『ファイナル・プラン』:2020、アメリカ

トム・ドーランは8年で12件以上の銀行に忍び込み、金庫の扉を爆破して900万ドルの大金を盗み出した。彼は迅速に犯行を済ませるため、マスコミから「速攻強盗」と呼ばれるようになった。ドーランは金を保管するため、「オーロラ貸金庫」を訪ねて貸金庫を借りることにした。彼はオーロラ貸金庫の事務所で働きながら大学院に通うアニー・ウィルキンスと出会い、恋に落ちた。1年後、トムは交際しているアニーを売り家に連れて行き、一緒に暮さないかと持ち掛けた。離婚歴のあるアニーは躊躇するが、ドーランが押し切った。「1つ言っておくことがある」とドーランが口にすると、彼女は「それは今度にして。もう充分に驚かされた」と告げた。
ドーランはFBIに電話を掛け、自分が速攻強盗なので自首したいと告げる。応対した捜査官のトム・メイヤーズとサム・ベイカーに、彼は「金は返すし、報いは受ける」と告げて減刑や無制限の面会を要求した。しかし今まで速攻強盗を名乗る人間が15人も名乗り出ていたため、メイヤーズとベイカーはドーランの証言を信じなかった。それでもベイカーはドーランから宿泊しているホテルの名前と部屋番号を聞き、部下のジョン・ニベンスとレイモン・ホールを行かせることにした。
ニベンスとホールはドーランを訪ね、犯人しか知らない情報を教えるよう要求した。ドーランは犯行の手口を詳しく説明するが、それだけでは2人から犯人として信じてもらえなかった。「証拠が必要だ」と言われたドーランは、金を預けたトランクルームの場所を教えた。彼が同行しようとすると、ニベンスとホールは「我々だけで行く」と告げた。トランクルームを調べた2人は、大金を発見した。ニベンスが横領しようと言い出すと、ホールは「正気か?」と驚いた。
これまでに2人は何度も金を着服しており、ニベンスは「初めてじゃないだろ」と言う。ホールは「これは一線を越えてる」と反対するが、ニベンスの説得で賛成に回った。アニーが来て挨拶すると、2人は偽名を使ってドーランの友達だと説明した。2人はアニーの言葉で、ドーランが海兵隊にいたこと、ニュートンに新居を構えることを知った。彼らはホテルへ戻り、ドーランを始末しようとする。ドーランはトランクルームの金が300万ドルしか無いと告げ、「全額欲しくないか」と持ち掛けた。
ベイカーが部屋に来たので、ニベンスは射殺する。ドーランはホールから銃を奪い、ニベンスに襲い掛かって一緒に窓から転落した。彼は訪ねてきたアニーに気付き、早く逃げろと叫んだ。アニーが固まっていると、ドーランは彼女を車に乗せて逃走した。彼はニベンスたちが追って来ることを確信し、車を捨てた。ドーランとアニーは駐車場で身を隠し、ニベンスとホールの追跡を逃れた。車を盗んだドーランはアニーから説明を求められ、速攻強盗だったことを告白した。
アニーが「自首すべきよ」と言うと、ドーランは「そのつもりだった。君にも話そうとしたが、勇気が出なかった」と弁明する。アニーに「家を買うサプライズの次は、強盗だったという告白?」と呆れたように告げると、彼は「君となら一生添い遂げられると思った。だから償おうと思った」と話す。「私が許すと思った?」というアニーの言葉に、ドーランは「全て話せば分かってくれるかと」と述べた。彼は質問を受け、1人も殺していないこと、家を購入する資金は軍隊時代に貯めたことを語った。
強盗の理由を問われたドーランは、過去を詳しく語る。彼が戦地にいる間に、母は肺炎で死亡した。帰国すると、父は別人のようだった。父は35年間、配管工場で溶接工として働いていたが、母に先立たれて会社に行く意味を失った。仕事に身が入らなくなり、クビにされた。しかも、会社のCEOは社員の年金を横領していた。収入を失った父は、裁判で争う気力も残っていなかった。父は車を走らせ、ブレーキも掛けず木に激突して死んだ。1ヶ月後、ドーランはCEOの口座がある銀行から大金を盗んだ。
その後もドーランは、強盗を繰り返した。その理由について、彼はアニーに「爽快だったんだ。危険と隣り合わせの状況が、生きている実感を与えてくれた」と語った。ニベンスとホールは、電話を掛けて来た男がベイカーを殺害したと報告した。ドーランは彼らが自分に罪を被せると確信しており、アニーに警察署へ行って人質にされたと嘘をつくよう指示した。「嘘はつけない」とアニーが拒否すると、彼は「だったら遠くへ逃げろ」とバスに乗せた。
翌日、ドーランはアニーから電話を受け、オーロラ貸金庫の事務所にいることを知らされる。アニーが「2人が箱を持ち出す映像がある。防犯カメラの映像は48時間で上書きされる」と言うと、ドーランは「今すぐ電話を切って、そこを出ろ」と指示する。ニベンスは事務所に現れ、防犯カメラのメモリーカードを渡すようアニーに要求した。アニーは殴り掛かるニベンスに抵抗し、ハサミを太腿に突き刺して怪我を負わせた。ニベンスはアニーを殴り倒し、拳銃を構えて止めを刺そうとする。外で待っていたホールが駆け付けて制止し、アニーの脈を確認して「もう死んでる」と告げた。
事務所の電話が鳴るとニベンスはコードを引き抜き、メモリーカードの発見を断念してホールと共に去った。事務所に駆け付けたドーランは倒れているアニーを発見し、病院に運び込む。複数の警察官が病院に来ていたため、彼はアニーを看護師に任せて立ち去った。彼はFBIに電話を入れ、ニベンスに繋ぐよう要求した。マイヤーズはニベンスに連絡し、電話が入っていることを伝えた。ドーランが「自首を申し出て金を渡したのに、なぜ無関係の彼女を襲った?」と激怒すると、ニベンスぱ「何のことだ?」とシラを切った。ドーランは「ニベンス、覚悟しろ」と宣戦布告し、電話を切った。
ドーランはバンを停めている時、パトカーの警察官に気付かれた。逃亡してパトカーを撒いた彼は、ニベンスとホールの車を発見した。彼はバンを車に衝突させるが、激しい発砲を受けると逃亡した。マイヤーズに見つかったドーランは逃げ出し、待ち伏せて制圧した。ホールから奪っていた拳銃を構えた彼は、「ベイカーを撃ったのはニベンスだ。恋人が貸金庫の事務所で襲われて生死の境にいる」と説明した。マイヤーズが「正義を求めるなら一緒に来い。必ず真実を突き止める」と言うと、彼は「俺のやり方でケリを付ける」とホールの拳銃を渡して走り去った。
ニベンスはホールに、アニーを始末するよう指示する。ホールが「もう巻き込まないでくれ」と拒否すると、彼は自ら病院に向かう。だが、病室にマイヤーズがいたため、ニベンス気付かれないように去った。翌日、ニベンスはマイヤーズから「ドーランから金を奪って女を襲ったのか」と質問され、「作り話ですよ」と告げた。マイヤーズはホールを呼び、拳銃を渡した。ドーランはホールを自宅のガレージで襲撃し、「君は失う物が大きい。協力してもらう」と脅す。ホールが「ベイカーを殺すとは思わなかった。その時にはニベンスに従うしかなかった」と釈明すると、彼は「過ちを正す機会だ。俺の疑いを晴らせ」と語ると、「倉庫のカメラ映像がある。ニベンスは知らない」と彼は話す。彼はドーランに、「恋人を病院から連れ出せ。ニベンスは殺す気だ」と警告した…。

監督はマーク・ウィリアムズ、原案&脚本はスティーヴ・オルリッチ&マーク・ウィリアムズ、製作はマーク・ウィリアムズ&マイルズ・ネステル&タイ・ダンカン&クレイグ・チャップマン&ジョナ・ループ、製作総指揮はリサ・ウィルソン&アンドレア・アジェミアン&チャールズ・ドーフマン&デヴィッド・ギルベリー&サイモン・ウィリアムズ&クリステル・コナン&ジェームズ・マシエロ&ウィル・ヤング&マーティン・スプロック&ジョナサン・ブロス&ジョー・シンプソン&ジョン・ジェンクス&ジェイ・テイラー、撮影はシェリー・ジョンソン、美術はトム・リソウスキー、編集はマイケル・ショーヴァー、衣装はデボラ・ニューホール、音楽はマーク・アイシャム。
出演はリーアム・ニーソン、ケイト・ウォルシュ、ジェイ・コートニー、ジェフリー・ドノヴァン、ロバート・パトリック、アンソニー・ラモス、タジー、ジャスミン・セファス・ジョーンズ、デヴォン・ディープ、ハーリン・ナヴァロ、ジェームズ・ミロード、ルイス・D・ウィーラー、ホセ・ゴンザルヴェス、マイケル・マルヴェスティー、パティー・オニール他。


『ファミリー・マン ある父の決断』のマーク・ウィリアムズが監督を務めた作品。
脚本はマーク・ウィリアムズと、これが長編4作目となるスティーヴ・オルリッチによる共同。
カーターをリーアム・ニーソン、アニーをケイト・ウォルシュ、ニベンスをジェイ・コートニー、マイヤーズをジェフリー・ドノヴァン、ベイカーをロバート・パトリック、ホールをアンソニー・ラモスが演じている。

ドーランがアニーに「一緒に暮らさないか」と持ち掛けるのは、実質的にプロポーズだ。
そんな行動を取ってOKを貰った後で彼は「1つ言っておくことがある」と口にするけど、それは「自分は速攻強盗」と告白するつもりだったってことだよね。
だけど、そんな事実を告白して、それでも結婚してもらえるとでも思ったのか。アニーと結婚したいのなら、それはずっと隠すべき事実じゃないのか。
っていうか、打ち明けたいのなら、どう考えてもプロポーズと順番が逆だろ。

ドーランはアニーとの結婚を決意すると、FBIに連絡して速攻強盗だと白状する。「惚れた女が出来たから自首したい」ってのは、主人公として大きく間違っているわけではないが、ものすごくヌルいと感じる。
しかも彼のヌルさは、それだけに留まらない。FBIに対し、様々な条件を要求するのだ。
多くの銀行から大金を盗んでおいて、「ボストン近郊の軽警備の刑務所で、刑期は2年未満で頼む。無制限の面会も」と要求するのは、どんだけ身勝手なのかと言いたくなる。
そんな甘すぎる取引を、FBIが承知するとは到底思えないぞ。

ドーランは強盗を繰り返した理由についてアニーに問われた時、粗筋に書いた通りの説明をする。
でも、彼の父がクビになったのは、仕事に身が入らなくなったからだ。もちろん「妻を亡くした」という同情すべき事情はあるが、ちゃんと仕事をしてくれない社員を会社がクビにするのは当然のことだろう。
また、父が命を落としたのは自殺の可能性が高いが、これも会社を解雇されたのが理由じゃなくて、妻を亡くしたことが原因だろう。なので、これまた会社に恨みを抱くのは御門違いだ。
CEOが年金を横領していた問題についても、父の解雇と自殺と因果関係は何も無い。だからドーランがCEOの口座がある銀行から金を奪うのは、「復讐」としては全く成立していない。

しかも、ドーランはCEOの口座がある銀行から金を奪うだけで終わらせず、その後も強盗を繰り返している。
そうなると、そもそも復讐という理由ではなかったことになる。実際、彼は「爽快だったんだ」と言っているしね。
彼は「危険と隣り合わせの状況が、生きている実感を与えてくれた」と語るが、何の言い訳にもなっていない。
「戦地で地雷処理の作業をしていたので、危険と隣り合わせの状況じゃないと生きている実感が得られなくなった」みたいなことなんだろうけど、情状酌量の余地など全く無い。ただの身勝手な主張だ。

で、そんなことをベラベラと喋って自身を正当化した後、ドーランは「君が同じ感覚を与えてくれたから、強盗をやめられた。俺に必要だったのは、スリルじゃなくて愛を感じることだった」と言う。
するとアニーは、あっさりと彼を受け入れてしまうのだ。
いや、そんなに簡単に許しちゃっていいのかよ。それは甘すぎる対応じゃないかと。
アニーは「1人も殺していないと証明して」と言ったり、防犯カメラの映像を入手するために危険を冒したりするけど、「人を殺していなければ許される」という問題でもないでしょ。

ドーランは何の手掛かりも残さずに8年で12件以上の強盗を重ねた凄腕の犯罪者なのに、ストーリー展開的に都合のいい場面で抜けたトコを露呈する。
自分がマークされる存在になっているのは分かり切っているのに、そのままバンを使い続けて停車し、警察官に気付かれる。
病院を去る時にマークされたのは簡単に分かることなんだから、すぐに車は捨てるべきでしょ。
カーチェイスを描きたいがために、そこではドーランから利口さを奪っているのだ。

ドーランはニベンスとホールの車を見つけるとバンを衝突させるが、この行動も「何がしたかったのか」と言いたくなる。
車をぶつけておいて、撃たれたら逃げるって、ただのボンクラにしか見えないよ。
その後の展開を見ても、たぶんニベンスとホールを殺そうとしたわけではないんでしょ。ってことは、威嚇のための行動なのか。
でも、そんな中途半端な行動は、逆にニベンスたちを警戒させたり、さらに過激な行動を取らせたりする恐れが高いから何のメリットも感じないし。
もしも「カッとなって衝動的に襲った」ってことなら、それもまたマヌケなだけだし。

ホールは以前から少額の横領を重ねていたようだから、決して善良な警察官とは言えない。ただし、ベイカーの殺害には賛同していないし、ニベンスほど腐った悪党ではない。
また、彼の横領には「家族のために」という目的があり、妻とのシーンも用意されている。ドーランに制圧されると謝罪し、協力を承諾する。
そんな彼は、ネタバレになるが、ニベンスがドーランから逃げる時に盾にされて射殺される。
なので、ちょっと哀れに思えてしまう。

ホールを充分に同情の余地があるキャラとして描くなら、助けてやってもいいんじゃないかと思うんだよね。
もし殺されるにしても、それはドーランなりアニーなりを救おうとして命を落とす形にするとかさ。
ホールを生かした場合、罪は償う必要があるので、ドーランが自首する展開と被る部分がある。そういう意味では、殺した方が手っ取り早いだろう。
だけど、それならニベンスもホールもクズ野郎にしておけばいいんじゃないかと思っちゃうんだよね。

アニーは退院すると、ドーランが何をやるか分かった上で同行を申し出る。
そしてドーランがニベンスの家を爆破する時、その隣にいる。そんな乱暴な行動に反対せず、それどころか楽しんでいるような表情さえ浮かべる。
「ドーランにニベンスを殺す気が無いことは承知しているから容認している」ってことなのかもしれないけど、ヒロインとしてホントにそれでいいのかと言いたくなる。
ケリを付けるためのドーランの行動は、アニーが全く関知しないトコでやった方が良かったんじゃないかと。

(観賞日:2022年10月29日)

 

*ポンコツ映画愛護協会