『フリーダ』:2002、アメリカ

1922年、メキシコシティー。高校生のフリーダ・カーロは講堂で画家のディエゴ・リヴェラがヌードモデルを壁画に描いていることを知り、恋人のアレハンドロや友人たちを誘って覗き見た。するとリヴェラの妻のルペが食事を入れたバスケットを持って、講堂に現れた。彼女は夫とモデルの浮気を知っており、激しく非難した。リヴェラが「邪魔だ」と冷たく告げると、ルペはバスケットを投げ付け、罵って立ち去った。リヴェラがモデルとセックスを始めようとすると、フリーダは大声で叫んで邪魔をした。
フリーダは自宅にアレハンドロを連れ込み、セックスをする。彼女は妹のクリスティナに手伝ってもらい、母のマティルデに気付かれないようアレハンドロを逃がした。クリスティナは結婚の準備に浮かれていたが、フリーダは父のギリェルモに「結婚が当然だとは思わない」と話す。彼女は家族の集合写真に男装で現れ、マティルデは顔をしかめた。フリーダはアレハンドロとバスに乗り、学校へ向かった。その途中でバスは衝突事故を起こし、大怪我を負って病院に担ぎ込まれた。
フリーダは自力で歩くことも出来ず、担架で自宅に運ばれて療養生活に入った。ギリェルモは手術代を捻出するため、商売道具の写真用品を売却しようと考えるが、マティルデは「諦めて。あの子は、もう歩けないのよ」と語る。軽傷で済んだアレハンドロは見舞いに来るが、「叔父夫婦に誘われてヨーロッパへ行く。その後はソルボンヌ大学へ行く」とフリーダに告げた。フリーダは何人もの医者に診察を受けるが全く治らず、痛みも消えなかった。
フリーダは痛みと付き合いながら、ギプスに絵を描く日々を過ごす。ギリェルモは彼女のために、画材をプレゼントした。ギプスが外れて車椅子生活になったフリーダは、クリスティナの肖像画を描いた。彼女は車椅子から立ち上がって歩き、両親を感涙させた。杖は必要だが歩けるようになったフリーダはリヴェラの作業場を訪れ、絵を見て素直な意見を言ってもらいたいと頼んだ。「仕事が必要なの。絵がダメなら諦めて他の仕事を探さないと」と彼女が言うと、リヴェラは自信のある絵を置いておくよう告げた。フリーダは妹の肖像画を置いて、その場を去った。
肖像画を見たリヴェラは、フリーダの家へ赴いた。他の作品も見た彼は、フリーダに「独創的な絵だ。続けるべきだ」と述べた。フリーダはリヴェラに連れられ、彼の仲間が集まるパーティーに参加して写真家のティナ・モドッティーや画家のダヴィッド・シケイロスたちと会った。リヴェラと別れたルペは、フリーダに「彼には女を操る魅力がある。ここに来ている女の大半はモノにしてる」と教えた。悪酔いしたシケイロスはリヴェラに突っ掛かり、トロツキーを批判した。リヴェラが「君は貧者を犠牲にしろと?」と質問すると、シケイロスは金持ちの共産主義者が何を言う?」と批判した。リヴェラが憤慨して発砲すると、ティナが仲裁に入って飲み比べを提案した。
フリーダはリヴェラから絵を学ぶだけでなく、政治活動にも一緒に参加した。リヴェラはメキシコ共産党の書記長を務めており、フリーダも党員になった。2人は男女の関係になり、結婚することになった。リヴェラが無神論者で共産主義者であることから、マティルデは娘の結婚を祝福しなかった。結婚パーティーに顔を見せたルペは、リヴェラとフリーダを激しく罵った。リヴェラは全く反論せず、薄笑いを浮かべているだけだった。
リヴェラはルペと子供たちの新居が決まるまで、2階に住まわせるひとにした。フリーダはルペに怒りをぶつけるが、すぐに仲良くなった。ルペは彼女に、「リヴェラは誰の物にもならないわ。本当の夫にはなれない男よ」と告げた。フリーダはリヴェラとモデルの浮気を悟り、腹を立てた。しかしリヴェラは全く悪びれず、「ただのセックスだ。心は無い」と言い放った。彼は党から裏切り者呼ばわりされ、除名の噂も出ていた。彼はフリーダに、「こっちから脱退してやる。ニューヨーク近代美術館で個展の話がある」と告げた。
フリーダはリヴェラに同行し、アメリカへ赴いた。リヴェラの個展は成功し、大きな注目を集めて次々に仕事が舞い込んだ。彼はネルソン・ロックフェラーの依頼を受け、ロックフェラー・センターに壁画を描くことになった。フリーダが妊娠を打ち明けると、リヴェラは「体は持つのか」と心配した。彼は「時期が悪い。仕事が多くて旅ばかりだ」とも言うが、フリーダの意思を確認して協力を快諾する。しかしフリーダは流産し、悲しみに暮れた。
フリーダはマティルデが重病を患っていることを手紙で知り、久々に帰郷した。クリスティナは夫から暴力を受け、離婚して実家に戻っていた。マティルデが死去し、フリーダは葬儀に参列した。リヴェラはセンターの壁にレーニンの肖像画を描き、ロックフェラーから変更を求められた。ロックフェラーは「当初の説明では労働者だった」と言い、新聞の批判を受けて反発したのだろうと指摘する。リヴェラが「主義に反する」と変更を拒否すると、ロックフェラーは解雇を通告した。
リヴェラは憤慨して復讐を誓うが、共産主義を露骨に強調したせいで他の仕事も無くなった。彼はフリーダに促されてメキシコへ戻るが、仕事もせずにアトリエで閉じ篭もって「この国の人間はバカばかりだ」と喚き散らした。フリーダは孤独を寂しがるクリスティナのために、アトリエを片付ける仕事を任せた。リヴェラがクリスティナと浮気する現場を目撃したフリーダは激怒し、彼を追い出して酒に溺れる。しかしリヴェラから「亡命したトロツキーを助けたい」と協力を求められると、フリーダは実家で匿うことを承諾した…。

監督はジュリー・テイモア、原作はヘイデン・エレーラ、脚本はクランシー・シーガル&ダイアン・レイク&グレゴリー・ナヴァ&アンナ・トーマス、製作はサラ・グリーン&サルマ・ハエック&ジェイ・ポルステイン&リズ・スピード&ナンシー・ハーディン&リンゼイ・フリッキンジャー&ロベルト・スナイダー、製作総指揮はブライアン・ギブソン&マーク・アミン&マーク・ギル&ジル・ソベル・メシック&エイミー・スロトニック&マーガレット・ローズ・ペレンチオ、共同製作はアン・ルアーク、撮影はロドリゴ・プリエト、美術はフェリペ・フェルナンデス・デル・パソ、編集はフランソワーズ・ボノー、衣装はジュリー・ワイズ、音楽はエリオット・ゴールデンサール。
出演はサルマ・ハエック、アルフレッド・モリーナ、ジェフリー・ラッシュ、ヴァレリア・ゴリノ、ミア・マエストロ、ロジャー・リース、ディエゴ・ルナ、パトリシア・レジェス・スピンドーラ、マルガリータ・サンズ、アシュレイ・ジャッド、アントニオ・バンデラス、エドワード・ノートン、サフロン・バロウズ、オマー・ロドリゲス、ロバート・メディーナ、ロロ・ナヴァーロ、マリー・ルス・パラシオ、ルシア・ブラーヴォ、アレハンドロ・ウシグリ、ジュリアン・セジウィック、ホルヘ・ゼペダ、アイーダ・ロペス、フェルミン・マルティネス他。


ヘイデン・エレーラによる評伝『フリーダ・カーロ 生涯と芸術』を基にした作品。
ブロードウェイ・ミュージカル『ライオン・キング』でトニー賞を受賞した舞台演出家のジュリー・テイモアが監督を務めている。
フリーダをサルマ・ハエック、ディエゴをアルフレッド・モリーナ、トロツキーをジェフリー・ラッシュ、ルペをヴァレリア・ゴリノ、クリスティナをミア・マエストロ、ギリェルモをロジャー・リース、アレハンドロをディエゴ・ルナ、マティルデをパトリシア・レジェス・スピンドーラ、ナタリアをマルガリータ・サンズが演じている。
他に、ティナ役でアシュレイ・ジャッド、シケイロス役でアントニオ・バンデラス、ロックフェラー役でエドワード・ノートンが出演している。

序盤、リヴェラとモデルの浮気に腹を立てたルペが、「芸術だの革命だのとゴタクを並べてばかり。身勝手なクソ野郎よ」と罵る。
この言葉は「その通り」と納得できるモノであり、リヴェラを分かりやすく表現している。
そんなリヴェラについては、序盤で紹介のための手順が無いから、最初の時点でどれぐらいの立場にあるのかがサッパリ分からない。
「女癖は悪いけど、画家としては高い評価を受けている著名な人物」ってのは、ちゃんと説明しておく必要があるんじゃないかと。

フリーダが家族で集合写真を撮影した後、シーンが切り替わると事故が描かれるのだが、拙速だなあと感じる。
全体の構成を考えて、その辺りで事故を描いておかないと難しいってことなのかもしれないよ。
ただ、それなら回想形式で「こんなことがありました」と幾つかのエピソードを抽出する構成にした方が良かったんじゃないかと。
時系列順の並びで、そのタイミングで事故のシーンを描くと、ちょっと不細工に感じてしまうんだよなあ。

フリーダは事故の直前、画家が持っていた金粉(?)を少し分けてもらう。その金粉が事故で車内に飛散するのは、映像的な効果を狙ってのことだろう。
それは分かるんだけど、要らない飾り付けに思えるなあ。スローモーションで事故を演出するのも要らないわ。
事故の後、骸骨人形の医師や看護師がフリーダの症状について語る手術シーンがあるんだけど、これも「なんだかなあ」と言いたくなる。
悪夢的表現ってことなのかもしれないけど、まるで馴染んでいない。

フリーダは事故の直前に壁画に見とれていたが、それ以外では「絵画に強い興味がある」と感じさせる描写は無かった。
実際のフリーダは幼少期から父の影響で絵画に興味を持っていたはずだが、その辺りは全く描かれていない。
事故に遭った後、自分の足を描くシーンがあるけど、「以前から絵を描いていたのか、強い興味があったのか。それとも事故がきっかけで描くようになったのか」という辺りは、まるで分からないんだよね。

フリーダ・カーロを主人公にするんだから、彼女のアイデンティティーにおいて絵画の関係性って何よりも大切なはずでしょ。
それなのに、そこの表現が雑なんだよね。最初から画風が確立されていたわけじゃないはずだが、どういう影響を受けたのかも分からないし。
あと、フリーダとリヴェラの関係ばかりに意識が向けられており、「フリーダの画家としての物語」が全くと言っていいほど見えて来ない。
途中で絵を評価されたり個展を開たりするシーンもあるけど、ホントに申し訳程度なのよね。

ルペがリヴェラについて「彼には女を操る魅力がある。ここに来ている女の大半はモノにしてる」と評し、モテる理由として「彼は欠点に美を見出す」と語るシーンがある。
でも、リヴェラが実際に欠点に美を見出して女性を魅了するシーンが無いので、彼がモテモテという設定に説得力が感じられない。ちょっと責められただけで発砲するようなヤバい奴だし。
フリーダがリヴェラと男女関係になるのも、ただ段取りを追っているだけでしかない。
どこまで話が進んでも、リヴェラの魅力が見えて来ない。

パーティーでリヴェラとシケイロスが険悪になると、ティナが仲裁して飲み比べを持ち掛ける。ここでシケイロスが「愚かな友より知的な敵を持ちたいよ」と言うとリヴェラかせ思わず吹き出し、シケイロスも笑って一気に喧嘩ムードが無くなる。
でも、何が面白いのか、なぜ笑って仲直りできるのか、サッパリ分からない。
その後、フリーダが一気に酒を飲み干し、勝者の褒美としてティナと踊り出すのだが、これも何のつもりかサッパリ分からない。
このシーンで何を表現したかったのか、無能な私には全く理解できない。

フリーダがリヴェラから絵を教わるだけでなく、政治活動にも積極的に参加する。でも、その理由がサッパリ分からない。
ルペに罵られたリヴェラが薄笑いだけで守ってくれなかったことで腹を立てたフリーダだが、すぐに笑って許す。でも、そんなに簡単に心変わりする理由が良く分からない。
ルペが同居すると知ったフリーダは激しい敵対心を示すが、カットが切り替わると仲良くなっている。だが、どういう経緯で仲良くなったのかは全く分からない。
繊細な描写ってのが、全く用意されていない。説明不足も多くて、例えばリヴェラがメキシコ共産党から裏切り者呼ばわりされるようになった経緯なんかもサッパリ分からない。

フリーダとリヴェラがアメリカへ渡ると、白黒写真のコラージュの空間を2人が歩くシーンがあったり、『キングコング』の劇中に2人が入り込む演出があったりする。
でも、急に凝ったことをやろうとして、完全に浮いているだけだ。
前述した事故のシーンや手術シーンなど、こういう「凝ったことをやろうとしている演出」が何度かあるんだけど、全てが上滑りしている。
トーンの統一感が無くて、たまに思い付いたように放り込んでいるだけに感じる。

リヴェラはロックフェラーからレーニンの肖像画を変更するよう要求されるが、「主義に反する」と断る。
でも、そもそも彼は、労働者を描くという約束を交わしていたのだ。それを「信念は変えられない」と拒否しても、リヴェラの評価が上がることなんて無いよ。
リヴェラは「私の絵だ」と主張するけど、ロックフェラーの「私の壁だ」という主張に賛同するわ。
大金を貰ってオファーを受けた以上、ちゃんと契約は守らないとダメでしょ。
そりゃあ最初は擁護していたロックフェラーだって、愛想を尽かすのは当然だよ。

リヴェラはクリスティナとまで浮気するんだから、しかもフリーダが子供たちを連れて出掛けている間にアトリエでセックスするんだから、クズ中のクズでしょ。
まあ、これに関してはクリスティナもクソビッチだけどさ。
ビッチと言えば、冒頭シーンでフリーダはリヴェラとモデルを覗きながら、アレハンドロとペッティングを始めようとするんだよね。講堂を出ると自宅にアレハンドロを連れ込み、セックスするんだよね。
実は彼女も、のっけからビッチぶりを見せ付けているのだ。

フリーダはトロツキーを実家で受け入れるものの、リヴェラに対しては拒絶する態度を取り続ける。そしてトロツキーと親密になり、肉体関係を持つ。しかしパリに渡ると、リヴェラに未練たらたらの手紙を書く。
それ以前から、リヴェラを心底から嫌いになったわけじゃないこと、気持ちが完全に消えたわけじゃないことは見えていた。なので、流れとして変になっているわけではない。
ただ、リヴェラに魅力が乏しいので、「それでもフリーダが彼に未練たっぷりなのは体の相性なのかね」と下世話なことを思ってしまうわ。
最終的にリヴェラは足を切断したフリーダに復縁を申し出るが、それも愛じゃなくて罪悪感から来る行動にしか思えないし。

(観賞日:2021年8月10日)

 

*ポンコツ映画愛護協会