『ハイスクール・ミュージカル/ザ・ムービー』:2008、アメリカ

高校バスケットボール大会の優勝戦で、イースト高校ワイルドキャッツはライバルのウエスト高校にリードを許していた。前半が終了してロッカールームへ戻ったキャプテンのトロイ・ボルトンや親友のチャド・ダンフォースたちは、トロイの父であるコーチのジャックから掛けられた言葉で気合いを入れ直した。ガブリエラの声援を受けたトロイの奮起もあった、ワイルドキャッツは逆転勝利を収めた。
優勝記念のパーティーが開かれ、ジャックはアルバカーキ大学バスケット部のコーチであるケロッグにトロイとチャドを紹介した。2人はケロッグから、是非ともチームに来てほしいと勧誘されていた。アルバカーキ大学はジャックの母校であり、息子を進学させることは彼の夢だった。一方、ガブリエラは少女の頃からスタンフォード大学について母と話しており、無事に合格していた。2人とも希望の大学行きを決めたが、離れ離れになることへの寂しさを感じていた。
シャーペイ・エヴァンスは試験にプロムに卒業式と忙しくなるため、予定を管理してくれるアシスタントを掲示板で募集した。ロンドンから転校して来たばかりのティアラ・ゴールドは、それを見てシャーペイに声を掛けた。ティアラはシャーペイのロッカーを整理し、彼女が気に入るような準備を全て整えていた。シャーペイは彼女をアシスタントとして採用した。トロイたちの担任であるダーバス先生は、卒業アルバムの共同編集者であるテイラー・マッカーシーに事務報告を指示した。テイラーは卒業委員会のスケジュールやプロムのテーマについて説明した。
演劇部の部長であるシャーペイが春のミュージカルについて説明を始めると、部員のケルシー・ニールセンは参加者リストを勝手に作成した。その中にはトロイやガブリエラ、チャド、テイラー、ジークやジェイソンなどの名前が含まれていた。多くの生徒たちが多忙を理由に参加を断ろうとするが、ガブリエラは「みんなで一緒に何かをやる最後のチャンスでしょ」と全員参加を促した。誰も納得しない中で、トロイは「僕はやる」と手を挙げた。
ダーバスはミュージカルのテーマについて、「高校生活最後の日々を描く」と告げた。作曲はケルシー、振り付けはシャーペイの双子の弟であるライアンが担当する。ダーバスは生徒たちに、ジュリアード音楽院から奨学生の話が届き、4人の候補者が選ばれていることを明かした。シャーペイ、ライアン、ケルシーの次に名前を呼ばれたトロイは、冗談だと思って「僕は応募してない」と笑いながら言う。しかし実際に候補生となっていることを知り、トロイは困惑した。
今回が最後のチャンスだと考えていたシャーペイは、トロイやガブリエラの参加に腹を立てた。彼女はライアンに、「ケルシーはいつも一番の曲を彼らに回す。今回は私と貴方が歌えるようにして」と指示した。トロイはガブリエラをプロムに誘い、快諾を貰った。トロイはガブリエラから「稽古中は、とても楽しそう。なぜ素直に楽しいと言わないの?」と問われ、「父さんやチャドの前では言えない。2人はアルバカーキ大学のことを話していれば喜ぶ」と告げた。彼はガブリエラに、「まだアルバカーキ大学を選んだわけじゃない。誰にも話してないけど、他の大学からもオファーが来てる」と語った。
トロイはテイラーをプロムに誘いたいチャドのために、協力することにした。トロイに付き添われたチャドは、食堂でテイラーをプロムに誘った。テイラーは「光栄だわ」とOKし、チャドは大喜びした。後輩バスケ部員のジミーが付きまとうのを疎ましく思っているトロイは、「シャーペイが密かに君を思ってる」と嘘を吹き込んだ。ダーバスはジミーとティアラに、代役としての仕事を指名した。ティアラをランチに誘ったジミーは手応えを感じ、友人のドニーに「エンジンを掛けたまえ」と告げられた。
ガブリエラはスタンフォード大学の新入生プログラムに選ばれ、特別説明会に招待された。彼女はテイラーにだけ話すが、その会話をティアラが聞いていた。ティアラはシャーペイにそのことを教え、「3週間の特別プログラムなので、2週間後のミュージカルには参加できない」と述べた。ライアンはケルシーをプロムに誘い、OKを貰う。ライアンは嬉しそうな様子でシャーペイに報告するが、「楽譜を手に入れて」と要求された。
トロイはチャドに、「自分の未来が目の前で決められてるって思ったことは無い?」と問い掛けた。彼はチャドから「ジュリアードに選ばれたらどうする?」と問われ、「分からない」と答えた。ガブリエラはテイラーに、「アルバカーキが好きだから、来年もここにしようかな」と告げる。テイラーが呆れると、ガブリエラは「スタンフォード大学へ行くのを1年遅らせて、アルバカーキ大学の講義を受けることも出来る」と言う。トロイのために進路を変えようとしているガブリエラに、テイラーは冷静な判断を促した。
トロイはシャーペイから、ガブリエラが新入生プログラムに選ばれたことを聞かされる。トロイが驚いていると、シャーペイは「貴方に話してないってことは、まだ彼女は迷っているのね。でも参加を決意させるのに、貴方以上の人がいる?思い留まってる唯一の理由は、たぶん貴方よ」と告げる。トロイはガブリエラの家を訪れ、「プログラムに参加すべきだ」と言う。ガブリエラはスタンフォード大学への進学を1年延期するつもりだと話すが、トロイは「チャンスを先延ばしにしちゃダメだ。それが正しい選択だ」と説いた。
ガブリエラはトロイの説得を受け入れ、母の車でスタンフォード大学へ向かった。ガブリエラがミュージカルに参加できなくなったため、バーダスはシャーペイに彼女の代役を指示し、シャーペイの演じていた役にはティアラを配置した。トロイは父から他の大学と話していることについて指摘され、「父さんに教えてもらった通り、自分の将来は自分で決める」と苛立ったように告げた。深夜の学校に入り込んだトロイは、激しく踊りながら歌った。そこにダーバスが現れ、トロイの名前でジュリアードに応募したことを明かした…。

監督はケニー・オルテガ、キャラクター創作はピーター・バルソチーニ、脚本はピーター・バルソチーニ、製作はビル・ボーデン&バリー・ローゼンブッシュ、共同製作はドン・シェイン、製作総指揮はケニー・オルテガ、撮影はダニエル・アラーニョ、編集はドン・ブロシュー、美術はマーク・ホフェリング、衣装はキャロライン・B・マークス、振付はケニー・オルテガ&チャールズ・クラポウ&ボニー・ストーリー、音楽はデヴィッド・ローレンス。
出演はザック・エフロン、ヴァネッサ・ハジェンズ、アシュリー・ティスデール、ルーカス・グラビール、コービン・ブルー、モニク・コールマン、バート・ジョンソン、アリソン・リード、オリーシア・ルーリン、クリス・ウォーレンJr.、ライン・サンボーン、ケイシー・ストロー、マット・プロコップ、ジャスティン・マーティン、ジェンマ・マッケンジー=ブラウン、ジェシカ・タック、ロバート・カーティス・ブラウン、デヴィッド・リーヴァース、レスリー・ウィング・ポメロイ、ソコーホ・エレーラ、ヨランダ・ウッド、ジョーイ・ミヤシマ、スタン・エルズワース、デイヴ・フォックス、ジェレミー・バンクス、トッド・スナイダー、タラ・スターリング他。


アメリカのディズニー・チャンネルで放送されたミュージカル・ドラマの第3作にして最終作。これまでの2作はTV映画だったが、この最終作は劇場映画として製作されている。
監督のケニー・オルテガと脚本のピーター・バルソチーニは、1作目からのコンビ。
トロイ役のザック・エフロン、ガブリエラ役のヴァネッサ・ハジェンズ、シャーペイ役のアシュリー・ティスデール、ライアン役のルーカス・グラビール、チャド役のコービン・ブルー、テイラー役のモニク・コールマン、ジャック役のバート・ジョンソン、ダーバス先役のアリソン・リード、ケルシー役のオリーシア・ルーリン、ジーク役のクリス・ウォーレンJr.、プロム委員長のマーサ役のケイシー・ストロー、トロイの母親役のレスリー・ウィング・ポメロイは、1作目から連投しているキャスト。
ジェイソン役のライン・サンボーンやシャーペイ&ライアンの両親役のジェシカ・タック&ロバート・カーティス・ブラウンは、2作目からの続投。ガブリエラの母親役のソコーホ・エレーラやマツイ校長役のジョーイ・ミヤシマは、1作目からの復帰。
今回の新登場キャストは、ジミー役のマット・プロコップ、ドニー役のジャスティン・マーティン、ティアラ役のジェンマ・マッケンジー=ブラウン、チャドの母親役のデヴィッド・リーヴァースなど。

「TVドラマが人気だったし、映画にした方が稼げるぞ」という商売根性で安易に劇場版を作るってのは、日本のテレビ局が良くやる手口である。
しかし、こういう映画が製作されているってことは、それは日本だけの風潮ではないということだ。
まあ考えてみれば、テレビや映画の世界に携わる人間は日本よりアメリカの方が多いわけだから、そういう人間が出て来るのも当然っちゃあ当然だわな。
しかも本作品の場合、1作目がエミー賞2部門を獲得し、サウンドトラックが2006年度のアルバムセールスで1位になるぐらいの人気だったわけで、映画版を作りたくなるのも分からんではない。

私はシリーズ1作目を見た時に、「そこまで受けた理由って何だろう」と首をひねってしまった人間だ。
ようするに、お世辞にも出来の良いドラマだとは思えなかったのだ。
ディズニー・チャンネルのテレビ映画であり、ティーンズ向けの作品ってことは分かるけど、そんな事情に関係なく、単純に「シナリオが雑で作りがユルすぎる」と感じたのだ。
そういう意味では、この3作目の出来栄えが悪いのは、ある意味では納得できる。
同じスタッフが続けて作っているんだから、3作目だけ急に傑作に仕上がるなんてことは、まず有り得ない。

ってなわけで早々と書いちゃうけれども、これは紛れも無い駄作である。
ただし本作品が抱えている問題は、シリーズを通しての問題より、この3作目で持ち込まれた要素によって発生した物の方が大きい。
それは「進学に関する悩み」という要素だ。
トロイやガブリエラが最上級生になっているわけだから、「進学」をキーワードにして物語を構築したいってのは良く分かる。そして、それを使って物語を構築するのは、決して方針が間違ったではない。
ただし、「進路に悩む」という部分を大きく扱ったのは失敗だった。

進路に悩むという要素を盛り込むことで、トロイやガブリエラが妙に辛気臭い様子になってしまう。まだ前半は大きな影響がないけど、後半に入ると2人とも深刻に悩み始めてしまい、そのせいで映画全体にも妙に暗い雰囲気が醸し出される。
だけど、この映画って軽くて薄いので、トロイたちが深刻に悩んでもドラマとしての深みや厚みが出るわけじゃないし、マイナスしか無いんだよね。
そもそも、その悩みも、そりゃ高校生なりに深刻なのかもしれんけど、「名門スタンフォード大への進学を延期すべきか否か」など「どっちでもいいわ」としか思えない程度の内容だし。
なので、暗くなっちゃうような要素はバッサリと削ぎ落とすか、もしくは喜劇の中で簡単に解決してしまい、もっと弾けた雰囲気でお気楽なミュージカルに仕上げた方が良かったんじゃないかと思うのよね。

ただし、それ以外の部分でも出来栄えは冴えない。
やっぱりシナリオは雑で、例えば春のミュージカルの参加者リストに勝手に入れられた生徒たちは断ろうとしており、ガブリエラが参加を促しても納得せずに騒いでいたのに、ダーバスが色々と喋っている間に、いつの間にか全員が参加を受け入れたようになっている。
その場にいなかった他の生徒たちも、嬉しそうに駆け付けている。
多忙を理由に嫌がっていた連中が、どういう心境の変化で乗り気になったのか、それはサッパリ分からない。

ガブリエラは新入生プログラムについてテイラーに「貴方しか知らないの」と言うんだけど、アルバムの編集をやっている部屋で、しかも声を潜めるわけでもなく普通に喋っているんだよね。普通どころか、テイラーなんて大声で喋っている。
それなのに「貴方しか知らない」と言われてもねえ。
そりゃあティアラに聞かれても仕方が無いよ。
ティアラは盗み聞きしたわけじゃなくて、たまたま荷物を運んで来たら、普通にガブリエラたちが喋っていただけだからね。

バスケ部の後輩であるジミー&ドニーは、新しく登場させた意味が全く無い。
トロイとチャドが「ロッカーを勝ち取れ」と彼らの服を奪って追い掛けさせるシーンなんて、ホントに時間の無駄遣いでしか無い。トロイがジミーに「シャーペイが密かに思っている」と嘘を吹き込むのも、そこからジミーがシャーペイを口説いたり、その2人が恋仲に発展したりするわけじゃないから、やはり意味が無い。
それどころか、ジミーは「シャーペイが密かに思っている」とトロイに言われた直後、唐突にダーバスから代役を任命され、ティアラと軽い言い争いをした後、なぜか彼女をランチに誘っているのだ。
どういう狙いでそういう展開にしているのか、ワケが分からんよ。しかも、ティアラも何となく嬉しそうな表情で立ち去っているし。
だからと言って、じゃあティアラとジミーの間に恋愛劇があるのかというと、それも無いので、ホントにワケが分からん。

で、そんなシーンをすっかり忘れた頃になってから、ジミーはシャーペイに話し掛けている。
ただし、だからと言って、シャーペイを口説こうという意識が強いようにも見えない。
トロイの代役でシャーペイとデュエットするけど、彼女には嫌がられるし。
で、その後には「実はティアラが野心家で、シャーペイのやり方を盗むために近付いただけだった」ということが明らかにされるけど、どうでもいいとしか思えない。

ティアラにしろジミーにしろ、キャラを増やし過ぎて処理し切れていないと感じる。
新キャラを登場させたい気持ちは分かるけど、既存の登場人物だけでも大勢いるんだから、そいつらだけに絞り込んだ方が良かったんじゃないの。
ジークやマーサなんかは、ほとんど「ただ出ているだけ」という扱いになっているんだよね。
ティアラやジミーなんか削除しちゃって、そっちの扱いを大きくしてあげようぜ。

もちろん本作品の最大の売りはミュージカルシーンだが、「そのタイミングでホントにいいのか」と思う箇所もある。
チャドがテイラーをプロムに誘ってOKを貰った直後にミュージカルシーンが入り、「それは春のミュージカルの練習風景だった」という流れになっているんだけど、それよりも「チャドがテイラーをプロムに誘おうとする」という手順の部分をミュージカルで表現した方がいいんじゃないかと思うんだよね。
タイミングはOKでも、その後のミュージカルシーンに違和感を覚えるケースもある。
それはライアンがケルシーをプロムに誘うシーン。
軽くピアノで歌った後、ライアンがプロムに誘い、また2人でデュエットするのだが、画面が切り替わるとトロイやガブリエラたちが登場しており、「それは舞台の練習風景」というところへ雪崩れ込み、トロイとガブリエラがメインのシーンになってしまうのだ。
いやいや、そこはライアンとケルシーのシーンにしなきゃダメでしょうに。

中古車置き場でトロイとチャドが歌い出すシーンは、そこを舞台装置として使いたい気持ちは分かる。
だが、「トラックの部品を探しに行く」ということで急に中古車置き場が登場する展開がギクシャクしているし、そこでミュージカルシーンが入るのもギクシャクしているので、そもそもミュージカルシーン自体が不要だ。
たくさんのミュージカルシーンを盛り込んでいるのは、歓迎すべきことだ。
だけど、「こういう状況で心情表現をするために」とか、「ここで物語を上手く進行させるために」とか、そういう意図をあまり深く考えず、かなり適当な感じでミュージカルシーンを盛り込んでいるようにも思えてしまう。

ミュージカルの参加者リストに勝手に入れられた生徒たちは、「追試があるから勉強しなきゃ」「トラックの修理がある」「家庭科の試験のためにレシピを考えなきゃ」「アルバムの編集がある」などと拒む。
ケルシーが「これが最後のショーだから、みんなやりたいだろうと思っただけ」と釈明すると、ガブリエラは「ケルシーの言う通りよ。みんなで一緒に何かをやる最後のチャンスでしょ。ワクワクすることをやりましょう」と説く。
つまり、そのミュージカルを「シャーペイのショー」から「みんなのショー」に変えたのは、ガブリエラだ。
だから当然のことながら、彼女はミュージカルの中心に位置すべき存在なのだ。

ところがガブリエラは、新入生プログラムの説明会に出席するため、ミュージカルには不参加となる。
しかしガブリエラは「みんなで参加しましょう」と訴え掛けた時点で、新入生プログラムに選ばれる可能性が高いことを知っていた。そして選ばれた場合、ミュージカルと予定が重なってしまうことも分かっていた。
それなのに「みんなで参加しましょう」ってのは、あまりにも不誠実で無責任でしょ。
それだけでなく、ガブリエラには「あれだけラブラブだったトロイを簡単に捨てちゃう」という問題もある。
説明会に参加するためにスタンフォードへ向かった彼女はトロイに電話を掛け、「プロムに戻って、また離れるの?それで卒業式に出て、また離れる?私には出来そうも無い」と言い、そのままアルバカーキに戻らず別れてしまおうとするのだ。
結果的にはトロイがスタンフォードまで会いに行き、ガブリエラもミュージカルに参加するんだけど、「今までのラブラブぶりは何だったのか」と言いたくなるぞ。

ガブリエラが電話で別れを告げたことをトロイから聞いたチャドは、「卒業したら、高校時代の恋人と普通は付き合わない。ガブリエラは一歩進んだんだ」と言う。
だけど、そこまでベタベタに愛し合っている関係だったのに、遠距離恋愛で関係を続行しようという考えは最初から皆無なのよね。
そんで最終的には、トロイが「カリフォルニア大学バークリー校でバスケと演劇の両方を続ける。しかもアルバカーキと比べればスタンフォードから近いので、ガブリエラとの交際も続行できる」という選択をすることで問題を解決するんだけど、ちっとも応援する気持ちが沸かないわ。
その色々と都合が良すぎる着地は何なのかと。

(観賞日:2015年1月15日)

 

*ポンコツ映画愛護協会