『フォーガットン』:2004、アメリカ

テリー・パレッタは幼い息子のサムを航空機事故で亡くし、それから14ヶ月が経過しても悲しみから立ち直れずにいる。テリーはサムとの思い出の品物や映像を自宅で眺め、多くの時間を過ごしている。彼女は精神科医であるジャック・マンスのカウンセンリグに通っており、出掛けようとすると停めておいた赤いボルボが見つからなかった。近くの車にいた男に問い掛けると、別の場所にあることを教えられる。テリーが礼を言うと、親切な男は「僕も忘れる」と告げた。
テリーはジャックから、サムの記憶を辿って増幅させていないかと指摘される。ずっと仕事を休んでいたテリーが童話編集のアルバイトを始めることになり、夫のジムはお祝いにシャンパンを買って帰宅した。飾ってある家族写真に目をやったテリーは、サムの姿が消えていることに気付いた。彼女はジムが写真を摩り替えたと決め付けて批判し、「何もしてない」と彼が否定しても聞き入れなかった。夜中に家を飛び出したテリーは、公園で悪酔いしているアッシュ・コレルと遭遇する。アッシュは航空機事故で娘のローレンを失っており、テリーは彼と会ったことがあった。アッシュが「家に来るか」と誘うと、テリーは冷たく断った。
翌日、家に戻ったテリーは、サムのアルバムから写真が全て抜き取られているのを知った。彼女はジムの仕業だと確信し、仕事中の彼に電話を掛けて批判した。さらにテリーは、ビデオの映像も全て消去されていることを知ってショックを受けた。家に戻ったジムは、テリーに「ビデオには最初から何も写っていない。病気が治って来たんだ」と告げる。ジャックが家を訪問し、「君に子供はいない」と言う。「サムは9歳だった。9年分の記憶があるの」とテリーが主張すると、ジャックは「作られた記憶だ」と口にする。
ジムはテリーに「流産したんだ。君も死に掛けた」と話し、ジャックは「強いショックを受けて、架空の子供を作り出したんだ」と語る。しかしテリーは納得できず、車で家を飛び出した。テリーは図書館へ行って14ヶ月前に起きた航空機事故の新聞記事を調べるが、どこにも無かった。彼女はジムのベビーシッターだったエリオットの家を訪ね、息子のことを尋ねる。するとエリオットは困惑した様子で、「サムなんて知らない」と告げた。
テリーはアッシュの家を訪れ、悪酔いしている彼に「サムと一緒に来たことがある。ローレンと遊んだ」と言う。しかしアッシュは「娘はいないし、サムなんて知らない」と告げ、眠り込んでしまった。テリーは壁紙が破れている部分に気付き、ナイフを使って全て剥がした。すると、ローレンが一面に描いた絵が出現した。次の朝、テリーは目を覚ましたアッシュに壁の絵を見せ、「前にも来た。ここは娘さんの部屋だった」と告げる。しかしアッシュは「前の住人が貼った壁紙だ」と言い、警察を呼ぶと告げた。
テリーは「葬儀に出た。貴方は取り乱していた」と話し、娘の名前を呼んで思い出すよう訴える。しかしアッシュは警官を呼び、テリーを家から連れ出してもらう。警官たちがパトカーでテリーを連行しようとすると、国家安全保障局のカール・デイトンとアレック・ウォンがやって来た。カールは「彼女の身柄を拘束する」と言い、テリーを車で連行しようとする。改めて壁を見たアッシュは娘のことを思い出し、慌てて外へ飛び出した。アッシュはパトカーを停め、テリーが国家安全保障局に引き渡されたことを知った。
アッシュはカールたちの車を停止させ、「思い出した。彼女は正気だ」と訴える。カールとアレックが取り押さえようとすると、アッシュは激しく抵抗してテリーに「逃げろ」と指示する。テリーは逃亡し、追って来るカールを撒いた。空を見上げた彼女は、雲が一瞬だけ円盤のような形になるのを目にした。ジムは警察署に呼び出され、刑事のアン・ポープからテリーがアッシュの家で問題を起こしたことを聞く。ジムは「息子はいない。妻は妄想しているだけだ」と言い、「なぜ国家安全保障局が奥さんに関心を持つの?」というアンの問い掛けに「知りません。どうかしてる」と告げた。
テリーは夜の公園でアッシュを見つけ、「分からない。なぜ娘のことを忘れていたのか」と言われる。彼女は謎を解くための協力を要請し、「以前、ロングアイランドに旅客機が墜落した時、皆は政府が原因を隠していると疑った。でも今回、思った。事故の記憶まで消すことが出来るのは、人間の仕業じゃない」と語る。カールたちが追って来たので、2人は逃亡した。安ホテルに宿泊したテリーはジャックに電話を掛け、自分の主張を信じるよう要求した
次の朝、テリーは泥酔して眠り込んでいたアッシュを起こし、「記憶を消して忘れさせようとするのは、子供たちが生きているからよ」と告げる。2人がガソリンスタンドで車を盗んで移動しようとすると、警官が近付いてきた。テリーたちが逃走を図ると、あの親切な男が立ちはだかった。彼が退けないので、アッシュは車ではね飛ばして逃亡した。アンから電話が入ると、テリーは「子供たちは誘拐された。私とアッシュは子供のことを思い出したわ」と語った。
テリーは会社を出たジムを見つけて声を掛けるが、彼は「君は誰?」と怪訝な表情を浮かべる。彼はサムのことだけでなく、テリーと結婚している事実さえ忘れていた。カールたちが追って来たので、テリーとアッシュは車で逃走した。アッシュはテリーに、「街を出ないと危ない。今夜だけでも。いい所がある」と言う。2人が車で移動する様子を、ひかれたはずの男が眺めていた。アンはガソリンスタンドの従業員と会い、「凄い音がしたが、車にはねられた男は起き上がった」という証言を得た。現場には血が全く落ちていなかった。
アンの元にカールが現れ、身分証を見せた。国家安全保障局員が関わる理由についてアンが質問すると、カールは答えずに「情報があれば連絡してくれ」と名刺を渡す。アンは協力を拒否し、「これは私のヤマよ。私が捜査する」と告げた。山荘に移動したテリーは、酒を購入して戻ったアッシュに「酔っ払っても何の解決にもならないわ」と告げた。アンが警察署を出ようとするとジャックが現れ、「テリーは僕を信用しているから連絡してきた。僕の協力が必要だ」と捜査への同行を申し入れた。
深夜、テリーとアッシュは山荘を張り込んでいた国家安全保障局員のアル・ペタリスを捕まえて拘束する。2人が子供の居場所を吐くよう要求して脅しを掛けると、ペタリスは「俺たちは拉致していない。協力してる」と釈明する。「なぜ協力するの?」とテリーが訊くと、彼は「生きるためだ」と答えた。テリーが「子供たちを取り返す方法は?」と尋ねると、ペタリスは「見当も付かない。君らは子供を忘れることになっていた。想定外だ」と口にした。
ペタリスはテリーの質問を受け、ある実験が地球上で行われていることを明かした。テリーが「迷惑は掛けないから、子供を取り返す方法を教えて」と頼むと、ペタリスは「聞かれてる」と告げた。その直後、山荘の屋根が激しく吹き飛び、ペタリスの姿が消失した。次の朝、アンやジャックたちが山荘へ行くと、テリーとアッシュは「子供たちは拉致された。信じ難いだろうけど助けてほしい」というメッセージを残して立ち去った後だった。アンは部下のブラッシャーから、近くに落ちていたペタリスの身分証を見せられた。
テリーはサムたちの乗った航空機がクエスト航空の物だったことを思い出し、アッシュと共に会社へ出向いた。するとクエスト航空は倒産しており、会計士のアイリーンが事後処理のために残っていた。テリーはクエスト航空の社員を詐称してアイリーンを騙し、社長であるロバート・シニアーの住所を教えてもらった。テリーとアッシュがシニアーの家へ行くと、空き家になっていた。空き家で一泊することにしたテリーは、車ではねた男がサムを見送った飛行場にもいたことを思い出した…。

監督はジョセフ・ルーベン、脚本はジェラルド・ディペゴ、製作はブルース・コーエン&ダン・ジンクス&ジョー・ロス、製作総指揮はスティーヴ・ニコライデス&トッド・ガーナー、撮影はアナスタス・ミコス、美術はビル・グルーム、編集はリチャード・フランシス=ブルース、衣装はシンディー・エヴァンス、音楽はジェームズ・ホーナー。
主演はジュリアン・ムーア、共演はドミニク・ウェスト、ゲイリー・シニーズ、アンソニー・エドワーズ、アルフレ・ウッダード、ライナス・ローチ、ロバート・ウィズダム、ジェシカ・ヘクト、リー・ターゲセン、フェリックス・ソリス、アン・ダウド、ティム・カン、スーザン・ミスナー、クリストファー・コヴァレスキー、キャスリン・ファウナン、ケイティー・クーパー、J・タッカー・スミス、ケン・エイブラハム、スコット・ニコルソン、PJ・モリソン、マシュー・プレシェヴィチ他。


『マネートレイン』『リターン・トゥ・パラダイス』のジョセフ・ルーベンが監督を務めた作品。
『エンジェル・アイズ』『ハーモニーベイの夜明け』のジェラルド・ディペゴが脚本を担当している。
テリーをジュリアン・ムーア、アッシュをドミニク・ウェスト、ジャックをゲイリー・シニーズ、ジムをアンソニー・エドワーズ、アンをアルフレ・ウッダード、親切な男をライナス・ローチ、カールをロバート・ウィズダム、エリオットをジェシカ・ヘクトが演じている。

序盤、ジャックの元へ行こうとしたテリーは車が無いのに気付き、親切な男に「ここに車を停めたはずなのに」と言う。男は別の場所にあることを教え、「僕も忘れる」と告げる。ジャックの元を訪ねたテリーは、「コーヒーを飲んでいたはずなのに」と口にする。ジャックが「勧めたけど断りましたよ」と言うと、彼女は「口に味が残ってる」と告げる。ジャックは自分のコーヒーを手に取り、「この香りで無意識に記憶を作った」と指摘する。
そのように、序盤で「記憶は作られるものだ」ってことを、かなり声高にアピールしている。それによって、観客に「テリーの記憶は違うかもしれない」と思わせようとしている。
そういう手順を経て、ジムやジャックに「子供はいない」「サムは架空の子供」と言わせているわけだから、しばらくはテリーが「自分の記憶は正しくないのか」と迷ったり観客に「サムは実在しないのか」と思わせたりする時間を続けるんだろうと予想した。
しかし、その予想は見事に裏切られた。

ハッキリ言って、テリーの記憶が正しいこと、つまりサムが実在することはバレバレだ。ミスリードは完全に失敗している。
ただ、それはひとまず置いておくとして、かなり声高に「記憶は作られる」とアピールしているんだから、やっぱり「テリーが迷う」という手順は必須だろう。
ところが、テリーは「自分の記憶は間違いなのか」と疑うことが微塵も無いのである。
そして壁の落書きを発見する展開により、観客にも早々と「テリーの記憶は正しい」と確信させてしまうのである。

この映画、テリーの確信は全く揺るがないし、観客を騙そうという意識も全く感じない。
だったら、前述した記憶に関する声高なアピールなんて邪魔なだけでしょ。
「ヒロインが自分の記憶に全く疑問を抱かない」という見せ方が正解かどうかはともかく、そういう方向で話を進めるのなら、中途半端なミスリードみたいなことを持ち込むのは無意味だ。
ヒロインが疑問を抱かない以上、そういう作業が観客に影響を及ぼす可能性は低いだろう。

テリーが「サムは実在する」という記憶に関して「違うのかも」と微塵も思わないのは、まあ別にいいとしよう。
ただ、そこから「全ては異星人の仕業だ」という確信に至るのは、さすがに拙速じゃないかと。他に何の選択肢も無く、一直線で「異星人の仕業」という答えに辿り着いているんだよね。しかも、そこでもテリーは全く迷わないのだ。
そりゃあ記憶も記事も全て消去するのは尋常じゃないし、人間では不可能だと思うのは分からんでもない。ただ、だからって、すぐに「異星人の仕業」と決め付けるのは、あまりにも突拍子が無いわ。何の根拠も無いし、それこそ「妄想しているだけ」と一蹴されそうな主張だ。
しかし困ったことに、テリーの主張を聞いたアッシュは全く否定しないし、それが大正解なのだ。おまけに、観客に「それは無いだろ」と思わせることもしていない。
テリーが「異星人の仕業」と言い出した時点で、「彼女がそう言うなら、そうなんだろうね」と受け入れざるを得ない話になっている。

ジムは序盤だと「サムは存在しない」とテリーに言っているだけだったが、途中で結婚している事実さえ忘れる。
でも、彼から結婚の記憶を消し去る異星人の行動は、ただバカなだけでしょ。
そんなことをして、何の役に立つのか。テリーが全て覚えている以上、ジムから結婚の記憶まで消去したところで何の意味も無いでしょ。
異星人が何とかしなきゃいけないのは「テリーからサムの記憶を奪う」ってことであって、ジムから結婚の記憶を奪うのはボンクラ極まりない。

テリーとアッシュの尋問を受けたペタリスは、「君らは子供のことを忘れるはずだった。想定外だ」と言う。
だけど、テリーの家にはサムとの思い出の品が幾つも残っているわけで。
それでサムのことを忘れるはずがないでしょ。事故から14ヶ月以上が経ってから写真や映像を消しているけど、遅すぎるでしょ。
アッシュの方でも、ローレンの落書きを新しい壁紙で隠しているけど、これもアホすぎる。隠すんじゃなくて、完全に無かったことにしなきゃダメだろ。
子供の記憶を親から消すための作業が、あまりにも杜撰で穴だらけなのよ。

「異星人に何が出来て何が出来ないのか」ってのも、かなりボンヤリしているんだよね。
航空機事故に見せ掛けて、子供を拉致する能力はある。多くの親から、子供の記憶を消し去る力もある。新聞記事を消したり、事故の記憶を人々から消したりする力もある。
でも、壁紙で落書きを隠すってことは、そこは特殊能力じゃなくてアナログな作業をしている。
ペタリスやアンを吹き飛ばして消し去る力はあるのに、テリーが飛行場へ行くのを阻止するための作業は「ドアが開かなくする」という程度。

また、異星人は自分たちだけで全て処理するのではなく、一部の人間の力も借りている。
ジャックは「人間の力など借りなくても平気だ」と言うけど、実際は人間の力を借りまくっているわけで。ホントに人間の協力が不要なら、自分たちだけでやればいいでしょ。中途半端に人間の力を借りると、黒幕としてのスケール感が一気に萎んじゃうのよね。
あと、異星人の目的は「親子の絆が理解できないので調べるため」なんだけど、そのために「まずは絆を断ち切る」という手に出るのがバカバカしすぎるぞ。
それで仮に「断ち切れる」という結論が出たとして、だから何なのかと。

本来なら、親子の絆を断ち切ろうとするってのは、何か別の目的を果たすための過程、もしくは手段であるべきだと思うのよね。
それ自体が目的化しちゃってるので、「お前らは何がしたいのか」と言いたくなる。
あと、他の親は子供の存在を忘れたのにテリーだけ覚えているというのは、設定として無理があるだろ。むしろ、大半の親が覚えている設定の方が腑に落ちるわ。
テリーだけが覚えているのなら、そこに「なぜ彼女だけ」という疑問を納得させるための理由が必要だろ。

公開された当時は、一部のバカ映画好きには有名な珍作『宇宙からのツタンカーメン』との類似が指摘された。しかし「異星人の仕業」という部分が同じというだけで、『宇宙からのツタンカーメン』とは全く異なる。
あっちの方は、何の伏線も無いまま終盤になって急にワケの分からない展開へ突入する作品だった。それに比べれば、こっちの方は前半から「異星人の仕業」ってことを明らかにしている。
だから、「唐突で脈絡の無いオチ」という印象は受けない。
ただしバカバカしさやトンデモ度数の高さだけなら、『宇宙からのツタンカーメン』と大して変わらないけどね。

(観賞日:2020年1月20日)

 

*ポンコツ映画愛護協会