『ハリウッド的殺人事件』:2003、アメリカ

警察の射撃場。ロサンゼルス市警殺人課の熟練刑事ジョー・ギャヴィランと若手のK.C.コールデンは、並んで標的を撃っている。 ギャヴィランは発砲し、適確に標的を撃ち抜いていく。しかしコールデンの方は、一発も標的に命中しない。見かねたギャヴィランは、 コールデンの標的を狙って弾丸を全て命中させ、それから自分の標的を狙撃した。
ハリウッドのライブハウスでは、4人組のヒップホップ・グループ“H2Oクリック”が出演していた。そこへ2人の黒人が現れ、密かに 銃を準備した。彼らに気付いたソングライターのKローは、慌てて逃げ出した。2人組はH2Oクリックを射殺し、店から逃走した。同じ頃 、ギャヴィランは不動産屋の副業に精を出していた。一方、コールデンも副業のヨガ教室で女性ばかりの生徒にレッスンしていた。2人 とも連絡を受けて、ライブハウスへと赴いた。
ライブハウスに到着したギャヴィランとコールデンは、上司のレオンから「コラプト殺しが未解決だから、挽回しろ」と言われた。 コラプトは有名なラッパーだ。店に入った2人は、小便の跡を発見した。ギャヴィランはライブハウスのオーナー、ジュリアス・アーマス に話を聞く。H2Oクリックはブレイク寸前のグループで、サルティン・レコード社の所属だという。現場にはサイズ7と9の靴跡が残って おり、コールデンは犯人が落としたと見られるダイヤのイヤリングを発見した。
ジュリアスが新居を探していると知ったギャヴィランは、商談を持ち掛けた。仕事の後、コールデンはギャヴィランが売春婦を車に乗せる 様子を目撃した。しかし、その売春婦は女装している潜入捜査官ワンダだった。ワンダはギャヴィランに、Kローが店から逃亡した情報を 教えた。帰宅したギャヴィランは、ラジオ番組でDJをしている女性占い師ルビーに電話を掛けた。
深夜、H2Oクリックを殺した犯人ズィーとジョーカーは、サルティンの相棒ワスリーと落ち合った。2人は報酬を受け取るつもりだったが、 ワスリーは彼らを射殺した。サルティンとワスリーは、2人を乗せた車に火を放った。サルティンが「ギャヴィランは俺たちを逮捕するかな」 と問うと、ワスリーは「マッコ警部補が邪魔するさ。奴は警察学校の後輩で、俺を頼っている」と答えた。サルティンはH2Oクリックだけ でなく、コラプトも殺害していた。
翌朝、女と一夜を共に過ごしたコールデンは、ベッドから体を起こした。彼は早速、自分が出演する舞台『欲望という名の電車』のセリフ を練習する。彼は刑事を辞めて、役者になりたがっている。警察署では、内務調査課のマッコがギャヴィランとコールデンのロッカーを 調べた。彼はギャヴィランに公私の資金混同の容疑を掛けたのだ。さらにマッコは、ギャヴィランの情報屋クレオのことも指摘する。 クレオは売春婦の元締めで風俗課がマークしていたが、ギャヴィランが妨害しているというのだ。
証拠が無いため、ギャヴィランとコールデンは解放された。ギャヴィランはコールデンに、マッコが2年前の誤認逮捕を自分に指摘され、 逆恨みしていることを語った。内務調査課に配属され、攻撃を開始したのだという。コールデンは、刑事だった父が捜査中に不可解な死を 遂げたこと、誰もお咎め無しで捜査も中止されたことを語った。当時の相棒が疑われたが、報告書は封印されたのだという。ギャヴィラン は、知り合いに頼んで報告書を手に入れてやると約束した。
2人が駐車場にいる時、ギャヴィランにクレオから電話が入った。風俗課がうるさくて困っているという。クレオが「店で殺された一人は ウチの子の常連よ。コラプトもそう」と言うので、ギャヴィランはその風俗嬢を引き渡すよう求めた。一方、コールデンには履歴書と舞台 の招待状を送ってあった芸能事務所から電話が入った。2人が電話で話している最中、警官に連行されていた犯人が銃を奪って暴れた。 コールデンは飛び掛かり、その犯人を取り押さえた。
ギャヴィランとコールデンは、サルティン・レコードの本社ビルへ赴いた。録音スタジオへ行くと、サルティンは10階にいると告げられた。 コールデンは高校時代の友人シルクと再会し、録音スタジオに留まった。コールデンが映画の世界に行きたがっていることを語ると、 シルクはブルーゼリーのCMに出演した女性を紹介し、自分が書いた脚本を渡した。
ギャヴィランはサルティンに会った。サルティンは公私の資金混合で、しばらく服役していた。サルティンは、「コラプトが移籍して大損 した」と語った。Kローについて尋ねると、本名や住所は分からないという。2人がビルを出ると、ギャヴィランの車を盗もうとしている 連中がいた。ギャヴィランは「保険が降りるから邪魔するな」と言うが、コールデンは連中を取り押さえた。しかし、彼らは泥棒ではなく 回収屋だった。ギャヴィランのローンが支払われていないので、車を回収に来たのだ。
サルティンはワスリーに電話を掛け、警察がKローを捜していることを告げた。ワスリーは、Kローの始末を約束した。ギャヴィランと コールデンは、往年の大物映画プロデューサー、ジェリー・ドレインの邸宅を訪れた。彼が屋敷の売却を考えているので、ギャヴィランは 副業で訪れたのだ。ジェリーは「670万ドルは譲らん」と言い、ギャヴィランに3日間の独占販売権を与えた。コールデンは、シルクから 渡された脚本と舞台の招待券を、こっそりと邸宅に残した。
ギャヴィランはジュリアスに電話を掛け、ジェリーの邸宅を見に来るよう告げた。直後、レオンから電話があり、Kローの本名が オリヴァー・ロビトウだと知らされた。ロビトウの名を聞いたギャヴィランは、かつてモータウンでコーラス歌手をやっていたオリヴィア ・ロビトウのことを連想した。彼は同僚刑事ロペスに連絡し、音楽業界でKローの母親を洗うよう指示した。
ギャヴィランはジュリアスに物件を見せたいので、モルグでの死体解剖はコールデンに任せた。モルグに到着したコールデンは、南署の パルメロ刑事から、焼死体が2つ出たことを聞かされた。その死体の所持品のイヤリングを見たコールデンは、2人の靴のサイズを聞き、 彼らがライブハウスの殺人犯だと気付いた。一方、ギャヴィランはジュリアスと会い、「ジェリーは700万ドルを希望しているから、最初 に550万で持ち掛ければ600万で成立する」と告げた。
ギャヴィランはコールデンのヨガ教室に行き、彼の父の事件に関する報告書を渡した。クレオから電話が掛かり、ギャヴィランはオープン ・カフェで彼女と会った。クレオはギャヴィランに、自分が扱っている売春婦がパーティーで聞いた話として、「コラプトとH2Oクリック の殺害は同一犯」という噂を教えた。ギャヴィランとクレオが会っている様子を、マッコの部下ジャクソンとジーノが密かに観察していた。 マッコはギャヴィランの息の根を止めるために、彼の財政状況を調べるようジャクソンたちに命じた。
帰宅したコールデンは、待ち受けていた女と一夜を共にした。一方、ギャヴィランもオリンパスの邸宅でルビーとベッドを共にした。翌朝、 ギャヴィランはルビーから、自分と出会う前にマッコと交際していたことを聞かされて驚いた。そのことをマッコが知れば、ますますムキ になるのは明らかだ。ルビーが邸宅から出て来る様子を、張り込んでいたジャクソン達は写真に収めた。
ギャヴィランはジェリーから電話で呼び出され、会いに行った。すると、そこにはジュリアスの姿もあった。たまたま弁護士が同じだった という。ジェリーはギャヴィランに、「ジュリアスは640万まで出す用意があったのに、君は600万と言った」と怒りをぶつけた。金額で 嘘をつくのはギャヴィランの商売上のテクニックだったが、ジェリーは「言い値を700万ドルにする」と告げた。
ギャヴィランとコールデンは、オリヴィア・ロビトウの家を訪れた。隠れていたKローが逃亡を図るが、2人は後を追い掛けて捕まえた。 2人は警察署へ連行しようとするが、Kローが反抗的な態度を取るので、廃屋で尋問しようとする。だが、そこに車で現れた連中が、 Kローを殺そうと発砲してきた。ギャヴィランとコールデンは、Kローを連れてオリヴィアの家に戻った。
ギャヴィランとコールデンは、「素直に話せば身柄を保護する。拒めば釈放して、刺客に殺される」と告げた。オリヴィアは、2人に事件 の裏側を話した。殺されたコラプトやH2Oクリックは、子供の頃からラップをやっていた。しかし会社の搾取に気付き、独立を希望した。 サルティンの服役中、コラプトは弁護士を雇って高校生の頃の契約を破棄すると宣言した。サルティンが出所し、彼は殺された。彼らが 殺されたのは、契約破棄を希望する他の歌手への見せしめだという。
刑務所を訪れたギャヴィランとコールデンは、サルティンの服役中に毎週必ず面会に来ていたのがワスリーだと知った。ワスリーは、 コールデンの父が死んだ時の相棒だった。ギャヴィランとコールデンが、その件の報告書に目を通すと、ワスリーが犯人である疑いが濃い が、証拠不十分で逮捕に至らなかったことが書かれていた。さらに、その現場にはマッコもいたことも記されていた。
マッコはジャクソン達から、ギャヴィランとルビーと関係を知らされた。マッコはギャヴィランとコールデンを連行し、取り調べを行う。 しかしギャヴィランは何度も商談の電話を受け、コールデンはヨガに没頭し、どちらもマトモな取り調べは出来ないまま釈放となった。 ギャヴィランはクレオから、マッコと取り引きして証言を約束したことを知らされた。
ギャヴィランはレオンからの電話で、マッコが起訴を急いでいること、サルティンが行方をくらましたことを知らされた。ギャヴィランは コールデンを連れてルビーの元を訪れ、占いでサルティンの居場所を捜してもらう。ルビーの指示に従い、2人はサンセット・プラザに 赴いた。ルビーが洋品店で買い物を始めたため、ギャヴィランとコールデンは「占いに頼ったのが無理な話だった」と諦める。だが、そこ へ車に乗ったサルティンとワスリーが現れた。ギャヴィランとコールデンは、逃亡するサルティンたちを追い掛ける…。

監督はロン・シェルトン、脚本はロバート・ソウザ&ロン・シェルトン、製作はルー・ピット&ロン・シェルトン、共同製作はロバート・ ソウザ&アレグラ・クレッグ&スコット・バーンスタイン、製作総指揮はジョー・ロス&デヴィッド・レスター、撮影はバリー・ ピーターソン、編集はポール・セイダー、美術はジム・ビッセル、衣装はバーニー・ポラック、音楽はアレックス・ワーマン、 音楽監修はドーン・ソーラー&キャシー・ネルソン。
出演はハリソン・フォード、ジョシュ・ハートネット、レナ・オリン、ブルース・グリーンウッド、イザイア・ワシントン、ロリータ・ ダヴィドヴィッチ、キース・デヴィッド、マスターP、マーティン・ランドー、ドワイト・ヨーカム、グラディス・ナイト、ルー・ ダイアモンド・フィリップス、メレディス・スコット・リン、トム・トドロフ、ジェームズ・マクドナルド、クレプト、アンドレ・ ベンジャミン、アラン・デイル、クライド・クサツ他。


ジョー・ロスのレヴォリューション・スタジオが手掛けた作品。
ロン・シェルトンは2002年の『ダーク・スティール』でコンサルタントを務めたロサンゼルス市警の元刑事ロバート・ソウザと出会い、 彼自身の実体験に基づいた脚本を共同で書き上げた。
ギャヴィランをハリソン・フォード、コールデンをジョシュ・ハートネット、ルビーをレナ・オリン、マッコをブルース・グリーンウッド 、サルティンをイザイア・ワシントン、クレオを監督の妻ロリータ・ダヴィドヴィッチが演じている。
他に、レオンをキース・デヴィッド、ジュリアスをヒップホップ界の大御所であるマスターP、ジェリーをマーティン・ランドー、ワスリーを カントリー歌手でもあるドワイト・ヨーカム、オリヴィアを歌手のグラディス・ナイト、ワンダをルー・ダイアモンド・フィリップス、 ジャクソンをメレディス・スコット・リン、ジーノをトム・トドロフが演じている。

さらに、Kローをラッパーのコラプト、シルクをラップ・デュオ“アウトキャスト”のアンドレ・ベンジャミン(アンドレ3000)が演じて おり、冒頭で殺されるH2Oクリックも実際に活動しているラップ・グループだ。
ちなみに字幕だと、サルティンが最初に殺したラッパーが「クレプト」となっているが(Kローを演じているが、劇中では殺されている 設定)、日本では彼のことを「コラプト」と表記していることが多いので(「クラプト」の場合もある)、そっちに合わせた方がいいん じゃないのかね。
それと、冒頭でエリック・アイドルが警察署に連行されて来たり、ウォーク・オブ・フェイムでロバート・ワグナーがセレモニーをやっていたり する。ジェリーとジュリアスの弁護士がフランク・シナトラのジュニアだったり、タクシー運転手がスモーキー・ロビンソンだったりする。
しかし、「いかにもハリウッドを舞台にした豪華なカメオ出演者の面々」と呼ぶには、ちと弱いかな。

まず冒頭で射撃訓練があり、タイトルロールがあって、事件が発生する。
ギャヴィランとコールデンの副業はチラッと見せるだけで、すぐに2人は事件現場に赴く。
この導入部からして、大きな疑問を抱いた。
まず最初の射撃シーンは、見せない方がいい。先に副業に励む2人の様子を見せて、後から「実は刑事でした」という見せ方をした方が いい。どうせ、コールデンの射撃が下手だという設定は、まるで活かされていないのだから、順番を後にするのではなく、射撃シーンその ものを削除してしまえばいい。
先に2人が刑事だということを明かしてから始めるのであれば、「実は副業もやっています」というところで面白さを作るべきであり、 その場合は最初に射撃訓練ではなく事件の捜査から入るべきだろう。
あと、副業シーンをサラッと処理するのも疑問で、そこは、もう少し粘るべきだろう。そこを淡白にしたのでは、副業をやっている設定の 面白さが全く伝わらないぞ。

この作品、当初はドラマとして製作する予定だったのをコメディーに変更したらしいが、ホントにコメディーとしての意識があるのかと 疑問を覚える。笑いを生み出そうという意識が、著しく低いのだ。
ハリソン・フォードとジョシュ・ハートネットの芝居にも、ちっとも喜劇らしさを感じない。
それぞれのキャラを考えても、「副業に熱心な軽いオッサン」と「女にモテモテで役者への野心が強い若僧」という態度が薄い。
表情の変化にも乏しく、中途半端に真面目なキャラになっている。

あくまでも推測に過ぎないが、これって足し算だけで脚本を仕上げたんじゃないだろうか。
まず最初に、ロバート・ソウザをモチーフにした「不動産屋を副業にしている」というギャヴィランのキャラ設定がある。では、 ギャヴィランが副業をやりながら事件を捜査する話にしよう。彼に相棒を用意して、そいつも副業をやりつつ、さらには役者志望の設定に しよう。
ギャヴィランには過去に因縁がある奴を用意して、さらに女を巡る関係や、その男に起訴されそうになる話も入れよう。コールデンの方 にも、父の死を巡る話を用意しよう。メインの捜査とは無関係な細かい事件も、幾つか挿入しよう。占い師や女装の捜査官など、個性的な 脇役も登場させよう。などと、そんな感じで作ったんじゃないだろうか。
で、その結果、どれもこれも消化不良に終わるということになってしまったんじゃないだろうか。

この映画に必要だったのは、引き算の作業だ。
つまり、あまりにも詰め込み過ぎている要素を削り落とすことだ。
まず駐車場で犯人が暴れたり、車を2人組が奪おうとしたりという、メインの捜査とは無関係な、その場だけの事件は要らない。
占い師や女装捜査官も、活かし切れていないからカットしてもいいだろう。
マッコとの因縁や起訴されそうになる話も、コールデンの父の事件も、バッサリと削除していい。
色んな要素を盛り込みすぎて、無駄に話をゴチャゴチャさせているだけだ。

さらには、コールデンのヨガ教室と役者志望の設定も削っていい。
どっちの設定も、そんなに描写が充実しているとは感じないし、笑いに繋がっているわけでもない。
物語に厚みを加えているわけでもない。
それに、ギャヴィランの相棒は、対照的なキャラにした方がいいと思うのよ。
例えば副業に否定的で刑事としての職業意識が強い熱血ヤローとか、あるいは副業に熱を入れるギャヴィランに振り回される堅物ヤロー とか、そんな感じの方がいいんじゃないか。

ギャヴィランの副業にしても、1つの取り引きを延々と引っ張るのは、いかがなものかと。
不動産の仕事は、あくまでもサブであり、それを事件の捜査と同じぐらいの比率で扱うべきではないと思うのだ。
だから不動産の仕事は、その場その場で別の取り引きにした方がいい。
で、そこで有名人を出せばいいんじゃないの。
いっそセレブ御用達の不動産屋という設定にしてもいいし。

(観賞日:2009年1月5日)

 

*ポンコツ映画愛護協会