『ハンコック』:2008、アメリカ

4人組の武装強盗が4WD車に乗り、銃を乱射しながらパトカーとカーチェイスを繰り広げていた。その様子はテレビでも生中継されて いた。泥酔してバス停のベンチで眠り込んでいたハンコックは、子供に起こされた。目を覚ますと、子供は「悪党だよ」とテレビを差した 。ハンコックが「クッキーなんか無いぞ」と追い払うと、呆れた子供は「クソッタレ(ass hole)」と罵って去った。
ハンコックは酒瓶を持ったまま空を飛び、現場へ向かった。飛び立つ際に発生した突風で、近くの建物が破壊された。ハンコックは標識に 激突し、落下した標識が命中してパトカーは吹っ飛んだ。ハンコックは酒臭い息で犯人の車に乗り、自首するよう要求した。乱射されても 全くダメージを受けず、ハンコックは車を持ち上げてビルに叩き付けながら振り回し、塔に突き刺して飛び去った。その荒っぽい行為で 被害額900万ドルを出したため、ロス市警は「ただの厄介者だ、ニューヨークにでも行ってくれ」と厳しく非難した。
翌日、PRマンのレイ・エンブリーは大企業のPRミーティングに出席し、オールハート・マークという慈善活動を提案した。レイは 「このマークを選ばれた企業だけが印刷できます。世界のために多大な貢献をしていることを示すマークです。この会社は結核の新薬を 開発しているので、それを患者に無料で配布するんです」と語った。重役たちは途端に、困惑の表情を見せた。レイが「息子アーロンの サッカーチームも、この提案に乗りましたよ」と言うと、幹部の一人が「アホか」と一蹴し、プレゼンを却下した。
レイは帰宅する途中、車から自宅に電話を掛けた。銃田に巻き込まれる中、いつの間にか車は線路の真ん中に来ていた。向こうから列車が 迫り、危機一髪という時にハンコックが現れ、かなり荒っぽい方法で助け出した。まだ被害が出たため、そこにいた面々はハンコックに 「車と一緒に空を飛べば良かったでしょ」などと非難を浴びせる。ハンコックが言い返したため、さらに「スーパーヒーロー気取りか、 消えろ」と罵声を浴びるハメになった。
車から抜け出したレイが騒ぎに割って入り、ハンコックを擁護して「君は恩人だ」と握手を求めた。レイはハンコックに自宅まで送って もらい、妻メアリーと息子アーロンに紹介する。レイは立ち去ろうとするハンコックを引き止め、夕食に招待する。メアリーは「きっと 彼にも用事が」と困惑するが、夫に押し切られる形となった。アーロンは、ハンコックのキャップに付いているワシのマークが気になった 夕食のメニューは、2年前から木曜の定番となっているミートボール・スパゲッティーだった。
レイはハンコックに、アーロンが学校でミッシェルという同級生にイジメを受けていることを語り、息子に「ケンカはいけない」と教えて いることを告げる。ハンコックが「そいつのチンコを蹴り上げてやれ」などと言うと、メアリーは「やめて。暴力だけが問題の解決方法 じゃないのよ」と怒った。あまりにも激しい口調で喚き立てるので、レイはメアリーを諌めた。
レイはハンコックに、「助けてくれた恩返しをしたい。君は民衆の評判が悪い。イメージを良くする手助けをしたい」と持ち掛ける。彼は ハンコックが帰る時に、自分の名刺を渡した。メアリーは「やるだけ無駄よ」と反対するが、レイは「彼は愛情に飢えているだけだ」と 告げた。翌日、ハンコックはアスファルトを削ってレイの家の近くに着地した。仲間と遊んでいたミッシェルが何度も「クソッタレ」と 罵ってきたので、ハンコックは彼を空高く弾き飛ばした。
レイはハンコックを家に招き入れ、「君は犯罪者じゃないが、人間として問題がある。君が問題を起こすのは寂しいからだ。人を助けても 非難されるから背を向けている。その悪循環を断ち切って一からやり直すんだ」と告げる。そこへ、サッカーの試合が終わったアーロンを 連れてメアリーが帰宅した。メアリーがテレビを付けると、女性司会者ナンシー・グレイスがハンコックを非難していた。彼女は「600通 を越える召喚状を無視している。スーパーヒーローだからと言って法律を無視するのは許されない」と口にした。
その番組を見たレイは「いい展開だ。刑務所に入れ」と勧める。驚くハンコックに、レイは「それで君の価値が分かる。2週間もすれば、 人々は君が必要だと言い出すだろう」と説明した。ハンコックはレイの指示通り、マスコミの前で「自分の行動を反省し、罪を償います。 受刑中は酒を断ち、心を改めることを約束します」とコメントしてから、カリフォルニア州の更生局に入所した。
入所したハンコックが自分の監房に行こうとすると、囚人たちに取り囲まれた。「俺がお前らをブチ込んだのか。恨むのは分かる。だが トラブルはゴメンだ」とハンコックは告げるが、2人の囚人マン・マウンテンとマトリックスが前を塞いだ。ハンコックはマトリックスの 頭をマン・マウンテンの尻の穴に突っ込んだ。
面会に来たレイは、検事の求刑が禁固8年だとハンコックに教えた。レイは「君がいなければ犯罪件数が一気に上昇し、検事も警察も 即時釈放を求めてくるだろう」と言うが、ハンコックはドアを壊して脱走しようとする。レイは声を荒げ、「自分を受け入れない限り、 惨めなままだぞ。ここに残れ。そうすれば本物のヒーローになれる」と説得した。レイは刑務所に通い、「静かに着地しろ。物は壊すな。 警官に会ったら『グッド・ジョブ』と勇気を称えろ。彼らは君と違って、弾に当たったら死ぬんだ」と教えた。
入所5日目、レイは別の仕事で面会に現れず、メアリーがアーロンを連れてやって来た。メアリーは「アーロンが会いたいと言うから」と 説明し、ミートボール・スパゲッティーを差し入れした。彼女は「レイはいい人よ、彼を失望させないで」と告げ、すぐに立ち去った。 次の日、レイはスーパーヒーローらしいユニフォームを持って来た。ハンコックは嫌がるが、レイが説得した。
ハンコックが入所している間に、ロサンゼルスの犯罪率は増加の一歩を辿っていた。ついに7日目の朝、ハンコックは警察署長の「助けが 欲しい」というメッセージを受け取った。強盗団4人が銀行に立て篭もり、女性警官が撃たれて負傷していた。そこへユニフォーム姿の ハンコックが現れた。彼はレイに言われた通りにビルを壊さず、アスファルトを破壊せずに着地した。ハンコックは荒っぽい行動を一つも 起こさずに主犯のレッドを退治し、見守っていた人々の拍手を浴びた。
その夜、ハンコックがレイやメアリーと一緒に外食へ行くと、周囲の待遇もガラリと変わっていた。レイはメアリーとの出会いについて ハンコックに訊かれ、「僕は再婚だ。前の妻はアーロンを産んで死んだ。メアリーに会って立ち直ることが出来た」と答えた。ハンコック はレイから自分の話をするよう促され、「気が付いたら頭蓋骨骨折でマイアミの病院にいた。ひったくり犯と揉み合ったらしい。目が 覚めたら特別な人間だった」と語った。
ハンコックは「頭の傷は1時間で治った。それ以前の記憶は無い。それが80年前だ。俺は年を取らない。それから今まで知り合いが一人も 名乗り出ないんだから、よほど嫌われていたんだろう」と告げた。ハンコックは酔っ払ったレイを自宅に連れ帰り、寝室に寝かせた。その 後、ハンコックはメアリーにキスを迫った。それを受け入れたメアリーだが、刹那、人間離れしたパワーでハンコックを弾き飛ばした。 メアリーはハンコックに、「レイにバラしたら殺すわよ」と言い放った。
翌日、ハンコックはレイの家を訪れた。レイの電話中、ハンコックはメアリーの背中にフォークを突き立てた。するとフォークがグニャリ と曲がった。フライパンで殴ろうとするとメアリーが振り向くが、ハンコックは「何度でもやるぞ」と告げた。同じ頃、ハンコックのせい で左手が義手になったレッドは、刑務所でマン・マウンテンとマトリックスに「ハンコックのせいでパワーを失った。奴を見つけてパワー を取り戻すんだ」と持ち掛けていた。
ハンコックのトレーラーハウスに、メアリーが空を飛んで現れた。「同類?」とハンコックが尋ねると、彼女は「貴方より私の方が強い」 と答えた。「俺たちは何者だ」という質問に、彼女は「神、天使、文化によって呼び方は違う。今はスーパーヒーロー」と言う。「俺たち の関係は」とハンコックが訊くと、メアリーは「兄と妹」と告げる。しかしハンコックは「ウソつけ」と納得しない。
ハンコックは「兄と妹が昨日みたいなキスをするか。レイに全て話す」と言い、街へ飛び立った。すぐにメアリーが追い掛けた。メアリー はハンコックに「3千年も我慢したの。ようやく手に入れた幸福よ。私たちの家族を邪魔しないで」と告げる。「君はイカれてる」と ハンコックが言うと、怒ったメアリーはトラックを持ち上げて投げ付け、竜巻や落雷を起こして街を破壊した。慌ててハンコックは「俺が 何をしたか知らないが、謝るよ」となだめた。
レイはPRミーティングの最中、窓の外を飛んでいるメアリーを目撃した。レイが家にいると、メアリーはハンコックを連れて戻った。 メアリーはレイに、「私とハンコックは夫婦だった。でも貴方が生まれる前に別れた。私と彼は離れたくても引き付けあう力が働く」と 説明した。「この後は、どうするんだ?」とレイが尋ねると、メアリーは「好きにして」と告げて去った。
刑務所で暴動事件が発生し、レッドが囚人仲間を引き連れて脱走した。リカーショップに立ち寄ったハンコックは、隠れていた強盗たちに 気付いた。ハンコックは発砲してきた犯人を退治するが、撃たれた傷から血が出ていた。治癒能力が失われていたのだ。重傷を負った彼は 、病院へ運ばれた。病院に駆け付けたメアリーは、「私から離れれば離れるほどパワーを取り戻せる」と告げる。その時、レッドたちが 武装して病院に現れた。ハンコックを守ろうとしたメアリーは、銃弾を浴びせて倒れてしまう…。

監督はピーター・バーグ、脚本はヴィー・ヴィンセント・ゴー&ヴィンス・ギリガン、製作はアキヴァ・ゴールズマン&マイケル・マン& ウィル・スミス&ジェームズ・ラシター、製作協力はミシェル・マッゴーネイゲル&トレイシー・ナイバーグ、製作総指揮はイアン・ ブライス&ジョナサン・モストウ&リチャード・サパースタイン、撮影はトビアス・シュリッスラー、編集はポール・ルベル&コルビー・ パーカーJr.、美術はニール・スピサック、衣装はルイーズ・ミンゲンバック、視覚効果デザインはジョン・ダイクストラ、音楽は ジョン・パウエル。
出演はウィル・スミス、シャーリーズ・セロン、ジェイソン・ベイトマン、エディー・マーサン、ジョニー・ガレッキ、トーマス・レノン、 ジェイ・ヘッド、デヴィッド・マッテイ、メイトリックス・フィッテン、ヘイリー・マリー・ノーマン、ドロシー・チェッキ、ミシェル・ レモン、アキヴァ・ゴールズマン、マイケル・マン、ブラッド・リーランド、トリュー・トラン、ダレル・フォスター、リズ・ウィッカー 、テイラー・ギルバート、キャロル・トーメ、バーバラ・アリ、ライアン・ラディス他。


『幸せのちから』『アイ・アム・レジェンド』のウィル・スミスが主演と製作を兼ねた作品。プロレス好きのウィル・スミスはハンコック を演じるに当たり、プロレスラーのスティーヴ・オースティンを参考にしたらしい。
メアリーをシャーリーズ・セロン、レイをジェイソン・ベイトマン、レッドをエディー・マーサン、アーロンをジェイ・ヘッドが演じて いる。レイがPRミーティングをする場面では、役員の中にプロデューサーのアキヴァ・ゴールズマンとマイケル・マンがいる。
当初はジョナサン・モストウが監督する予定だったが手を引き(プロデューサーとしては留まった)、次に『幸せのちから』のガブリエレ ・ムッチーノが呼ばれたが降板し、最終的には、俳優出身で『ベリー・バッド・ウェディング』から監督業にも進出したピーター・バーグ に決まった。
最初にヴィンセント・ゴーが脚本を書いたのは1996年で、それから10年以上も放置されていた。

序盤の段階で、幾つかの疑問が沸く。
なぜハンコックは、そんなに酒浸りで汚い格好で、いかにも嫌われるような行動を取っているのか。
そして、そんな奴が、面倒な態度を示しながらも、なぜ人助けだけはキッチリとこなすのか。
嫌なら、やらなきゃいいのだ。
やるんなら、そこには正義感や使命感があるはずだから、もっと真面目に前向きに取り組むはずでしょ。
後で分かることだが、80年前からハンコックはスーパーヒーローをやってるのに、全く態度を改善しようとせず、それでも人助けは続けて きたのかよ。

で、その荒っぽさが嫌われる原因になっていることぐらい分かるはずだから、ハンコックは改善しようと努めればいいのに、なぜレイに 諭されるまでは全くやらなかったのか。
そのくせ、嫌われていることに納得しているわけじゃなくて、拗ねて酒浸りになっているし。
どうもレイに言われるまで、自分が嫌われる理由が良く分かっていなかったような節があるが、そうだとすれば、どんだけオツムが悪い奴 なのかと。
そして、今まで改善しなかったのに、なぜレイに言われると、態度を改めようという気になったのかと。

ハンコックに対して、野次馬が遠巻きから非難するのは、まあ理解できる。
しかし、ハンコックのスーパーパワーを知っているはずなのに、囚人たちが挑発的な態度、今にも飛び掛かりそうな態度を平気で取って いるのか理解に苦しむ。
どんな結果になるのかは目に見えているだろうに。
ハンコックがレイに「静かに着地しろ、物は壊すな」と、幼稚園児に対する躾のようなことを丁寧に説明されなきゃ分からないぐらいの アホだから、大丈夫だとでも思ったのか。
後半、レッドはマン・マウンテンやマトリックスに「ハンコックを見つけてパワーを取り戻そう」と持ち掛けるが、相手はスーパーパワー の持ち主で、逆らっても敵わないと分かっているはずなのに、なぜ仕返ししようという風に思えるのか。
何かハンコックのパワーに対抗できる手段、弱点を突くような作戦があるならともかく、ごく普通に襲撃しているだけなんだよな。

前半の時点で、既にディティールの甘さは感じる。
「人助けしても嫌われるなら助けなきゃいいのに」「なぜ嫌われると分かっていて同じようなことを繰り返すのか」というところに納得 できる答えが用意されておらず、そこが致命的な欠陥になっている。
また、もっと弾けたアクション・コメディーになってもいいはずなのに、妙に落ち着いた雰囲気や陰気な匂いがあることにも納得 いかない。

ただし「嫌われ者のスーパーヒーローが態度を改めて好かれようとする」という方向性は、悪くないと思う。
で、スーパーヒーロー物のセオリーを考えると、後半はヴィラン(敵役)と戦う展開になるのかと思いきや、そこから話は思い切り ダッチロールしてしまう。
なんとメアリーがハンコックの元妻で同じ能力を持っていることが判明し、そこからは恋愛劇がメインになるのだ。
なんだ、その斜め上を行く展開は。
それは嬉しいサプライズじゃなくて、呆れた迷走だぞ。

で、ハンコックに素性を明かした途端、メアリーは今までスーパーパワーを隠そうとしていたのが何だったのかと思うぐらい、堂々と姿を さらしてスーパーパワーを使い、痴話ゲンカを始める。痴話ゲンカで街を破壊し、人々を危険に陥れている。
メチャクチャだ。
で、2人が元夫婦だったことが明らかにされると、おのずとレイを含めた三角関係が出来上がるわけだが、それは愉快なものではないし、 悲劇的なものも感じない。
それどころか、何となく気持ち悪さを抱いてしまうんだよな。
だって、最終的な形は「ハンコックとメアリーは互いに愛し合っているが一緒にいられないので、ハンコックは親友レイに彼女を預けて おく」って感じなんだぜ。

ハンコックが重傷を負って入院した時、メアリーは「私から離れれば離れるほどパワーを取り戻せる」と言うが、その設定、すげえ曖昧 なんだよな。
だって、痴話ゲンカしている時は、ずっと近くにいたけど、2人とも空を飛んでいたし、メアリーは竜巻や落雷を起こして街を破壊 しまくっていた。
それにハンコックが撃たれた時も、強盗を弾き飛ばしていたし。
治癒能力だけが減退して、それ以外の能力は普通に使えるってことなのか。

あと、治癒能力については、実は痴話ゲンカの時点で既に失われていたんだろうか。
でも、痴話ゲンカの前に、ハンコックがメアリーにフォークを突き立てた時には、刺さらなかったよな。
あれは、どういうことなんだろうか。一定の時間以上、近くにいないと、能力が失われないってことなんだろうか。
その辺りのディティールが粗くて説明不足だから、終盤の展開において大きなマイナスとなっている。

っていうかさ、2人一組のカップルとして誕生したのに一緒にいたらパワーが失われるって、その理不尽すぎる設定は何なのかと思って しまうぞ。
「人間として生きるためよ。愛で結ばれて年を取って死ぬため」とメアリーは説明するが、だったら、そもそもスーパーパワー を持って生まれてきた意味は何なのかと。
とにかく、後半に入ってからのグダグタ感はハンパ無いぜ。

(観賞日:2010年7月30日)

 

*ポンコツ映画愛護協会