『ハイ・クライムズ』:2002、アメリカ

弁護士クレア・キュービックは、夫トムと共に子作りに励んでいる。ボスのアレックスからはパートナーへの昇進内定を貰い、公私共に順調そのものだ。そんなある日の深夜、自宅に泥棒が侵入したことにトムが気付いた。トムが近付こうとすると、泥棒は逃げていった。クレアは、慌てて警察に電話を掛けた。それが全ての始まりだった。
翌日、クレアがトムとショッピングを楽しんでいると、いきなり武装したFBIに取り囲まれた。トムが連行されたため、クレアはマリンズ特別捜査官に抗議する。マリンズはクレアに、12年前から手配されていた元海兵隊員ロン・チャップマンの指紋と、昨夜の事件で採取したトムの指紋が一致したのだという。だが、軍事裁判になるため、詳細は教えられないらしい。
クレアはカリフォルニア州サン・ラザロ基地へ出向き、トムと面会した。トムはクレアに、無実の罪を着せられたのだと釈明する。クレアは弁護を担当するエンブリー中尉から、トムが9人の民間人を殺した罪に問われていることを聞く。訴追を担当するのは、やり手で知られるウォルドロン少佐だ。それに対し、まだ若いエンブリーは勝訴の経験が無かった。
クレアは自分がトムの弁護を担当すると決め、詳しい話を聞く。12年前、エルサルバドルのモンテ・アズールという町で、アメリカ人青年3名が爆破テロによって殺害される事件が起きた。トムの所属する小隊はビル・マークス准将に命じられ、反政府ゲリラの指導者ダニロ・チャコンの捜索に出向いた。小隊はチャコンが潜んでいるという村に到着したが、トムの仲間ヘルナンデスが急に民間人を虐殺した。トムはマークスとヘルナンデスによって、その罪を着せられたのだという。
クレアはアレックスに連絡し、元海兵隊員で勝訴の経験を持つ弁護士を紹介してもらう。その弁護士チャーリー・グライムズは、上官の妻と不倫関係になって海兵隊を辞めていた。さらに彼には、アルコール依存症の過去もあった。クレアは積極的とは言えない態度を示すチャーリーに対し、半ば強引に協力を取り付けた。
トムが民間人を射殺したのは小隊で一緒だった7名だが、今も生きているのはヘルナンデスと今は収監中のトロイ・アボットだけで、残る5名は既に死んでいた。強盗事件で殺された者もおり、そこにチャーリーは不審を抱く。チャーリーは審問長ファレル大佐やウォルドロンの前で、公開裁判の権利を諦めていないと主張した。ウォルドロンはクレアに対し、過失致死で懲役5年にするという取り引きを持ち掛けてきた。しかしトムは取り引きを拒否し、無罪を主張すると言う。
自宅に戻ったクレアは何者かに銃を突き付けられ、取り引きに応じるよう脅迫される。それを知ったトムは、ヘルナンデスの仕業だと断言した。自分たちの行動が漏れていることから、クレアはエンブリーの裏切りを疑い、彼をクビにした。チャーリーはヘルナンデスが証人として呼ぶため仮釈放させたアボットに素性を隠して接近し、「実際は虐殺を見ていないが上官の命令で証言した」という発言をテープに録音した。しかしアボットが失踪し、ファレルはテープを証拠として使うことを却下する…。

監督はカール・フランクリン、原作はジョセフ・フィンダー、脚本はユーリー・ゼルツァー&ケイリー・ビックレイ、製作はアーノン・ミルチャン&ジャネット・ヤン&ジェシー・ビーフランクリン、共同製作はナオミ・デスプレス、製作協力はデニス・E・ジョーンズ、製作総指揮はリサ・ヘンソン&ケヴィン・レイディー、コンサルティング・プロデューサーはエリック・シャーマン、撮影はテオ・ヴァン・デ・サンデ、編集はキャロル・クラヴェッツ=アイカニアン、美術はポール・ピータース、衣装はシャロン・デイヴィス、音楽はグレーム・レヴェル。
出演はアシュレイ・ジャッド、モーガン・フリーマン、ジェームズ・カヴィーゼル、アダム・スコット、アマンダ・ピート、ブルース・デヴィソン、トム・バウアー、ファン・カルロス・ヘルナンデス、マイケル・ガストン、ジュード・チコレッラ、エミリオ・リヴェラ、マイケル・シャノン、ジョン・ビリングスレイ、デンドリー・タイラー他。


ジョセフ・フィンダーの小説『バーニング・ツリー』を基にした作品。
クレアをアシュレイ・ジャッド、チャーリーをモーガン・フリーマン、トムをジェームズ・カヴィーゼル、エンブリーをアダム・スコット、クレアの妹ジャッキーをアマンダ・ピート、マークスをブルース・デヴィソン、マリンズをトム・バウアー、ヘルナンデスをファン・カルロス・ヘルナンデス、ウォルドロンをマイケル・ガストン、ファレルをジュード・チコレッラが演じている。

トムに殺人容疑が掛かった後、クレアが「本当に夫が犯人なのでは」と疑心暗鬼に陥ることは皆無に等しい。トムに疑惑が生じるポイントが無いわけではないが、その際にも基本的には夫を信じるスタンスでクレアがトムに質問を投げ掛け、あっさりと疑惑は消滅する。
これがミスディレクションだとしたら、あまりに見え見えだなあと思っていたら、そのまんまミスディレクションだった。

クレアは自分で弁護をすると宣言しながら、直後に海兵隊出身で勝訴経験のある人物に手助けを頼む。だったら最初から、その人物に弁護を依頼すりゃいいような気もするが、それはともかく、その依頼するチャーリーは頼りになりそうには見えず、やる気も無さそうな男だ。「やっぱり手助けを頼むのはやめよう」と思ってもおかしくないのだが、クレアの考えは変わらない。
そんなわけだから、「最初はチャーリーを信頼しきれなかったクレアが、少しずつ頼るようになっていく」ということは無い。最初から、チャーリーは普通に「頼れる男」になっている。
そうなると、アルコール依存症だったという設定に、あまり意味が無いんじゃないかと思えてくる。後半に入って酒に飲まれるシーンもあるけど、やはり大した意味は感じないし。

トムがウォルドロンから取引を持ち掛けられた時、拒絶するのが理解できない。
完全ネタバレになるが、彼は実際に虐殺犯なのだ。
自分が犯人で、しかも状況を考えても圧倒的に不利なのに、5年の服役で済むという取り引きを断るってのは、絶対に無実になるという自信でもない限り不可思議だ。しかし、自分が無実になるための仕掛けがあるわけでもない。
その余裕は、どこから来るのか。

最初に「ヘルナンデスが本当の犯人で、彼とマークスが罪を被せた」ということを示して、それ1本で話を進めていこうとしているのが、ちょっとキツい。
「その裏に何か陰謀が隠されているのでは」と観客に思わせた方が、そこがミスディレクションになるし、トムを無実に見せ掛けているトコロにもあまり目を向けさせずに済むだろう。
でも陰謀が出てくるのは、かなり遅い。

この話が最もセールスポイントに出来るであろうモノといえば、たぶん「軍事裁判の特殊性」ということになるだろう。
しかし裁判が始まってみると、そこまでの特殊性は感じない。判事(審問長)が敵対的だとか、証拠物件が採用されないとかいうのは、普通の法廷劇でも相手サイドと判事がグルになっていれば有り得るような状況だ。
というか、そもそも法廷劇より、法廷外のシーンが多い気がするし。
裁判の終了も、あっけない感じになってるし。

ミステリーとしてツラいなあと思うのは、クレアがヘルナンデスの脅迫と戦ったり、マークスの隠蔽工作を暴こうとしたりしているのだが、そっちの方向に犯人がいないってことだ。
クレアを脅迫したり暴行を加えたりするのは、真犯人サイドの人間ではないってことだ。
それもあって、最後のドンデン返しが取って付けたような感じになっている。

 

*ポンコツ映画愛護協会