『フライトナイト/恐怖の夜』:2011、アメリカ

ネバダ州のラスベガス郊外に暮らす高校生のチャーリー・ブリュースターは、同級生のエイミーと付き合っている。車も持っていないオタク青年のチャーリーが美人のエイミーと付き合い始めたことに、周囲の男子は驚きを隠せない。チャーリーはエイミーと彼女の仲間に合わせようとして、オタク仲間であるエドとは距離を置くようにしている。しかしエドは学校でチャーリーを呼び、同級生のアダムが失踪したので調査に協力してくれと持ち掛ける。チャーリーはアダムが学校を休んでいるだけだと軽く捉えていたが、エドが大声で恥ずかしいことを言おうとしたので、放課後に時間を設けることを約束した。
チャーリーがエイミーの車で帰宅すると、母のジェーンは空き家だった隣に引っ越してきたジェリーと話していた。ジェーンはチャーリーとエイミーに気付き、ジェリーに紹介した。シングルマザーのジェーンは、ハンサムなジェリーに好感を抱いた様子だった。エドとの約束を思い出したチャーリーは、慌ててアダムの家へ赴いた。ノックしても応答は無く、エドは勝手に侵入した。彼はチャーリーに、「お前の隣人はヴァンパイアだ」と告げた。
チャーリーは呆れるが、エドは真剣な表情で説明した。彼は「証拠は僕の家にある。ジェリーの家を調べる必要がある。ただし、深夜になってからだ」と言い、「ピーター・ヴィンセントのサイトに書いてあった」と告げる。ヴィンセントは人気マジシャンだが、エドは「彼はオカルトの専門家で、ヴァンパイアの研究をしている」と語る。エドがエイミーを侮辱するような言葉を発したのでチャーリーは激怒して突き飛ばし、「お前とは、もう友達じゃない」と言い放った。
チャーリーと別れたエドは、同級生のマークと遭遇する。マークに威嚇されたエドは、慌てて逃げ出した。ジェリーを目撃したエドは必死に逃走を図るが、プールに追い詰められた。エドは十字架を掲げるが何の効果も無く、ジェリーに噛み付かれた。翌朝、チャーリーが登校すると、昨日よりも欠席者の数が増加していた。エドも登校していなかったため、チャーリーは彼の家に行く。すると母のヴィクトリアと父のリックは、「エドは朝から出掛けたんだ」と告げた。
すぐに借りたい本があるのだとチャーリーは嘘をつき、エドの部屋に入れてもらった。部屋にはヴァンパイアについて記したノートがあり、パソコンにはエドとアダムがジェリーを盗撮した動画が残されていた。チャーリーが帰宅するとジェリーが現れ、ビールを分けてほしいと頼んで来た。チャーリーが「冷蔵庫を見てきます」と言ってキッチンへ向かうと、チャーリーは後を追って上がり込んだ。チャーリーが不安を抱きつつビールを渡すと、ジェリーは裏口から出て行った。
チャーリーが自室に入るとエイミーが待っており、セックスに誘う。チャーリーは事に及ぼうとするが、隣家のチャイムを耳にして意識が逸れた。彼が隣家に目をやると、向かいに住むドリスがジェリーを訪ねていた。ドリスを招き入れるジェリーと目が合ったチャーリーは、慌てて身を隠した。エイミーが去った後、転寝していたチャーリーはドリスの悲鳴で目を覚ました。チャーリーは警察に通報するが、駆け付けた警官たちはジェリーの「セックスの時の声が大きいんだ」という説明を信じて立ち去った。
ジェリーが車で出掛けるのを確認したチャーリーは、隣の家に忍び込んだ。すぐにジェリーが戻って来たので、チャーリーはクローゼットに隠れた。隙を見て移動した彼は、ドリスが小部屋に監禁されているのを見つけた。彼はドアの鍵を開けようとするが、ジェリーの接近に気付いて別の小部屋に身を隠す。ジェリーはドリスを部屋から連れ出し、首筋に噛み付いた。血を吸って満足したジェリーが去った後、チャーリーはドリスを救い出した。しかし外へ出て日光を浴びた途端、ドリスの体は爆裂して消散した。
チャーリーはジェーンに「ジェリーを家に招待せず、話もしないでくれ」と頼み、ヴィンセントのショーが開催されている会場へ向かった。彼は関係者用のパスを盗み、ヴィンセントと会う。チャーリーはジェリーのことを話すが、もちろんヴィンセントには信じてもらえない。ヴィンセントは助手のジンジャーを呼び、チャーリーを追い払わせた。帰宅したチャーリーが警戒心を強めて退治用の杭を用意していると、エイミーが訪ねて来た。ジェリーがドアをノックしたので、チャーリーはジェーンに「開けないで」と制止した。
ジェリーはドア越しに、「ジェーン、君の息子には困っている。勝手に忍び込んで物を壊した。頭がおかしい。このままだと通報するしかない」と話す。チャーリーから「僕を信じて」と頼まれたジェーンが「勝手に通報して」と言うと、ジェリーはガスの配管を引き抜いて家を爆破した。ジェーンはチャーリーとエイミーを車に乗せ、逃亡を図る。ヴァンパイアの姿に変貌して追って来たジェリーは、たまたま通り掛かった男を始末した。
ジェリーはチャーリーを襲撃するが、背後からジェーンが杭を突き刺した。チャーリーとエイミーは気を失ったジェーンを車に乗せ、その場から走り去った。母を入院させたチャーリーは、彼がオフィスに置いていった資料に目を通したヴィンセントから連絡を受けた。「力になろう」とヴィンセントは告げ、家まで来るよう指示した。チャーリーがエイミーを連れて赴くと、ヴィンセントは「ヴァンパイアを退治するのは無理だ。軍隊が必要だ」と言う。そこへ宅配業者に化けたエドが現れるが、彼はジェリーの下僕になっていた。ヴィンセントが隠れたため、チャーリーはエイミーを逃がしてエドと戦う…。

監督はクレイグ・ギレスピー、オリジナル脚本はトム・ホランド、原案はトム・ホランド、脚本はマーティー・ノクソン、製作はマイケル・デ・ルカ&アリソン・ローゼンツワイグ、製作総指揮はレイ・アンジェリク&ジョシュ・ブラットマン&マイケル・ガエタ&ロイド・ミラー、撮影はハヴィエル・アギーレサロベ、美術はリチャード・ブリッジランド・フィッツジェラルド、編集はタティアナ・S・リーゲル、衣装はスーザン・マシスン、特殊メイクアップ・デザインはハワード・バーガー&グレッグ・ニコテロ、視覚効果監修はジョー・バウアー、音楽はラミン・ジャヴァディー、音楽監修はデイナ・サノ。
出演はアントン・イェルチン、コリン・ファレル、トニ・コレット、クリストファー・ミンツ=プラッセ、デヴィッド・テナント、イモージェン・プーツ、デイヴ・フランコ、エミリー・モンタギュー、ウィル・デントン、リード・ユーイング、サンドラ・ベルガラ、クリス・サランドン、グレイス・フィップス、チェルシー・タヴァレス、リサ・ローブ、ブライアン・ハスキー、マイケル・ミラー、マリア・ボーヴェ、ケント・カークパトリック、アーロン・シーヴァー、リック・オルテガ、チャーリー・ブラウン、レベッカ・ウィギンズ他。


1985年の映画『フライトナイト』をリメイクした作品。
監督は『ラースと、その彼女』『Mr.ウッドコック -史上最悪の体育教師-』のクレイグ・ギレスピー。
脚本は『アイ・アム・ナンバー4』のマーティー・ノクソン。
チャーリーをアントン・イェルチン、ジェリーをコリン・ファレル、ジェーンをトニ・コレット、エドをクリストファー・ミンツ=プラッセ、ヴィンセントをデヴィッド・テナント、エイミーをイモージェン・プーツが演じている。
オリジナル版の主演俳優であるクリス・サランドンがジェリーに殺される男の役で、歌手のリサ・ローブがヴィクトリア役で出演している。

小説『ヴァンパイア・ダイアリーズ』『トゥルーブラッド』『トワイライト』シリーズがベストセラーとなり、それぞれ映画やTVドラマになって大ヒットするなど、この映画が公開された当時はアメリカでヴァンパイア・ブームが起きていた。
厳密に言うと「主にティーンズ女子の間で起きているブーム」ではあるが、ともかく「ヴァンパイア物」が勢いを持っていた。
そんなブームに便乗しようと目論んだことが、かなり濃厚な作品である。
マーティー・ノクソンはTVシリーズ『バフィー〜恋する十字架〜』で製作総指揮を務めていた人物なので、「ヴァンパイア物の先駆者はワシだぞ」という自負があったのかもしれない。

オリジナル版はコメディー色の強いホラー映画であり、その味付けは間違いなくプラスに作用していた。
それに比べると、このリメイク版はシリアス方向へ舵を切っている。
ただし、完全にシリアスモードで進めているわけではなく、「コメディー色が減った」という程度。だから、「帯に短し、襷に長し」で、ものすごく中途半端だという印象を受ける。
本来であれば、オリジナル版のコメディー色を踏襲した方がいいと思う。だけど、違いを出すためにシリアス方面へ舵を切るなら、それはそれで1つの案だろう。ただ、それならそれで、徹底してシリアスに味付けした方がいい。

オリジナル版のヴィンセントは「テレビの恐怖番組で司会を務める落ち目の怪奇役者」という設定で、ロディー・マクドウォールが演じていた。
マクドウォールは『猿の惑星』シリーズのコーネリアス役が有名だが、数多くのB級ホラー映画に出演していた人で、セルフ・パロディー的な味わいも感じられた。
「最初は吸血鬼の存在を信じていなかったので余裕たっぷりだったが、本物と知って焦る。一度は逃げ出そうとしたが、勇気を振り絞って立ち向かい、自信と誇りを取り戻す」というヴィンセントのドラマが、喜劇芝居を盛り込みつつ描写されていた。
このキャラクターが、映画に大きな価値をもたらしていた。

そこの部分も、オリジナル版から踏襲した方がいいポイントだ。
例えば『ドラキュラ都へ行く』のジョージ・ハミルトンにヴィンセントを演じてもらうってのも、面白い趣向だったんじゃないか。あるいは、クリス・サランドンにヴィンセント役をオファーするのも一興だっただろう。
しかし残念ながら、そもそもヴィンセントのキャラクター造形がオリジナル版とは大きく異なっているのだ。
このリメイク版におけるヴィンセントは、「イケメンで人気絶頂で放蕩三昧のマジシャン」という設定なのである。

もちろん製作サイドだってバカじゃないんだから、何の考えも無く適当に設定を変更したわけではあるまい。「あえてオリジナル版と真逆を行くような設定に変更することで、違いをクッキリと見せよう」という狙いがあったんだろう。
そこは踏襲した方が絶対にいいポイントだと思うけど、大幅に変更することで面白くなっていれば何の文句も無い。
だから問題は、変更が改悪にしかなっていないってことだ。
「ロディー・マクドウォールが演じる落ち目の怪奇役者」に変わる魅力は、リメイク版のヴィンセントには何も感じられない。

わざわざヴィンセントをマジシャンという職業設定に変更したんだから、そこに何かしらの意味があるんだろうと思っていたが、何も無い。
あと、終盤に入って「両親をヴァンパイアに殺されている」というマジな設定が明らかにされるけど、「だから何なのか」と言いたくなる。その設定は、物語の中身に何の影響も与えていない。ヴィンセントの初期設定や存在感が弱いから、「エドの襲撃でビビったけど、覚悟を決めてヴァンパイアに立ち向かう」という展開も全く効果的じゃないし。
ぶっちゃけ、リメイク版のヴィンセントって、登場させる必要性さえ感じないほど冴えないキャラに成り下がっているんだよな。
もちろん最終的にはチャーリーに協力してジェリーに立ち向かうんだけど、彼の存在を排除して、チャーリーとエイミーがヴァンパイア退治に奮闘する内容にしてしまった方がスッキリするわ(もちろんエイミーが噛まれる展開は除外してね)。
もしくは、「理性を取り戻したエドが寝返り、チャーリーと協力して戦う」という展開にでもした方が、よっぽど面白くなりそうだぞ。

改悪でしかないキャラクター設定の変更は、他にも見受けられる。
まずはチャーリーの設定、及びエドとの関係性だ。
オリジナル版では、チャーリーが「ジェリーはヴァンパイアだ」と確信するが、エドは信じないという関係性だった。しかしリメイク版では、そこの役割を逆にしている。エドが「ジェリーはヴァンパイアだ」と言い出し、チャーリーが最初は信じないという形にしてあるのだ。
ところが、これだと「チャーリーがジェリーを探る」という作業は、「観客がジェリーをヴァンパイアだと認識し、エドが襲われる」という手順の後になってしまう。
そうなると、チャーリーがジェリーを探る作業の意味が著しく弱まってしまう。

そもそも、エドが「ジェリーはヴァンパイアだ」と言い出すトコロに説得力が全く無いのよね。
オリジナル版の場合、チャーリーは以前からヴィンセントが司会を務める怪奇番組のファンだったし、家に棺桶を運び込んだり女性の首筋に牙を突き立てりするジェリーの姿を目撃している。そして何より、おバカなキャラだった。
それに比べてリメイク版のエドは、「ジェリーはヴァンパイアだ」と言い出す根拠が何も無い。
「以前から調べていた」と台詞で軽く説明するだけなので、そんなのは根拠と呼べない。そして根拠が無い内に、ジェリーがエドを襲う展開がある。
だから話が早いっちゃあ早いけど、すんげえ淡白なのよね。

そして、ここの役割を変更したことは、以降の展開にも大きな影響を及ぼしてしまう。
「チャーリーがヴィンセントにヴァンパイア退治を依頼する」という部分はオリジナル版と同じだが、あちらは「チャーリーが番組のファンであり、現実とテレビの設定を混同しそうなバカである」ということから、すんなりと受け入れることが出来た。
しかしリメイク版の場合、エドから「ヴァンパイア研究をしている」と聞かされていたとは言え、ただのマジシャンに過ぎないヴィンセントをチャーリーが頼る設定に無理を感じるのよ。

もう1つ、キャラクター設定の変更では、エイミーの部分も大失敗している。
オリジナル版では、なかなか体を許してくれない地味目の女の子だった。だからこそ、「ヴァンパイアの餌食になってビッチに変貌してしまったので、チャーリーがショックを受ける」という効果があったわけだ。
しかしリメイク版のエイミーは、登場した時点で既にエロエロな雰囲気が漂いまくっているんだよね。自分からセックスに誘っているし。
だから、「ヴァンパイアに噛まれて変貌した」というイメージも弱くなってしまうのよ。

そもそも、「冴えないオタク青年のはずのチャーリーが、なぜ男子からの人気が抜群である美女のエイミーと付き合えたのか」という部分の疑問に対する答えは、何も用意されていないんだよね。
序盤にエイミーは「貴方といると落ち着くのよ」と言っているが、そんなのは何の説得力も持たない言葉だ。「実は何か裏の狙いがあって」という真相が隠されているわけではない。
だからホントに「単純にエイミーがチャーリーに惹かれた」ってだけなんだろうけど、そこは余計な引っ掛かりになっていると感じるなあ。
あと、チャーリーをオタクにしてあるのに、「冴えないオタクが惚れた女のために必死で頑張る」という部分の面白味も弱いんだよな。

リメイク版のジェリーは、かなり暴れん坊に造形されている。何しろ、「招かれなければ家に入ることが出来ない」というルールを破るために、チャーリーの家をガス爆発させてしまうような奴なのだ。
「家が無くなればルールは無関係」ってことだが、そんな派手な事件を起こして警察が乗り出すことも平気なのね。
それ以外のシーンでも、とにかくジェリーは破壊衝動が強い。
「リメイク版ではアクション色を強める」ってのは、ハリウッドの潮流なのかね。
もちろん、それがプラスだったのかは、もはや言うまでもないだろう。

(観賞日:2016年1月31日)

 

*ポンコツ映画愛護協会