『フレッシュ・ゴードン/SPACE WARS』:1974、アメリカ

その日、アメリカの臨時国会には誰も姿を見せず、大統領は官邸から一歩も出て来なかった。ワシントンDCでは科学者たちの会議が開かれ、ゴードン博士が声明を発表した。「セックスの狂気が地球を危機に陥れる」という声明を発表した。人々が突如としてセックス狂いになってしまうという出来事が発生したのだ。博士は集まった科学者や記者たちに、セックス狂いの現象が局地的に起きていること、アメリカ代表として世界アイスホッケー大会に参加していた息子のフレッシュが遠い惑星から発せられる光線を発見したことを語った。そして博士は、「息子が帰国すれば詳しい話が聞けるでしょう」と告げた。
フレッシュは帰りの飛行機で、デイルという美女と親しくなった。飛行機は宇宙から発射されたセックス光線を浴び、乗客たちは乱交騒ぎを始めてしまう。機長と副機長も参加したため、飛行機は墜落の危機に陥った。一人だけ冷静さを失わなかったフレッシュは、デイルを連れてパラシュートで脱出した。2人は森の中で一軒の家を発見するが、住人の男が現れて拳銃を向けた。彼は2人が自分の発明品である宇宙船を盗みに来たと思い込んでいたのだ。しかしフレッシュは、彼が父の親友であるジャーコフ博士だと気付いた。
ジャーコフは2人を家に招き入れ、セックス光線の発信地である惑星を突き止めたことを話す。フレッシュとデイルは「調査に行こう。誰かが地球を救わねば」と持ち掛けられ、宇宙船に乗り込んだ。途中で宇宙船はセックス光線を浴び、3人は乱交を始めた。目的地についてフレッシュが尋ねると、ジャーコフは「生命体が存在する惑星だ。光線は人工的だ」と告げた。ポルノ星に着陸しようとした宇宙船は、戦闘機の攻撃を受けた。不時着した宇宙船から外へ出たフレッシュたちは、兵士3名に見つかって逃げ出した。
洞窟に避難したフレッシュたちは、ペニサウラスの群れに襲われる。3人は兵隊に捕まり、ワング皇帝の宮殿へと連行された。大勢の男女が裸で交わる中、ワングはポルノ星へ来た目的について質問した。ジャーコフが「セックス光線が地球を混乱に陥れた」と批判すると、ワングは「感謝されるべきだと思っていたが。ワシの光線の無限なる威力に立ち向かうことなど誰も出来ない」と言う。ジャーコフが科学者だと知ったワングは、兵士に命じて研究所へ連行させた。
ワングはデイルを花嫁にすることを決め、フレッシュは性エキスを抽出するために連行させようとする。すると暗闇の女王であるアモーラが、それを制止した。ワングはアモーラに、「もしも奴がワシの定めた拷問を生き延びれば、お前に奴の助命の権利を与えよう」と持ち掛けた。フレッシュは闘技場に放り込まれ、野蛮な3人の女たちに襲われる。何とか3人を退治したフレッシュは、アモーラの所有物となった。アモーラはフレッシュをスワン型宇宙船に乗せて催眠術を掛け、森林王国の上空を航行しながらセックスを楽しんだ。
兵士から報告を受けたワングは激昂し、スワン型宇宙船の撃墜命令を下した。森林王国とは敵対関係にあったが、ワングは兵士に「奴らなど恐れるに足らん。命令に逆らうな」と怒鳴った。ジャーコフは隙を見て兵士の銃を奪い、宮殿から脱走した。スワン型宇宙船が撃ち落とされてアモーラは死ぬが、フレッシュは無事だった。アモーラの衣装を着て森を徘徊していたフレッシュは、ジャーコフと再会した。デイルとワングの結婚式が進められていることを知ったフレッシュは助けに行こうとするが、ジャーコフは「我々の力では無理だ」と止める。するとアモーラの魂が出現し、フレッシュに「私の乳首飾りを使えば、光線に対抗することが出来る」と教えた。
フレッシュとジャーコフは宮殿に乗り込むが、結婚式に参列していた女がデイルを連れて逃亡していた。ワングは兵士に仕掛けを作動させ、フレッシュとジャーコフを落とし穴に落下させた。女はデイルを地下組織「フマゾン」のアジトへ連行し、首領のネリーに会わせた。女性だけのレジスタンス組織であるアマゾンはワング政権の打倒を目指しており、デイルを仲間に引き入れようと考えたのだ。デイルは「フレッシュと一緒に居たい」と訴えるが、ネリーは認めなかった。
ネリーは部下を選抜し、デイルをレズ行為で責める。そこへ穴から脱出したフレッシュとジャーコフが駆け付け、デイルを救う。ネリーはカマキリロボットを呼び出し、フレッシュたちを襲わせた。フレッシュはカマキリロボットの攻撃を受けて窮地に陥るが、ポルノ星の正当な王位継承者であるプレシャス王子に救われる。プレシャスはフレッシュたちに、かつてポルノ星が平和な楽園だったこと、植物学者のワングが食虫植物にペニスを食われて不能になったこと、他人を妬むようになったこと、欲求不満の軍隊とセックス光線を武器にして城を乗っ取ったことを語った。
城を追放されたプレシャスは、仲間と共に森林王国を築いていた。プレシャスはワングを倒し、2つの星を永遠の友情で結びたいと話した。フレッシュは助けてもらった恩を返すためにも、協力することを彼に申し入れた。フレッシュたちは森林王国に招かれ、ジャーコフはセックス光線を粉砕する光線の研究に取り組む。発射装置を完成させたジャーコフだが、ワングのスパイが覗き見ていた。フレッシュたちは装置を取り付けたテントウムシ型ロケットで発進するが、スパイの裏切りに遭って墜落してしまう…。

監督はマイケル・ベンヴェニスト&ハワード・ジーム、脚本はマイケル・ベンヴェニスト、製作はハワード・ジーム&ウィリアム・オスコ、製作協力はウォルター・R・シシー、ライヴ・アクション監督はマイケル・ベンヴェニスト&ハワード・ジーム、撮影はハワード・ジーム、編集はアッバス・アミン、アート・ディレクターはドナルド・ハリス、特殊効果デザイン&監督はハワード・ジーム&リン・ロジャース&ウォルター・R・シシー、衣装はルース・グラント、メイクアップ・デザインはビジョー・トリンブル、小道具はトム・リーミー、特殊小道具はリック・ベイカー&トム・シャーマン、特殊視覚効果創作はデヴィッド・アレン(デイヴ・アレン)&ミジ・トロフナド(ジム・ダンフォース)、効果技術者はダグラス・ベズウィック(ダグ・ベズウィック)&リック・ベイカー&ジレッグ・ジェイン&ラス・ターナー&クレイグ・ナースワンガー、音楽はラルフ・ファーラロ、音楽プロデュースはピーター・トラヴィス。
出演はジェイソン・ウィリアムズ、スザンヌ・フィールズ、ジョセフ・ハギンズ、ウィリアム・ハント、ジョン・ホイト、キャンディー・サンプルズ、マイクル・ブランディー、スティーヴ・グラメット、ノラ・ウィターニク、ランス・ラーセン、ジュディー・ジーム、レナード・グッドマン、ドン・ハリス、ハワード・アレクサンダー、ジャック・ロウ、アラン・シンクレア、マーク・フォア、アネット・アンダーソン、マリア・アロノフ、シャノン・ウエスト、リック・ラッツェ、パトリシア・バーンズ、サリー・アルト他。


アレックス・レイモンドのコミック・ストリップ(新聞連載漫画)である『フラッシュ・ゴードン』をパロディー化したポルノ映画。
ビデオ化された時のタイトルは『フレッシュ・ゴードン』。
フレッシュをジェイソン・ウィリアムズ、デイルをスザンヌ・フィールズ、ジャーコフをジョセフ・ハギンズ、ワングをウィリアム・ハント、博士をジョン・ホイト、ネリーをキャンディー・サンプルズ、プレシャスをマイクル・ブランディー、アモーラをノラ・ウィターニクが演じている。
アンクレジットだが、後に『ポルターガイスト』『ポルターガイスト2』で一家の父親役を演じるクレイグ・T・ネルソンが怪物の声を担当している。

アメリカでの公開は1974年だが、日本では1978年に公開された。
当時の日本では『スター・ウォーズ』の公開を控えてSFブームが巻き起こっていたのだが、それに便乗する形で、なんとジョイパックフィルムが一般映画として配給したのだ。
エロ描写を修正したりカットした編集版ではあるが、これを一般映画として公開しちゃうセンスは凄い。
それだけ、当時のSFブームが爆発的に盛り上がっていたということなんだろう。

先に書いておくけど、ポルノ映画ではあるが、そっち方面のオカズになるような作品ではない。
つまりリビドーを刺激する類の映画ではないってことだ。
そもそもソフトコア・ポルノだから、裸のネーチャンたちは出て来るけどセックスのシーンは無いし、それにパロディー映画だから喜劇色が強いってのも、性欲に対してはマイナスに作用する。
まあ、この映画をエロ目的で鑑賞しようと考える奇特な人は、そんなに多くないだろうけどね。

ものすごく安っぽいソフトコア・ポルノではあるんだが、『ラオ博士の7つの顔』や『恐竜時代』などで仕事をしていた特殊効果マンのジム・ダンフォースが、特殊視覚効果創作を担当している。ただし、当時の所属会社だったカスケード・ピクチャーズから派遣されたから仕方なく関わった仕事だったようで、ポルノ映画のスタッフとして本名を出されることを嫌がり、変名でクレジットされている。
他にも、後に有名人となる面々が多く携わっている。
ジム・ダンフォースと共同で特殊視覚効果創作を担当したのは、『空の大怪獣Q』や『ニューヨーク東8番街の奇跡』に参加するデヴィッド・アレン(デイヴ・アレン)。特殊小道具と効果技術者のスタッフとして、1982年に新設されたアカデミー賞メイクアップ部門賞の第一回受賞者となるリック・ベイカー。効果技術者としては、『ターミネーター』や『死霊のはらわた2』のストップモーション撮影を担当するダグ・ベズウィックも仕事をしている。
アンクレジットだが、後にアカデミー視覚効果賞を何度も受賞するデニス・ミューレンや、『スター・トレック2 カーンの逆襲』のアート・ディレクターを務めるマイク・マイナーも、特殊撮影効果のスタッフとして携わっている。
意外なところでは、『沈黙の声』などの著作があるSF小説家のトム・リーミーが小道具係で、熱狂的な『スター・トレック』シリーズのファンで後にファンジン作家として有名になるビジョー・トリンブルがメイクアップ・デザイン担当者として、それぞれ参加している。

冒頭で「1929年から1933年、アメリカは極度の不景気に見舞われた。大衆は勇気を与えてくれる存在を求め、フラッシュ・ゴードンやキャプテン・マーヴェル、バック・ロジャースやスーパーマンといった偉大なスーパーヒーローが生み出された。現在のような時代には、ユーモアが必要とされる。アメリカでは古い物が愛される。我々はパロディーと風刺の精神に基づき、古さと新しさを併せ持つヒーローを作り出した」という文章が表示され、ナレーションが入る。
さらに「過ぎし日のヒーローたちの創作者や、映画やコミックで彼らを表現した人々の存在無くしては、この作品は生まれなかった。彼らのアイデアや異世界に対する視点は、我々に無限のインスピレーションを与えた。この映画を彼らに捧げる」という語りがある。
有名作品を使ってポルノ映画を製作したことへの言い訳なのかのかもしれないが、こんな映画を捧げられても、ちっとも嬉しくないだろう。

何しろ低予算なので、色んな箇所でそれが顕著に出ている。
例えばゴードン博士が「言うまでも無く、この地球は既に大混乱に陥っています。あらゆる場所で、よからぬ行為が起きています」と訴えた時点で、号外を配っていた男がセックス光線を浴びた数名に襲われるシーンしか描かれていない。
博士の言葉に続いて、それを証明するために「各地で同様の現象が起きている」ってのを示すことも無い。
だから、地球に危機が訪れているという気配は微塵も感じられない。

フレッシュは墜落しそうな機体を立て直して乗客を救うわけではなく、途中で諦めてデイルを連れて脱出してしまう。
ってことは他の面々は死んでしまうわけだが、それについては完全にスルーされている。
ジャーコフはフレッシュたちが発明品を盗みに来たと思い込んで拳銃を向けているのに、「驚異的な新燃料を搭載し、テフロン加工した原子力ロケット型宇宙船だ。20年を費やし、ついに完成に漕ぎ付けた」と自分から発明の内容をベラベラと喋り、設計図まで見せる。

飛行機で乱交騒ぎが起きた時には、なぜかフレッシュだけはセックス狂いに陥らず、冷静に危機を回避しようとする。
だから彼は何かの理由で光線の影響を受けない体質なのかと思っていたら、ロケットが光線を浴びた時には普通に乱交している。
フレッシュはジャーコフと遭遇した時には「デイルが怪我をしているから電話を貸してほしい」と言っていたのに、家に案内されると、そのままデイルはロケットに乗り込む。
怪我はどうなったんだよ。

テントウムシ型ロケットが墜落し、宮殿の装置に挟まれて爆発してしまったところで、画面には「これは終わりを意味するのか?ワングの勝利なのか?フレッシュは失敗したのか?」という文字が出て、「インターミッション」の画面に切り替わる。
つまり、中断が入るのだ。
いやいや、上映時間が3時間を超えるような大作映画なら分かるけど、通常版で78分、完全版で90分しか無いのに、インターミッションは要らないだろ。
実際、中断以降の部分って、あと30分ぐらしいか無いぞ。

上述した粗筋だけでも容易に分かるだろうが、幼稚な下ネタのオンパレードである。
ただし、この映画がクソみたいな仕上がりになっているのは、それが原因ではない。シナリオと演出がグダグダだからだ。
ストーリー展開は行き当たりバッタリで締まりが無いし、テンポが悪くて弛緩しまくっている。冒険活劇のはずだが、ワクワク感は皆無。心地良いユルさがあるわけではなく、例えるなら「パンツのゴムがダルダルでズリ落ちそう」ってな感じだ(その例えは分かりにくいと思うぞ)。あと、役者の演技もラジーだしね。
むしろ、下ネタがあるおかげで、少しは見られるモノになっていると言ってもいい。
フレッシュがデイルに上着を着せてやるけどオッパイを全く隠そうとしないとか、ジャーコフが説明したり案内したりしながらデイルのオッパイを揉み続けるとか、ジャーコフの開発したロケットがチンコの形をしているとか、ロケットでの乱交が終わった後のデイルは素っ裸のままで服を着ようとしないとか、性欲バカになっている中学生が考えるようなネタが幾つも盛り込まれている。

あと、とにかく女性陣は、ほとんどのシーンで脱いでいる。
セックス光線を浴びた人間は脱ぐし、デイルはオッパイを隠している時間の方が短いんじゃないか。
ワングの宮殿では無駄に乱交が行われているし、闘技場で襲って来る女たちも裸。フレッシュが彼女たちと戦っている間も、大広間の乱交は続いている。アモーラがフレッシュとセックスする時はもちろん全裸だし、アマゾンの連中も裸同然の格好をしている。デイルは裸にひん剥かれ、アマゾンの連中がレズビアン行為で責める。森林王国の女たちも、やっぱり裸同然の格好。
そういう「女の裸を見せる」ということに関しては、ポルノだから当然ではあるのだが、積極的にやっている。
ただ、下ネタに関しては、「もっと色々とやれたんじゃないかなあ」と思ってしまう。
例えばチンコ型ロケットにしても、中の装置とか出発シーンなんかで、もっと下ネタを幾つも散りばめることが出来るはず。ところが、そういう部分は何のネタも用意せず、淡々と済ませてしまうんだよな。

そんなわけで、下ネタを含めても評価としては厳しいモノがあるのだが、前述したようなスタッフが結集しているだけあって、特撮シーンだけは見所がある。
もちろん低予算なので稚拙な部分があることは否めないが、ペニサウルスやカマキリロボットのストップモーション・アニメーションなんかは、陳腐なポルノ映画である本作品に似つかわしくない質の高さが感じられる本格的な特撮だ。
ペニスドリル付きのロボットは安いキグルミだが、クライマックスに登場する怪物(魔神ペガサス)はストップモーション・アニメーション。
ってなわけで、この映画、ストップモーション・アニメーションだけは、普通の感覚に観賞しても見所だと言えるモノになっている。

(観賞日:2014年4月17日)

 

*ポンコツ映画愛護協会