『フリー・ガイ』:2021、アメリカ

フリー・シティーではサングラス族がヒーローで、何をしても許された。高層アパートで暮らす銀行員のガイは目を覚まし、飼っている金魚に挨拶してからブルーのシャツに着替えた。朝食を済ませた彼は外出し、近くのコーヒーショップで店員のミッシーにコーヒーを注文した。ガイは店にいるジョニー巡査に挨拶し、外へ出た。彼は靴屋の店頭に飾られている200ドルの靴を眺め、「今日こそ買うぞ」と言う。しかしATMで確認すると、貯金残高は187ドルだった。それらは全て、いつも通りの行動だった。
ガイは銀行の警備員であるバディーと合流し、銀行へ向かった。ジョーが営むコンビニは強盗の被害に遭っているが、これも日常だ。銀行で働いているとショットガンを持った強盗が押し入るが、いつものことなのでガイとバディーは伏せながら落ち着き払って会話を交わした。ガイが「理想の女性が頭の中にいる」と言うと、バディーは「実在しないファンタジーだよ」と告げた。モロトフ・ガールは路地裏で覆面の男と会い、隠しエリアの証拠を持つ人物がいる場所の地図を受け取った。覆面男はモロトフ・ガールに、忍び込めたら56の映像を見るよう指示した。
ガイがバディーと道を歩いていると、地図を見ながら周囲を調べているモロトフ・ガールがやって来た。彼女が口ずさむ歌を耳にしたガイは、「その歌、好き」と告げる。モロトフ・ガールは不思議そうに「新フレーズ」と言い、その場を後にした。ガイはバディーに、「理想の女性だ」と興奮した様子で話す。「サングラスをしてた。俺たちとは話さない」とバディーは諭すが、ガイは耳を貸さずに追い掛けた。しかしガイは線路で立ち止まり、列車にはねられた。
モロトフ・ガールとしてフリー・シティーのゲームをプレイしていたミリー・ラスクは、ログアウトした。『フリー・シティー2』の発売が迫る中、彼女は発売したスナミ・スタジオを盗用で訴えており、そのための証拠を探していた。いつものように起床したガイは、いつものブルーシャツでコーヒーショップに立ち寄った。しかし彼が「今日はカプチーノにしようかな」と口にしたので、周囲の面々は驚いた。ジョニーが「撃たれたいのか」と言うので、ガイは慌てて「冗談だよ」と慌てて誤魔化した。
ガイが銀行で働いていると、いつもの時間に強盗が現れた。いつものように伏せていたガイだが、外を歩くモロトフ・ガールに気付いた。バディーが「サングラスを掛けていないと相手にされない」と言うと、ガイは「じゃあ僕もサングラスを掛ける」と言い出した。彼は強盗に歩み寄り、サングラスを貸してほしいと持ち掛けた。当然のように拒否されたガイだが、ショットガンで強盗を射殺した。サングラスを手に入れたガイは、銀行の外へ出た。
ガイがサングラスを掛けると、ゲームプレイヤーの画面が表示された。出現した救急箱に手を伸ばすと怪我が回復し、散らばった札束に 触れると残高表示が増えた。ATMで確認した彼は、金を引き落として靴を購入した。キーズは同僚のマウサーに、「モブキャラにグラサンを取られて殺された」と話す。モブキャラのスキンは禁じられているため、マウサーは「そいつを出禁にしろ」と言う。キーズは「やろうとしたが、特定できない」と言い、2人はプレイヤーとして接触することにした。キーズは警官、マウサーはウサギのキグルミのスキンを使い、フリー・シティーの世界に入った。
キーズとマウサーはガイを発見し、「そのスキンを脱げ」と要求した。ガイが従わないので、彼らは発砲して排除しようとする。ガイは逃亡し、キーズとマウサーに追跡されると靴のジャンプ機能を使った。キーズたちからの逃亡には成功したガイだが、パトカーにひかれた。ログアウトしたキーズは、マウサーに「おかしい。殺したのにプレイヤー数が同じだ」と告げる。マウサーは彼に、「アントワンには言うな。続編のことで頭が一杯だ。キレて俺たちのせいにするかもしれない」と述べた。
キーズは現在、スナミ・スタジオでクレーム処理係として勤務していた。かつて彼はミリーと『ライフ・イットセルフ』というゲームを開発し、スナミ・スタジオから販売される予定だった。しかし社長のアントワンはアイデアを盗用して『フリー・シティー』を発売し、ミリーたちには一銭も支払わなかった。キーズはミリーから証拠集めの協力を要請されるが、承知しなかった。ミリーはモロトフ・ガールとして隠れ家を張り込むが、そこにガイが現れて呑気に声を掛けた。モロトフ・ガールは銃を突き付けて制圧するが、騒ぎのせいで敵に見つかった。モロトフ・ガールがポータルガンでワープすると、ガイも付いて来た。
モロトフ・ガールが「盗みの邪魔よ」と言うと、ガイは「手伝うよ」と申し出た。モロトフ・ガールは呆れつつ、「この世界で目立ちたいなら、レベルを上げなきゃ」と告げる。彼女のレベルは195だが、ガイはレベル1だった。ガイがレベルの上げ方を尋ねると、モロトフ・ガールは「店を襲う。車を奪う。通行人を殴ってもいい」と説明する。「人を傷付けたくない」とガイが言うと、彼女は「グッド・ガイになれば、経験値を上げられるかも」と告げた。
ガイが「レベルは幾つ必要?」と質問すると、モロトフ・ガールは「レベル100を超えたら考える」と答えた。ガイは犯罪者を退治したり困っているひとを助けたりして、レベルアップに励む。ガイは「ブルー・シャツ・ガイ」として大きな話題になり、レベル102に到達した。ガイは久々に銀行へ赴き、バディーに「サングラスで人生が変わった」と話す。彼は強盗からサングラスを奪い、バディーに掛けるよう勧めた。しかしバディーが「無理だ」と拒むので、「気が変わったら知らせて」と告げた。
ミリーはモロトフ・ガールとして隠れ家に潜入するが、敵が多くて困っていた。そこで彼女はキーズに連絡し、助けを求めた。キーズは仕方なくトイレの個室へノートパソコンを持ち込み、「ドアを開けるだけだ」と承諾した。モロトフ・ガールは56の映像を手に入れるが、次々に兵士が出現して取り囲んだ。そこへガイがバイクで駆け付け、モロトフ・ガールに加勢した。モロトフ・ガールは敵を一掃し、ガイと共に隠れ家から脱出した。
アントワンが会社に来たので、キーズは慌てて自分の席に戻った。アントワンはマウサーたちに、「ブルー・シャツ・ガイはSNSは人気だ。あのスキンを『フリー・シティー2』で使え」と指示した。社員が1からのスキンの移植も済んでいないことを告げると、彼は「放っておけ。2では使えない」と切り捨てた。キーズが1のキャラを使えると宣伝していることを伝えると、アントワンは嘘だったことにすればいいだけだと簡単に告げた。バグだらけでクレームが殺到していることにキーズが触れると、彼は「だが認知度は抜群だ。何も心配ない」と全く意に介さなかった。
ガイと再会したモロトフ・ガールは、急激なレベルアップやアイテムの充実に疑問を抱いて「貴方は誰?スナミの社員?」と尋ねる。ガイは「銀行員だ」と答え、「そのスキンはどこ?」という質問に「元からこうだったけど」と告げた。ガイは彼女を公園のアイスクリーム屋へ連れて行き、バブルガム・フレーバーを注文した。滅多に注文されないフレーバーだが、ミリーは自分の好みなので驚いた。それだけでなく、ガイが話すジョークもミリーは知っていた。
キーズは銀行員のモブキャラのスキンがガイだと気付き、詳しく調べた。ガイがモロトフ・ガールに「キスしたい」と言うと、ミリーは承諾した。ミリーは本当の名前をガイに教え、彼と別れた。キーズはミリーを訪ね、「君の説明は正しかった。『ライフ・イットセルフ』はキャラが成長し、リアルに感じる。AIが機能した。そのコードが『フリー・シティー』に使われてる」と話す。そして彼は、ブルー・シャツ・ガイがプレイヤーではなくアルゴリズムで、自分が生きていると思っている人工知能だと説明した。
キーズは興奮した様子で、「プログラムが数千倍に成長してる。やりたかったことが実現してる」と話す。ミリーは「ガイとキスした」と言い、「キスのコマンドは無い」とキーズが告げると「彼は見つけた」と述べた。キーズはミリーに「続編には互換性が無い。『フリー・シティー2』が発売されたら、ブルー・シャツ・ガイの記憶も盗用の証拠も消える」と語り、ガイに事情を話して協力してもらうよう促す。ミリーはモロトフ・ガールとしてガイに会い、「ここはゲームの世界」と説明して証拠の映像を見せた。
ミリーはガイに、『フリー・シティー2』が発売されたら街が消えることを告げる。しかしガイは自分がゲームのモブキャラだと知ってショックを受け、その場を後にした。彼はバディーの元へ行き、「自分がリアルじゃないと知ったらどうする?」と質問する。バディーが「俺は今、困ってるお前を助けようとしてる。俺がリアルじゃなくても、この瞬間はリアルだ」と話すと、ガイの気持ちは晴れた。彼はバディーの協力で隠れ家に侵入し、住人のバトンズと会った。バトンズはブルー・シャツ・ガイのファンで、56番の映像を差し出す。ガイはモロトフ・ガールの元へ行き、その映像を渡した。
アントワン社員たちに、「ブルー・シャツ・ガイがネットで大人気になったせいで、『フリー・シティー2』が売れない。追い出せ」と苛立ちを示した。キーズが「モブキャラなので無理です」と言うと、彼はリセットする方法を考えるよう社員たちに要求した。マウサーが「サーバーの再起動で元のモブキャラに戻るはず」と口にすると、アントワンは作業に当たるよう命じた。再起動によってガイは初期化され、モロトフ・ガールが呼び掛けても以前のことを全く覚えていなかった。
キーズはミリーに電話を掛け、「サーバーを破壊しないとブルー・シャツ・ガイは消せない。彼のAIは残ってる」と語る。トレースログをミリーに送った彼は、『ライフ・イットセルフ』に片思いというキャラがいたことに言及した。キーズは「彼は運命の女性に出会えない設定だ。でも理想の女性に会うことを諦めない。その女性のモデルは君だ。ある日、彼は君に出会って生きてると感じ、本当に生命を得た。君が彼のコードを変えたんだ。また出来る」と説いた。ミリーは銀行へ行き、ガイに拳銃を突き付けて連れ出した。彼女が事情を話してサングラスを掛けても、ガイの記憶は戻らない。しかしミリーがキスすると、彼は全てを思い出した…。

監督はショーン・レヴィー、原案はマット・リーバーマン、脚本はマット・リーバーマン&ザック・ペン、製作はショーン・レヴィー&ライアン・レイノルズ&サラ・シェクター&グレッグ・バーランティー&アダム・コルブレナー、製作総指揮はメアリー・マクラグレン&ジョシュ・マクラグレン&ジョージ・デューイ&ダン・レヴィン&マイク・マクグラス、共同製作はダン・コーエン&ランド・ガイガー、撮影はジョージ・リッチモンド、美術はイーサン・トブマン、編集はディーン・ジマーマン、衣装はマーリーン・スチュワート、視覚効果監修はスウェン・ギルバーグ、視覚効果プロデューサーはヴィエット・ルー、音楽はクリストフ・ベック。
出演はライアン・レイノルズ、ジョディー・カマー、ジョー・キーリー、タイカ・ワイティティー、リル・レル・ハウリー、ウトカルシュ・アンブドゥカル、チャニング・テイタム、アーロン・リード、ブリトニー・オールドフォード、カミーユ・コステック、マーク・ライナー、マイク・ディヴァイン、ソフィー・レヴィー、ヴァーノン・スコット、ナヒーム・ガルシア、アナベル・グレーツ、リック・プラメンコ、ケネス・イズラエル、マイケル・マルヴェスティー、コリン・アレン、マイケル・トウ他。
声の出演はヒュー・ジャックマン、ドウェイン・ジョンソン、ティナ・フェイ、ジョン・クラシンスキー。


『ナイト ミュージアム/エジプト王の秘密』『インターンシップ』のショーン・レヴィーが監督を務めた作品。
脚本は『クリスマス・クロニクル』『アダムス・ファミリー』のマット・リーバーマンと『インクレディブル・ハルク』『レディ・プレイヤー1』のザック・ペンによる共同。
ガイをライアン・レイノルズ、ミリーをジョディー・カマー、キーズをジョー・キーリー、アントワンをタイカ・ワイティティー、バディーをリル・レル・ハウリー、マウサーをウトカルシュ・アンブドゥカルが演じている。

他に、バトンズをチャニング・テイタム、アントワンがガイを倒すために投入するデュードをアーロン・リード、ミッシーをブリトニー・オールドフォード、ジョニーをマイク・ディヴァインが演じている。
モロトフ・ガールと路地裏で取引するアバターの声をヒュー・ジャックマン、銀行強盗の声をドウェイン・ジョンソン、ゲーム実況するキースの母の声をティナ・フェイ、ブルーシャツ・ガイについてインタビューを受けるゲーマーの声をジョン・クラシンスキーが担当している。
俳優のクリス・エバンス、クイズ番組司会者のアレックス・トレベック、テレビ司会者のララ・スペンサーが本人役で出演している。

「ビデオゲームのキャラクターが本人の意志で動き始める」ってのは、この映画が最初に取り上げたアイデアではない。既に『シュガー・ラッシュ』がやっているし、ゲームではないが『絵文字の国のジーン』も似たようなアイデアと言っていいだろう。
ただ、それらがアニメ映画だったのに対し、これは実写映画なので、そこに違いはある。
しかし、ゲーム世界の物語ではないが、何となく『トゥルーマン・ショー』や『LEGO ムービー』を連想させる映画でもある。
なので、仕掛けそのものに新鮮味は乏しい。

サングラスを掛けたガイは戸惑いを見せるものの、モロトフ・ガールと会っていない間も掛け続ける。救急箱で回復したり札束に触れて残高が増えたりする現象は、簡単に受け入れる。靴のジャンプ機能で跳躍するなど、都合のいい時だけはプレイヤーとして順応する。
ガイが自分の意志で動き始める理由についてはキーズが説明しているが、他のモブキャラは動き出していない。
しかもガイは「現状に少しずつ疑問を抱き、やがて大胆な行動を起こして」という手順を踏まず、いきなり女に惚れて大胆な行動に出ている。
終幕から逆算すると、尺の都合はあったのかもしれない。ただ、かなり拙速の展開であり、幾つも手順を飛ばしていると感じる。

この映画には、ものすごく引っ掛かるポイントがある。そこに卑怯な仕掛けを感じて、最初から設定を受け入れることが難しくなっている。
そのポイントとは、「プレイヤーの顔とゲームアバターの顔が同じ」ってことだ。
ミリーがモロトフ・ガールになっても、格好が違うだけで顔は全く同じ。キーズやマウサーも、ゲーム内で動く時の姿は「警官やウサギのキグルミのコスプレをしたキーズやマウサー」という見た目なのだ。
これって、かなり変だと思うのよ。

実際のゲームを遊ぶ時には自由なアバターを選べるとして、素顔を晒したままプレイしたい人って、たぶん稀じゃないかと思うのよ。
大抵の人は、素顔が分からない状態で「オン」の状態を楽しみたいんじゃないかと。
もしも『フリー・シティー』が「プレイヤーのアバターは本人の素顔が使われる」という条件でしか遊べないとしたら、そこまで大人気にならないんじゃないかと思うし。
だから、たぶん、っていうか絶対に、プレイヤーとアバターの顔が同一なのは表現上の都合に過ぎないんだろう。

で、その都合ってのは、「ガイとミリーの恋愛劇に大きく関わる要素だから」ってことだ。
ガイはゲーム内のキャラクターだが、ミリーは違う。だからミリーとモロトフ・ガールを全く異なる外見に設定した場合、「ガイとモロフト・ガールが惹かれ合う」ってのを「ガイとミリーが惹かれ合う」ってのとイコールで結び付けることが難しくなる。
ガイとモロトフ・ガールの恋愛劇を描いているのに「ミリーとの恋愛劇」であるかのように観客を欺くために、ミリーとモロフト・ガールの外見を同一にしてあるのだ。
そういう事情は理解できるけど、「でも卑怯だよね」と感じるのよ。

「ミリーが裁判で勝つためにゲームをプレイし、ゲーム世界で盗用の証拠を探す」ってのも、良く考えれば「なんでやねん」とツッコミを入れたくなるポイントだわ。
「他の方法も取りつつ」とか、「他の方法で調べたが八方塞がりなので」とか、そういうことならともかく、ゲーム内での調査活動しかやっていない様子だし。
アントワンにラスボスとしての脅威が乏しいのもあって、最初からキーズがミリーに協力していれば何とかなったんじゃないかとも感じるし。

ガイが一方的にミリーに惚れるわけじゃなくて、ミリーも彼に本気で惚れている。
これって具体的な例を挙げると、『キングダムハーツ』のソラに惚れるとか、『ファイナルファンタジーVII』のクラウド・ストライフとか、そういうことだ。
幾ら人工知能が自我を持って行動するようになっても、当然のことながらゲーム内のキャラクターだ。
しかしゲーム内キャラを俳優が演じ、ミリーとモロトフ・ガールの外見を同一にすることで、まるで人間同士の恋愛劇のように見せているわけだ。

人間がゲームのキャラに惹かれても、それはそれで1つの恋愛の形だろう。
ただ、本来ならミリーがガイに惹かれるのは「人間がゲームのキャラクターに本気で惹かれる」という恋愛のはずなのに、それが感じられない形になっているのは、いかがなものかと。
重要なのはガイが自我に目覚める話であって、「人間がゲームキャラに惚れる」という部分に主眼を置いていないことは分かる。
でも、それは分かった上で、「やり方として、どうなのよ」と言いたくなるんだよね。

そこに問題があることはひとまず置いておくとして、ミリーとガイが両想いの関係になるんだから、そのまま最後まで貫くべきだろう。
ところが、最終的には「ミリーはキーズが自分に思いを寄せていたと知り、彼とカップルになる」という展開が用意されているのだ。でも、そこの恋愛劇なんて全く無かったので、最後の最後で急に舵を切っていると感じる。
ともかく、ガイとミリーの恋愛劇を軸に据えたことが、色んなトコで厄介な問題を引き起こしていると感じるのよ。
それを考えると、現実世界のキャラはモブかヴィランだけに絞り、基本的にはゲーム内のキャラだけで人間関係を構築した方が良かったんじゃないかと。

(観賞日:2023年4月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会