『ハロウィン』:2007、アメリカ

10月31日、イリノイ州ハドンフィールド。シングルマザーのデボラ・マイヤーズはジュディス、マイケル、生まれて間もない赤ん坊のブー という3人の子供を抱えて暮らしている。同棲している恋人のロニーは、無職でロクデナシの男だ。デボラは朝からロニーと言い争いに なり、赤ん坊は泣き出してしまう。食卓に現れたジュディスは、母に反抗的な態度を取る。弟を呼んで来るよう言われ、ジュディスは文句 を言いながらマイケルの部屋へ行く。ドアをノックすると、マイケルは「あっちへ行け」と喚き立てる。彼は道化師の面を被り、ペットの ネズミを解剖用メスで惨殺して捨てた。
食卓にやって来たマイケルは、面を乱暴に取ったロニーを鈍い目で睨み付けた。登校した彼は、トイレでいじめっ子のウェズリーたちから ストリッパーをしている母のことで嘲られ、腹を立てて掴み掛かる。そこへ校長が来て制止すると、マイケルは「死んじまえ」と罵った。 校長はデボラを学校へ呼び出し、児童心理学者のルーミスを紹介した。校長はマイケルの精神鑑定を促し、彼が犬や猫を惨殺した証拠品を 見せる。ルーミスは「息子さんは正常ではない。面談したい」とデボラに告げた。
廊下でルーミスたちの会話を耳にしたマイケルは学校から逃げ出し、ウェズリーを公園で待ち伏せた。彼は道化師の面を被り、木の棒で ウェズリーに殴り掛かった。助けを求めるウェズリーを、マイケルはを何度も殴り付けて撲殺した。その夜はハロウィンなので、デボラは ジュディスに「弟を連れて回って」と頼んだ。しかしデボラが仕事に出掛けた後、ジュディスは恋人のスティーヴを部屋に連れ込み、 マイケルを放置した。マイケルは一人で外に出るが、どこへも行かずに庭で佇むだけだった。
しばらくして家に戻ったマイケルは、飲んだくれてリビングで寝ていたロニーの体をガムテープでソファーに縛り付けた。それから彼は 肉切り包丁を使い、ロニーの喉を切って殺害した。続いて彼は、姉の部屋からキッチンへ下りて来たスティーヴを金属バットで撲殺する。 マイケルは姉の部屋に侵入し、スティーヴが持っていたラバーマスクを手に入れる。それを被ったマイケルは、ジュディスを包丁で刺した 。ジュディスが悲鳴を上げて部屋から逃げ出すと、マイケルは追い掛けて何度も突き刺した。それからベビーベッドへ行き、赤ん坊に笑顔 で「ハッピー・ハロウィン」とキスをした。仕事を終えて帰宅したデボラの前で、マイケルは駆け付けた警察に連行された。
11ヶ月後、第一級殺人で有罪となったマイケルは、スミスズ・グローヴ・サナトリウムに収監された。公判に立ち会ったルーミスは判事の 指示を受け、マイケルの治療を担当することになった。マイケルはハロウィンの夜の出来事について問われるが、自身の殺人行為について 全く覚えていない様子だった。デボラが面会に来ると、彼は「みんなは元気?」と無邪気に尋ねる。マイケルが家に帰れずに寂しがって いるのを見つけた職員のイスマエルは、「想像の世界に住め。そうすれば、お前を閉じ込める壁は無い」と声を掛けた。
デボラは足繁く面会に来るが、マイケルは家に帰れないことへの苛立ちと寂しさを募らせていく。マイケルは手作りのマスクを被ったまま 、一言も喋らなくなってしまった。デボラはマイケルを元気付けようと、赤ん坊と一緒に写っている写真をプレゼントした。ルーミスと デボラが部屋を去った後、マイケルは見張りに来た看護婦をフォークで突き刺して惨殺した。デボラは耐えられずに自殺した。
15年後、マイケルは幾つものマスクを自作し、部屋に飾っていた。大男になったマイケルの世話は、イスマエルが20年間も担当してきた。 彼を部屋から連れ出す時には、チェーンで拘束した。マイケルは相変わらず、マスクを被ったまま一言も喋ろうとしなかった。ルーミスも 治療を諦め、マイケルは別の病院へ移送されることになる。だが、マイケルは看守たちを惨殺し、イスマエルも殺してサナトリウムから 抜け出した。ルーミスはスミスズ・グローヴの院長から電話を受け、マイケルが手当たり次第に人を殺して逃走したことを知らされる。 マイケルは洗車場のトイレで長距離トラックの運転手を殺害し、服を奪い取った。
10月31日、イリノイ州ハドンフィールド。ストロード家の面々は朝を迎えていた。一人娘のローリーは、父のメイソンから預かった封筒を 持ち、家を出る。彼女はベビーシッターをしている少年トミーと出会い、会話を交わす。一方、ハドンフィールドに戻ったマイケルは廃屋 となった我が家へ赴き、床下に隠しておいた包丁とラバーマスクを手に入れた。マイケルは外を歩くローリーの声を耳にした。ローリーは トミーが「入っちゃダメだよ、ブギーマンが住んでる」と言っても相手にせず、廃屋に近付いた。
高校に登校したローリーは、図書館で親友のアニーとリンダに会う。ローリーはアニーから、ベビーシッター先の少女リンジーを預けて 恋人のポールと会いたいと頼まれる。窓の外に目をやったローリーは、ラバーマスクのマイケルが木陰に立っているのに気付いた。彼女が 親友の頼みを引き受け、再び窓の外を見ると、マイケルの姿は消えていた。ローリーが親友たちと一緒に下校していると、マイケルが道端 から眺めていた。アニーとリンダがからかうように呼び掛けると、マイケルは立ち去った。
アニーの父である保安官ブラケットが、パトカーで通り掛かった。アニーはパトカーで一緒に去った。一方、ハドンフィールドにやって 来たルーミスは、墓地の管理人にデボラの墓へ案内してもらう。すると墓石が盗まれ、墓地にはコヨーテの死骸が飾られていた。ルーミス はマイケルの仕業だと確信した。その夜、リンダと恋人のボブはマイヤーズ家へ忍び込んでセックスをする。ビールを取りに行ったボブが マイケルに殺され、続いてリンダも惨殺された。ルーミスはマイケルとの戦いに備え、銃砲店で拳銃を購入した。
ローリーがアニーの車で出掛けた後、マイケルはストロード家に乗り込んで夫婦を惨殺した。ローリーがトミーの家でベビーシッターの 仕事をしていると、アニーから電話が入った。夫婦が出掛けるので、リンジーを預けに行くという。ルーミスはブラケットにマイケルが 来ていることを告げて危険を訴えるが、まるで相手にされなかった。アニーはリンジーを連れてトミーの家へ赴いた。リンジーを預けた アニーは、迎えに来たポールの車に乗り込んだ。その様子を、マイケルがじっと見ていた。
ルーミスはブラケットに、「マイケルの目的は奴の妹だ」と告げる。ブラケットはストロード夫婦に電話を掛けるが、2人は惨殺されて いるので留守電になっていた。アニーはトミーの家にポールを連れ込み、セックスを始める。だが、侵入したマイケルにポールが殺害され 、アニーも重傷を負わされる。ブラケットはルーミスをパトカーに乗せ、ストロード家へ向かう。その途中、プラケットはストロード夫妻 がマイケルの妹ローリーを養女にしたことを明かした…。

監督はロブ・ゾンビ、脚本はロブ・ゾンビ、オリジナル脚本はジョン・カーペンター&デブラ・ヒル、製作はマレク・アッカド& アンディー・グールド&ロブ・ゾンビ、製作協力はパトリック・エスポジート、製作総指揮はボブ・ワインスタイン&ハーヴェイ・ ワインスタイン&マシュー・ステイン、撮影はフィル・パーメット、編集はグレン・ガーランド、美術はアンソニー・トレンブレイ、衣装 はメアリー・マクロード、テーマ曲はジョン・カーペンター、音楽はタイラー・ベイツ、音楽監修はロブ・ゾンビ。
出演はマルコム・マクダウェル、シェリ・ムーン・ゾンビ、タイラー・メイン、スカウト・テイラー=コンプトン、ブラッド・ドゥーリフ 、ダニエル・ハリス、ハンナ・ホール、ビル・モーズリー、ウィリアム・フォーサイス、ダエグ・フェアーク、クリスティーナ・クリーブ 、ダニー・トレホ、ケン・フォーリー、ウド・キアー、シド・ヘイグ、ダリル・サバラ、ダニエル・ローバック、リチャード・リンチ他。


ジョン・“曲も作るのよ”・カーペンターが監督を務めた1978年の同名映画のリメイク。
ルーミスをマルコム・マクダウェル、デボラをシェリ・ムーン・ゾンビ、大人になったマイケルをタイラー・メイン、ローリーをスカウト ・テイラー=コンプトン、ブラケットをブラッド・ドゥーリフ、アニーをダニエル・ハリス、ジュディスをハンナ・ホール、ロニーを ウィリアム・フォーサイス、イスマエルをダニー・トレホが演じている。
ちなみにダニエル・ハリスは、オリジナル版のシリーズ第4作と第5作でローリーの娘ジェイミーを演じていた女優だ。

『ハロウィン』は1作目のヒットを受けてシリーズ化され、8作目の『ハロウィン・レザレクション』まで製作された。
だが、どうやらシリーズのは打ち止めとなったらしく、この作品で「最初からやり直し」になっている。
今回の監督と脚本は『マーダーライドショー』のロブ・ゾンビ。
ジョン・カーペンターが曲も作る人だったから、ミュージシャンでもあるロブ・ゾンビがリメイク版の監督に選ばれたってことは、たぶん 無いと思う。

ロブ・ゾンビがオタクな人ということもあってか、B級映画やホラー映画のマニアが喜ぶようなキャスティングとなっている。
ブラケットは『チャイルド・プレイ』のブラッド・ドゥーリフ、看守の中には『悪魔のいけにえ2』のビル・モーズリーと『ナイト・オブ ・ザ・リビングデッド/死霊創世紀』のトム・トウルズがいて、トラックの運転手が『ゾンビ』のケン・フォーリー。
サナトリウムの経営責任者は『悪魔のはらわた』『処女の生血』のウド・キアー、墓地の管理人は『残酷女刑務所』『残虐全裸女収容所』 のシド・ヘイグ。
校長は『悪夢の惨劇』のリチャード・リンチ、サナトリウムの院長は『デビルスピーク』のクリント・ハワード。
ローリーの養母シンシアは『ハウリング』『クジョー』のディー・ウォレスで、殺される看護婦は『ハウリング2』のシビル・ダニングだ。

オリジナル版の『ハロウィン』は、手放しで絶賛できるほどの傑作だったわけではない。ジョン・カーペンター監督の出世作ではあるが、 粗い部分も多かった。
ただ、粗さがあるということは、裏を返せばリメイクに適しているとも言える。手を加えて改善できる余地が色々とあるってことになる からだ。
でもスラッシャー映画に関しては、粗があったとしても、それを含めて完成形なんじゃないかな、という風に思う。
ようするに、スラッシャー映画って、リメイクには不向きなジャンルなんじゃないかと。
キャラクターだけを拝借して全く別の物語を構築するなら別だけどね。

ロブ・ゾンビ監督はオリジナル版へのリスペクトがあったようで、完全に別の物語を作り上げるようなことはやっていない。
あくまでもオリジナル版の内容を基盤として、それに新たな内容を付け加えるという形でリメイクしている。
オリジナル版をリスペクトするという気持ちは、リメイクを作る監督には必要なものだ。リスペクトの気持ちが無い人間に、リメイク版を 作る資格なんて無いと私は思う。
ただ、それはそれとして、今回の場合は、もっと大胆に内容を改変した方が良かったんじゃないかと。

リメイク版とオリジナル版の大きな違いは、映画の3分の1ほどの時間を費やして、マイケルの少年時代の出来事を描写していることだ。
つまり「ブギーマン・ビギンズ」みたいなパートを用意してるんだけど、これは失敗だろう。
ブギーマンは「得体の知れない奴」という部分に怖さがあったはずで、そこを説明することによって「誰にでも分かりやすい殺人鬼」に しちゃってどうすんのかと。
それって「幽霊の正体見たり枯れ尾花」と似たようなことになっていないかと。
ブギーマンは人間離れした怪力と頑丈さの持ち主であり、銃で撃たれても死なないようなモンスターなんだから、過去を描写することで 「人間」としての彼をアピールするのも、得策とは思えないし。

しかも、長い時間を割いているけど、そこで描かれるのは「ごく普通の少年だったマイケルが、どういう経緯で殺人鬼に変貌したのか」と いう物語ではない。
マイケルは登場した時点で既に動物を何匹も惨殺しており、殺人への意識を強く抱いている。
だから、そこを丁寧に描いたところで「マイケルは少年時代からずっと殺人鬼でした」ということでしかなく、「なぜブギーマンに なったのか」という理由の説明になっているわけではない。
道化師の面についても、それを被るようになった理由は説明されていないし。
10歳までの期間で何かあったのかもしれないが、そこは描かれていないので、「産まれた時点で悪魔の子」という『オーメン』のダミアン みたいなキャラクターなのかもしれないし。

マイケルがサナトリウムに収監されてから引き起こした出来事や、脱走するまでの経緯も描かれるが、オリジナル版『ハロウィン』を見た 人間からすると、「まあ、そんな感じだろうな」という予定調和が描かれるだけだ。
そこには何の驚きも無い。
っていうか、この映画だけを見ても、たぶん大半の観客は、マイケルが大人になってから脱走して連続殺人鬼になるという大まかな筋書き は分かっているだろう。
で、ブギーマンになるまでの経緯として、母親を殺そうとしたり、その母が自殺したり、そういう様子を描かれても、「だから何なのか」 という風にしか思えないんだよな。
それを描いたところで、ブギーマンのキャラが厚くなっているとは感じない。

っていうか、根本的な問題として、前半の物語って、後半に上手く繋がっていないんだよな。「かつて家族を殺したキチガイ殺人鬼が脱走 して、また殺人を再開しました」ということに過ぎない。
その「かつて」の部分を描かなくても、後半部分には、それほど大きな影響が無い。
誰かのセリフで「かつてそういうことがありまして」と触れる程度でも充分でしょ。
前半部分をカットするとスラッシャー描写は減るけど、その分は後半に増やせばいいだけだ。
っていうか、上映時間は109分だけど、20分ぐらい短くすればいいし。

あと、脱走したマイケルの狙いが妹にあるのは明白だし、その妹がローリーなのも明らかだ。
一応、前半部分で赤ん坊の名前は明かされていないけど、ほとんどバレバレだよな。
そこが分からなくても、後半にはするとルーミスが「奴の目的は妹だ」と言い、ブラケットが妹の正体を明かす展開がある。
で、そうなると、脱走したマイケルの殺人に「それは何のためなのか」とツッコミを入れたくなってしまう(ちなみにオリジナル版では、 ローリーがマイケルの妹であることは明かされなかった。シリーズ2作目で明かされる)。

例えば、マイケルが妹を捜し出す過程で他の連中を惨殺するとか、妹と間違えて別人を殺すとか、そういうことなら分かるよ。
でも、もうマイケルはハドンフィールドへ帰郷してすぐに、ローリーのことを確認しているわけで。
拉致しようとすれば、そのチャンスは幾らでもあったはず。
にも関わらず、その周囲の連中を次々に殺害するのは何なのかと。
まあ「殺人キチガイだから仕方が無い」と言われたら、そうなのかもしれんけどさ。

(観賞日:2012年8月24日)

 

*ポンコツ映画愛護協会