『ヘンゼル&グレーテル』:2013、アメリカ&ドイツ

ある夜、女は夫に「あの子たちを森へ連れて行って」と指示した。夫は息子のヘンゼルと娘のグレーテルを起こし、森へ連れて行った。そして「ここにいろ、すぐに戻る」と告げ、2人を置き去りにした。兄妹は、両親に捨てられたのだ。森を彷徨った2人は、お菓子の家を発見した。お菓子を食べていると玄関の扉が開き、兄妹は魔女に捕まった。ヘンゼルは牢屋に入れられ、お菓子を食べて太ることを強要された。召し使いとして扱き使われたグレーテルは、隙を見て拘束を外す。魔女は魔法で攻撃するが、なぜか効果が無かった。グレーテルはヘンゼルの拘束も外し、2人は魔女を火あぶりにして退治した。
ヘンゼルとグレーテルは両親の元へは戻らず、ウィッチハンターとして活躍するようになった。数年が経過し、すっかり有名になった2人は、エンゲルマン町長から魔女退治の依頼を受けた。2人が町に到着すると、ベリンジャー保安官がミーナという女を魔女と断定して処刑しようとしていた。エンゲルマンは証拠も無しに処刑することを止めようとするが、町民たちはベリンジャーに賛同していた。
ヘンゼルとグレーテルが駆け付けてミーナを調べ、「彼女は潔白だ」と告げた。町民たちは2人を厄介者扱いして嫌悪するが、ヘンゼルは「さらわれた子供たちが生きているなら、俺たちが助け出してやる。だが、この人に手を出したら黙っちゃいないぞ」と述べた。激昂するベリンジャーに詰め寄られたグレーテルは、すました顔で頭突きを食らわせた。ベリンジャーの部下たちが銃に手を掛けようとすると、ヘンゼルがショットガンを構えて「動くな」と脅した。
エンゲルマンはヘンゼルとグレーテルに、北の森に怪しい小屋があるという情報を教えた。小屋に乗り込んだ兄妹は、魔女を見つけた。2人は逃げる魔女を追い掛けて捕まえるが、子供たちを拉致した犯人ではなかった。しかし2人は手掛かりとして、ある絵図を入手した。それは、「血の満月」と呼ばれる月蝕を示す図だ。魔女にとって最も神聖な夜で、3日後の夜に訪れる。2人は絵図をエンゲルマンに見せ、血の満月のことを説明した。
子供たちが誘拐された場所は、町の近くばかりだった。そんな目立つ行動を魔女が取ったことに着目したヘンゼルは、何か理由があると確信した。グレーテルはエンゲルマンに、最近になって魔女の活動が活発化していることを話す。血の満月の力に引き寄せられて、隠れていた魔女たちが出て来ているのだと彼女は解釈していた。エンゲルマンは森番のジャクソンを呼び、魔女が最後に目撃された場所まで兄妹を案内させることにした。するとヘンゼルとグレーテルは、夜は危険なので朝になってから出発すると告げた。
ベリンジャーは男たちに報酬を約束し、夜の内に魔女の森へ向かうよう命じた。しかし森に入った男たちは、魔女のミュリエルに襲われて命を落とした。一方、酒場でジャクソンから誘拐事件について聞いたグレーテルは、父親と3人の子供が襲われたのに誘拐されたのが1人だったという出来事があったことを知る。グレーテルは「いつもと違う。何かが変だ」と感じるが、ヘンゼルは全く気にしなかった。
ヘンゼルとグレーテルのファンだという青年のベンが2人に気付き、興奮した様子で話し掛けて来た。質問を受けたヘンゼルは疎ましそうな表情を浮かべるが、グレーテルに促されて返答した。しかし「魔法が効かないって本当ですか?初めて倒した魔女と関係あるんですか。全ての始まりは、その戦いからでしょ?」といった質問には、ヘンゼルだけでなくグレーテルも返答を避けたがる態度を示した。
男が1人だけ森から戻り、酒場に駆け込んで仲間が殺されたことを明かす。グレーテルに話し掛けた彼は「伝言がある」と口にした直後、ミュリエルの呪いで破裂した。一方、ミュリエルの元には角の生えた魔女と赤毛の魔女が来て、近くにウィッチハンターがいることを話す。「材料は集めたんだろうね」と確認するミュリエルに、2人は「もちろんよ」と言う。さらに2人は嬉しそうな笑みを浮かべ、拉致してきた少年を見せた。
ミュリエルたちは子供を監禁している屋敷へ少年を連行し、ウジ虫を彼の口に突っ込んで強引に食べさせた。調合した魔法の薬を飲んだ3人は、短時間なら手を火であぶっても熱くない体に変貌したことを確かめる。ミュリエルは「これで私たちは無敵になれる」と口にした。その効力が永遠に続く薬を作るために、ミュリエルは準備を進めていた。ヘンゼルとグレーテルは罠を仕掛け、角の生えた魔女を捕獲した。エンゲルマンは取り調べのため、嫌がるベリンジャーを無視して魔女を保安官事務所に連行した。
拘束された角の生えた魔女は特殊能力を使い、赤毛の魔女にグレーテルの居場所を教えた。ヘンゼルとグレーテルは、角の生えた魔女を尋問する。しかし彼女は暴力を受けても子供をさらった場所は教えず、不敵に笑って「もうすぐ血の満月が12になる。それが集まったら、残るターゲットは1つだけ」と言う。ヘンゼルとグレーテルは今まで拉致された子供が11人であることを確かめ、もう1人が狙われることを確信した。
ヘンゼルとグレーテルは、次の標的が4月生まれの女の子だと察知した。出生記録を調べたヘンゼルは、メアリー・ベルマーという少女が標的になると突き止めた。しかしミュリエルと赤毛の魔女は町を襲撃し、メアリーを拉致した。ヘンゼルはメアリーを追い掛けるが、赤毛の魔女に襲撃された。ミュリエルはグレーテルの前に姿を現し、怪力で圧倒して「アンタは私が欲しい材料を持ってる」と告げる。彼女は発砲して来たジャクソンを始末するが、その間にベンが傷付いたグレーテルを荷車に積んで逃亡した。
翌朝、ベリンジャーは「全てはウィッチハンターのせいだ」と町民たちに告げ、「それは間違っている」と否定するエンゲルマンを銃殺した。グレーテルはベンの家で目を覚まし、ベリンジャーが自分たちを罪人扱いしていること、ヘンゼルが魔女のホウキに乗って戦っていたことを知る。ベンの持っている魔女の資料を目にしたグレーテルは、母親そっくりの女性の似顔絵を発見した。ベンによると、その女性は過去に町外れで暮らしていたらしい。町民たちは魔女と断定し、火あぶりにしたのだと彼は語った。
ヘンゼルは木の枝に宙吊りでぶら下がったまま気絶していたが、通り掛かったミーナの声で目を覚ました。ヘンゼルを捜しに出掛けたグレーテルは、ベリンジャーと部下たちに捕まった。ベリンジャーはグレーテルを殴り付け、レイプしようとする。だが、それを目撃していた魔女の手下である怪物のエドワードが、ベリンジャーと手下たちに襲い掛かって始末した。エドワードはグレーテルに湧き水を飲ませ、傷を手当てして立ち去った。ヘンゼルとグレーテルは森の廃屋で再会するが、それは2人の生家だった。そこにミュリエルが現れ、2人の母親であるアドリアーナが偉大なる白い魔女だったことを明かす…。

脚本&監督はトミー・ウィルコラ、製作はウィル・フェレル&アダム・マッケイ&ケヴィン・メシック&ボー・フリン、共同製作はロビン・フーリー&ヘニング・モルフェンター&チャーリー・ウォーケン&クリストフ・フィッサー、製作総指揮はデニス・L・スチュワート&クリス・ヘンチー&トリップ・ヴィンソン、製作協力はトレイシー・マクリアリー、撮影はマイケル・ボンヴィレイン、編集はジム・ペイジ、美術はスティーヴン・スコット、衣装はマーリーン・スチュワート、視覚効果監修はジョン・ファーハット、音楽はアトリ・オーヴァーソン、音楽製作総指揮はハンス・ジマー。
出演はジェレミー・レナー、ジェマ・アータートン、ファムケ・ヤンセン、ピーター・ストーメア、トーマス・マン、デレク・ミアーズ、ピヒラ・ヴィータラ、イングリッド・ボルゾ・ベルダル、ヨアンナ・クーリグ、ビョルン・スンクェスト、ライナー・ボック、トマス・シャルフ、カトリン・クーネル、セドリック・アイク、アーレア=ソフィア・ボウドディモス、マティアス・ツァイジング、セバスチャン・ヒェルク、ゲール・ヴェガル・フール、イェッペ・ベック・ラウルセン、クリスチャン・リューベック他。


『処刑山 -デッド・スノウ-』『キル・ブル 〜最強おバカ伝説〜』のトミー・ウィルコラが脚本&監督を務めた作品。
グリム童話の『ヘンゼルとグレーテル』をモチーフにして、「あの話の15年後」を描く内容になっている。
ヘンゼルをジェレミー・レナー、グレーテルをジェマ・アータートン、ミュリエルをファムケ・ヤンセン、ベリンジャーをピーター・ストーメア、ベンをトーマス・マン、エドワードをデレク・ミアーズ、ミーナをピヒラ・ヴィータラが演じている。

話の弱さやキャラクターの薄さ、アクションシーンの演出などを見て「これってゲームの映画化なのかな」と思ったが、そうではなかった。
で、この映画を見て最初に感じたことは、「これって『ヘンゼルとグレーテル』である意味が無いんじゃねえか?」ってことだ。
その設定をバッサリと削ぎ落とし、「ウィッチハンターの兄妹が暴れまくる」という話として構築しても、そんなに大きく変わらないでしょ。
つまり、『ヘンゼルとグレーテル』ってのを訴求力として使っているだけで、中身は全くと言っていいほど無関係なのだ。
いつの頃からかハリウッドで流行り始めた「童話を安易にアクション映画化する」という傾向も個人的には好きじゃなかったけど(『赤ずきん』とか、『白雪姫』とか)、この作品の場合は、それ以前の問題だ。

「幼い頃に捨てられたヘンゼルとグレーテルが魔女に捕まったけど、逆襲して退治しました」という童話の内容と、「兄妹は魔女を退治する稼業になりました」という今回の本筋って、実は上手く繋がっていないんだよね。
「幼い頃に魔女を退治した。だから魔女退治を仕事として始めた」って、その「だから」の部分は、なんか違うんじゃないかと。
むしろ魔女に捕まっていたんだから、怖くないのかと。
それに、たまたま魔女を退治できたけど、だからって魔女退治の技術を会得したわけじゃないでしょ。

そこで「なぜか自分たちには魔法が効かない。だから魔女退治に向いてる」と感じたのならともかく、そういう感じも無い。
それに、まだお菓子の家の魔女を退治した時点では、兄妹は幼いのだ。その段階で、いきなり「ウィッチハンターになりました」ってのは、どうにも納得し難いよ。
いや、こういう話で、そんなトコをマジに考えるべきじゃないのかもしれんけどさ、やっぱり話としては、色々と無理がありすぎるように思えてしまうんだよなあ。
やっぱり『ヘンゼルとグレーテル』の部分を除外して、ウィッチハンターの兄妹が暴れまくる話にしちゃった方が、随分とスッキリしてスムーズな流れになるんだよなあ。

ただし、スッキリしてスムーズにはなるけど、だからって面白くなるというわけではない。『ヘンゼルとグレーテル』とは無関係という部分をひとまず脇に置いて本作品を観賞しても、やはり出来栄えはよろしくない。
もうね、「とにかくアクションをやっておけば、それでいいんでしょ」という安易な感覚で作られていることがモロに伝わって来るんだよな。
「幼いヘンゼルとグレーテルが魔女を退治した」というプロローグ(ようするに、そこがグリム童話の『ヘンゼルとグレーテル』)を終えて本編に入ると、すぐに「グレーテルが魔女を発見して退治する」という展開。
その辺りからして、すんげえ雑。

どうやらスプラッター・アクションにしたかったらしく、ゴア描写が多めになっている。
しかし、「ゴア描写を売りにする」という意味では、かなりヌルい。
本気でスプラッター・アクションにしたいのなら、例えばミュリエルが男たちを殺害するシーンは、もっと肉体破壊をグロテスクにやれるでしょ。
酒場に戻った男が爆発して肉片と血が飛び散るシーンにしても、例えば頭部だけがテーブルに着地して口をパクパクさせるとか、そのぐらいのコミカルでケレン味溢れる残虐描写にしちゃってもいいんじゃないかと。

魔女は出て来るけど、「ヘンゼルとグレーテルに魔法は効かない」ということもあって、ガンアクションと格闘アクションが中心になる。そうなると、もはや敵が魔女である意味も薄くなってしまう。
どう考えたって、これは得策とは思えない。
魔女がヘンゼルとグレーテルを圧倒するための能力が「怪力」って、なんだよ、その体力勝負は。
っていうか、魔法が効かなくても怪力で圧倒し、赤毛がヘンゼルを追い詰めたりミュリエルがグレーテルを拉致したり出来ているんだから、だったら最初から「魔法が効かない」なんていう設定が無くてもいいでしょうに。魔法でヘンゼルが追い詰められ、魔法でグレーテルが捕まる形にすればいいでしょうに。

魔法を防いだり跳ね返したりするための道具を編み出すというガジェットの面白さも、魔法を受けずに敵を倒すための作戦を展開する知能戦の面白さも、この映画は無意味に放棄している。
そういう要素が絶対に無くちゃダメというわけではないよ。
ただ、「相手が魔女ならでは」ということで、せっかく使えそうな要素があるにも関わらず全く使わないってのが、勿体無いように思えるのよ。
そういう要素を排除して、じゃあ他にどんな要素で面白くしているのかと考えた時に、特にこれといったモノが見当たらないし。

ガジェットと言えば、その時代に不似合いな銃火器は使うけど、そういうことじゃないんだよなあ。そういう武器が仮に無かったとしても、魔女は倒せるからね。
ドラキュラのように弱点が明らかになっていて、「銀を使った武器」とか「聖水を発射する武器」といった道具を使っているってことなら、そのガジェットには意味があるでしょ。でも本作品の場合、「魔女の弱点を突くための武器」とか「それしか魔女に効力が無い材料を使った武器」というわけではない。
単に見た目のカッコ良さだけで銃火器を使わせても、それは別にいいのよ。
たけどガジェットの部分は、前述した方向性で、もう1つ細工してくれないものかと。

「魔女の目的は何なのか」というミステリーも、観客の興味を引き付けたり、物語を面白く盛り上げたりする要素としては効力を発揮していない。ミュリエルの目的が最初から明らかになっていたとしても、何の支障も無い。
良く言えばシンプル、悪く言うと中身の薄い物語だから、映像で観客を引き付けていく必要があるのだが、そこも凡庸。
前述したように、ファンタジー・アクションとしてのケレン味に乏しいし、映像演出に凝っている印象も薄い。前述したように、ゴア描写も中途半端。
全てが凡庸で、冴えが無い。

ヘンゼルは「子供の頃に、魔女にお菓子を食わされて糖尿病になり、インシュリン注射が欠かせない」という設定が用意されている。
だが、具合が悪くなってインシュリン注射をするのは前半の1度だけで、それ以降は元気そのものだ。
「あの童話で魔女にお菓子を腹一杯食わされたヘンゼルは、きっと糖尿病になったに違いない」ということを思い付いて、それをネタとしても持ち込んだんだろうとは思うよ。
だけど、ほぼ出オチみたいな一発ネタになってしまっている。

グレーテルがベリンジャーたちにあっさりと捕まるってのは、幾ら相手が複数名だからって、その場の都合でパワーバランスを壊しているという印象を受ける。
不意打ちを食らわされたとか、罠にハマったとか、そういう形にでもしておけばいいのに。
っていうか、そもそもベリンジャーを「エンゲルマンを殺してまでヘンゼル&グレーテルを始末しようとする」というキャラにしてあること自体、いびつな造形に感じてしまう。
そこに悪役キャラを配置したいのは分かるし、ベタベタだけど別に間違っちゃいない。でも、やりすぎ。

それと、グレーテルがベリンジャーたちに捕まるシーンは、そこまで見た目の割りに存在感が乏しかったエドワードを目立たせるために、かなり無理をして用意した展開にも感じるんだよな。
でも、もう後半に入ってからグレーテルと初遭遇させるってのは、キャラの出し入れとして上手くないんじゃないかと。
エドワードをグレーテルと交流させたいのなら、その手の接触はともかく、前半の内に出会いのシーンは用意しておいた方がいいでしょ。
っていうか、ホントにエドワードは必要なのかと思ってしまう。ちゃんと使いこなせていないんだから、要らないんじゃないかと。ミーナも中途半端な扱いに終わっているし。

(観賞日:2014年10月12日)

 

*ポンコツ映画愛護協会