『炎の少女チャーリー』:1984、アメリカ

夜のニューヨークの二番街。アンディー・マッギーは幼い娘のチャーリーを抱き、車で追跡する男たちから必死で逃げていた。チャーリーが怖がると、アンディーは「頑張るんだ。奴と目を合わせるな。操られるぞ」と告げた。男たちは車を降り、親子の身柄を確保しようとする。アンディーはタクシーを呼び止め、特殊能力を使って運転手に「走れ」と指示した。運転手は車を止めようとする男たちを振り切り、タクシーを発進させた。アンディーが空港まで行くよう頼むと、運転手は「遠すぎる」と拒む。するとアンディーは、運転手に1ドル紙幣を渡す。運転手はアンディーの特殊能力で紙幣を500ドルと思い込み、空港まで送ることを承知した。
アンディーは車内で眠り込み、過去の夢を見た。大学時代、貧乏学生のアンディーは報酬目当てでジョセフ・ワンレス博士による薬物実験の披験者になった。ロット6という新薬について「催眠性の幻覚がある」などと説明したワンレスは、学生の1人から「ザ・ショップの実験か?」と問われて否定した。アンディーは被験者のヴィッキーに声を掛けた後、薬を投与された。2人は薬の効果により、テレパシーで会話を交わせるようになった。2人の状態は安定していたが、他の被験者は激しく苦悶した。
空港に到着したアンディーは、チャーリーに「お金も売る物も無いんだ」と説明する。彼は頭痛に苦しみながら、電話ボックスに入った。アンディーは特殊能力を使い、公衆電話から小銭を吐き出させた。チャーリーは恋人を高圧的な態度で罵る男に腹を立て、特殊能力を発動させた。男の足元が燃え上がり、アンディーはチャーリーを空港から連れ出した。チャーリーは「いけないと思う前に火が付いちゃった」と釈明し、自分の行為が受け止められずに泣き出した。
アンディーはチャーリーに、「以前と違って抑えてる。顔や髪は燃やさなかったし、大火傷もさせなかった」と優しく告げる。「ママの時とは違う?」とチャーリーが告げると、彼は「もう忘れるんだ。お前のせいじゃない」と慰めた。ハイウェイを歩き始めたアンディーに、チャーリーは「ザ・ショップの悪い人たちが付いて来てるわ」と教えた。2人は下道に飛び降りて逃亡し、モーテルに泊まった。眠りに就いたアンディーは、また過去の夢を見た。
アンディーはヴィッキーと結婚し、チャーリーが生まれた。感情が高ぶると火を発する能力をチャーリーが持つことを知ったアンディーは、コントロールする必要性を説いた。しかし幼いチャーリーは、自分の能力を上手く制御することが出来なかった。そのせいで彼女は叱責したヴィッキーの両手からも発火させてしまい、泣いて謝罪した。マッギー家には無言電話が続いており、アンディーとヴィッキーはザ・ショップの監視だと悟った。
ある日、アンディーが帰宅すると、ヴィッキーが惨殺されていた。彼は友人宅にいたチャーリーを拉致しようとするザ・ショップの連中を特殊能力で撃退し、その場から逃亡したのだった。ヴァージニア州ロングモントにあるザ・ショップの本部に赴いた責任者のキャップ・ホリスターは、殺し屋のジョン・レインバードと会う。そこへワンレスが来て「捕まえたか?」と訊くと、ホリスターは「時間の問題だ」と答える。ワンレスは彼に、「どんな手段を取っても彼らを消し去れ。2人は国にとって最大の脅威になる」と語った。
ホリスターが「戯言だ」と軽く笑うと、ワンレスは「被験者10人の内、8人は自殺した。それを正当化できるのか」と声を荒らげる。彼はホリスターに「君も協力した」と指摘され、「想定外だった」と自己弁護した。ワンレスが「アンディーの精神支配の力が弱まっていたら?思春期になって、チャーリーの眠れる力が目覚めたら?あの少女は核爆発並みの力を思いのままに作り出せる」と語ると、ホリスターは「少女を訓練して仲間にすれば、最強の兵器になる」と口にする。ワンレスは「実験はしない。強制するなら、ここを葬ってやる」と熱くなり、その場を去った。
アンディーはチャーリーに「新聞社に手紙を送ればザ・ショップをやっつけられる」と言い、父の別荘へ向かうことに決める。2人は通り掛かったアーヴ・マンダーズのトラックをヒッチハイクし、嘘の理由を語ってノックスヴィルまで乗せてもらえることになった。近くで張り込んでザ・ショップの連中はトラックを発見し、すぐに後を追う。アーヴは「ウチで昼食を」と誘い、チャーリーが「お腹が空いた」と言うのでアンディーは立ち寄ることにした。
アーヴは自宅へ戻り、妻のノーマに2人を紹介した。アンディーはアーヴにザ・ショップと呼ばれる科学情報局のDSIに追われていることを明かし、事情を説明した。チャーリーはザ・ショップの連中が近付いていることに気付き、アンディーに知らせた。チャーリーは能力を使い、一味と車を次々に発火させた。一味が退散した後、アーヴはアンディーに自分のジープを使って逃げるよう促した。湖に到着したアンディーとチャーリーはジープを隠し、ずっと使われていない別荘で就寝した。
翌朝、チャーリーを連れて町に出たアンディーは、ニューヨーク・タイムズ紙への手紙を郵便ポストに投函した。その様子を見ていた老女は、ホリスターに電話で知らせた。レインバードはホリスターに、「連れて来るが、条件がある。実験が済んだら、娘を貰う」と告げた。「お前を消すことも出来る」とホリスターが言うと、彼は「その時の準備は怠らない。6週間でザ・ショップは消滅し、お前は死ぬまで刑務所暮らしだ」と述べた。
ホリスターはレインバードの条件を飲み、別荘へ差し向けた。レインバードは手紙を回収した郵便局員を始末し、森の中から別荘に向けてライフルを構えた。アンディーは手紙が届かない可能性も考え、チャーリーを連れて新聞社へ行こうとする。レインバードが撃った麻酔弾によって、アンディーとチャーリーは倒れた。防火服で待機していたザ・ショップの連中が森から現れる中、レインバードはチャーリーを抱いて湖を後にした。
チャーリーが目を覚ますと、ザ・ショップの本部でベッドに寝かされていた。ピンショー博士が逃げ出そうとする彼に薬を注射し、ベッドに戻した。ホリスターはチャーリーに「君の力に興味がある。手伝ってくれたら国が助かる」と優しく話すが、「二度と火は使わない」と拒否される。彼はプレゼントで仲良くなろうとするが、チャーリーの態度は変わらなかった。レインバードは清掃員を装ってチャーリーの部屋に出入りし、優しく話し掛けた。
アンディーはホリスターやピンショーに「娘に会わせろ」と要求し、実験に協力するよう命じられた。実験の様子を観察したホリスターはアンディーの能力が失われていると感じ、ピンショーに「薬を増やして放っておけ」と指示した。落雷で停電になった時、ラインバードはチャーリーの前で暗い場所が怖いフリをする。彼は作り話でチャーリーの同情心を誘い、心を開かせた。チャーリーが「パパに会いたい」と漏らすと、ラインバードは「奴らに力を使えば会わせてもらえるかも」と吹き込んだ。
チャーリーは実験に協力し、その発火能力を撮影したホリスターは興奮した。彼はアンディーの元へ行き、ハワイの施設へ移るよう告げた。ラインバードはチャーリーから「パパに会わせてくれない」と相談され、また実験に協力して要求を出すよう促した。チャーリーは実験に協力し、さらに強い能力を発動させた。彼女が「パパに会わせて」と叫ぶと、ピンショーは「もう少し力を見せてくれ」と告げる。「今すぐに会わせないと、どうなっても知らないから」とチャーリーは怒鳴るが、ホリスターは会わせようとしなかった…。

監督はマーク・L・レスター、原作はスティーブン・キング、脚本はスタンリー・マン、製作はフランク・キャプラJr.、撮影はジュゼッペ・ルッツォリーニ、美術はジョルジオ・ポスティグリオーネ、編集はデヴィッド・ローリンズ、音楽はタンジェリン・ドリーム。
出演はデヴィッド・キース、ドリュー・バリモア、フレディー・ジョーンズ、ヘザー・ロックリア、マーティン・シーン、ジョージ・C・スコット、アート・カーニー、ルイーズ・フレッチャー、モーゼス・ガン、アントニオ・ファーガス、ドリュー・スナイダー、カーティス・クレデル、キース・コルバート、リチャード・ウォーロック、ジェフ・ラムジー、ジャック・マグナー、リサ・アン・バーンズ、ラリー・スピンクル、カサンドラ・ウォード=フリーマン、スコット・R・デイヴィス、ニーナ・ジョーンズ、ウィリアム・アルスパウ、ローレンス・ムーア、アン・フィッツギボン他。


スティーブン・キングの小説『ファイアスターター』を基にした作品。ビデオタイトルは『ファイヤースターター/炎の少女チャーリー』。
監督は『ローラー・ブギ』『処刑教室』のマーク・L・レスター。
脚本は『メテオ』『針の眼』のスタンリー・マン。
アンディーをデヴィッド・キース、チャーリーをドリュー・バリモア、ワンレスをフレディー・ジョーンズ、をヘザー・ロックリア、ホリスターをマーティン・シーン、レインバードをジョージ・C・スコット、アーヴをアート・カーニー、ノーマをルイーズ・フレッチャー、ピンショーをモーゼス・ガンが演じている。

序盤に感じるのは、「なぜザ・ショップはチャーリーを拉致しようと目論むのか」ってことだ。
ずっとザ・ショップは、マッギー家を監視していたんでしょ。なぜ今のタイミングで、チャーリーを拉致しようと企んだのか。
あと、ワンレスは「国にとって最大の脅威になる」と言うが、それはチャーリーだけじゃなくてアンディーも含めてだ。だったらチャーリーだけじゃなくて、アンディーも一緒に拉致しようとしなきゃダメなはず。
っていうかヴィッキーもアンディーと同じ能力を持っていたように見えたんだけど、じゃあ彼女も殺さずに拉致した方が良かったんじゃないのか。

っていうか、ワンレスは消し去れと要求しているので、拉致するのは違うよね。「拉致はホリスターの指示」と解釈するにしても、やはり疑問は残るのよ。
と言うのも、ホリスターはワンレスの「国にとって最大の脅威になる」という説明を、鼻で笑っているのだ。
しばらく話を聞いてから「訓練して仲間にすれば、最強の兵器になる」と言うけど、そう思ってから拉致を目論んでいるわけじゃないからね。
鼻で笑っていた時から、拉致しようとしていたわけだからね。それは整合性が取れないでしょ。

アンディーがアーヴに、「チャーリーの力を利用してロット6のプログラムを再開するつもりなんです」と話す。
ここで「ザ・ショップがチャーリーを拉致する理由」を説明しているつもりなんだろうけど、どういうことか良く分からない。
過去の実験では大半が自殺したけど、アンディーとヴィッキーは能力が発生したんだから、2人を使って研究を続ければ良かっただけでしょ。
なんで2人を監視するだけで済ませていたのに、今になって実験を再開するのか良く分からないわ。

細かいことかもしれないけど、レインバードの立ち位置が中途半端。彼は条件を提示して飲ませるシーンがあるなど、決してホリスターやザ・ショップに忠実な下僕というわけではない。
そんな彼は一匹狼タイプの殺し屋なのかと思ったら、郵便局員を始末する時は手下を1人連れている。その時点で違和感があるのだが、じゃあ手下は何のためにいるのかと思ったら、こいつが何もしないのだ。
レインバードは1人で郵便局員を始末し、別荘へ向かう。森の中からライフルを構えている時、もう手下の姿は無いのよね。
実は防火服を着た連中が待機しているんだけど、郵便局員を始末する時は手下なんて要らないでしょうに。

っていうかさ、レインバードが別荘で狙撃する時も、防火服の連中なんか要らないでしょ。麻酔弾でチャーリーを眠らせて拉致する計画なんだからさ。
もちろん「万が一に備えて」ってことなんだろうけど、どうせ成功するシナリオなんだからさ。アンディーとチャーリーが眠ってからワラワラと防火服の連中が現れるのが、なんかマヌケに見えちゃうんだよね。
あと、郵便局員を始末するのは手紙が届かないようにするためなんだけど、それはレインバードじゃなくて他の奴に任せりゃ良くないか。
そもそも政府の秘密組織のはずなんだから、裏から手を回せば局員を始末せずに手紙を回収することも可能じゃないのか。

麻酔弾で眠らされたアンディーとチャーリーが連行されるザ・ショップの本部は、ごく普通の邸宅のような場所。寝室にはベッドがあり、リビングにはソファーや箪笥が置いてある。
でも、これが陳腐に見えちゃうのよね。「ごく普通の邸宅が、実は政府の秘密機関の本部」という恐ろしさは皆無。
ベタかもしれないけど、「いかにも研究所でござい」みたいな場所の方が良かったんじゃないかなあ。
少なくとも、不安を煽ったり緊張感を高めたりする場所としては、邸宅という設定は全く機能していない。

ホリスターはチャーリーに優しく話し掛け、「君の友達だ」と告げる。ココアを用意したり、プレゼントを与えたりして、仲良くなろうとする。
でも、この手順は「ダルいわ」としか感じない。
どうせホリスターが悪党なのは分かり切っているので、「友達になりたい優しい大人」を装う様子を見せられても、無駄な手間にしか思えないのよ。
幼女の機嫌を取ろうとするオッサンの姿からは、バカバカしさしか伝わって来ないのよ。

それはラインバードにしても同様で、こっちに関しては「チャーリーが彼を信用してしまう」という展開こそあるものの、それを含めて要らないと感じる。
そもそも、アンディーとチャーリーが本部に連行されてからの時間が、ダラダラしているだけに感じるのよ。
こっちはチャーリーの能力を知っているので、今さら実験で能力を披露するシーンを見せられても何の意味があるのかサッパリだし。
そこを短く刈り込んで、大幅に改変した方が良かったんじゃないかと。

レインバードはホリスターから「チャーリーを貰って、その後はどうする?」と問われた時、「優しい自分だけが彼女を幸せに出来る。幸せの絶頂に達した時、鼻柱に一撃を加えて骨を脳にぶち込む。自分は殺され、あの力と共に旅立つ」と語る。
ホリスターが言うように、彼はイカれた男だ。だが、その異常性が充分に発揮されているとは到底言い難い。
もっと言っちゃうと、そんなキャラ設定自体が無意味にしか思えない。
どうせ全く活用できていないのでね。

多くの人が指摘しているのは、チャーリーが能力を発動するシーンの特殊効果がしょっぱいってことだ。
マンダーズ家に来た男たちと車を次々に燃やすシーンがあるけど、ここがピークと言ってもいいかもしれない。
クライマックスではチャーリーが火球を次々に飛ばして攻撃し、今までより派手に盛り上げようとしている。でも皮肉なことに、火球の存在が陳腐さを強く感じさせる羽目になっている。
むしろ火球なんか使わず、「睨んだ相手が発火する」という描写に留めておいた方が、まだ少しはマシだったかもしれないね。

(観賞日:2021年11月24日)

 

*ポンコツ映画愛護協会