『フライトプラン』:2005、アメリカ

ベルリンで夫デヴィッドを失ったアメリカ人女性カイルは、その事実を受け入れられずにいた。その1週間後、彼女は幼い娘ジュリアと共 に、ニューヨーク行きの飛行機に乗り込んだ。夫の棺も同じ飛行機で移送される。搭乗口で乗務員ステファニーと言葉を交わし、カイルは ジュリアと共に指定の席に座った。前の席に座るラウド一家の子供2名は、かなり騒々しい。
眠り込んだカイルが目を覚ますと、ジュリアの姿が無かった。カイルは慌てて機内を探し回るが、どこにも娘の姿が無い。カイルは乗務員 に事情を説明するが、。そんな中、外部と連絡を取っていた乗務員フィオナは、搭乗者名簿にジュリアの名前が無いと告げる。カイルは 娘の搭乗券を見せようとするが、無くなっていた。盗まれたと主張するが、信じてもらえない。
カイルはリッチ機長と話そうと操縦室へ向かうが、航空保安官カーソンに取り押さえられた。カーソンがリッチに事情を説明し、カイルと 話をさせた。カイルはステファニーに娘を見たことの確認を取るが、覚えていないと言われてしまう。さらに乗客も誰一人としてジュリア を見ておらず、カーソンも知らないと答えた。リッチの質問でジュリアが睡眠薬と精神安定剤を服用していることが判明し、乗務員は ジュリアの話を全く信用しない。
カイルが強硬に主張するため、仕方なくリッチはリュックと搭乗券を探す手助けをすることにした。リッチは乗客にシートベルト着用の アナウンスをして座らせ、捜索がやりやすい状態にした。不平を言う乗客も出る中、カイルは機内を捜索する。カーソンは露骨に不快感を 示しながらも、彼女に同行した。乗務員も渋々ながら捜索を手伝い、リッチは規則に従ってフィオナに機械室を捜索させた。
カイルはアラブ人の乗客オバイドとアハメドを見つけ、疑いの目を向けた。カーソンが諌めて一度は立ち去ったカイルだが、前日に自分の 家を覗いていたのがオバイドだと確信して引き返した。カイルはオバイドが娘を誘拐したと確信し、いきなり飛び掛かった。カーソンが 制止し、オバイドはホテルの領収書を見せた。カイルは納得しなかったが、カーソンが引き下がらせた。
シートベルト着用の解除を伝えるアナウンスが流れたため、カイルは問い詰めようとリッチの元へ赴いた。するとリッチは、フィオナが デヴィッドの死を確認した病院と連絡を取った結果をカイルに伝えた。遺体安置所の責任者によると、ジュリアとデヴィッドと共に死亡 しているのだという。常軌を逸したカイルは急に駆け出すが、オバイドに足を引っ掛けられて転倒し、気絶した。
カイルが意識を取り戻すと、自分の席に座らされていた。リッチはセラピストをカイルの隣に座らせ、落ち着かせようとする。ジュリアは 窓ガラスにジュリアが残した落書きに気付き、娘が乗っていたという確信を取り戻した。彼女はトイレに行くフリをして、その天井裏に 潜り込んだ。カイルが勝手に機械を操作したことで酸素マスクが降り、さらにライトが消えた。パニックが起きている間に、カイルは カーソンの監視を逃れて貨物室に入り込んだ。棺を調べると、そこには夫の遺体だけがあった。
カーソンがカイルを発見して手錠を掛け、どうしても言うことを聞かない乗客がいる場合の規則に従ってニューファンドランドに緊急着陸 することを告げた。カーソンはカイルを席に戻し、フィオナに監視を頼んだ。彼は貨物室へ行き、棺に隠してあった起爆装置を取り出した。 それから機首部分へ赴き、拉致したジュリアを眠らせた近くに爆弾を設置した。そしてカーソンはリッチの元へ行き、カイルが5千万ドル を指定口座に振り込まねば機体を爆破すると脅迫していると吹き込んだ…。

監督はロベルト・シュヴェンケ、脚本はピーター・A・ダウリング&ビリー・レイ、製作はブライアン・グレイザー、製作総指揮は ジェームズ・ウィテカー&チャールズ・J・D・シュリッセル&ロバート・ディノッツィー&エリカ・ハギンズ、撮影はフロリアン・ バルハウス、編集はトム・ノーブル、美術はアレクサンダー・ハモンド、衣装はスーザン・ライアル、音楽はジェームズ・ホーナー。
主演はジョディー・フォスター、共演はピーター・サースガード、ショーン・ビーン、エリカ・クリステンセン、ケイト・ビーハン、 グレタ・スカッキ、ジュディス・スコット、マイケル・アービー、ブレント・セクストン、マーリーン・ローストン、ステファニー・ ファラシー、フォレスト・ランディス、アサフ・コーエン、シェーン・エデルマン、メアリー・ギャラガー、ヘイリー・ラム、ジャナ・コレサロワ、ジョン・ベンジャミン・ ヒッキー、マシュー・ボーマー、ギャヴィン・グレイザー、クリストファー・ガーティン、ベス・ウール他。


『タトゥー』で注目されたドイツ人監督ロベルト・シュヴェンケがハリウッドに招かれて撮った作品。
アルフレッド・ヒッチコック監督の『バルカン超特急』とオットー・プレミンジャー監督の『バニー・レイクは行方不明』がモチーフに なっているようだ。
カイルをジョディー・フォスター、カーソンをピーター・サースガード、リッチをショーン・ビーン、フィオナをエリカ・クリステンセン、 ステファニーをケイト・ビーハン、セラピストをグレタ・スカッキが演じている。

冒頭でカイルを「夫を失って精神的に不安になっている」という状態にしておくのは、ジュリアがいなくなった後に「カイルの言うことは 本当なのか否か」という揺らぎを持たせることという意味において、上手く使えばプラスに作用する。
だが、「夫を失ったショック」への意識付けが強すぎるのは問題だ。
それも必要だろうが、そちらよりカイルと娘の関係アピールの方が重要だったと思う。
それと、冒頭からずっと不穏な空気を漂わせているのは、あまり得策とは思えない。
その辺りでは、「今にも何かが起きそうだ」という雰囲気は要らないのではないか。むしろ、実際に事件が発生するまでは、そういう 雰囲気を全く感じさせずに粛々と進めた方が、落差が生じて効果的だったような気がする。
空港でジュリアを見失ったカイルが半狂乱になる場面も、サスペンスフルに盛り上げすぎているのではないかと感じる。

カイルが夫の死によって精神的に不安定になっているという事情があっても、仮に「彼女の言うことが真実ではないのかもしれない」と 思ったとしても(本作品において観客が「ジュリアは搭乗していないのではないか」と思う可能性はゼロだろうけど)、どうであれ、 観客がカイルに同情できるようにするというのは、演出として必要不可欠な作業である。
ところが、その肝心要の部分が全くクリアできていないのだ。
カイルは一片の曇りも無く、ただのヒステリックで身勝手な女でしかない。いきなり酸素マスクを落下させたり停電にしたりして乗客が PTSDになるようなショックを与え、高級車を破壊し、飛行機を爆破する。 「夫を亡くして精神的に不安定」「娘を探すために必死」という言い訳など軽く凌駕してしまうほどに、腹立たしさに満ち溢れた メチャクチャな女である。

カイルは航空機設計者という設定だが、それが劇中で有効活用されているとは思えない。飛行機の構造について詳しい知識を披露する場面 はあるが、その程度なら乗務員や航空機マニアでも言えることだろう。技術的な部分で職業が活かされている印象は薄い。その一方で、 終盤の行動を見る限り、どうやら爆薬の詳しい知識も持っていたようだ。
さらに彼女は、強烈に悪かった印象を何とか挽回できる最後のチャンスまで逃している。
事件が解決した後、彼女は「ほら見たことか」とばかりに、自分の行動は当然のことで一切の非は無いという振る舞いを見せる。 事情があったとは言え大勢の乗客に迷惑を掛けたのに、全く悪びれる様子は無い。勝手な思い込みでアラブ人に多大な迷惑を掛けたのに、 謝ることも無い。
最後までエゴイストとしてのキャラを貫くのである。

カイルに全く同情できないというのは演出の失敗が大きいのだが、脚本の方もボロボロで粗がありまくりだ。
犯人の計画が杜撰というか、偶然に頼りすぎているのだ。よくまあ、そこまでラッキーが続いたものだと思ってしまう。
実は完璧な犯罪計画などというものは難しいのだが、少なくとも映画を見ている間は粗を感じさせない、あるいは粗があっても 受け入れられるようにする配慮があるべきだ。
しかし、ここまで粗が目立ちまくるというのは、まあ、そういうことだ。

例えば「ジュリアの姿を誰も見ていない」ということだが、もしもステファニーが搭乗口で見たことを覚えていたらどうするのか。実際 には見ていなかったとしても、似たような少女が他にいて、その少女と勘違いして「目撃した」と誰かが言い出す可能性だってある。
そもそも「犯人は誰にも見られずジュリアを機械室に拉致した」という設定なんだろうが、そこに無理を感じるし。
そこを「乗客は無関心で他の人のことなんて誰も見ていない」という説明で乗り越えようとしても、そりゃ強引すぎる。前の子供たちが ジュリアと話していたら、どうするつもりだったのか。
それに、その飛行機にカイルと棺が乗るとは限らない。もしもカイルが別の便に乗ることになったら、その時点で計画はパーだ。
また、カイルが乗る飛行機に、フィオナが勤務できるかどうかも確実ではない。他の航空会社の飛行機をカイルが選んでいたら、どうする つもりだったのか。
あと「起爆装置を機内に持ち込みたい。だからX線検査をパスするのに棺が欲しい。なのでデヴィッドを殺す。そして飛行機に詳しい カイルを犯人に仕立て上げる」というのが犯人の作戦なんだが、棺を得るためだけに人殺しって、なんかバカバカしいとしか思えんのだが 。

搭乗者名簿にジュリアの名前が無いということだが、誰がどうやって消去したのか。その電話をしていたのはフィオナだから、彼女が嘘を 言っていたということなら名簿を細工する必要は無い(その可能性が高そうだが、それは映画を見ていても分かりにくい)。
しかし、だとしても他の人間が確認を取ったら一発で終わりだ。病院の証明書についても同じことが言える。
カイルは寝ている間に、ポケットに入れておいたジュリアの搭乗券を盗まれる。だが、それを盗む時に、周囲の乗客に気付かれる可能性も ある。それに、もしも彼女が搭乗券をバッグの中に入れていたら、犯人はどうするつもりだったのか。
さすがにバッグをゴソゴソしていたら、周囲の乗客に怪しまれる危険性が高い。
幾ら夜中であろうと、全員が眠っているとは限らないし。

カイルがヒステリックに騒ぎ立てたことで、リッチや乗務員は彼女が錯乱して正気を失っている、嘘を言っていると考える。
だが、もしも彼女が冷静に行動していたら、どうだっただろうか。
それよりも、睡眠薬を常用しているカイルが着陸寸前まで眠り込んでいたとしたら、どうだろうか。
「ヒステリックになった彼女をハイジャック犯に仕立て上げる」という犯人の計画は完全に破綻する。

シートベルト着用の後、リッチがフィオナ以外の誰かに機首部分の捜索を指示していたら、その段階でジュリアは発見されていた可能性 がある。リッチがカイルに機首部分へ入ることを許可していたとしても、やはり同様だ。
また、機首にずっと放置されていたジュリアが途中で目を覚ます可能性もある。
っていうか、なぜ犯人がジュリアを殺さなかったのかが良く分からない。
目的を考えると、ジュリアを生かしておく必要性はゼロだ。むしろ厄介なだけだ。
それに、「航空機の中で娘がいなくなり、しかも乗客・乗務員は誰も見ていない」という事件の始まりからして、どれだけスケールの デカい陰謀・策略が絡んでいるのだろうと思いきや、たった2人で仕組んだ金目当てのショボい犯行なのだ。
そもそも大金を手に入れるという目的から考えると、犯人の計画はあまりにも無駄に手間が掛かりすぎ&リスクが高すぎるぞ。
こんなに粗い脚本なのに、ハリウッド・メジャーで、よくゴーサインが出たなと。

(観賞日:2008年4月6日)

 

*ポンコツ映画愛護協会