せるのは愚の骨頂だ。わざと爆発事故を起こして警察を呼び寄せるのは、「オーランドに爆破テロやハッキングの罪を着せ、偽証させた上で始末する」ってのが唯一の目的じゃないと、整合性が全く取れない行動だ。
ただ、仮に「オーランドに罪を着せて云々」ってのが唯一の目的だとしても、やっぱり色々と腑に落ちない行動はあるんだけどね。
だってさ、犯人って自分でオーランドのパソコンをハッキングしてるんでしょ。
凄腕ハッカーだった人間のパソコンをハッキングする能力があるなら、テンプラー証券のパソコンもハッキングして、その罪をオーランドに着せればいいんじゃないかと。
まだ警察しか知らないはずの「3人の狙撃手が狙っている」という情報も知っているぐらいなんだし。

オーランドに罪を着せたいのなら、「オーランドがテレビ局に電話を掛け、自ら過去の詐欺事件への関与を告白した」と見せ掛けるのは悪手でしょ。
オーランドが犯人だとしたら、その行動は全く整合性が取れないでしょ。
いや、そもそも爆弾を仕掛けて、爆発騒ぎで警察やマスコミの注目を集めて、その上で「妨害するな」と要求してサーバーをハッキングするとか、支離滅裂じゃねえか。
オーランドに全ての罪を被せた上で始末したいはずなのに、それを成立させるための嘘を犯人が用意できていないのよ。

オーランドは大規模な特殊詐欺事件に関与しているのだが、一応は「分析のためと思って電話やサーバーに侵入した」「自分は世間知らずだった」と言い訳している。
だけど口座や年金をハッキングしておいて「善人だけど上司に騙されただけ」と主張するのは、無理があるぞ。
反省や後悔の念は見せているけど、「そりゃあ父親を自殺に追い込まれた犯人が恨みを抱くのも当たり前だ」と感じる。犯人は卑劣で残忍だけど、復讐心を抱くのは理解できるのよ。
ホントなら、そこは「犯人の恨みは御門違い」「歪んだ憎しみ」みたいな形じゃないとマズいんじゃないかと。

終盤に入るとウォレスがカスタマーセンターに突入し、オーランドが犯人じゃないことは明白になる。それは犯人も分かったはずだけど、そこから計画を変更することは何も無い。
そりゃあ今さら変更もクソも無いのかもしれないけど、オーランドに罪を着せる目論見は失敗に終わったのに、そこは気にしていないのね。
簡単に割り切れるぐらいなら、そんな目的は最初から、排除しておけば良かったんじゃないか。犯人は最初から目的が達成されたらオーランドを始末するつもりなんだけど、だったらそれで良くないか。
複数の目的を同時に達成しようとして、それを上手く組み合わせて物語を構築できていないのよ。

そろそろ完全ネタバレを書くと、犯人はエンゾだ。彼はエレベーターの爆発で死んでおらず、それは偽装工作だ。エンゾの父は過去の特殊詐欺事件で年金を失った父親が自殺に追い込まれ、復讐心を抱いたのだ。
だけど、彼がエレベーターで爆死したように偽装する意味が全く無いんだよね。
そんなことをして容疑者候補から外れなくても、オーランドに罪を着せることも含めて計画に含まれているんだし。しかも、どうせ後で生きていることはバレるんだし。
おまけに、そんな偽装工作のせいでエレベーターシャフトで火災が発生したせいで、計画が破綻しそうになっているし。
アホすぎるだろうに。

オーランドは計画を阻止して爆死も回避した後、犯人の正体に気付く。このシーンでは、今までの台詞や場面が矢継ぎ早に挿入され、その手掛かりから犯人はエンゾだと気付く形になっている。
ほぼ『ユージュアル・サスペクツ』と同じ手法である。
だけど『ユージュアル・サスペクツ』の上っ面を雑になぞっただけの、安っぽい模造品と化している。
だから当然のことながら、『ユージュアル・サスペクツ』のような衝撃は皆無だ。犯人が明らかになっても、予定調和のド真ん中としか感じない。

(観賞日:2024年2月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会