『THE 4TH KIND フォース・カインド』:2009、アメリカ&イギリス
2000年10月1日。アビゲイル・タイラー博士は、アンカレッジに住む友人のキャンポスを訪ねていた。アビーは心理学者の仲間である彼に、催眠治療を行うよう求めた。アビーは夫のウィルが何者かに殺害された事件について、真相を知りたいと考えていた。催眠に落ちた彼女はキャンポスの質問を受け、ウィルが殺された夜のことを思い出していく。深夜にベッドで目が覚めると、ウィルは何者かに刺されていた。犯人の顔を思い出させようとしたキャンポスだが、アビーが錯乱状態になったので危険だと判断し、催眠を解いた。
アビーはキャンポスから少し休むように促されるが、「ウィルのためにも研究を続けなきゃ」と強い意志を示した。彼女は住まいがあるアラスカ州ノームへ戻り、睡眠障害に悩む患者たちの診療を行う。すると3人の患者は全員、深夜にフクロウを見ていた。それが現実か幻か、良く分からないのだという。その日の診察を終えたアビーは、下の子供であるアシュリーを迎えに幼稚園へ向かう。ウィルが死んで以降、アシュリーは目が見えなくなり、心を閉ざすようになっていた。上の子供であるロニーはウィルの死がアビーのせいだと考え、彼女を責めるような態度を取っていた。
ウィルは生前、ノーム全域に広がる原因不明の睡眠障害について調査を進めていた。彼の所蔵する本を見ていたアビーは、アウォロワ・オデュサミ博士の著書にメモが挟んであることに気付く。翌日、アビーは患者のトミーに催眠治療を行い、昨晩の出来事を思い出させようとした。するとトミーは部屋に入って来た何かに震え上がり、パニック状態になった。慌てて催眠を解いたアビーが「何を見たの?」と質問すると、トミーは怯えた様子で「何も見てない」と告げた。
深夜、トミーは妻のサラと子供たちを人質に取り、銃を発砲して喚き散らした。サラの通報を受けてオーガスト保安官が駆け付けると、トミーは「アビーと話したい」と要求した。連絡を受けたアビーが急行し、オーガストの指示を受けてトミーの説得に当たる。トミーは説得に応じず、「眠れない原因が分かった。アレを見れば先生も分かる。もう見なくて済むんだ」と話す。彼は「ズンアブー・イーター」という謎の言葉を残し、家族を射殺して自害した。
オーガストはアビーの催眠治療が事件の引き金だと決め付け、厳しい口調で非難した。催眠治療をやめるよう要求されたアビーは、ウィルの殺害犯を野放しにしているオーガストを批判し、2人は激しい言い争いになった。翌朝、キャンポスはアビーを心配してノームまでやって来た。キャンポスは「しばらく休暇を取ったらどうだ」と勧めるが、アビーは「原因を突き止めなきゃ」と言う。キャンポスは、しばらくノームに留まって様子を見ることにした。
妻のシンディーに付き添われて診療所に来た患者のスコットは、催眠治療を希望した。アビーはキャンポスに同席してもらい、催眠治療を実施することにした。昨夜の出来事を思い出すよう促されたスコットは、「外に何かがいる」「子供の頃から見てる」「いつもは考えた時にしか出て来ないのに」と怯えた様子で口にした。危険だと判断したアビーは、催眠を解いた。何を見たのか話すよう彼女が求めると、スコットは「自分の頭の中にいるのに見えない。頭の中で声が聞こえる。奴らは僕をどこかへ連れて行った」と涙ながらに話す。しかし拉致された場所で何をされたのかは、全く覚えていないという。
スコットとシンディーが去った後、アビーが宇宙人による拉致の可能性を口にした。そこへ助手のテリーザが来て、アビーから渡された口述テープに奇妙な声が入っていることを知らせた。テープを再生してみると、アビーの悲鳴が響いた後、意味不明な言語を話す声が録音されていた。アビーは録音した当時の様子を思い出してみた。夜中に寝室で声を吹き込んでいると、何者かが侵入してきた。アビーの右腕には傷が残っており、彼女は拉致されたのだと確信した。
アビーは録音されていた言語について調査し、オデュサミ博士の記したシュメール文明の本に行き当たる。連絡を取ったアビーは、ウィルが彼に電話を掛けていたことを知る。ウィルは古代語について勉強したいと言っていたらしい。アビーが事情を説明すると、オデュサミはノームへやって来た。テープを聴いた彼は、その言語が古代のシュメール語であることをアビーに告げる。まだ完全に解明された言語ではないものの、オデュサミは「我々の創造物」「調べる」「破壊する」という言葉を解読した。
紀元前4千年紀のシュメール文明では、ロケットの絵や宇宙飛行士らしき工芸品が作られている。オデュサミによると、異星人が神様だという伝説まであるらしい。アビーは自分が宇宙人に拉致されたのだと考える。そこへシンディーから電話が入り、アビーは「スコットが大変だから来て」と言われる。アビーがキャンポスとオデュサミを伴って到着すると、スコットは酷く怯えた様子だった。彼は「嫌だけど話さなきゃ。でも催眠じゃないと話せない」と口にした。
アビーはビデオを回してもらい、スコットに催眠治療を行った。すると催眠に入った途端、スコットはシュメール語で絶叫し、ベッドから空中に浮き上がった。体の中の何かがスコットをねじり、彼は頚椎3本を切断されて首から下が麻痺してしまう。翌朝、アビーは子供たちを連れて、ノース・カロライナへ避難しようとする。そこへオーガストが来て、スコットの一件で彼女を逮捕しようとする。アビーは事情を説明するが、まるで信じてもらえなかった。。証拠となるビデオは乱れており、肝心な映像が録画されていなかった。
キャンポスがアビーの家に現れ、「私も見たんだ。ノームで起きている事件を怖がるのは分かるが、訳も分からずに逮捕すべきではない」とオーガストを説得した。オーガストは強硬な態度で、アビーに「24時間体制で監視する。外出は禁止だ」と通告した。彼はキャンポスを警察署へ連行し、事情聴取を行った。その夜、タイラー家を監視していたライアン保安官補は、巨大な飛行物体を目撃した…。監督はオラントゥンデ・オスサンミ、原案はオラントゥンデ・オスサンミ&テリー・リー・ロビンス、脚本はオラントゥンデ・オスサンミ、製作はポール・ブルックス&ジョー・カーナハン&テリー・リー・ロビンス、共同製作はガイ・A・ダネラ&ジェフ・レヴィン&ミッチェル・グレコ、製作協力はジョナサン・ショア、製作総指揮はスコット・ニーマイヤー&ノーム・ウェイト&イオアナ・A・ミラー、共同製作総指揮はデヴィッド・パプケウィッツ&ヨン・ビャルニ・グドムンドソン&ヴィンカ・リアーヌ・ジャレット、撮影はロレンツォ・セナトーレ、編集はポール・J・コヴィントン、美術はカルロス・ダ・シルヴァ、衣装デザインはジョネッタ・ブーン、音楽はアトリ・オーヴァーソン。
出演はミラ・ジョヴォヴィッチ、ウィル・パットン、イライアス・コティーズ、ハキーム・ケイ=カジーム、コーリー・ジョンソン、エンゾ・シレンティー、エリック・ローレン、ミア・マッケンナ=ブルース、ラファエル・コールマン、ダフネ・アレクサンダー、アリーシャ・シートン、タイン・ラファエリ、パヴェル・ステファノフ、キーラ・マクマスター、サラ・ホートン、ジュリアン・ヴァーゴフ、ヨアン・カラムフィロフ他。
「アラスカ州ノームで実際に起きた第四種接近遭遇を基にした再現ドラマ」という体裁で作られた映画。
アビーをミラ・ジョヴォヴィッチ、オーガストをウィル・パットン、キャンポスをイライアス・コティーズ、オデュサミをハキーム・ケイ=カジーム、トミーをコーリー・ジョンソン、スコットをエンゾ・シレンティーが演じている。
監督&原案&脚本は『ザ・ケイヴ』のオラントゥンデ・オスサンミ。再現ドラマの途中で、事件が起きた当時に記録された映像(という体裁で作られた映像)を何度も挟むという構成になっている。
低予算で作られた『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』が爆発的なヒットを記録して以降、モキュメンタリー・ホラーが雨後の竹の子のように作られるようになったが、その延長戦上にある作品だと捉えていいだろう。
ちなみに、劇中の「記録映像」に本物のアビゲイル・タイラーとして登場するのはCharlotte Milchardという女性で、出演者表記では「Nome Resident」の役を演じていることになっている。この映画は公開された当時、「実際にあった事件の記録映像と、それを基にした再現ドラマによって構成されている」という触れ込みだったが、劇中で取り上げられた事件など実際には起きていなかったことが後に明らかとなっている。
でも、いちいち明らかにしなくても、それが嘘だってことは、すぐに分かる。
こんなモンに騙されるのは、余程のお人好しか、何も考えていない人だろう。
でも、そういう人が、この手の映画を積極的に見たがるかねえ。配給したユニヴァーサル・ピクチャーズは実際に事件が起きたように見せ掛けるため、ネット上の記事を偽造した。
モキュメンタリーとしてホラーやサスペンスを作る以上、「いかに実際の出来事のように思わせるか」が肝なので、そのために細工をするってのは、手法としては悪くない。
ただしアラスカ州やノームの町からすると、マイナスでしかない虚偽の情報を流されているわけで、やはり問題になってしまい、ユニヴァーサル・ピクチャーズはアラスカ記者クラブに和解金を支払う羽目になっている。
そりゃあ、そうなるわな。モキュメンタリーってホラー系の映画で良く使われる手法なんだけど(これはジャンル的にはサスペンスだけど、まあ近いでしょ)、それが私には理解できない。
モキュメンタリーが最も適しているジャンルがホラーだとは、到底思えないからだ。むしろ、最も避けるべきジャンルではないかと感じる。
なぜなら、モキュメンタリーとして作られたホラー映画ってのは「それが真実である」というところに恐怖の根源を頼っているからだ。
しかし見る側は全て虚構だと分かっているわけで、「真実だから怖いでしょ」とアピールされても、「いやフィクションだし」ってことになるでしょ。しかも観客に真実だと思わせて怖がってもらおうとしている対象が殺人鬼や怪奇現象じゃなくて「アブダクション(宇宙人による誘拐)」ときたもんだ。
そりゃあ相当に厳しいぞ。
たぶん、どれだけ精巧に作ったとしても、巷に溢れているUFO関連の情報を全て信じるぐらい宇宙人の存在を確信している一部の人以外に、「ここで描かれている内容は全て真実だ」と思わせるのは難しいんじゃないかと。「モキュメンタリーなんて怖くない」という問題をひとまず置いておくとしても、構成も上手くない。
冒頭にミラ・ジョヴォヴィッチが登場し、画面に向かって「これは2000年にアラスカで起きた事件を再現した映画であり、補足のために実際のビデオと音声を用意した」という旨を語るが、「実際にあった出来事」のように見せ掛けることで観客を怖がらせようとしているのであれば、再現ドラマの部分は邪魔でしかないんだよね。
「実話に基づく物語」として感動や悲劇を伝えたいタイプの映画じゃないんだから。この映画は「全て事実だから怖い」ということが肝であり、それを最大限に活かそうとするのであれば、むしろ当時のビデオと音声、関係者へのインタビュー映像などによって構成すべきだ。
知名度のある俳優たちが再現ドラマを演じることが、「それが実話である」という印象を、逆に薄めることに繋がってしまう。
それに「有能な心理学者」であり、彼女の考えが真実だと観客に信じてもらわなきゃ困るようなキャラをミラ・ジョヴォヴィッチに 演じさせている時点で、もう明らかに違うでしょ。
アビーやトミーが催眠治療を受けるシーンでは、分割映像になり、実際のアビーやトミーが治療を受けた時の記録映像を横に並べている。
それは「再現ドラマで描かれている内容は全て事実である」ってことを強調したいがための演出なんだろうけど、「そういう記録映像が残されているのであれば、そっちの方だけを使えばいいんじゃないですか。再現ドラマの方は要らないでしょ」と思うわけよ。ともかくモキュメンタリーってことは分かっているし、それゆえに怖さは無いんだから、そうなるとトンデモ系の映画、あるいはバカ映画として観賞することになるのだが、そういう方向から捉えても、やっぱり面白くないんだよなあ。
この作品に限らず、モキュメンタリーの恐怖映画ってのは「モキュメンタリーである」ってことが分かってしまった途端、何の面白味も無くなっちゃうんだよな。
「全て真実である」というトコロに全てを頼った作りになっているので。っていうかさ、宇宙人を扱った内容であることも含めて考えると、これって完全にフィクションとして作れば良かったんじゃないのかと思うんだよね。
『X−ファイル』的な映画としてさ。
その方が可能性はあったんじゃないのかと。
宇宙人に拉致された人が古代言語を急に喋り出すとか、巨大な宇宙船が出現するとか、そういうのを全て「真実です」と言われても、「いやいや、矢追純一でも韮澤潤一郎でもないんで、そういうのを全面的に信じるのは無理っす、マジで無理っすよ」となっちゃうよ。(観賞日:2013年10月6日)