『ヒルズ・ハブ・アイズ』:2006、アメリカ&フランス

1945年から62年にかけて、アメリカ合衆国は331回の核実験を実施した。だが、現在でも政府は、死の灰による遺伝的影響を否定している。ニューメキシコ州の砂漠で、防護服を着用した数名の研究員が放射能汚染の調査活動を行っていた。そこへ突然、血まみれの男が現れて「助けてくれ」と呻いた。背後から巨漢の男が忍び寄り、ツルハシを振り下ろして研究員を惨殺した。逃げようとする研究員も、次々に始末された。殺人鬼は死体を鎖で車の後ろに繋ぎ、運転して砂漠を去った。
砂漠にポツンと一軒だけ建っている、古びたガソリンスタンド『ヘヴン』。ベッドから飛び起きた従業員の男は、ショットガンを手に取って外へ出た。彼は銃を構え、「ルビー?お前か?」と呼び掛けながら、近くを捜し回る。ガソリンスタンドの周囲に広がる土地は合衆国政府エネルギー省が管理している立ち入り禁止区域であり、金網で区切られている。閉鎖された炭鉱を覗き込んだ男は、「ルビー?ジュピターなら弾を撃ち込んでやる」と呼び掛ける。
店に戻って来た彼は、「終わりだと言っただろ。俺は降りる。これからは自力でやれ」と叫ぶ。部屋に戻って来た男は、鞄の中を探った。ハンバーガーの空容器には、切断された血まみれの耳が入っている。彼が財布に入っていたカップルの写真を見ていると、カーター家の面々が乗るキャンピングカーがやって来た。主人のボブがクラクションで男を呼び、給油を頼む。カーター家の顔触れはボブの他に、妻のエセル、長女のリン、次女のブレンダ、末の息子ボビー、リンの夫ダグ、ダグとリンの娘である赤ん坊のキャサリン、それに飼い犬のビューティーとビーストだ。ボブと折り合いの悪いダグは、リンに愚痴をこぼしている。
一行はボブとエセルの銀婚式を祝うため、サンディエゴまで向かう途中だ。ボブが砂漠を見たいと言い出したので、遠回りしたのだ。全員が車を降りて休憩している間に、少女がこっそりとトレーラーの後部座席に置いてあった赤いスウェットを持ち去った。ダグは携帯電話が圏外なので、電話を借りようとする。しかし従業員は、「無いね」と短く告げた。トイレに入っていたボビーは、隙間から覗く少女の瞳に気付いて驚く。しかし少女がすぐに逃げ出したため、ボビーはブレンダの悪戯だと思い込んだ。
従業員はボブやエセルに、「幹線に出るのは、この道だけだ。長いドライブになるね」と告げる。ビューティーが建物の中へ逃げ込み、リンは後を追った。住居スペースで鞄を見つけたリンは軽く触れるが、すぐにビューティーを見つける。そこへ来た従業員は、リンに鞄の中身を見られたと考えた。彼はボブの元へ行き、「実は、地図には無い道がある。3キロ行くと砂利道があるから、そこで左折すれば丘を縦断できる。2時間は節約できる。古いフェンスがあるから迷わない」と語った。
一家が男に教えられた道をトレーラーで走っていると、仕掛けられていた罠でタイヤがパンクした。だが、潜んでいた何者かが即座に罠を撤去したため、一家は暑さのせいでパンクしたのだと解釈する。ボブは修理が出来ない状態だと判断するが、相変わらず携帯は圏外で連絡を取ることも不可能だ。そこでボブは、自分がガソリンスタンドまで戻り、ダグに反対方向へ歩いて人を探してもらうことを提案した。ボブはボビーに拳銃を渡し、残るよう指示した。そんな一家の様子を、何者かが崖の上から双眼鏡で覗いていた。
ボブとダグが出発した後、ボビーは逃げ出したビューティーを追い掛ける。岩場に足を踏み入れたボビーは、ビューティーの断末魔を耳にした。警戒しながら先へ進んだ彼は、刃物で腹部を切り裂かれたビューティーの亡骸を発見した。慌てて逃げ出そうとしたボビーは、岩場から転落して気を失った。そこへ赤いスウェットを着たルビーという少女が歩み寄り、そっと体に触れる。そこへビューティーの足を食べている兄のゴーグルが現れ、不気味に笑った。
ダグは巨大なクレーターを発見し、何台もの車が放置されているのを目にした。ダグは一台の車を開けて、座席に置いてあったヌイグルミを手に取った。ボブは日が暮れてからガソリンスタンドに戻るが、従業員の姿は無かった。住居スペースに入った彼は、切断された耳を見つける。奥へ進んだ彼は、新聞記事の切り抜きが壁に貼られているのを目にした。そこには砂漠で失踪者が出ていることを報じる記事もあり、ボブは従業員が自分たちを騙したのだと悟った。
ボブはガソリンスタンドに停まっていた車を使って去ろうとするが、トイレから酔っ払っている男の「ジュピター、お前を撃ってやる」という声が聞こえた。ボブは拳銃を構えながら、男に呼び掛ける。すると男は「アンタは何も分かっちゃいない。子供たちは鉱山でケダモノのように育った。子供の育つ場所じゃない。ここは汚染されてる」と言う。ボブが「武器を捨てろ」と要求すると、男は「俺は精一杯にやったんだ」と告げ、ショットガンで自害した。
どこからか「父ちゃん」という声が聞こえて来たので、ボブは発砲する。慌てて車に乗り込んだボブだが、ルビーたちの父親であるパパ・ジュピターが立ち塞がる。ジュピターはボブの頭を車に叩き付け、荷車に乗せて炭坑へと運び込んだ。ジュピターは息子である巨漢のプルートに、「早く銃を寄越せ」と指示した。一方、ボビーはブレンダの呼び声で意識を取り戻し、トレーラーに戻って手当てを受けた。ボビーは家族にビューティーのことを言い出せなかった。
しばらくするとダグが戻り、クレーターから持ち帰った釣り竿やバットを見せる。リンに「それより人は居た?」と訊かれた彼は、「道路は行き止まりだった、近道なんかじゃない」と告げた。トレーラーを出たビーストは、ビューティーの亡骸を発見した。みんなが就寝しようとするので、ボビーは「パパを待たないの?」と言う。せめて全員がキャンピングトレーラーで眠ることを持ち掛けるボビーだが、ダグは「3人乗りに6人は狭いよ」と言い、リンと共に牽引車へ移動した。
なかなか眠りに就けないボビーは、犬の鳴き声を耳にして車の外に出た。ビーストだと思って捜索するボビーだが、何者かが犬の鳴き真似をしていることに気付いた。慌てて牽引車をノックした彼は、ビューティーのことを話して「何かが起こってる。誰かがいるんだ」とダグとリンに話した。一方、トレーラーの方では、侵入したジュピターがブレンダを押さえ付けて口を塞いでいた。ダグはリンにドアをロックするよう指示し、ボビーがトレーラーへ向かう。ジュピターはトランシーバーで指示し、木に縛り付けたボブを炎上させた。
悲鳴で目を覚ましたリンやボビーはボブの方へ走り、ダグはトレーラーに入って消火器を手に取るが、誰もブレンダが拘束されていることに気付かない。リザードはトレーラーに入り込んでインコを頬張り、ジュピターを押し退けてブレンダに襲い掛かった。リンがトレーラーの異変に気付いて戻ると、リザードがキャサリンを抱き上げていた。リンはフライパンで殴り掛かるが、腕を掴まれる。リザードは拳銃をキャサリンに突き付け、リンの動きを止めた。
そこへ戻って来たエセルは、背後からリザードを攻撃しようとする。しかしジュピターの叫び声で危機を悟ったリザードは、エセルに発砲した。銃声を耳にしたダグとボビーがトレーラーへ急ぐが、リンもリザードに撃たれた。ブレンダも殺そうとするが弾切れになったため、ジュピターとリザードはキャサリンを連れてトレーラーから逃走した。トレーラーへ戻って来たダグの眼前で、リンは絶命した。その様子を観察していたゴーグルは、ビーストに噛み殺された。
エセルが息を引き取った後、ボビーは「こんなの許せない」と飛び出そうとする。ダグが落ち着いて対策を練るよう諭すと、ボビーは「娘が誘拐されたのに手をこまねいているだけなんて、ただの弱虫だ」と喚いた。「お前に何が分かる」とダグが掴み掛かった直後、車の外から「ゴーグル」という声がした。人の気配が無いので、ダグたちが警戒しながら外へ出ると、千切れた腕が落ちていた。そして、その腕が握っているトランシーバーから、ゴーグルに呼び掛ける声が漏れていた。
ダグが「何が目的だ?どうしてこんなことをするんだ?赤ん坊を返せ」とトランシーバーに叫ぶと、キャサリンの泣き声が聞こえて来た。ダグはボビーに、「弾は何発ある?」と問い掛けた。翌朝を待って、ダグは戻って来たビーストに案内させて敵の元へ向かう。臭いを辿るピーストに導かれ、ダグは坑道を進む。血の跡を辿って坑道を抜けた彼は、集落のような場所に辿り着いた。発電機が動いている家を発見したダグが近付くと、ベビーベッドにキャサリンの姿があった。娘を救出しようとするダグだが、フリークスに殴られて気を失う…。

監督はアレクサンドル・アジャ、原案はウェス・クレイヴン、脚本はアレクサンドル・アジャ&グレゴリー・ルヴァスール、製作はウェス・クレイヴン&マリアンヌ・マッダレーナ&ピーター・ロック、製作総指揮はフランク・ヒルデブランド&コーディー・ツウェイグ、撮影はマキシム・アレクサンドル、編集はバクスター、美術はジョセフ・ネメック三世、衣装はダニー・グリッカー、特殊メイクアップ効果はグレゴリー・ニコテロ&ハワード・バーガー、視覚効果監修はジェイミソン・ゴーイ、音楽はトムアンドアンディー、音楽監修はデヴィッド・フランコ。
出演はアーロン・スタンフォード、キャスリーン・クインラン、ヴィネッサ・ショウ、テッド・レヴィン、エミリー・デ・レイヴィン、ダン・バード、トム・バウアー、ビリー・ドラゴ、ロバート・ジョイ、デズモンド・アスキュー、エズラ・バジントン、マイケル・ベイリー・スミス、ラウラ・オルティス、グレッグ・ニコテロ、イヴァナ・ターチェット、メイシー・カミレリ・プレツィオージ、ジュディス・ジェーン・ヴァレット、アダム・パーレル、マキシム・ギフォード他。


ウェス・クレイブンが撮った1977年の映画『サランドラ』のリメイク。
監督は『ハイテンション』で注目を浴びたアレクサンドル・アジャ。
ダグをアーロン・スタンフォード、エセルをキャスリーン・クインラン、リンをヴィネッサ・ショウ、ボブをテッド・レヴィン、ブレンダをエミリー・デ・レイヴィン、ボビーをダン・バード、ガソリンスタンド従業員をトム・バウアー、ジュピターをビリー・ドラゴ、リザードをロバート・ジョイ、ゴーグルをエズラ・バジントン、プルートをマイケル・ベイリー・スミス、ルビーをラウラ・オルティスが演じている。

この映画が不幸だったのは、2003年に『クライモリ』が公開され、シリーズ化されるほど人気を集めてしまったということだ。
リメイクではないのだが、『クライモリ』は露骨に『サランドラ』を模倣しており、「奇形が殺人鬼の集団が旅行者グループを襲う」というのは全く同じなのだ。
そうなると、この映画を見て「なんか『クライモリ』に良く似てるなあ」という感想を持つ人もいるだろう。
ホラー映画が好きなら、『クライモリ』を見ている可能性が高い。その一方、若い人であれば『サランドラ』を見ていない可能性もある。
そうなると、『サランドラ』のリメイクというよりも、『クライモリ』の類似品という印象を抱いてしまう人もいるんじゃないかと。
ただ、そもそも『サランドラ』はザックリと言ってしまえば、ウェス・クレイヴンが『悪魔のいけにえ』に自らの前作『鮮血の美学』の要素をミックスさせて作り上げたような映画だったので、これが何かの模倣に思われるってのは、ある意味では正しいのかも。

個人的には、『サランドラ』は「ずっと昔に見たような記憶はあるけど、内容は全く覚えてない」という存在だ。
だから、どんなジョギリショックを受けたのかも覚えていない。
そのため、この映画を『サランドラ』と比較して批評することは出来ない。
ただ、どうやらゴア描写が圧倒的にパワーアップしている以外、全体のストーリー展開やキャラクター設定などは『サランドラ』をなぞっており、あまり大きな改変は行われていないようだ。

基本的には、「残酷描写でお客様のご機嫌を窺いましょう」という映画である。『サランドラ』を見ている人でも、見ていない人でも、そこは変わらない。
それを考えると、最初の惨殺行為が行われるまでに30分以上も掛かっているのは、ちょっと勿体を付け過ぎじゃないかという気がしないでもない。
人間に限定すると、最初の犠牲者が出るまでに40分ほど掛かる。
っていうか、最初の犠牲者はボブなのだが、ジュビターが襲い掛かった時点では「車に頭を叩き付ける」というだけで、まだ惨殺行為には至っていない。

後半に入ると残酷殺人ショーが延々と続いて行くので、そこに向けての序奏を用意しておくのは、構成としては理解できる。
ただ、序奏としては長すぎるし、少々モタつきすぎかなと。
砂漠に何者かがいる様子を示し、何か恐ろしいことが起きそうな雰囲気を醸し出す作業はやっているので、ホントに平穏な時間がダラダラと過ぎて行くわけではない。その緊張感の作り方、不安の煽り方も、そんなに悪くはない。
ただ、テンポがイマイチかなと。
上映時間が107分なんだけど、あと15分ぐらいは詰められたんじゃないかと。

この映画、「フリークスたちによる殺人劇」という残虐描写だけでなく、その後に待ち受けているダグたちの反撃も同様に残虐な殺戮だ。
そして、それは「フリークスたちが冷酷で凶悪な行為をやったので、その報復として殺しまくる」という図式だから応援したり共感したりという感情が沸くのだ。
それを考えると、フリークスの残虐行為が短いんじゃないかと。
ビューティーの惨殺については復讐心のきっかけにならないので除外するとして、それ以外のボブ&リン&エセルの殺害、ブレンダの凌辱、キャサリンの拉致は、全て同じタイミングで遂行されているんだよね。
そこは、もう少し時間を掛けて、別々にやった方がいいんじゃないかな。
そうやってフリークスの残虐行為をたっぷりとアピールした上で、報復のターンに移った方が気持ちが燃えるんじゃないかなと。

ボビーがビューティーの惨殺について家族に打ち明けないのは、どうにも違和感が残る。
そりゃあ、「心配させるかもしれない」という気持ちが働いて言い出せない、という設定になっているのは分かる。ただ、何者かが惨殺したことは明らかなんだから、つまり犯人が近くにいるってことだ。
それなのに、「危険が近くにあるんですよ」ってことを家族に知らせないってのは、ちょっと解せない。知らせないことで、余計に家族を危険な目に遭わせる可能性の方が高いでしょうに。実際、そうなっているし。
そこはキャラクターの動かし方に無理を感じてしまうなあ。

「放射能の影響でフリークスになった連中が連続殺人鬼になる」というのは、かなりヤバい設定ではある。本来なら核実験の哀れな被害者であるはずの連中が、凶悪な殺人者として扱われるわけだから。
考えてみれば、ゴジラだって放射能の犠牲者なのに恐ろしい破壊者として扱われていた。ただしゴジラの場合、登場人物に「二度と核兵器を使ってはいけない」というメッセージを語らせ、ゴジラに対する同情も示していた。
しかし本作品の場合、フリークスたちは全く同情されない。
まあ同情心は沸かないわなあ。こいつら、ホントに凶悪で残酷なクソ殺人鬼どもなので。

「核実験の影響で誕生したフリークスの殺人鬼」というキャラクター設定に関しては『サランドラ』を引き継いでいるだけなので、この映画に文句を付けても仕方が無い。「オリジナル版がそうだったので」ということだ。
「それはヒドい設定だから改変しろ」と言いたくなる良識派の面々がいるかもしれないが、そういう人はたぶん見ないだろうし、見るべきじゃない。
私は良識派じゃないので、そこに文句を付けるつもりは無い。
でも、フリークスがブレンダをレイプするのはアウト。
こいつらは食料として人間を殺しているはずなので、それを性欲の対象として扱ったら「食人鬼」としてのキャラがブレる。

フリークス一家は全員がキチガイ殺人鬼というわけではなくて、末娘のルビーだけは人間性を失っておらず、優しい心の持ち主だ。
周囲が全てキチガイ殺人鬼で、外部の人間と接触したりマトモな人間性を知ったりすることも出来ない閉鎖された環境でずっと暮らしているのに、一人だけ優しい心の持ち主が育つなんてことは絶対に有り得ない。
ただ、そこも「オリジナル版がそういう設定なので、それを踏襲しているだけ」ということだ。
そこに関しては「だったらキャラクター設定を変更するなり、彼女だけが優しい心の持ち主になった理由を何か用意しておくなりした方がいいんじゃないか」とは思うが、そんなに大きなマイナスではない。

しかしルビーに関しては、別の部分で大きなマイナスが待ち受けている。
終盤、彼女はリザードに殺されそうになったキャサリンを救出し、撃たれそうなダグを助けて哀れにも命を落としてしまう。
出来れば最後まで生き延びる設定にしてやってほしかったが、彼女を殺すのであれば、それは絶対に報われなければならない行動だ。具体的には、「ダグたちがルビーの自己犠牲を知り、感謝したり同情したりする」という描写が必須ってことだ。
しかし実際には、ダグたちはルビーのことなんて全く頭に無い。
もちろん、それどころじゃない状況ではあるんだが、あまりにもルビーが不憫だわ。
ルビーは『ウルトラマン』におけるピグモン的な扱いにしなきゃダメだろ。

(観賞日:2014年6月6日)

 

*ポンコツ映画愛護協会