『フライペーパー! 史上最低の銀行強盗』:2011、アメリカ&ドイツ

閉店間際の銀行に、スイス人の美女が入って行く。融資担当のレックスはマッサージ店に電話を掛けながら、トイレの個室に入る。支店長のゴードンは、警備システムの強化について責任者のミッチェルに確認する。窓口係のマッジは、残業の多さについて同僚のケイトリンに愚痴をこぼす。ケイトリンの元にトリップという男性客が来て、枚数を指定して複数の硬貨に両替するよう頼む。「コインが好きなんだ」という彼の指定した硬貨の数が、全て素数であることにケイトリンは気付いた。
トリップはケイトリンの指輪とカウンターの奥に置いてあるプレゼントとに気付き、「いつ結婚を?相手はセレブ?」と質問する。マッジは「結婚式はブルネイよ」と横から口を挟む。強盗のダリエン、ゲイツ、ワインスタインは作業員に化けて屋上から潜入し、電波妨害装置を設置する。彼らは完全武装し、フロアへ向かう。トリップが両替を終えて去ろうとした時、ラフな格好をしたピーナット・バターとジェリーという2人組が入って来る。彼らが銃を持っているのに気付いたトリップは「強盗だぞ」とケイトリンに言い、カウンターを飛び越えて彼女を伏せさせた。
ピーナット・バターとジェリーが銃を構えて「強盗だ」と叫んだのと同じタイミングで、ダリエンとゲイツもフロアへ下りて来た。マッジは警報を鳴らそうとするが、電波妨害装置のせいで使えない。ケイトリンは携帯電話を使おうとするが、通話不能になっていた。2組の強盗団が睨み合う中、男性客が何物かに撃たれた。2組は驚き、互いに発砲する。ピーナット・バターとジェリーは逃げ出そうとするが、3人組がミッチェルにシステムを遮断させて出入り口を封鎖していた。
トリップは2組に「客が撃たれた。様子を見たい」と言い、カウンターを出て男性客に歩み寄る。客の死亡を確認した彼は、2組に対して「片方は金庫、もう一方はATMを狙ってるんだろ?何を揉めることがあるんだ?」と告げた。そこで双方はトリップの提案を聞き入れ、それぞれの目的を果たすために行動することにした。3人組は人質の荷物を回収し、オフィスに監禁した。トイレの個室にいたレックスも見つかり、オフィスへ連行された。
ダリエンたちがハイテク装備を揃えているのを見て、ピーナットとジェリーは感心した。ダリエンは何の計画性も無いピーナットたちに呆れ果てた。ダリエンが金庫で作業をしている間に、ゲイツとワインスタスンは人質に「電話は1回だけ認める。家に電話して、今日は帰れない、知人の家に泊まると伝えろ」と命じた。携帯を渡されたミッチェルは、妻に電話を掛けた。一方、ピーナットとジェリーは格安て手に入れた爆弾の説明書きを読もうとするが、中国語なので全く分からなかった。
ゲイツとワインスタインがが人質を殺そうとしなかったため、トリップは「一人を殺すのも全員を殺すのも一緒のはずだ」と言う。彼は殺された客の服を探り、財布を盗み取っていた。免許証を調べた彼は、被害者がヘイズという名前だと知った。トリップは明らかにヘイズが狙われていたことに疑問を抱いた。ヘイズの財布を調べると、この銀行のカードは無かった。口座を開設するなら窓口へ行くはずだが、ヘイズは別の場所をウロウロしていたことから、トリップは彼の目的が気になった。
トリップはドアが開かないかどうか調べた後、天井裏に上がった。ピーナットは爆弾を仕掛けるが、スイッチを押す前に爆発した。しかも威力が大きすぎたため、ピーナットは激しく吹き飛ばされた。爆発の影響でゲイツの使っていたパソコンが故障し、トリップは転落した。オフィスのガラス壁が割れて、人質は外へ出られるようになった。ピーナットは無事だったが、ATMは開かなかった。激怒したゲイツはピーナットとジェリーを射殺しようとするが、どこを撃てば一撃で仕留められるのか良く分からない。ワインスタインが諦めて戻るよう諭すが、我慢できなかったゲイツは発砲した。ジェリーは「外した」と浮かれるが、左耳を撃たれていた。
トリップはダリエンの元へ行き、「人殺しがいる」と告げる。ダリエンの言葉から、トリップは彼がヘイズを殺していないことを確信した。戻って来たワインスタインはトリップに銃を突き付け、オフィスへ戻るよう要求した。トリップは巧みな弁舌で、ワインスタインから「新システムの導入に伴ってコンピュータが再起動し、2分だけ警備システムが停止することになっていた。強盗なら誰でも知ってる」という言葉を引き出した。
オフィスに戻ったトリップは、ミッチェルに「なぜ携帯のボタンを10回しか押さなかった?電話を掛けるなら11回だろ。奥さんへの電話は嘘だ。アンタはシステム停止の情報を売った。しかも2回売ったから、強盗も2組来た」と告げる。ミッチェルは「情報は売った。だけど1回だけだ。それに相手の顔も知らない」と述べた。ゲイツはパソコンを復活させたが、ワインスタインは金庫の壁が情報より遥かに厚いことを知って「焼き切るのに1時間か2時間は掛かる」と口にした。ゲイツの侮蔑的な発言に、彼は激怒した。ダリエンは2人をなだめ、ゲイツには「2人組を見て来い」、ワインスタインには「人々にトイレ休憩を与えろ」と指示を出した。
ピーナットとジェリーが爆弾を仕掛ける相談をしていると、そこに現れたゲイツは彼らを馬鹿にする言葉を浴びせた。ピーナットたちは余裕の態度を示し、「順位ではアンタの上だろうな」と言う。そこでゲイツは、ネットでFBIの最重要手配リストを確かめた。強盗部門の1位はヴィセラス・ドラム、2位はミック・ナイロンの一味、3位はアレクシス・ブラックだ。ダリエンとワインスタインは12位で、ゲイツはサイバー犯罪部門で4位に入っていた。そしてピーナットとジェリーは、674位だった。
ピーナットとジェリーはゲイツに、人質の分配を要求した。ゲイツは承諾し、トリップ、ケイトリン、レックス、マッジをピーナットたちに譲渡した。ピーナットとジェリーが「任務を与える。中国語が読めて爆弾の作業が出来る奴」と言い出したので、トリップはヘイズの死体に近付くために立候補した。彼はフロアへ行き、点火装置をATMの爆弾に差し込んだ。しかしピーナットがスイッチを押しても、爆発しなかった。
ピーナットとジェリーがATMを調べている間に、トリップはヘイズの死体を探って拳銃を発見した。気付いたピーナットたちは慌てて銃を構え、「それを捨てろ」と怒鳴った。声を聞いたダリエンとゲイツが駆け付け、トリップに銃を構えて「それを捨てろ」と要求した。トリップは「この男が持っていたんだ」と説明し、銃をダリエンに渡した。ダリエンが「FBIの銃だ」と言うので、トリップは「捜査に来ていたのかもしれない」と述べた。
トリップは当時の状況を整理し、「ヘイズを殺した犯人はワインスタインしか考えられない」と告げた。トリップ、ダリエン、ゲイツがオフィスへ行くと、ワインスタインとミッチェルが拳銃を握って向かい合い、共に銃弾を浴びて死んでいた。ゲイツは「情報の横流しにワインスタインがキレて、ミッチェルは身の危険を感じて、それで撃ち合ったんだ」と言うが、トリップは「なぜ今、殺すんだ?それにミッチェルは2発撃ってる」と疑問を呈した。
「もしも2人が仲間だったとしたら?」と仲間割れの可能性をトリップが示唆すると、ダリエンは激怒して「相棒が俺を裏切るなんて絶対に有り得ない」と告げた。ダリエンは計画を中止し、銀行を去ることにした。ゲイツが「あと一歩なんだぞ」と翻意を促すが、ダリエンは荷物をまとめて2階へ上がった。ゲイツはピーナットとジェリーを配下に従えて人質を集め、「俺がリーダーだ。お前たちは俺の許可が無いと何も出来ないんだ」と高圧的な態度を取った。
ダリエンはガスを使って壁を壊そうとするが、事故が起きて火だるまになった。ゲイツが人質に喋っているところへ、ダリエンの死体が落下した。ゲイツは人質をオフィスへ戻らせ、金庫破りの作業に入った。トリップは天井裏に入り、別の部屋へ出た。ゲイツはジェリーに、様子を見に行くよう指示した。ジェリーに見つかったトリップはスーツケースから盗み出した爆破装置を差し出し、それが作動しないことを見せた。
トリップが「これを作ったのは誰だ?」と尋ねると、ジェリーはボスが作ったことを明かすが、その正体は言わなかった。トリップはジェリーに、「誰かが君を殺そうとしてる。相棒との仲は?」と問い掛ける。ジェリーは「俺たちはゲイのカップルより仲がいいんだ」と、ピーナットを疑う発言をしたトリップに腹を立てた。トリップはジェリーをながめ、ボスがドラムだと聞き出した。ただしFAXで情報が届くだけなので、顔は見たことが無いのだという。情報伝達にFAXを使っているのも、相手の顔を知らないのも、ミッチェルの時と全く同じだった…。

監督はロブ・ミンコフ、脚本はジョン・ルーカス&スコット・ムーア、製作はモシュ・ディアマント&マーク・デイモン&ピーター・サフラン&パトリック・デンプシー、製作総指揮はジョアニー・バースタイン&タマラ・ストゥパリヒ・デ・ラ・バーラ&グレゴリー・ウォーカー&グドルン・ギディングス&ボビー・ランゲロフ&ティロ・セイファート&マーカス・ショーファー&クリスチャン・アーノルド=ビューテル&ジョン・ルーカス&スコット・ムーア、製作協力はジェームズ・ポートルース&カテリーナ・スランチェワ、撮影はスティーヴン・ポスター、編集はトム・フィナン、美術はアレック・ハモンド&ジム・ジェラルデン、衣装はモナ・メイ、音楽はジョン・スウィハート、音楽監修はリズ・ギャラハー。
出演はパトリック・デンプシー、アシュレイ・ジャッド、ティム・ブレイク・ネルソン、メキー・ファイファー、マット・ライアン、ジェフリー・タンバー、ジョン・ヴェンティミリア、プルイット・テイラー・ヴィンス、カーティス・アームストロング、ロブ・ヒューベル、エイドリアン・マルティネス、ナタリア・サフラン、オクタヴィア・スペンサー、エディー・マシューズ、ロブ・ボルティン、ジェームズ・デュモント、ジュディー・ダーニング、ジョセフ・ネマーズ他。


『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』のジョン・ルーカスとスコット・ムーアが脚本を担当した作品(だからこんな邦題になっているのだ)。
監督は『ホーンテッドマンション』『ドラゴン・キングダム』のロブ・ミンコフ。
トリップをパトリック・デンプシー、ケイトリンをアシュレイ・ジャッド、ピーナットをティム・ブレイク・ネルソン、ダリエンをメキー・ファイファー、ゲイツをマット・ライアン、ゴードンをジェフリー・タンバー、ワインスタインをジョン・ヴェンティミリア、ジェリーをプルイット・テイラー・ヴィンス、ミッチェルをカーティス・アームストロング、レックスをロブ・ヒューベル、クリーンをエイドリアン・マルティネス、スイス美女をナタリア・サフラン、マッジをオクタヴィア・スペンサーが演じている。

この作品にはミステリー映画、犯罪映画、コメディー映画の要素が含まれている。
だが、その3つの要素が上手く融合しておらず、その配合も良くない。
ミステリー映画としては、「ヘイズ射殺事件の犯人は誰で、目的は何なのか」というところにトリップが早い段階で着目し、勝手に探り始める。
それと並行して、2組の強盗が金を盗み出すための行動も進められている。
ここが全く絡み合わずにバラバラのままで進行するので、意識が散漫になってしまう。

ヒントを先に提示して、それを集めて謎を解いて行くという形ではなく、トリップがなぜかキレキレの頭でサクサクと謎を解いて行くのを見せられるだけ。こっちに推理の楽しみは与えてもらえない。
トリップが1つ1つの謎に対して推理を説明しても、「あの時のアレは、そういうことだったのか」という心地良さは味わえない。
しかも、その推理は全て当たっているわけではなく、「金庫に金なんて無い。君をおびき寄せるためのエサだ」とゲイツに言っているけど、実際は大金が入っている。
そうなると、「トリップの推理がどこまで合っているのか」ってのが怪しくなる。
ちゃんとした答え合わせも無くて、ただの推測に留まっているのでね。

トリップがダリエンに「ワインスタインとミッチェルがグルで仲間割れした」ということを示唆したり、ジェリーに相棒との仲を尋ねてピーナットへの疑惑を示したりするのだが、それで観客に「こいつが犯人かも」と疑わせることを狙っているのだとしたら、上手く行っていない。
何しろ、当事者は全く相棒を疑わないんだから。それどころか、殺人事件への興味も抱いていない。
トリップが躍起になって捜査しているだけで、他に殺人事件への関心を示している人物は全くいない。登場人物が殺人事件に意識を傾けるのは、終盤に入ってからだ。
本来ならトリップが物語を転がしていく役割を担っているはずなのだが、「笛吹けど踊らず」という状態になっている。

そして観客の方も、殺人事件の真相や犯人探しに対して、あまり関心が持てない。
極端に言うと、「ヘイズ射殺事件の犯人は誰で、目的は何であろうと、どうでもいいや」という気持ちになってしまう。
なぜなら、ヘイズが殺されても、その犯人がトリップたちを狙っているようには感じられないからだ。
そうなると、自分たちの身の危険は及ばないわけだから、「そんな事件の犯人を探るよりも、今は強盗事件に対処することを優先すべきじゃないのか」と思ってしまうのだ。殺人事件を解決したとしても、それで人質になっている状況が変化するわけではないしね。

トリップたちは人質にされているのだが、「何とか外部に状況を伝えよう」とか「強盗をやっつけよう」とか「殺されるかもしれないから何とかしよう」とか、そういう意識は全く持たず、強盗に対する行動は誰一人として起こさない。
強盗計画は強盗たちが勝手に進めていくだけで、そこに人質が有機的に絡まない。
また、ミステリーの部分には、コメディー要素がほとんど絡んで来ない。っていうか、そもそもコメディーの要素が薄い。
導入部からすると、もっとコメディーの要素が強くなりそうだったが、そうではなかった。

もっとコメディーの要素を強めた方がいいと思うんだけど、トリップは射殺事件発生後は落ち着き払っているだけで、笑いの発信力は弱い。
ピーナットとジェリーが、コメディー・リリーフのような形で奮闘しているだけだ。
途中でダリエンたちのグループもボンクラ揃いであることが明らかとなるが、だからといって笑いの発信力が強まるわけではない。
ゲイツやワインスタインがやたらとヒステリックに喚き散らしても、そこに笑いを感じることは難しい。トゲトゲしさの方が遥かに強い。

強盗計画に関しても謎解きと一緒で、「それが成功しようが失敗しようが、どうでもいいわ」という気持ちになる。そもそも、人質も強盗に対して何の関心も抱いていないし。
根本的な問題として、この映画の本筋が強盗事件に無く、それを背景にして殺人事件を描こうとしているってことがボンヤリしているのだ。それが鮮明になる頃には、もう映画は終盤に入っている。
何が本筋なのか、意図的に分かりにくくしている可能性もあるけど、だとしても失敗だろう。
もっと早い段階で2人目を殺すなりして、トリップの口を借りて「誰かが意図的に殺人を繰り返している」と言わせ、登場人物の関心を殺人事件に向けさせるべきだ。

射殺事件の真相究明という以外に、「トリップは何者なのか」というミステリーも存在する。
ところが、いかにも「実は〜」という正体の種明かしが待っている雰囲気だったのに、最後までトリップが何者なのかは明かされない。
単に「素数が好きで推理力が高く、なぜか殺人事件に対する探究心が異様なほど旺盛」「危険な状況でも泰然自若として行動できる度胸の据わった男」というだけで終わってしまう。
それはダメでしょ。
そこに「実は**」という種明かしを用意しないのは、手抜きとしか思えないわ。

(観賞日:2014年7月14日)

 

*ポンコツ映画愛護協会