『ハノーバー・ストリート』:1979、アメリカ

1943年、ロンドン。アメリカ人のデヴィッド・ハロランは、ハノーバー・ストリートでイギリス人のマーガレットと出会った。ハロランはB−29のパイロット、マーガレットは看護婦だった。2人は一目で惹かれ合うが、なぜかマーガレットは自制しようとする。
空襲の後、ハロランはマーガレットと強く抱き合ってキスをした。ハロランは、また会ってほしいと告げ、日時と場所を指定した。だが、マーガレットは左手の薬指に光る指輪を見せ、「もう遅いわ」と口にして、そのまま立ち去ってしまった。
基地に戻ったハロランは、仲間のマーティンやチミーノ、ルーカス達と共に出撃し、敵軍の貯蔵庫を攻撃した。戦闘から戻ったハロランは、約束の日時にハノーバー・ストリートへ足を向けた。そこにマーガレットも現れ、2人は場所を移して体を重ねた。マーガレットは夫と娘のいる身だったが、ハロランへの熱い想いを消すことが出来なかった。
イギリス軍では、リヨンのゲシュタポに二重スパイの名簿を奪いに行く作戦が立てられていた。ドイツ軍将校に成り済まして潜入する人員に、ウェルズ中尉が選ばれた。彼をスパイとして訓練する役目を担当するのは、マーガレットの夫ポール・セリンジャーだ。
ハロランは仲間と共に、ポールとウェルズをリヨンまで送り届ける役目を担当することになった。だが、敵の攻撃によって、ウェルズやハロランの仲間が死亡してしまう。ハロランとポールは、撃墜された飛行機から何とか脱出した。ハロランは、ポールがマーガレットの夫だとは知らないまま、彼に協力してドイツ軍本部に乗り込むことになってしまう…。

監督&脚本はピーター・ハイアムズ、製作はポール・N・ラザルス三世、製作協力はハリー・ベン、製作総指揮はマイケル・ラックミル、撮影はデヴィッド・ワトキン、編集はジェームズ・ミッチェル、美術はフィリップ・ハリソン、衣装はジョーン・ブリッジ、音楽はジョン・バリー。
出演はハリソン・フォード、レスリー=アン・ダウン、クリストファー・プラマー、アレック・マッコーエン、リチャード・メイサー、マイケル・サックス、
パッツィ・ケンジット、シェーン・リマー、キース・バックリー、ヒュー・フレイザー、ジェイ・ベネディクト、ジョン・ラッツェンバーガー、ウィリアム・フートキンス、エリック・スタイン、ディー・トレヴィス、マックス・ウォール他。


『カプリコン・1』で注目を浴びたピータ・ハイアムズが次に撮った作品。
『ハノーバー・ストリート/哀愁の街かど』とサブタイトルが付く場合もある。ハロランをハリソン・フォード、マーガレットをレスリー=アン・ダウン、ポールをクリストファー・プラマーが演じている。
どうやら、古き懐かしきメロドラマをやりたかったようだ。オープニングロールや音楽も、そんな雰囲気を醸し出している。いっそモノクロでもいいんじゃないかと思えるぐらいに、序盤はオールド・ファッションドなメロドラマっぷりを見せ付けようとしている。

ハロランとマーガレットは、出会って約10分後には、もう強く抱き合って熱烈なキスを交わしている。その早すぎる展開は、ある意味では現代的なエッセンスということだろうか。最初の出会いから次のデートまでの繋ぎとして戦闘シーンを使う辺りも、あまり「古き懐かしきメロドラマ」という匂いはしない。それも狙っての演出だろうか。
ハロランはマーガレットと再会してイチャイチャした後、また基地に戻る。で、基地でも女のことを忘れられずにいるのかと思いきや、エンジンの故障が気になり、それどころではない。話としても、ウェルズがゲシュタポに派遣されるという話が始まり、その準備を進める流れが話の中心になるので、メロドラマは脇に追いやられる。

作戦準備と並行して、その作戦に携わるポールとマーガレットの夫婦生活を描けば、メロドラマとの関連も見えてくるかもしれない。でも、マーガレットが出てくるのは、出撃直前にポールが電話する時ぐらい。潜入作戦とメロドラマは完全に分離している。
後半に入るとメロドラマは完全に忘れ去られ、ミリタリー・サスペンスになる。出会ったすぐに、ポールがマーガレットの夫だとハロランが気付けば、そこでメロドラマとの関連付けも可能になっただろう。だが、ポールが夫だと知るのは、終盤になってからだ。

それまで優しい夫のイメージだったポールが、撃墜されて後で「能力が無いのに殊勝さに欠ける傍迷惑な男」へのイメチェンを急に図る。ドイツ語の全く出来ないハロランに潜入作戦を手伝えって、そりゃムチャだ。でも、ポールは当然のように要求する。
その急激なポールのイメチェンで好感度を下げるのには、どういう意図があるんだろう。むしろ好感度を上げておくことで、「ポールを助けて、マーガレットから身を退く」といハロランの行動に説得力を持たせることに繋がると思うのだが。「マーガレットの夫だから」というだけでは、命を賭けて助けてやる理由としては弱いからね。

マーガレットは、特に夫婦生活に不満も無さそうなのだが、かなりの浮気性なのだろう。さっさと結婚していることを明かさず、最初は隠そうとするし。で次のデートでセックス。戸惑いや葛藤などは薄いままに、ものすごく簡単に不倫へと突っ走って行く。
その時点で、貞操観念の強い主婦が浮気に走るという行動に説得力を持たせるほど、ハロランとの間に劇的なドラマがあったわけではない。強烈な魅力がハロランにあるわけでもない。たぶんマーガレットは、最初から不倫願望が強かったんだろう。

ハロランは、相手に夫がいることなんてお構い無しで、罪悪感なんてサラサラ無い。マーガレットは言葉では「夫に悪い」と言いながらも、実際には夫と浮気相手の間で葛藤するようなドラマは描かれない。ハロランとマーガレットが障害を障害として見ていないので、「不倫という障害を乗り越えることで2人の愛が燃え盛る」という展開は無い。
で、あれだけ猛烈に盛り上がった恋なのに、最後はハロランがあっさりと身を退き、マーガレットをポールの元へ返すという、とても物分かりの良い終わり方をする。「物分かりが良い」というのは、時に「面白味に欠ける」と同義語になるのだが。


1979年スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪の助演男優】部門[リチャード・メイサー]
<*『ハノーバー・ストリート』『Scavenger Hunt』の2作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会