『フォー・ルームス』:1995、アメリカ

大晦日、ホテル・モンシニョール。夜勤のベルボーイを長きに渡って務めたサムは、若手のテッドに助言して去った。

[ハネムーン・スイート お客様は魔女]
ジゼベル、ダイアナ、アシーナ、エルスペス、イヴァ、レイヴン、キヴァという7人の女性たちが、次々にハネムーン・スイートへやって来た。彼女たちはテッドに、ローズマリーやお清めの塩、ミネラルウォーターや生肉を用意するよう頼む。必要な道具が集まると、7人は儀式を始めた。7人は40年前に石にされた女神ダイアナを蘇らせるため、部屋に集まったのだ。ジゼベルたちは事前に用意した物品を次々に捧げるが、イヴァは恋人のザーメンを飲んでしまったことを告白した。
イヴァは仲間たちから1時間で新たなザーメンを用意するよう指示され、「魔女の資格があるなら出来るはずよ」と言われる。部屋を訪問したテッドは、口を使わずにイヴァを笑わせるよう頼まれる。他の面々は部屋を出て行き、テッドはイヴァと2人きりになった。イヴァは自分たちが魔女であること、恋人の呪いで処女のまま石化した偉大な魔女のダイアナを蘇らせようとしていることを話す。彼女がザーメンを欲しがると、テッドは困惑する。しかしイヴァは魔力で誘惑し、テッドとセックスした。テッドと入れ違いで他の魔女たちが部屋に戻り、儀式を執り行ってダイアナを復活させた。

[404号室 間違えられた男]
テッドはパーティーに興じる泥酔客からの電話で、氷を部屋まで持って来るよう頼まれた。男は部屋番号を間違え、404号室だと告げた。氷を持って404号室へ赴いたテッドは、シグフリードという男に拳銃を突き付けられた。シグフリードは妻のアンジェラに猿轡を噛ませ、椅子に縛り付けていた。彼はテッドをアンジェラの浮気相手だと思い込み、怒りを向ける。テッドの名前が浮気相手と同じテオドアだったため、人違いだと訴えてもシグフリードには信じてもらえなかった。
シグフリードが洗面所へ行っている間に、アンジェラは猿轡を外すようテッドに要求した。テッドが「人違いだと彼に言ってくれ」と頼むと、彼女は「残念だけど、こうなった以上、簡単には逃れられないのよ」と告げた。彼女はシグフリードを怒らせないよう忠告し、猿轡を戻すよう指示した。戻って来たシグフリードは、アンジェラの耳を舐めるようテッドに命じた。テッドが嫌がって強気な態度に出ると、シグフリードは怒らずに「感動した」と口にした。
シグフリードはテッドに握手を求めてキスをするが、心臓発作で倒れてしまう。彼が「バスルームの薬棚にニトロがある」と口にするので、テッドは慌てて取りに行く。しかしニトロを発見できず、窓に気付いたテッドは逃亡を図る。しかし体が挟まって外に出られず、テッドはバスルームに戻った。彼が部屋に戻ると、アンジェラは「ニトロは?」と問い掛ける。テッドが「見つからなかった」と答えると、彼女は「アンタのせいでシグフリードが死んだ」と声を荒らげた。
そこへシグフリードが元気な様子で現れ、笑いながら「いい芝居だっただろ」とテッドに言う。アンジェラが激怒すると、彼は「お前の愛を調べるためだった。愛を確認できた」と告げた。アンジェラが「無様な死体が転がってるのを見たくなかっただけよ」と冷たく言い放つと、テッドは「こういうオープンな会話はいい」などと言う。その態度にアンジェラは不快感を示し、「人の女房を寝取って、信念を通すガッツも無いの?」と言う。テッドは浮気を否定するが、彼女はシグフリードに「彼のチンコは巨大だった」と吹き込む。シグフリードが狼狽している間に、テッドは部屋から抜け出した。

[309号室 かわいい無法者]
309号室に宿泊している男はフロントに電話を入れ、シャンパンを注文する。彼は妻、娘のサラ、息子のファンチョの4人で宿泊している。妻がファンチョの髪を整えようとしている姿を見た男は苛立って交代し、自分と同じオールバックに変えようとする。彼は「ママはすぐ横分けにするが、バカのやることだ」と言う。しかしファンチョの髪質が母親似で上手くいかず、男はオールバックを断念した。一方、妻はサラのもつれた髪をほどこうとするが、こちらも諦めた。
男は妻から「今夜は楽しめるの?」と問われ、「子供は置いておく。テレビがある。2人で楽しもう」と告げる。彼は子供たちに「帰りは 夜中だ。行儀良くしてろ」と告げ、妻と部屋を出ようとする。そこへテッドがシャンパンを持って来ると、男は報酬を約束して「30分ごとに子供たちの様子を見てくれ」と頼む。テッドは金を受け取り、夫婦を見送った。彼は子供たちに鋭い口調で注意事項を語り、おとなしく服従させようとする。しかしサラは強気な態度で、「何か欲しい時は呼ぶわ。パパを怒らせたいの?」と告げた。
テッドが部屋を去った後、ファンチョはテレビでヌード番組を見る。サラがチャンネルを変えるよう命じても、彼は従わなかった。サラはフロントに連絡し、テッドにヌード番組を消すよす要求した。しかしテッドが確認すると成人番組の放送はオフになっており、「君たちを寝かせに行くよ」と告げた。サラはファンチョを騙して蹴り飛ばし、テレビのチャンネルを変えた。引き出しの注射器を見つけたサラは、テッドに電話を入れて「キレイに掃除させて。歯ブラシを持ってきて」と要求した。
ファンチョはシャンパンの栓を抜き、床に巻き散らした。ファンチョはシャンパンを飲み始め、サラは好きな部屋番号を言うよう告げる。サラはファンチョが言った409号室に電話を掛け、「どの部屋にも注射器が置いてあるの?」と尋ねる。相手の男は、「無い。大きな拳銃ならあるけどな」と答えた。サラは壁の絵に口紅で的を描き、注射器でダーツ遊びを始めようとする。そこへテッドが来たので、彼女は慌てて注射器を投げ捨てた。
テッドは早く寝るようサラとファンチョに指示し、ベッドに入った2人の瞼にメンソレータムを塗る。彼は「これを塗って目を開けると、ものすごく染みる」と言い、部屋を出て行った。サラとファンチョは洗面所でメンソレータムを洗い流し、打ち上がる花火を見た。サラがベッドのマットレスを剥がすと、女性の死体が埋まっていた。彼女はテッドに連絡し、「マットレスに死体が埋まってる。警察を呼ぶのよ。早くしないとパパとママがアンタをベッドに埋めるわ」と告げた。
テッドは夫妻が戻って来たのを目撃し、慌てて部屋に向かった。するとサラはシャンパンをラッパ飲みし、ファンチョは煙草を吸っていた。テッドはボトルと煙草を叩き落とし、死体を見て嘔吐する。彼は慌てて警察に電話を掛け、「淫売の死体がある」と知らせる。サラが「淫売なんて言わないで」と要求しても、テッドは同じ言葉を繰り返す。サラは腹を立て、注射器をテッドの太腿に突き刺した。テッドは悲鳴を上げてテレビのリモコンを踏み付け、ヌード番組が流れた。煙草の火が酒に引火し、火事が発生した。そこへ夫婦が戻って来ると、ファンチョは吸っていた煙草を投げ捨て、さらに炎が広がった。男が部屋の様子を見回してから「いい子にしてたか?」と尋ねた直後、スプリンクラーが作動した。

[ペントハウス ハリウッドから来た男]
テッドはフロントに戻り、同僚のベティーに電話を掛ける。ベティーの家には友人たちが集まっており、マーガレットという女性が電話を受けた。テッドはベティーに代わってもらい、自分が体験した散々な出来事を吐露した。呼び出し音が鳴っても彼は無視するが、ベティーはペントハウスだと知って「チェスター・ラッシュ様よ。ウチのホテルで一番のお客様よ」と告げる。彼女はチェスターが映画スターであることを語り、全ての従業員のために仕事をするよう頼む。テッドは「すぐ来てくれよ」と言い、ペントハウスへ向かう…。

監督はアリソン・アンダース&アレクサンダー・ロックウェル&ロバート・ロドリゲス&クエンティン・タランティーノ、脚本はアリソン・アンダース&アレクサンダー・ロックウェル&ロバート・ロドリゲス&クエンティン・タランティーノ、撮影はロドリゴ・ガルシア&ギレルモ・ナヴァロ&フィル・パーメット&アンジェイ・セクラ、編集はマージー・グッドスピード&エレナ・マガニーニ&サリー・メンケ&ロバート・ロドリゲス、製作はローレンス・ベンダー、製作総指揮はアレクサンダー・ロックウェル&クエンティン・タランティーノ、共同製作はポール・ヘラーマン&ハイディー・ヴォーゲル&スコット・ランバート、美術はゲイリー・フルトコフ、衣装はスーザン・L・バートラム&メアリー・クレア・ハナン、音楽はコンバスティブル・エディソン。
出演はティム・ロス、アントニオ・バンデラス、ジェニファー・ビールス、ポール・カルデロン、サミ・デイヴィス、アマンダ・デカデネット、ヴァレリア・ゴリノ、キャシー・グリフィン、マーク・ローレンス、マドンナ、デヴィッド・プローヴァル、アイオン・スカイ、クエンティン・タランティーノ、リリ・テイラー、マリサ・トメイ、タムリン・トミタ、アリシア・ウィット、ラナ・マクキサック、ダニー・ヴァーデュズコ他。


『パルプ・フィクション』のクエンティン・タランティーノが企画し、3人の監督に声を掛けて製作したオムニバス映画。
第1話の脚本&監督は『ガス・フード・ロジング』のアリソン・アンダース。第2話の脚本&監督は『サムバディ・トゥ・ラブ』のアレクサンダー・ロックウェル。
第3話の脚本&監督は『エル・マリアッチ』のロバート・ロドリゲス。第4話の脚本&監督はタランティーノが担当している。
テッド役のティム・ロスが、全てのエピソードに登場する。
ベティーをキャシー・グリフィン、サムをマーク・ローレンス、マーガレットをマリサ・トメイが演じている。

第1話のジゼベルをサミ・デイヴィス、ダイアナをアマンダ・デカデネット、アシーナをヴァレリア・ゴリノ、エルスペスをマドンナ、イヴァをアイオン・スカイ、レイヴンをリリ・テイラー、キヴァをアリシア・ウィットが演じている。
第2話のアンジェラをジェニファー・ビールス、シグフリードをポール・カルデロンが演じている。
第3話の夫をアントニオ・バンデラス、妻をタムリン・トミタ、サラをラナ・マクキサック、ファンチョをダニー・ヴァーデュズコが演じている。
第4話のチェスターをクエンティン・タランティーノ、その取り巻きのノーマンをデヴィッド・プローヴァルが演じている。
アンクレジットだが、チェスターの取り巻きのレオ役でブルース・ウィリスが出演している。

第1話ではキヴァとエルスペスがホテルに来た時、「母親気取り?」「母親よ」「母と娘が寝る?」という不思議な会話を交わす。
テッドが必要な物品を注文される時、キヴァが仲間に「儀式が何よ」と不満を漏らす。
注文される物品も怪しいし、なので、「テッドが彼女たちの素性や目的を怪しんで探ろうとする」という展開にでもなるのかと思いきや、すぐに魔女の儀式を始める様子が描写される。
そのため、「まさかと思ったら、そのまさかだった」ってな感じの展開も無い。

前述したキヴァとエルスペスの会話の後、クエスチョンマークが画面に大きく表示されてカットが切り替わる。イヴァがザーメンを飲んだと打ち明けた時は、魔女の1人が口から炎を吐く。
イヴァはテッドを誘惑する時、目からビームを放つ。テッドは魔法に掛かり、顔の周囲に幾つものハートや星のマークが浮かぶ。
そのように映像を飾り付ける演出が何度かあるが、統一感が乏しい。
あと、やるのであれば、もっと多くやらないと中途半端だし。

イヴァはすんなりとテッドのザーメンを手に入れ、他の魔女が戻って儀式を執り行うと、すぐにダイアナが復活する。
それで第1話は終了するのだが、「いやオチは?」と言いたくなってしまう。
どんな話でもオチが必須というわけではないが、このエピソードはオチが欲しくなるような展開なのよ。
「ザーメンを手に入れて儀式で魔女が復活しました」ってのは、そのまんまで何の面白味も無いからね。イヴァがテッドを誘惑してザーメンを手に入れるシーンにしても、まるでギャグになっていないし。

あと、もはや「ハネムーン・スイートに集まった面々は魔女」という設定の意味も薄いんだよね。
全員が人間だったとしても、「儀式で魔女を復活させる」ってことは可能だし。
テッドを誘惑するのも、魔力に頼らなくても成立させられるしね。「魔力でテッドを虜にする」という要素が、面白さに繋がっているわけでもないし。
あと、キヴァが1人だけ人間なんだけど、それも全く活用できていないし。
そうなると、何のために1人だけ人間を配置したのか、その意味がサッパリ分からないよ。

第2話は、ほぼテッドの反応や動きだけで引っ張ろうとしている。
シグフリードに脅されたテッドが怯えたり、アンジェラに予想外の言葉を吐かれたテッドが狼狽したり、逃げ出そうとして失敗したテッドが困り果てたり、そういう様子で引っ張ろうとしている。
でも、ティム・ロスのリアクション芸には、1つのエピソードを最後まで牽引するほどの力が無い。
ジム・キャリー系のリアクションで明確に笑いを取りに行っているが、その過剰な芝居は上滑りしている。

ティム・ロスのアクションだけでなく、会話で話を進める部分も多い。
ただ、そういう会話劇にも、面白さは無い。「なぜ?」と疑問を覚えるようなことが多すぎるのだ。
例えばテッドは、なぜ急に強気な態度に出るのか。そんな態度を見たシグフリードは、なぜ怒らず感心するのか。
シグフリードは彼にキスした後、なぜ心臓発作で倒れた芝居を急に始めるのか。テッドが「こういうオープンな会話はいい」と言った後、なぜアンジェラが彼が浮気相手だと嘘をつくのか。
引っ掛かることばかりで、会話劇がスウィングしていない。

第3話でサラはダーツを始めようとするが、テッドが来ると注射器を捨てる。
でも、その前には絵に的を描いており、それは絶対にテッドが気付くわけで。なので、今さら「注射器を投げ捨て、ダーツ遊びを始めようとしていたことを隠蔽する」という行動を取っても、まるで意味が無い。
しかもサラとテッドの眼前で、クラッカーを平気で床に吐いたりしているし。
彼女の中で、「どこまでなら平気で、どこからは隠した方がいい」と思っているのか、その判断基準がサッパリ分からんよ。

テッドとサラ&ファンチョの醜い争いが全く盛り上がらない中でエピソードは終盤に突入し、死体が見つかったトコから急にテンポが速くなってドタバタ劇が描かれる。
でも、そこまでの展開が序章になっているわけでもないので、「さっさとドタバタ劇に入ればいいだろ」と言いたくなる。
時間の浪費でしかないのよ。
終盤になって急にテンポを上げてドタバタをやられると、残り時間が少ないので慌てて取り戻そうとしているかのように思えるし。かなり不細工な構成になっちゃってんのよね。

第4話はザックリ言うと、ほぼ無駄話で構成されている。
「気にするな、今のは『さらば青春の光』の台詞だ」「ベルボーイで思い出すのはジェリー・ルイスの『底抜けてんやわんや』だ」「忘れたのか、『リオから来た男』だよ」など、映画オタクな台詞が次々に出て来る。そしてチェスターとノーマンは、『リオから来た男』でピーター・ローレとスティーヴ・マックィーンがやっていたのと同じ賭けを始める。
クエンティン・タランティーノが自らチェスター役として出演していることもあって、「いかにもタランティーノ作品」と言っていい内容になっている。
だからって面白いかと問われると微妙だが、まあ4つのエピソードでは一番マシ。

テッドは4つのエピソードを繋ぐポジションとか、ストーリーテラーとか、そういう役割なのかと思ったら、ガッツリと全話に登場する。4つのエピソードの全てで、実質的な主人公として扱われている。
しかしオムニバス映画として、これは大きな失敗だ。こいつは脇に配置して、それぞれのエピソードは別々のキャラクターで話を作った方が良かった。
「テッドの話」として4つのエピソードが続くと、途中で飽きてきちゃうのよね。何しろ、テッドが全く魅力の無いキャラなのでね。
なのに彼のキャラに頼ろうとする部分が大きいので、どんどん気持ちは萎えてくるのよね。

(観賞日:2021年4月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会