『ファイヤーウォール』:2006、アメリカ&オーストラリア

シアトル。ジャック・スタンフィールドは、ランドロック・パシフィック銀行のセキュリティー部門最高幹部を務めている。彼は妻のベス、 14歳の娘サラ、8歳の息子アンディーと共に、幸せに暮らしている。そんな彼らの生活を、ずっと監視している連中がいる。そのことに、 ジャックは全く気付いていない。連中はジャックたちの家も、彼が出社する様子も全て見張っている。
その日、ジャックが出社すると、秘書のジャネットに社員のボビーが言い寄っていた。ジャネットと会話を交わした後、ジャックは アキュウエスト銀行との合同会議に顔を出した。現在、両銀行では合併に向けた話し合いが進められている。アキュウエストの幹部である ゲイリーからセキュリティーに関して批判を受けたジャックは激しく反論し、頭取のアーリンになだめられた。
会議を中座したジャックは、DHDファイナンシャルのアラン・ヒューズという男の訪問を受けた。ヒューズは、ネットギャンブルで 作った9万5千ドルの借金を支払うようジャックに要求した。ジャックは身に覚えが無く、ヒューズを追い払う。しかし後で調べると、 実際にネット上での借金が存在していた。誰かがIDを盗んだと確信したジャックは、同僚のハリーに相談した。
ジャックはハリーの紹介で、アトランタのビル・コックスという人物と会うことになった。ビルは銀行業務支援サービス業を手掛けている と説明し、独立するようジャックとハリーに持ち掛けた。同じ頃、スタンフィールド邸には、ずっと監視していた連中が乗り込んできた。 それはビルの仲間だった。一味はジャックの家族を拘束し、監視カメラを設置した。
ハリーが去った後、ビルは本性を現した。彼は帰宅しようとするジャックの車に乗り込み、携帯電話でスタンフィールド邸の様子を 見せ付けた。ジャックが帰宅すると、家族は縛り上げられていた。屋内にはビルの仲間であるシーアム、ピム、ヴェル、ウィリーの姿が あった。ビルは、家族の命が惜しければ協力しろとジャックに要求した。だが、その日は目的を語らなかった。一味はスタンフィールド家 について詳しく調べており、アンディーのアーモンド・アレルギーさえ知っていた。
翌朝、ビルはジャックの体に小型カメラや盗聴器を取り付け、会社へ行かせた。ジャックはパソコンでハリーに助けを求めるメールを作成 するが、すぐに文字が消えてしまう。会社の近くに停めた車から、ウィリーが小型カメラの映像を監視しているのだ。ジャックはウィリー を騙し、会社から抜け出そうとする。だが、仕事相手を装ったビルが現れたため、失敗に終わった。
ビルはジャックに、100万人の顧客から1万ドルずつ、合計1億ドルを指定の口座へ移し替えるよう要求した。セキュリティー・システム の設計者であるジャックなら、それを破るのも簡単だというのがビルの考えだ。しかし計画に大きな問題が生じた。1週間前に合併相手の アキュウエスト銀行が保守端末を持ち去ったため、ジャックにも手が出せない状態となっていたのだ。
ビルはジャックに対策を考えるよう命じ、スタンフィールド邸に戻った。ビルは監視業務でミスをしたウィリーを射殺した。夜、ジャック と家族は一味の目を欺いて逃亡を図るが、あえなく失敗に終わった。ビルはアンディーを騙してアーモンド入のクッキーを食べさせ、発作 を起こさせた。ジャックはビルに、「薬を渡せば何でも言うことを聞く」と約束した。
ジャックはiPodとファックスを利用し、預金をビルの口座に移動させる方法を思い付いた。ファックスのスキャナー部分でサーバーの画面 から1万人の口座情報の映像をキャプチャーし、i-Podに保存する。ウイチタの管理部門を騙して口座情報を映し出させ、文字読み取り ソフトを使ってコンピュータが読めるファイルに返還し、ヴェルが用意したプログラムに取り込む。後は送金端末にアクセスすれば金が 振り込まれるという算段だ。
翌日、ジャックと共に会社へ赴いたビルは、ジャネットをクビにしろと命じた。自分を見る目が気に食わないというのだ。命令に従い、 ジャックはジャネットに突然の解雇を通告した。ジャックはボブを騙して携帯を拝借し、送金端末にアクセスして口座に大金を振り込んだ。 ビルはビデオ室に行って自分が写っているファイルを消去し、ジャックを残して立ち去った。ジャックは行動を怪しんだゲイリーに 呼び止められるが、彼を振り切って自宅へ急いだ。
シャックが帰宅すると家族はおらず、リーアムだけが残っていた。彼はジャックを始末するために残っていたのだ。ジャックはリーアムを 殺害し、ハリーのマンションへ向かう。ハリーが帰宅したため、ジャックが身を隠した。ハリーはビルと共に戻って来た。ビルはハリーを 射殺し、部屋を去った。一味はベスを脅し、ハリーの留守番電話に不倫を思わせるメッセージを残させていた。一味は、ジャックがハリー と共謀して金を奪い、彼を殺したように偽装しようと目論んでいたのだ。
ジャックはジャネットの部屋を訪れ、事情を明かして協力を求めた。彼はジャネットに頼んで、ボブの携帯を入手してもらう。それから 銀行の支店に飛び込み、コンピュータを操作した。ジャックはビルに電話を掛けながら口座の残高を減らし、家族を返すよう要求した。 ジャックは、飼い犬の首輪にGPSが付いているのを思い出した。彼はGPSを追跡し、家族が連れ去られた小屋へ向かう…。

監督はリチャード・ロンクレイン、脚本はジョー・フォート、製作はアーミアン・バーンスタイン&ジョナサン・シェスタック&ベイジル ・イヴァニク、製作総指揮はブルース・バーマン&チャーリー・ライオンズ&デイナ・ゴールドバーグ&ブレント・オコナー、撮影は マルコ・ポンテコルヴォ、編集はジム・ペイジ、美術はブライアン・モリス、衣装はショウナ・ハーウッド、音楽はアレクサンドル・ デスプラ。
出演はハリソン・フォード、ポール・ベタニー、ヴァージニア・マドセン、メアリー・リン・ライスカブ、ロバート・パトリック、 ロバート・フォスター、アラン・アーキン、ニコライ・コスター・ワルダウ、ヴィンス・ヴィーラフ、 カーリー・シュローダー、ジミー・ベネット、マシュー・カリー・ホームズ、ケット・タートン、ヴィンセント・ゲイル、エリック・ キーンレイサイド、ブレンダ・M・クリックロウ、ケヴィン・マンディー他。


『ウィンブルドン』のリチャード・ロンクレインが監督を務めた作品。
脚本は、これがデビューとなるジョー・フォート。
ジャックをハリソン・フォード、ビルをポール・ベタニー、ベスをヴァージニア・マドセン、ジャネットをメアリー・リン・ライスカブ、ゲイリーを ロバート・パトリック、ハリーをロバート・フォスター、アーリンをアラン・アーキン、リーアムをニコライ・コスター・ワルダウ、ピム をヴィンス・ヴィーラフが演じている。

ジャックの年齢設定がどうなっているのか分からないが、キャラ設定を考えると、中年男性ではなかろうか。
少なくとも、63歳のハリソン・フォードが演じるのは、かなり無理を感じる。
63歳の老人が14歳と8歳の子供の父親というのは、そりゃあ現実に存在しないのかと言われれば、全く無い家族構成ではないだろう。
だけど、映画的には厳しいものがある。
ちなみにハリソンは、19歳年下のヴァージニア・マドセンを自分で妻役に選んだらしい。
ただ、ベスは誰がやってもいいような、中身の薄い役回りだ。

コンピュータを駆使した高度な頭脳ゲームが繰り広げられるのかと思いきや、主人公も悪党もそんなに頭が良いわけではなく、ごく普通の B級サスペンス・アクションだった。
タイトルになっているファイヤーウォールは、ほとんど関係が無い。
ビルの口座に金を移すまで、ジャックはメールを打つ程度で、それ以外はコンピュータやセキュリティー・システムに触れない。

ジャックは高い評価を受けているセキュリティーの専門家なのに、簡単に自分のIDを盗まれて、それに気付かずにいる。
自宅には防犯システムがあるようだが、何の役にも立っていない。
そのパスワードには、ヨットの名前を付けるという安易さだ。
そんなヌケているジャックだが、家族を人質に取られても、常に強気な態度を崩さない。
その息子であるアンディーは一味と仲良くパンケーキを焼いたり、装置を見て「すげえや」と感嘆したりするアホっぷり。
ロクな親子じゃねえな。

強盗グループはジャックが帰宅した後、さっさとベスたちの拘束を解いてしまう。
だが、何か拘束を解かなきゃいけない理由があるならともかく、特に見当たらないんだから、念のために、そのままにしておいた方が いい。
っていうか、そこでダラダラするより、さっさと目的を明かせっての。ジャックにカメラや盗聴器を付けて出社させても、まだ目的を 明かさないんだが、何かしたいのかと。
なかなか目的を明かさないことがスリルに繋がらず、ただ時間を引き延ばしているだけに感じられる。
で、ジャックが金を盗む作業に入るまでに、彼と家族が一味から逃げ出そうとする行動によってスリルを演出しようとする。
「預金泥棒は準備が一通り済んでいるので、それを始めてしまうと話が早く終わってしまう」ということなのかもしれんが、でも構成と してはピリッとしない。

ジャックはハリーにメールを打とうとして一味に消去されるが、メモを書いてジャネットに渡せば良かったんじゃないのか。それなら カメラにも写らないで済むだろ。
そのジャックを止めるのはビルだが、なぜタイミング良くオフィスに現れたのか。
まるで、ジャックが逃げることを事前に察知していたかのようだ。
っていうか、その銀行の警備は甘すぎるだろ。素性を偽ったビルが何のチェックも受けず、簡単にジャックのオフィスまで入り込んで いるんだから。

ビルは会社から逃げようとしたジャックの前に現れた後、リーアムに連絡して「息子の膝を折れ」と命じる。
でもジャックに「言うことを聞く」と懇願されると中止する。
そりゃヌルいわ。そこは実際に折らないとダメだ。
そこで命令を撤回することによって、子供には手を出せない程度の甘い奴だという印象を与えてしまう。
中止するなら、最初からそんな命令を出さない方がいい。

ビルは口座に預金を移す目的を語るが、ジャックから「合併相手に端末を持ち去られたから無理」と言われて焦る。
いやいや、お前らはジャックの周辺を以前から詳しく調べ上げていたんだろ。
アンディーのアレルギーまで知っているぐらいなんだから、だったら合併の話が進んでいることも分かっていたはず。
なぜ、合併話でゴタゴタする前に計画を実行しなかったのかと。

家に電話が掛かってアンディーが受話器を取ると、一味は慌てて彼を押さえ付け、ベスを叩く。
電話を取られて困るのなら、アンディーが受話器を取る前に止めろよ。
っていうか、電話はベスが取るとか、そういうルールを決めておけよ。
アホすぎるぞ、こいつら。
まあボスからしてバカだからな。ミスを責めてウィリーを射殺するが、そのことで他の仲間は激しく動揺しており、ってことはグループの 結束力にヒビが入る恐れもある。そういうことを全く考えていない。
システムのことでイライラしたり、ウィリーのミスにカッとなったりと、すぐ冷静さを失うのもバカ。

ジャックと家族は自宅からの逃走には失敗したものの、屋外に出ることには成功している。
裏を返せば、一味はすぐ近くで監視していたにも関わらず、簡単に逃げられているってことだ。
で、そこでは親分のビルもヘマをやらかしているわけだが、もちろんウィリーのように自分を処分することは無い。
でも、「ウィリーを始末する資格なんて無いだろ」とツッコミは入れたくなる。

ジャックと家族が逃げ出したにも関わらず、ビルは誰にも罰として怪我を負わせたりはしない。
アンディーにアーモンド入のクッキーを食べさせているが、そんなの甘いよ。ジャックが「言うことを聞く」と頼んだら、あっさり薬は 渡すんだし。
また、ビルは「ジャネットの目が気に入らない」と言って解雇させるが、そんな理不尽なクビ通告をしたら、逆に怪しまれるだろ。
実際、ジャネットはビルのせいで自分がクビにされたと感付いているし。
そこもビルは感情的になっている。

強盗グループはジャックにネット・ギャンブルの借金があるように偽装したり、ベスが不倫しているように偽装したりする。
だが、それは「犯人一味がちゃんと工作していますよ」ということをアピールするためのモノに過ぎず、それによってジャックが危機に 陥ったり動揺したりすることは全く無い。
サスペンスの道具としては、全く機能していない。

いざジャックが盗みの作業に入ると、「その様子を誰かに見られるかもしれない」という部分にしかスリルの要素は無い。
機械が予定外のトラブルを起こすとか、セキュリティー・システムに問題が生じるとか、そういった部分のスリルは用意されていない。
で、なんだかんだとあって盗みが終了した後、自宅に戻ったジャックはリーアムを簡単に殺してしまい、そのせいで家族の居場所を 聞き出すチャンスを失ってしまう。
ビルに負けず劣らず、こいつもアホだ。

ビルたちはジャックの家族を自宅から別の場所に移すが、その意味が分からん。
もう口座には金を振り込ませ、リーアムにジャックを始末させる命令は下してあるんでしょ。
だったら、家族の利用価値は消滅しているんだから、殺せばいいでしょ。
で、最終的には、ハリソン・フォードが老体に鞭打ってのアクションで敵をやっつける。
知能ではなく、肉体を酷使して問題を解決する。
そこには作戦もへったくれも無くて、バカ正直な格闘があるだけだ。

(観賞日:2009年5月24日)

 

*ポンコツ映画愛護協会