『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』:2020、アメリカ

ジョーカーと破局したハーレイ・クインはローラー・ゲームで大暴れし、ローマン・シオニスが経営するクラブで悪酔いする。ローマンの運転手のレミーが悪態をつくと、ハーレイは彼に飛び乗って脚を折った。店内が静まり返ると、ローマンは全ての客に酒を無料で提供した。彼はハーレイを咎めず、「あいつが悪い」とレミーをクビにした。ハーレイは破局を口外しておらず、ローマンはジョーカーとの関係を考えて穏便に済ませたのだ。
ハーレイはジョーカーとの交際が続いているように見せかけ、特権を満喫していた。しかし女性グループの「別れたらしいよ」「1人じゃ何も出来ない」という会話を耳にして、完全に切れたことを世間に示そうと考えた。彼女はトラックを盗み、思い出の化学薬品工場に突入させて大爆発を起こさせた。一方、刑事のレニー・モントーヤはクラブで4人の男が殺された事件を捜査していた。彼女は1人が標的で、他の3人は巻き添えだと推理した。レニーは10年前に大事件を解決したが、手柄を同僚に奪われて今もヒラのままだった。
現場を見たレニーは、犯人がローマンに雇われた新しい殺し屋だと確信した。爆発音で外に出た彼女は、化学薬品工場の事件を知った。現場に落ちていたハーレイのネックレスを警官から渡されたレニーは、ジョーカーと破局したことを悟った。翌朝、ローマンは条件提示に応じなかったキオと妻子を吊るし、手下に始末を命じた。ハーレイはレニーに見つかり、慌てて逃げ出した。その途中で彼女は、自分を恨むラルフ・マレーやレミーたちと遭遇した。ハッピーという男も狙って来るが、バイカーの女がクロスボウで始末して去った。しかしハーレイは、武装した連中に包囲された。
レニーが警察署に戻ると、顔見知りの孤児であるカサンドラ・ケインが取り調べを受けていた。レニーは自分から手柄を横取りして警部になったパトリック・エリクソンに、「ローマンの起訴は難しい。記念館と学校の半数は彼の名が付いてる」と告げられる。レニーの元恋人で検事補のエレン・イーは、殺人に関わる証拠が無いと指摘する。レニーは「バーティネリ家のダイヤがある」と言い出し、情報が暗号化されている宝石だと告げた。
15年前、マフィアのバーティネリ家が惨殺された。狙いは大金が入っている秘密の海外口座だった。そして、その情報がダイヤに隠されているのだ。レニーは「ダイヤがローマンに渡ればゴッサムを支配される」と訴えるが、エリクソンは難色を示す。しかしレニーが「検察は立件の準備に動いてる」と嘘をつくと、エリクソンは「それなら話は別だ」と態度を変える。ただし彼はレニーではなく、部下のマンローに捜査を命じた。レニーはエレンから、「私の仕事を邪魔しないで」と怒られた。
レニーは知らない女性から電話を受け、「カサンドラを見つけて。ダイヤを持ってる。殺されるわ」と告げられた。ハーレイは警察署へ乗り込んで大暴れし、カサンドラの居場所を教えるよう要求した。1週間前、ブラックキャナリーの異名を持つダイナ・ランスは、歌姫としてローマンのクラブで働いていた。ローマンは金獅子会のキオに手を組もうと持ち掛けるが、「金獅子会はファミリーを重んじる」と断られた。ローマンに飼われているダイナがカウンターで飲んでいると、ハーレイが声を掛けて破局を打ち明けた。
翌朝、店を出たダイナは、ハーレイが男たちに車で拉致されそうになっている現場を目撃した。ダイナは一味を退治し、ハーレイを助けた。その様子を見たローマンは手下のザーズをダイナの元へ向かわせ、運転手に昇進させることを伝える。ダイナがアパートに戻ると、階段にカサンドラが座っていた。補助金目当てで彼女を引き取った里親は、部屋で喧嘩をしていた。ダイナは「こんな日ばかりじゃないよ」とカサンドラを励まし、お菓子代を渡した。
ローマンの運転手として働き始めたダイナにレニーが接近し、「前任は私の協力者だった」とダイヤに関する情報提供を求めた。しかしダイナは母が警察に協力して見殺しにされた過去があり、レニーの要求を拒否した。ローマンはザーズから、クロスボウ・キラーに手下が殺されたことを知らされた。ローマンがダイナと話していると、ザーズは「昨夜、エース化学が爆破された。犯人はハーレイだ」と告げる。ハーレイがジョーカーと別れたと知らされたローマンは、今すぐ見つけて連れて来いと命じた。
ローマンはダイナに「ブツの受け取りに行け」と命じ、ザーズと一緒に行くよう告げた。ダイナは中央銀行でダイヤを受け取り、ザーズに渡した。カサンドラはザーズからダイヤを盗み取るが、直後に別件で警官に逮捕された。カサンドラがパトカーで連行される時、ダイヤを盗まれたと気付いたダイナとザーズは後を追うが見失った。カサンドラはパトカーの中で、ダイヤを飲み込んだ。ダイナたちからダイヤを盗まれたと報告を受け、ローマンは激昂した。そこへハーレイを捕まえたという知らせが届き、ザーズは殺しに行くよう促した。
ハーレイはローマンに悪態をつくが、ザーズがナイフを突き付けると焦って「無くしたダイヤを探す」と持ち掛けた。ローマンは夜12時の期限を設け、ハーレイを解放した。彼はカサンドラに賞金50万ドルを懸け、街中に知らせた。それを知ったダイナがレニーに匿名で電話を掛け、カサンドラの危機を伝えたのだ。
ハーレイは警官からカサンドラが7番房にいることを聞き出し、警備装置を壊して留置場へ行く。他の牢も開いて囚人たちが襲い掛かり、ハーレイが戦っている間にカサンドラは逃げ出した。ハーレイは囚人たちを始末し、後を追う。彼女は襲って来たローマン手下たちを退治し、銃を向けたレニーもKOした。ハーレイはカサンドラを車に乗せて脱出し、ダイヤを渡すよう詰め寄った。カサンドラがダイヤを飲み込んだと聞き、ハーレイはスーパーで下剤を入手する。彼女は食料も調達し、金を払わずに逃亡した。
ハーレイはドクが営む中華料理店へ行き、2階にある自分の下宿にカサンドラを招き入れた。ドクの元にはバーティネリ家の娘のヘレナが現れ、「ある人の居場所を捜してる」と告げた。ヘレナは家族がステファノ・ガランテに惨殺された時、1人だけ生き残った。ガランテの手下は彼女を密かに連れ出し、シチリア島の実家で育てた。ヘレナは復讐心を胸に秘め、15年に渡って暗殺者の修業を積んだ。ゴッサムに戻ったヘレナは次々に標的を殺害し、クロスボウ・キラーと呼ばれるようになった。
レニーはイーに協力を要請するが、エリクソンから停職を命じられた。ドクが金目当てで情報を売ったため、ハーレイは部屋を爆破された。彼女はローマンに電話を掛け、カサンドラを引き渡すから自分を狙う敵を排除するよう取引を持ち掛けた。ローマンは承諾し、ダイナに取引現場であるマイル遊園地のブービートラップまでザーズを車で送るよう命じた。レニーはメールで情報を知り、マイル遊園地へ向かう。車でマイル遊園地へ向かうダイナはバイクの尾行に気付くが、ザーズには知らせなかった。
ザーズはダイナの携帯画面を見て情報を流していいると気付き、ローマンに連絡を入れた。ザーズが「殺しますか」と訊くと、ローマンは自ら出向くことを伝えた。ハーレイはカサンドラを椅子に縛り付け、ザーズの到着を待った。そこへレニーが飛び込むが、ハーレイに撃退された。すぐにザーズが現れ、ハーレイに麻酔弾を撃ち込んだ。ダイナはカサンドラを助けようとするが、ザーズに銃を突き付けられた。そこにヘレナが登場し、ザーズに矢を撃ち込んだ…。

監督はキャシー・ヤン、脚本はクリスティーナ・ホドソン、製作はマーゴット・ロビー&ブライアン・アンケレス&スー・クロール、製作総指揮はウォルター・ハマダ&ゲイレン・ヴェイスマン&ジェフ・ジョンズ&ハンス・リッター&デヴィッド・エアー、共同製作はクリスティーナ・ホドソン&ドナルド・L・スパークス、撮影はマシュー・リバティーク、美術はK・K・バレット、編集はジェイ・キャシディー&エヴァン・シフ、衣装はエリン・ベナッチ、視覚効果監修はグレッグ・スティール、音楽はダニエル・ペンバートン、音楽監修はシーズン・ケント&ゲイブ・ヒルファー。
出演はマーゴット・ロビー、メアリー・エリザベス・ウィンステッド、ユアン・マクレガー、ジャーニー・スモレット=ベル、ロージー・ペレス、クリス・メッシーナ、エラ・ジェイ・バスコ、アリ・ウォン、フランソワ・チャウ、ダナ・リー、スティーヴン・ウィリアムズ、マット・ウィリグ、デレク・ウィルソ、デヴィッド・ウーリー、サラ・モンテス、イザベル・パクザド、ダニエル・バーンハート、KC・ストルブ、ジャッキー・シュー、パロマ・ラビノフ、ジュゼッペ・ブカロ、ジェームズ・ヘンリー・ウィリアムズJr.、ミユキ・マツナガ、アンナ・ミカミ、ブルーノ・オリヴァー、ケイシャ・タッカー、ジェレミー・デンズリンジャー、マイケル・マシーニ他。


DCエクステンデッド・ユニバースの第8作。
監督のキャシー・ヤンは、サンダンス映画祭で審査員特別賞を受賞した2018年の『Dead Pigs』に続く長編2作目。
脚本は『バンブルビー』のクリスティーナ・ホドソン。原作はチャック・ディクソンとゲイリー・フランクのコミック『バーズ・オブ・プレイ』。
ハーレイをマーゴット・ロビー、ヘレナをメアリー・エリザベス・ウィンステッド、ローマンをユアン・マクレガー、ダイナをジャーニー・スモレット=ベル、レニーをロージー・ペレス、ザーズをクリス・メッシーナ、カサンドラをエラ・ジェイ・バスコ、エレンをアリ・ウォン、キオをフランソワ・チャウ、ドクをダナ・リー、エリクソンをスティーヴン・ウィリアムズ、ハッピーをマット・ウィリグ、モンローをデレク・ウィルソンが演じている。

映画の冒頭ではアニメーションが使われ、「ハーレイが父に捨てられ、シスターに育てられ、大学で博士号を取得し、精神科医になり、ジョーカーと恋に落ちて、でも捨てられて」という経緯をナレーションでザックリと紹介する。
ハーレイというキャラクターを主役にして話を作るのなら、「博士号を持っている精神科医という知的で聡明な女性が、ジョーカーとの恋によって狂ったビッチに変貌する」という部分は大いに使えそうだ。
だが、わずか2分程度で、そこは片付けてしまう。
アニメの段階で破局まで到達しており、実写パートに入って早々に「全て吹っ切って自立した女になる」と宣言するので、「ジョーカーの女」という要素も捨て去っている。

ハーレイはジョーカーと完全に切れたことを世間に示そうと決意した直後、トラックを奪って化学薬品工場に突っ込ませる。大爆発が発生すると、彼女は「全て吹っ切ってリセットする。自立した女になるのよ」と宣言する。
だけど、ちっともスカッとするスタートにはなっていないからね。バカみたいな理由で、シャレにならない事件を起こしているだけだからね。
しかも、「覚醒したいのは私1人じゃなかった。これは私たちの物語」ってことで、すぐにレニーのターンに入るのだ。
いや、導入部から間違えているだろ。

しかも、じゃあ後に「バーズ・オブ・プレイ」を組むメンバーが順番に登場するのかと思ったら、レニーのパートの次はローマンなのよね。
そこでは「ブラックマスク」としてのローマンの姿も挿入されるが、そんなの後でいいでしょ。っていうか、ローマンのパートを入れるのも、後回しでいいし。
『スーサイド・スクワッド』で唯一の光だったハーレイ・クインを、もっと全面的に押し出せよ。
ジョーカーの女という要素を切ったのも間違いなら、すぐに他のヒロインたちを出して集団劇にしちゃうのも間違いだよ。

レニーとブラックマスクは登場シーンで名前が文字表記されるので、「主要キャラは紹介のために名前が表示される」という形を取っているのかと思った。だから、その後に出て来るも、主要キャラなのかと思った。
しかし実際には、その場限りのチョイ役なのだ。
だったら、そこを粒立てるのは何なのかと。
ハーレイがレニーに捕まるまでのシーンをオシャレに演出しているつもりなのかもしれないけど、無駄にゴチャゴチャしているだけだよ。

「ジョーカーの恋人」ってのはハーレイ・クインのアイデンティティーであり、そのキャラクターを描く上での生命線と言ってもいい。
ところが「#MeToo」運動の高まりが影響したのか、ハーレイ・クインをジョーカーから切り離して描く企画になっている。ジョーカーのためでなく、自分のために戦うヒロインとして描かれている。
でもハーレイの魅力を最大限に引き出そうとするなら、ジョーカーとの関係は切っても切り離せない。いや絶対に切り離すべきではない。
世間の潮流には逆らうことになっても、ハーレイは恋愛至上主義のヒロインとして狂い咲きさせるべきだったのよ。

ハーレイ・クインを含めた女性キャラクターの面々は「男に媚びない女性像」の象徴の如くに描かれ、「王子様なんて要らないわ」という最近のディズニー・プリンセスみたいになっている。
ちゃんとコミックの原作があるので、「こんなのハーレイ・クインじゃないやい」と言うのは間違いなのかもしれない。だけどハーレイ・クインは、もっとクレイジーなトリックスターじゃないと。
それを考えると、別のキャラを語り手や狂言回しのような形で配置して、「そいつが関わるヤバい女」としてハーレイを描くようにした方が良かったのでは。
例えるなら、『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』みたいな感じね。

ハーレイはハッピーがバイカーに始末された直後、銃を持った連中に包囲されて「停戦」と口にする。そこで包囲した連中はレニーの仲間で、ハーレイは逮捕されたのかと思ったら、しばらくして警察署に乗り込んで来るシーンがある。
どういうことなのかと思っていたら、包囲したのはローマンの手下だったのね。
ただ、どうやって逃げ出したのか、なぜ逃げたのならレニーが追っていない理由は何なのかと思っていたら、その辺りも少し話が進むと説明される。
でも、そこが無駄に分かりにくいのよね。

その理由は簡単で、レニーの登場シーンでは「4分前」に遡り、ダイナがハーレイと出会うシーンでは「1週間前」に遡るなど、時系列をシャッフルしているのだ。
その後、ハーレイが「停戦」と言うと1週間前に時間を遡って、そのシーンが20分後に再び描かれる。ここで初めて、ハーレイがローマンの手下に捕まったことが明かされる。
また、ダイナがドクの店に来ると、彼女を説明するための回想パートが入る。
そのように前半は時系列を組み替えているんだけど、無駄に入り組んでいる構成だなあと感じる。

なぜハーレイがダイナにジョーカーとの破局を打ち明けるのか、その理由は全く分からない。出会ったばかりだし、喋って仲良くなったわけでもないし、歌に心を揺さぶられたわけでもないし。
ハーレイの出番を削って他のキャラを勃たせようとするわ、変に話をこねくり回すわと余計なことをしている一方で、色々と雑なんだよなあ。
あと、バーティネリ家のダイヤに関する設定は無駄にゴチャついてるなあ。
どうせマクガフィンみたいなモンなんだから、そんな入り組んだ設定なんて要らないよ。キャラクターの魅力で引っ張るような、単純明快な作品で良かったのよ。

終盤に入ると「ローマンが共通の敵」ってことで、女たちが手を組んで戦う展開に入る。そこに向けて物語を紡いでいるはずだが、共闘が決まっても高揚感には結び付かない。
あと、共闘が始まったら「形勢逆転で大勝利」へ一気に畳み掛けた方がいいよ。そこで苦戦させると、流れが悪くなる。
それと、アクションシーンはもっとケレン味たっぷりでもいいと思うんだよなあ。
もっとシンプルに、「ハーレイ・クインが大暴れしてスカッとするアクション」として作れば良かったのに。

(観賞日:2022年2月24日)

 

*ポンコツ映画愛護協会