『バトルフロント』:2013、アメリカ

麻薬組織のボスであるダニー・Tが麻薬精製工場へ入る様子を、麻薬取締局(DEA)の捜査官たちが密かに観察していた。ダニーは手下のダルトンや息子のジョジョを引き連れ、麻薬の生産状況を確認した。ダルトンは電話を掛けて麻薬を飛行機で運ぶ手はずを整え、ダニーに報告した。するとジョジョは、「飛行機よりも俺たちで運ぶ」と主張した。ダニーはダルトンから「決めてくれ」と言われ、「ジョジョは息子だが、ダルトンを信じる」と述べた。
DEAの部隊が突入すると、組織の連中は銃を手に取った。激しい銃撃戦が勃発する中、ダルトンはDEA側の人間として戦いに参加した。彼はフィル・ブローカーという潜入捜査官だったのだ。ダニーとジョジョが車で逃走すると、フィルはバイクで追跡した。彼は2人の車を停止させ、ダニーを拘束した。大勢の捜査官が銃を向ける中、ジョジョは降伏を拒否して懐から銃を取り出す構えを見せた。ジョジョが何発もの銃弾を浴びて死ぬと、ダニーは連行されながらフィルに「お前のガキも殺してやる」と言い放った。
2年後、インターポールを辞職したフィルは、ルイジアナ州のレイヴィルで暮らし始めた。地元の小学校に通い始めた一人娘のマディーは、テディーという同級生に絡まれた。帽子を奪われたマディーが返すよう要求すると、テディーは彼女を突き飛ばした。マディーは彼の鼻を殴り付けて出血させ、帽子を奪い返した。相棒のティードと解体業の仕事をしていたフィルは学校から連絡を受け、娘の起こした事件を知らされた。
小学校に到着したフィルは、スクール・カウンセラーのスーザン・ハッチと会った。テディーの母親であるキャシーは喚いて突っ掛かるが、保安官のキースがなだめて外へ連れ出した。ハッチはフィルに、「彼女が前に揉めた時は校長を脅した。息子が問題児なの」と説明した。「どうして、こんな田舎町へ?」と問われたフィルは、「妻がこの辺りの出身で、再出発の道に選んだ」と言う。彼の妻は長きに渡って病気を患い、昨年の内に亡くなっていた。
フィルがマディーを連れて帰ろうとすると、テディーの父であるジミーが詰め寄った。彼はマディーを侮辱する言葉を吐き、謝罪を要求した。キースが戻るよう促してもジミーは耳を貸さず、キャシーは「やっちゃえ」と焚き付けた。ジミーが殴り掛かろうとすると、フィルは投げ飛ばして腕を極めた。キャシーは学校を去る車内でジミーを「腰抜け」と罵り、復讐するよう要求した。「キースが見張ってるから無理だ」とジミーが言うと、彼女は「キースが何よ。兄に頼むわ。電話して」と指示した。
キャシーの兄であるゲイターは、空き家で麻薬を吸っていた若者たちを見つけた。彼は1人の若者を棒で殴り付け、「俺の町で二度と麻薬を吸うな」と恫喝した。キャシーはゲイターの営む船舶修理工場を訪れて事情を説明し、フィルを脅すよう頼んだ。ゲイターは乗り気ではない様子を見せ、「ヤク切れか」と問い掛けた。ヤク中のキャシーは、「何か欲しい。胃が落ち着かない」と言う。ゲイターは彼女に麻薬を渡し、「俺みたいに量を守れ」と告げた。
フィルはハッチと会い、マディーの誕生日の企画を任せた。彼はハッチに、「娘は君が好きだ。たまに相手してやってくれ」と頼んだ。ハッチはフィルに、「この辺りの人に気を付けて。閉鎖的な町だし、貴方は新入りだから。マディーのために、早い内に仲直りした方がいい」と助言した。フィルは了承し、ジミーの仕事場を訪れた。「もう揉めたくない。どうしてほしい?」とフィルが訊くと、ジミーは謝罪を要求した。フィルが「俺が悪かった」と詫びると、彼は「分かった。もう充分だ」と受け入れた。
フィルがガソリンスタンドで給油していると、ゲイターの手下である2人の男が難癖を付けて来た。フィルは2人を叩きのめし、「誰に頼まれた?」と問い掛ける。「誰でもねえ」と言われたフィルは、その場を去った。手下から電話で報告を受けたゲイターは苛立ち、「俺が何とかする」と口にした。フィルがマディーを乗せて車を運転していると、キースが現れた。「スタンドで騒ぎがあったと報告を受けた。何者だ。元軍人か?元警官か?」と尋問されたフィルは、「答える義務は無い。知らない方が身のためだ」と述べた。
ゲイターはフィルとマディーが出掛けるのを確認し、家に忍び込んだ。ゲイターはマディーの大切にしている人形と猫を盗み、地下室へ赴いた。彼はフィルの資料を発見し、その職歴を知った。ゲイターは元娼婦で恋人のシェリルに電話を掛け、「デカいネタを見つけた」と告げて修理工場へ呼び出した。彼は詳細を説明し、「ダニーは息子を殺されて恨んでる。一発当てるぞ。奴に裏切り者を売る。交換条件は販売網の確保だ」と語った。彼は工場に道具を揃え、麻薬を精製しているのだ。
シェリルはゲイターの指示を受け、ダニーの弁護士であるワークスに接触して「贈り物よ」とフィルの資料を渡した。ワークスはダニーと面会し、その資料を見せた。マディーはテディーに、「私の誕生日会に来て」と持ち掛けた。迷っていたテディーはキャシーから「自分で決めなさい」と言われ、「じゃあ、行こうかな」と述べた。キャシーは娘と一緒にいたフィルに、「息子の服は弁償するの?」と尋ねる。「ああ、弁償する」とフィルが答えると、彼女は「だったら、いいわ」と告げた。
フィルはキャシーたちと和解できたと考えるが、ティードは「この辺りじゃ仲直りなんてしない。もっと保守的で執念深い」と告げる。「家が荒らされたが、あれも普通か」とフィルが尋ねると、彼は「南部の御礼参りだ。だが、ただの脅しだ」と述べた。「ジミーか?」というフィルの質問に、ティードは「いや、女房の兄貴かもな。ゲイターと名乗ってる。表向きは整備士だが、裏ではヤクを作ってる。気を付けろ、あいつはマトモじゃない」と忠告した。
フィルが「保安官は知ってるのか?」と訊くと、ティードは「キースはグルだ。ゲイターはザコの情報を流して、見逃してもらってる」と話した。シェリルはジミーの手下であるサイラスと会い、交換条件を説明した。しかしサイラスは取引に同意せず、フィルの居場所を話すよう脅した。フィルはDEA捜査官にゲイターのことを調べてもらい、シェリルが組織の仕事で麻薬密輸に加担していた過去を持つこと、ダニーの手下がレイヴィルに現れたことを知った…。

監督はゲイリー・フレダー、原作はチャック・ローガン、脚本はシルヴェスター・スタローン、製作はジョン・トンプソン&ケヴィン・キング=テンプルトン&シルヴェスター・スタローン、共同製作はロバート・オーティズ、製作総指揮はジェームズ・D・スターン&ダグラス・E・ハンセン&アヴィ・ラーナー&ボアズ・デヴィッドソン&レネ・ベッソン&マーク・ギル&トレヴァー・ショート、製作協力はニコール・ウィリアムズ、共同製作総指揮はロニー・ラマティー、撮影はテオ・ヴァン・デ・サンデ、美術はグレッグ・ベリー、編集はパドレイク・マッキンリー、衣装はケリー・ジョーンズ、音楽はマーク・アイシャム。
出演はジェイソン・ステイサム、ジェームズ・フランコ、ウィノナ・ライダー、ケイト・ボスワース、イザベラ・ヴィドヴィッチ、ラシェル・ルフェーブル、フランク・グリロ、クランシー・ブラウン、マーカス・ヘスター、オマー・ベンソン・ミラー、チャック・ジトー、プルイット・テイラー・ヴィンス、リンズ・エドワーズ、オースティン・クレイグ、オーウェン・ハーン、スチュアート・グリア、クリスタ・キャンベル、アミン・ジョセフ、ランス・E・ニコラス、マイケル・トレイナー、ジョー・クレスト、 ビリー・スローター他。


チャック・ローガンの小説を基にした作品。
監督は『サウンド・オブ・サイレンス』『ニューオーリンズ・トライアル』のゲイリー・フレダー。
シルヴェスター・スタローンが自ら主演するつもりで脚本家していたが企画が流れたため、『エクスペンダブルズ』シリーズで見込んだジェイソン・ステイサムに譲り渡した。
スライが脚本を担当しながら主演を務めないのは、1983年の『ステイン・アライブ』以来。その時は通行人としてアンクレジットでカメオ出演していたので、全く出ないのは今回が初めてだ。
フィルをステイサム、ゲイターをジェームズ・フランコ、シェリルをウィノナ・ライダー、キャシーをケイト・ボスワース、マディーをイザベラ・ヴィドヴィッチ、ハッチをラシェル・ルフェーブル、サイラスをフランク・グリロ、キースをクランシー・ブラウンが演じている。

オープニングではフィルが潜入捜査官だった頃の任務が描かれるが、あれだけ多くの部隊で突入しておきながらジミーとジョジョにまんまと逃げられるDEAのボンクラぶりが気になるぞ。
そこは「フィルがバイクで追い掛けて捕まえる」というアクションを描きたかったのかもしれないけど、予定外のことが起きたわけでもないんだから、その場で片付けるべきだ。
あと、フィルは「なぜ撃った?」とジョジョの銃殺を責めるけど、「状況を考えれば当然だ」という指揮官の言葉は正しい。
ジョジョは降伏の意思を示さず、懐から銃を取り出そうとする仕草を見せたんだから、そりゃあ銃殺するだろ。だから、その銃殺にフィルが幻滅する態度を示すのは違和感があるわ。

「閉鎖的な田舎町に引っ越した主人公が、娘の起こした些細なトラブルをきっかけにして標的にされてしまう」というのが、話の大まかなプロットだ。
そんなプロットに対して最初に感じるのは、敵がチンケで話のスケールが小さいってことだ。
これがサイコ・サスペンスであれば、何の問題も無い。しかしアクション映画としては、スケール感の乏しさが否めない。
「閉鎖的な田舎町の恐怖」ってのは、サイコ・サスペンスには合うが、アクション映画には不向きだ。

攻撃してくる敵が小物でも、主人公がティーンズだったり、アクション畑とは縁遠い女優が主演していたりするのなら、パワー・バランスは取れるので、形を整えることは出来たかもしれない。
しかしジェイソン・ステイサムの主演作ってことを考えると、敵がモンスター・ペアレントや田舎町のチンピラってのは、歯応えが無さすぎる。
ただし、それでも方法が無いわけではない。主人公の強さを徹底的に見せ付けるという方法だ。調子に乗って「自分は本物だ」と勘違いしている井の中の蛙を、本物である主人公が圧倒的な強さで懲らしめ、退治する様子を描くのだ。
そうすれば、観客は悪党退治の気持ち良さにスッキリできるだろう。

しかし、「主人公が圧倒的な強さでチンケな悪党たちを懲らしめる」という方向性を徹底して打ち出しているのかというと、そうではない。
「田舎町の恐怖」という要素を何となく見せつつ、どっち付かずの中途半端な仕上がりになっている。
しかも、ハッチやティードの台詞を使って「ここは閉鎖的な田舎町であり、そこに住む住人は保守的で執念深い」とか言わせている割には、そういうのを表現する連中は少数だし、途中で萎んでしまうし。

どれぐらいジェイソン・ステイサムが大暴れしてくれるのかと期待していたら、なかなか戦ってくれない。ジミーを投げ飛ばし、ゲイターの手下2人を叩きのめす以外は、終盤まで「たまに出て来て喋る」という程度の存在だ。
これが例えば、「ずっと耐え忍び、ついに堪忍袋の緒が切れて爆発する」という任侠映画のようなパターンを使っているのなら、クライマックスまでアクションが少ないのも理解できる。
しかし、そういう「溜め込むための時間」があるのではなく、単にアクションが少ないだけなのだ。
だからクライマックスまでアクションが乏しいことは、カタルシスに繋がらない。

「謎めいた新参者に、田舎のチンピラたちが突っ掛かったら痛い目を見た」というトコの爽快感を出すのなら、オープニングのシーンは邪魔になる。
最初からフィルが元インターポールの潜入捜査官ってのが分かっているのは、話の面白さを削ぐ。後から「実は」と正体が明かされる形にした方がいい。
もちろん、そういう面白さを狙ってないからこそ、オープニングでフィルの正体を明かしているんだろう。
しかし全体の中身を見た時に、前述したような「謎めいた新参者に田舎のチンピラたちが突っ掛かって痛い目を見る」という方向性にした方が良かったんじゃないかと思うのよ。

サイラスたちがレイヴィルに来ると、ゲイターは完全に主導権を握られ、すっかりチンピラとしての矮小さを露呈する羽目になる。
だが、「大物気取りだったゲイターが、もっと大物のサイラスが登場することでチンケな正体が露呈する」という展開を用意すると、「調子に乗ってデカいツラしていた悪党が、ホントに凄い主人公に力を見せ付けられる」というトコの面白さを消してしまうことになる。
そういうモノを狙っていないってのは分かるけど、「オープニングのシーンは邪魔」と書いた前述の部分と同じで、そういうモノを狙った内容にした方が良かったんじゃないかと思うのよね。
シナリオとして、自分で自分の首を絞めているように感じるのだ。

オープニングでダニーがフィルへの復讐心を口にしているので、いずれ話に絡んで来るんだろうってのは予想できるし、その通りになる。収監されているから直接的にフィルを攻撃することは出来ないが、手下のサイラスたちを差し向けるわけだ。
パワー・バランスとしては、ジミー<キャシー<ゲイター<サイラスってことになる。
しかしサイラスでさえ、所詮は大物ぶっている小物に過ぎない。
それに「閉鎖的な田舎町のチンケな奴らが攻撃してくる」ということで話を進めるのなら、そのまま最後まで突っ切った方がいい。
後半になって麻薬組織を絡めるのは話を盛り上げる狙いだろうけど、むしろ逆効果だ。

ティードがフィルにゲイターのことを話した段階で、既に情報はジミーの所へ到達している。つまり、もはや「フィルを標的とする悪党」ってのは、ゲイターのレベルを超えているのだ。
だからティードが「気を付けろ」と忠告しても、「もうゲイターに気を付けるどころの話じゃないんですけど」と言いたくなる。フィルがゲイターやシェリルのことを知るタイミングが遅すぎるのよ。
キースがゲイターとグルになっている情報の提示も、やはりタイミングが遅い。
ゲイターと同じで、もはやキースが腐敗しているとか、そういう問題じゃないのよ。「閉鎖的な町の悪意」というレベルで済まなくなっているので、「そんなことを今さら言われても」なのよ。

ジミーが早い段階でフィルと和解し、キャシーも途中から急速におとなしくなるのは、2人よりも強力なワルであるゲイターやサイラスがフィルを攻撃する存在として登場するので、理屈としては分かる。もう弱い野良犬が吠えても無意味だし、だったら黙っていた方が邪魔にならないってことだ。
ただし、「そっちでドラマを作っちゃうのかよ」と言いたくなってしまうんだよな。
ジミーやキャシーが、フィルに懲らしめられて降参したってことなら納得できるのよ。だけど、ジミーが妻の麻薬依存を心配する良き夫の面を見せるとか、キャシーが麻薬中毒の哀れな女という部分を見せるとか、そういうのってフィルとは無関係なわけで。
フィルの関与しないトコで人間ドラマを動かし、悪役の位置変更を行うってのが、得策とは思えないのよ。

後半に入ると、フィルが拘束されて暴行を受ける展開があるけど、そんなの全く要らないわ。
しかも犯人はサイラスたちじゃなくて、フィルが修理工場に忍び込んで、クレイたちに殴られて失神し、拘束されるという形なのよ。
前半で格の違いを見せ付けた奴らなのに、すぐに反撃して叩きのめすとは言え、今さら捕まってピンチに陥るとか、そんなの要らないっての。
既に雑魚であることが分かっている連中なんだから、もはや出て来る意味さえ無いぐらいなのに。

その後には、フィルが協力を頼んだティードが撃たれるとか、マディーがシェリルに拉致されるという展開があるけど、そういうのも全て要らない。
もちろん「主人公が窮地に陥る」ってのは、普通のサスペンス・アクション映画なら王道の筋書きだ。
でも、この映画では、そんなの要らない。
この映画に登場するワルどもは、ジェイソン・ステイサムが苦戦を強いられるような連中ではないのよ。サイラスたちにしたって、武装しているとは言え5人かいないから、「数の多さで苦戦する」という程の敵ではないし。

サイラスが武装した手下を率いて乗り込んだ時点で、フィルは家を出て避難する準備の最中なんだけど、そういうのも「ノロいなあ」と感じてしまう。
それより随分と前の段階で、ダニーの手下が町に現れたという情報は入っていたでしょ。
だったら、ゲイターの工場に侵入して調査する手順を挟む前に、とりあえずマディーだけでも安全な場所に避難させるとか、そういう行動を取っておけよ。
とにかく相手は小悪党ばかりなんだから、常にフィルが先手を取る、一枚上を行くという形にしておけよ。

(観賞日:2015年10月2日)

 

*ポンコツ映画愛護協会