『ヒットマンズ・ワイフズ・ボディガード』:2021、アメリカ

マイケル・ブライスはダリウス・キンケイドと関わった出来事のせいで、悪夢に苦しむ日々を送っていた。相談を受けたセラピストは、警備を忘れて心の内側から幸せを見つけ出すよう勧めた。マイケルはセラピストの提案を受け、カプリ島へバカンスに出掛けることにした。ギリシャはEUの2年に渡る制裁で経済が悪化し、大規模な抗議デモが起きていた。EU代表のウォルター・フィッシャーは、4日後の会計年度末に再び制裁を課すことを発表した。
ギリシャの海運王であるアリストテレス・パパドポラスはEU本部に手下を差し向け、警備員を始末してフィッシャーを拉致した。彼はカルロに計画を進めるよう指示し、フィッシャーに「制裁を始めた瞬間、EUの経済は破壊される」と通告してから殺害した。マイケルはカブリ島での休暇を楽しもうとするが、ダリウスの妻のソニアが追手との銃撃戦を展開しながら現れた。彼女はマイケルの腕を引っ張って強引に巻き込み、「夫を取り戻しに行く」と告げた。
マイケルは断ろうとするが、ソニアの脅迫に負けた。ソニアはダリウスが「マイケルを呼べ」と言っているのだと語り、新婚旅行に行く予定だったのに夫がマフィアに拉致されたと説明した。クロアチアのザグレブ。アリストテレスはサイバーテロリストのグンターと接触し、サイバーテロについて説明を受ける。彼はパワーグリッド機器にダイヤモンドのドリルで穴を開け、ウイルスで送電線と繋がる電子機器を全てショートさせる実演を見てから手下にグンターを始末させた。
翌朝、インターポール捜査官のボビー・オニールは上司のクロウリー警視を呼び、グンターの遺体を見せた。彼は情報屋のカルロが4日後のサーバー攻撃について知らせたことを伝え、「明日、カルロは次の攻撃場所の情報を買う」と話す。特殊部隊や予算を要求するオニールだが、クロウリーは車と通訳係のアルソーを与えただけだった。イタリアのテッラチーナ。マイケルはダリウスが監禁されている場所に到着し、穏便に済ませようとする。しかしソニアが暴れて敵を次々に始末するので、仕方なく手伝った。
ダリウスはマフィアのカルロを殺害し、ソニアと再会した。マイケルを見たダリウスは、「こいつを呼べとは言ってない。マイケル以外なら誰でもいいと言ったんだ」と告げる。3人は現場を去ろうとするが、オニールの部下たちに拉致された。オニールはダリウスとソニアに、カルロの代わりに仕事をするよう命じた。彼はマイケルに、カルロの恋人の警護を担当しろと要求した。彼はクロウリーの指示を受け、港の強盗事件を捜査する。被害者はグンターと同じ手口で殺されており、盗まれたのは巨大なダイヤモンド製ドリルだった。
クロウリーはオニールから電話を受け、「マフィアがボルトフィーノで攻撃場所の情報を買う。チームを送った」と話す。ソニアはカルロの恋人、マイケルは彼女の護衛としてクラブへ行き、取引相手のウラジミールと会った。ウラジミールは欧州のパワーグリッド機器の位置を示したパソコンを鞄に入れ、そこから15秒以上、5メートル以上離れると爆発するブレスレットをソニアに装着した。ウラジミールはソニアに、フィレンツェのギャラリーで購入者に鞄を渡すよう指示した。
ウラジミールはマイケルの正体を知り、ソニアの年齢を馬鹿にした。ソニアは激怒して暴れ出し、ウラジミールを始末した。マイケルは敵に撃たれて倒れ、ソニアはダリウスの指示で波止場へ運んだ。ダリウスはモーターボートで待っており、ソニアとマイケルを乗せて逃亡した。クロウリーはオニールがマイケルたちを使っていたと知り、3人を国際指名手配した。アリストテレスは手下たちに、3人を殺して鞄を取り戻すよう命じた。
マイケルたちはフィレンツェに到着し、アリストテレスが開催するオークション会場へ赴いた。骨折しているマイケルが痛がると、ソニアは鎮痛剤を与えた。マイケルは3年連続で警備賞を獲得したマグヌソン、ダリウスはライバルのゼントを目撃し、ソニアはアリストテレスの姿を見て顔を強張らせた。マグヌソンはマイケルたちを発見し、ゼントに狙撃させた。マイケルはバンを盗もうとするが、薬のせいで眠り込んでしまう。ダリウスとソニアは彼をバンに乗せ、マグヌソンたちから逃走した。
目を覚ましたマイケルは、ソニアに貰った薬が鎮痛剤ではなくリチウムだと知った。彼はダリウスとソニアを連れて義父のシニアを訪ね、助けを求めた。シニアがジェラートを出すと、マイケルは席を外した。シニアは「忘れてたよ」と言い、ダリウスとソニアにマイケルと母のことを話す。幼少期のマイケルは母と遊園地に出掛けた時、ジェラート選びに夢中になった。その間にパラトルーパーのシートベルトが外れ、巨漢の男が飛ばされた。男の直撃を受けた母は死亡し、マイケルは罪悪感を覚えた。
マイケルたちはシニアが用意した隠れ家へ移動するが、アリストテレスの手下たちに拉致された。3人は屋敷に連行され、アリストテレスはソニアに「最愛の人」と告げた。ソニアはダリウスから説明を求められ、自分がアリストテレスの恋人だったこと、ヨットから転落して漁師に救われた時には記憶を失っていたことを説明した。アリストテレスは手下たちに、マイケルとダリウスを拷問部屋に連行するよう命じた。彼はソニアを子供部屋に案内し、「君が戻って来ると思って完成させた」と語った。
アリストテレスはソニアに、「手下のカルロが、不妊クリニックで君の夫を見た。卵子を買っていたらしい」と話す。マイケルとダリウスはアリストテレスの手下たちを倒し、拷問部屋を脱出する。屋敷の庭に出たダリウスは、2階にいるソニアに気付いて助けに向かおうとする。ソニアが「卵を買ってたのね」と責めると、彼は「奴に騙されるな」と返す。しかしソニアは別れを告げ、屋敷に留まることを選ぶ。一味の発砲を受けたマイケルは、ダリウスを連れて屋敷から脱出した…。

監督はパトリック・ヒューズ、キャラクター創作はトム・オコナー、原案はトム・オコナー、脚本はトム・オコナー&フィリップ・マーフィー&ブランドン・マーフィー、製作はマット・オトゥール&レス・ウェルドン&ヤリフ・ラーナー、製作総指揮はアヴィ・ラーナー&トレヴァー・ショート&ボアズ・デヴィッドソン&ジェフリー・グリーンスタイン&ジョナサン・ヤンガー&マシュー・ミラム&クリスタ・キャンベル&ラティ・グロブマン&ハイディ・ジョー・マーケル&ジギー・カマサ&ペテル・ポスネ&マーク・ギル、共同製作総指揮はロニー・ラマティー、撮影はテリー・ステイシー、美術はラッセル・デ・ロサリオ、編集はジャック・ハッチングス&マイケル・ドゥーシー、衣装はステファニー・コリー、音楽はアトリ・オーヴァーソン、音楽監修はライアン・スヴェンドセン。
出演はライアン・レイノルズ、サミュエル・L・ジャクソン、サルマ・ハエック、リチャード・E・グラント、アントニオ・バンデラス、モーガン・フリーマン、フランク・グリロ、キャロライン・グッドール、レベッカ・フロント、ガブリエラ・ライト、アリス・マクミラン、クリストファー・カミヤス、トム・ホッパー、ブレイク・リットソン、ゲイリー・オールドマン、早乙女ツワユキ、ジョニー・ジェームズ、ヴェニス・スミス、ブライアン・カスペ、ドラガン・ミカノヴィッチ、アンナ=マリー・エヴェレット、マイケル・アシュトン、ミルトス・イェロレムー、マリアナ・ヴェキルスカ、イヴォール・バガリッチ他。


2017年の映画『ヒットマンズ・ボディガード』の続編。
監督は前作に引き続いて、パトリック・ヒューズが担当。
脚本は前作から続投になるトム・オコナーと、これがデビュー作のフィリップ・マーフィー&ブランドン・マーフィーによる共同。マイケル役のライアン・レイノルズ、ダリウス役のサミュエル・L・ジャクソン、ソニア役のサルマ・ハエック、セイファート役のリチャード・E・グラントは、前作からの続投。
アリストテレスをアントニオ・バンデラス、シニアをモーガン・フリーマン、ボビーをフランク・グリロ、クロウリーをキャロライン・グッドール、セラピストをレベッカ・フロント、アリソーをアリス・マクミランが演じている。

マイケルがセラピストに相談する台詞で30秒ぐらいを使い、「警護対象だったクロサワを殺し屋のダリウスに殺された」「戦争犯罪裁判に出廷するダリウスの警護を担当したが、警護として認められなかった」という前作の内容に少しだけ触れている。
しかし前作を見ていない人からしてみれば、まるで意味が無い説明でしかない。
あくまでも、前作を見ている人だけに分かる「前作のおさらい」になっている。
そんな申し訳程度の解説なら、わざわざ入れて不格好にする必要は無い。

「出演している面々は、きっと撮影中も楽しかったんだろうなあ」と感じる映画だ。たぶんメイキング映像を見たら、出演者の仲の良さが感じられることになっているんじゃないかな。
ただし、その楽しさが内輪受けになっていると感じる。
そういうテイストなのは分かるけど、なんかワチャワチャしていて、やたらと騒がしい。そのワチャワチャや騒がしさが映画の面白さに繋がっている部分は、かなり薄い。
対費用効果が、あまりにも悪すぎやしないか。

何よりも強く感じるのは、「ソニアさえいれば充分じゃないか」ってことだ。
マイケルがいなくても、ソニアとダリウスの夫婦だけでも成立する。そしてダリウスがいなくても、マイケルとソニアだけで成立する。
どちらかと言えば、後者の方が面白くなる可能性は高そうだ。傍若無人でクレイジーに暴れまくるソニアと、彼女に翻弄されるマイケルの関係性の方がスウィングするよね。タリウスだと落ち着いているから、ソニアと組ませてもコンビの面白さは生まれにくい。
ともかく、マイケルかダリウス、どちらか片方だけでいいんだよね。でも前作でマイケルとダリウスのコンビをメインに据えていたから、そこは踏襲せざるを得ない。
そこにソニアが加わって、たった3人なのに交通渋滞を起こしている。

本筋と無関係なトコにも時間を割いて3人のワチャワチャを描くが、これも面白くないんだよなあ。
例えば、ダリウスが電話している様子を見たソニアが浮気を疑うシーンがある。彼女は車をダリウスに突進させるが、ダリウスが避けてマイケルが弾き飛ばされる。
その後、ソニアは誤解を知り、ダリウスとオペラを観劇する。翌朝になって、ソニアは車のトランクに入れていたマイケルを解放する。
ギャグとして描いているのは分かるけど、「さすがに乱暴すぎるだろ」と言いたくなる。

オークション会場でマグヌソンやゼントたちに襲われた時、マイケルはダリウスとソニアをバンを動かして逃亡を図る。マグヌソンが並走し、見事な運転を褒める。ダリウスとソニアにも褒められて、マイケルは気持ち良くなる。
そこからカットが切り替わると、マイケルはハンドルに頭を押し付けて寝ている。
つまり、見事な運転で称賛されたのは、全て彼が見ていた夢ってことだ。
もちろんギャグとしての描写なのは言わずもがなだが、何の笑いも無い夢オチでしかない。

しかも、そこでマイケルが眠り込むので、カーチェイスとアクションはダリウスとソニアだけの担当になる。つまり、3人で行動させている意味が無くなってしまうのだ。マイケルが邪魔になるとか、ダリウスたちが彼の体を利用するとか、そんなことも無いし。
それなら、最初から別行動でも良かっただろ。
ただしマイケルを排除しちゃうと、ただソニアがギャーギャー騒いでいるだけになってしまい、喜劇としての方程式が成立しなくなるのよね。
ダリウスとソニアを組ませて動かすなら、キャラ造形が根本的に違うんじゃないか。

ソニアがダリウスを裏切らないのはバレバレなので、彼女が別れを告げてアリストテレスの屋敷に残っても「何か策略があるんだろうな」ってのは何となく分かる。
だから、その後でソニアがダリウスに連絡して情報を教え、「実は記憶を失っていたのも嘘」など明かしても、大して効果は無い。
むしろソニアが芝居を打っていると明かした上で話を進め、コメディーのネタとして利用した方が有益なんじゃないかと思ったりもする。
まあでも、細かいことって、この映画には無いよね。全体を通して、かなり大雑把だよね。

マイケルがシニアの屋敷を訪れるシーンでは、回想も含めて時間を割き、丁寧に描かれる。
しかしコメディーとしては、「マイケルの父親が黒人でモーガン・フリーマン」という出オチだけで終わっている。ドラマとしても、何の噛み応えも無い。
マイケルの幼少期を描くことで、「彼がシートベルトに固執している理由」が明らかになるけど、そんなに知りたくなるような謎でもないし。
その理由が判明しても、「だから何なのか」としか思えないし。

その後、「実はシニアがアリストテレスの護衛で、マイケルを裏切っていた」という事実が明かされる。
そのままシニアはマイケルを冷淡に見捨て、息子への愛で寝返ったり助けたりすることは無い。
どストレートな展開ではなく少し捻りを加えようとしたのかもしれないが、それで面白くなったと感じる部分など無い。
そのまま終盤にはマイケルとシニアの対決もあるが、前述したようにモーガン・フリーマンは出オチの段階で存在価値の大半を失っている。

(観賞日:2023年8月2日)

 

*ポンコツ映画愛護協会