『パパが遺した物語』:2015、アメリカ&イタリア

1989年、幼いケイティー・デイヴィスは父のジェイク、母のパトリシアと3人で暮らしていた。ある夜、パトリシアはジェイクの浮気を疑い、車を運転している彼に助手席から詰め寄った。7年前に前科があるため、彼女は浮気だと決め付けてジェイクを糾弾する。後部座席からケイティーが見ている中、向こうからトラックが走って来た。車は激しく衝突し、パトリシアは死亡した。ジェイクも脳を損傷して病院に運ばれるが、命は助かった。
ジェイクは医師から躁鬱病と診断され、長期入院を促される。「娘がいる」とジェイクは難色を示すが、医師に「娘さんを育てるためだ」と説かれて承諾する。彼はパトリシアの姉であるエリザベスと夫であるウィリアムに、ケイティーを預けることにした。パトリシアは父から事情を説明されるが、離れることを嫌がって泣いた。7ヶ月後、ジェイクは退院し、エージェントであるテディーの車で病院を去った。彼はエリザベスの家へ行き、ケイティーとの再会を喜んだ。するとエリザベスは、ケイティーを養女にしたいとジェイクに持ち掛けた。腹を立てたジェイクは、ケイティーを連れて早々に立ち去った。
25年後、ケイティーは大学院に通い、心理学を学んでいる。同級生の男子からデートに誘われた彼女は、トイレに連れ込んでセックスする。男から「また会える?」と問われたケイティーは、「運動不足を解消しただけ」と告げて去った。彼女は師事している女医のコールマンから、ソーシャルワーカーとして12歳のルーシーという少女を担当するよう持ち掛けられる。ルーシーは父親を薬物の過剰摂取、売春婦だった母親を殺人で失っている。そして母を亡くした1年前から、全く喋らなくなっていた。
ケイティーはセックス依存症で、精神科医のキャロラインにカウンセリングを受けている。彼女はキャロラインに、他人を愛することが出来ないのだと話す。「何かを求めているはず」と言われた彼女は、「男の人と寝ると何かを感じるの」と告げる。「もしも好きな相手と出会ったら、どうするの?」と問われたケイティーは、「後悔させることになると思うわ」と答えた。ケイティーはバーへ出掛け、ナンパしてきたブライアンという男とセックスした。
ジェイクはウィリアムから、「ケイティーを別の学校へ転校させるらしいが、それは間違いだ」と反対される。「金が無いんだ」というジェイクの言葉に、ウィリアムは「金なら支援する。公立は教育に悪い」と言う。ジェイクは急に具合が悪くなり、「大丈夫だ」と述べてトイレへ駆け込んだ。彼は痙攣の症状に見舞われ、苦悶して倒れ込んだ。ルーシーはケイティーが話し掛けても、全く心を開かなかった。ケイティーはコールマンから、心理学者のワインバーグに任せることを通告される。「公園へ連れて行って環境を変えれば」とケイティーが訴えると、コールマンは「外へ連れて行くのは反対だけど、1週間だけ猶予をあげるわ」と告げた。
ジェイクは自分の入院前にケイティーが通っていた公立小学校へ赴き、校長のトリシアに復学を要請する。トリシアは「クラスが満室で」と告げると、ジェイクは「上級生に1学期1ドルで小説の書き方を教える」と持ち掛けた。ケイティーの復学を認めてもらったジェイクは、新作の執筆に力を注ぐ。エリザベスから「2人を夕食に招待したい」という電話が入ると、彼は適当な理由を付けて断った。新作『苦いチューリップ』を完成させた彼は、テディーに原稿を渡した。「出版元を見つけるわ」とテディーに言われたジェイクは、安堵して「実は破産した」と告げた。
ケイティーはルーシーを公園へ連れて行き、ベンチに座って話し掛ける。ルーシーが自分の手に触れたので、ケイティーはコールマンに「確実に進歩している」と報告する。しかしコールマンの決定は覆らず、ケイティーはルーシーに担当の交代を告げた。するとルーシーは、「嫌。貴方といたい」と口にした。ジェイクは新作の原稿料を受け取り、ケイティーにピンクの自転車をプレゼントした。彼は娘を題材にした新作を書き始めるが、ケイティーは「私たちの話にしてほしい」とリクエストした。
バーへ出掛けたケイティーは、キャメロンという男から「友達に聞いたんだけど、僕の尊敬する作家と君の父親が同一人物だって」と声を掛けられる。キャメロンはジェイクの執筆した『父と娘』が愛読書であり、自分の人生を変えたことを語る。彼はフリーのライターであり、処女小説の執筆中だった。キャメロンはルーシーをアパートまで送り、明日の予定を尋ねた。ケイティーは朝からランニングに行くと告げ、キャメロンを誘った。2人は一緒にランニングをして、公園で話した。それ以来、2人はデートを重ねるようになった。
『苦いチューリップ』は書評家から酷評を浴び、売り上げは芳しくなかった。ジェイクは気が進まなかったが、ケイティーに求められてエリザベスの誕生パーティーへ赴いた。ジェイクはウィリアムから「以前から手の震えに気付いてた。ちゃんとケイティーの世話をする人間が必要だ。愛してると言うだけでは、父親の資格は無い」と挑発され、カッとなって突き飛ばした。ケイティーはルーシーに自転車の練習をさせて、上手く乗れたので興奮した。彼女はキャメロンを部屋に招き、初めて肉体関係を持った。彼女は『父と娘』の生原稿を渡し、「持ってて。幸運を呼ぶの」と告げた。
ジェイクはルーシーの誕生日にダイナーへ出掛け、店員にお祝いしてもらう。恐竜の博物館へ出掛けたルーシーは、母親に抱っこされる幼女の姿に目を留めた。ジェイクが「ママが恋しいかい?」と訊くと、彼女は泣き出した。ジェイクが元気付ける言葉を告げると、彼女は「パパも死ぬの?」と質問する。ジェイクが「ヨボヨボのおじいさんになったらね。お前は結婚して、大勢の子供や犬や猫がいる」と話すと、ルーシーは「本当?約束する?」と問い掛ける。ルーシーが指切りを求めたので、ジェイクは笑顔で応じた。
エリザベスとウィリアムがケイティーの親権を求めて裁判を起こしたので、ジェイクは有能な弁護士を雇う。彼はウィリアムと会い、告訴の取り下げを求めた。しかしウィリアムは拒否し、「私は資産家だ。負けたら上訴する。それでも負けたら、再上訴する。君は長期戦に耐えられるか?」と強気な態度を取った。ジェイクは静かな口調で、「君がやってるのは、母親を失って悲しむ少女から、今度は父親を奪うことだ。そんな奴は、地獄へ落ちればいい」と述べた。
ケイティーはキャメロンとデートに出掛け、クラブで楽しい時間を過ごす。キャメロンが飲み物を取りに行っている間に、ジョンという男がケイティーに話し掛けた。1年前に関係を持ったいうジョンは、金を渡して再びセックスしようと誘う。ケイティーが断ると、ジョンは戻って来たキャメロンに「この女は尻軽だ。今夜は君らしい。俺は楽しんだ」と告げた。キャメロンは憤慨してジョンに詰め寄り、彼を店から追い払った。
ケイティーは店を去った後、キャメロンに「自分を救う方法だったけど、良くないと思ってた」と言い訳して全てを明かそうとする。だが、キャメロンは「何があったにせよ、過去のことだろ」と告げ、詳細を聞こうとはしなかった。彼はケイティーに、「土曜の夜に親父が食事会を開くんだ。良かったら君も来る?」と持ち掛けた。ケイティーは喜び、同行することにした。しかし当日になると、ケイティーは怖じ気付いて「行けないわ」と逃げ出してしまった…。

監督はガブリエレ・ムッチーノ、脚本はブラッド・デッシュ、製作はニコラス・シャルティエ&クレイグ・J・フローレス&シェリル・クラーク、共同製作はアンドレア・レオーネ&ラファエラ・レオーネ&ドミニク・ラスタム&ババカー・ディエン、製作総指揮はラッセル・クロウ&キース・ロジャー&リチャード・ミドルトン&ロミルダ・デ・ルーカ、共同製作はクリスチャン・ハルシー・ソロモン&ブラッド・デッシュ&ジェシカ・グリーン、製作協力はビル・カレッシュ、撮影はシェーン・ハールバット、美術はダニエル・ブライアン・クランシー、編集はアレクサンドロ・ロドリゲス、衣装はアイシス・マッセンデン、音楽はパオロ・ブォンヴィーノ、音楽監修はトーマス・ゴルビッチ。
出演はラッセル・クロウ、アマンダ・セイフライド、アーロン・ポール、ダイアン・クルーガー、オクタヴィア・スペンサー、ジェーン・フォンダ、カイリー・ロジャーズ、クヮヴェンジャネ・ウォレス、ブルース・グリーンウッド、ジャネット・マクティア、ジェニー・ヴォス、ブレンダン・グリフィン、ライアン・エッゴールド、クリス・ダグラス、ジェイク・シャイブ、マット・シャイブ、ジョン・シェパード、ジェイソン・マッキューン、ポーラ・マーシャル、ダレン・エリカー、チャールズ・デヴィッド・リチャーズ、ケイシー・デイリー、サンティアゴ・ヴェイサガ、クレア・チャペリ他。


主演のラッセル・クロウが製作総指揮も兼任したアメリカとイタリアの合作映画。
監督は『7つの贈り物』『スマイル、アゲイン』のガブリエレ・ムッチーノ。
脚本のブラッド・デッシュは、これがデビュー作。
ジェイクをラッセル・クロウ、ケイティーをアマンダ・セイフライド、キャメロンをアーロン・ポール、エリザベスをダイアン・クルーガー、コールマンをオクタヴィア・スペンサー、テディーをジェーン・フォンダ、幼少期のケイティーをカイリー・ロジャーズ、ルーシーをクワヴェンジャネ・ウォレス、ウィリアムをブルース・グリーンウッド、キャロラインをジャネット・マクティアが演じている。

まず導入部から、無駄にゴチャゴチャしている。
最初に1989年という文字が出て、ソファーで暗い顔をしながらオルゴールを回し、母の写真を見ているケイティーの様子が描かれる。その近くでジェイクもソファーに寝そべっているが、あくまでも「ケイティーのシーン」という印象だ。
で、すぐにカットが切り替わり、「まだパトリシアが生きていて、3人で仲良くしていた頃」の様子がチラッと写る。またカットが切り替わると、今度は車の事故が起きるシーンに入る。
この段階で、既にゴチャゴチャしている。
既に「1989年」の時点で過去のシーンなのに、そこから回想に入っている構成が無駄だなあと感じる。

そこを雑なダイジェストで見せる必要性を、全く感じない。
パトリシアが事故で死んだこと、ジェイクも事故で脳を損傷したことは、台詞で触れるだけでも充分だ。「車内で浮気を疑われ、パトリシアに詰め寄られていた」ってのが重要な要素ならともかく、そうじゃないし。
あと、思い切りトラックと激突してパトリシアは死んでいるのに、ケイティーが無傷でピンピンしているのは不自然だろ。
それと、病院に場面転換した時、ケイティーが運ばれるジェイクだけを心配しており、パトリシアへの意識が全く見られないのも不自然だろ。

前述したように、最初に写し出された映像は、「ケイティーのシーン」という印象になっていた。
ところが、衝突事故と病院の回想シーンが終わると、「ジェイクのストーリー」として進行していく。
それも上手くないのだが、おまけに彼のストーリーとして進め始めた直後、「7ヶ月」という時間が飛んでしまう。そして映画が始まってから20分も経たない内に、今度は「25年後」ってことで成長したケイティーのストーリーに移行する。
話が散らかりまくっている。

ケイティーがブライアンとセックスすると、今度はジェイクのストーリーに戻る。
ここからは、ジェイクが主役を務める過去のストーリーとケイティーが主役を務める現在のストーリーが並行して描かれる。
だが、この構成が上手く機能しているとは言い難い。
導入部を「幼いケイティーのストーリー」という形にして、その後も「25年後のケイティーが過去を回想する」という形で現在と過去のストーリーが並行して描かれる構成にした方が良かったんじゃないか。

っていうか、現在のストーリーか過去のストーリー、どちらか片方に絞り込んだ方が良かったんじゃないかと思うぞ。
1989年のストーリーだけでも全く整理できていないので、25年後のストーリーまで入れることが欲張り過ぎにしか思えない。
それに、2つのストーリーは、まるで連動していない。
ケイティーはセックス依存症になっているけど、それって1989年のストーリーで描かれる内容が原因になっているようには全く思えないのよ。設定としては関連しているんだろうけど、どういう理屈かサッパリ分からないのよ。

ジェイクは小説家だが、そのことは随分と経つまで分からない。
トリシアに「上級生に小説の書き方を教える」と話すシーンまで、つまり始まってから30分ほど経過するまで、彼の職業は不明なままだ。
そこまでには、彼がタイプライターを打って紙を破いたり、テディーを「エージェント」と呼んだりするシーンもあるが、それで充分とは言えない。
決して意図的にジェイクの職業を隠しているわけではない。単純に説明が不足しているだけだ。

ケイティーはルーシーに担当の交代を告げる時点で、もう2ヶ月もソーシャルワーカーとして接していたらしい。
だけど、そんな時間経過は全く伝わって来なかった。
もっと問題なのは、なぜルーシーがケイティーに心を開いたのかサッパリ分からないってことだ。
そこまでの少ない描写だと、ケイティーはルーシーに対して何か特別な対応を取ったようには見えなかった。ルーシーに関する情報を調べてヒントを掴むとか、そんなことも無かった。これといった根拠も無いまま、公園へ連れ出して喋っただけだ。

ケイティーとルーシーの交流ドラマが全く描かれていないので、「だったら要らなくねえか」と言いたくなる。
たぶん「ケイティーが自分の幼少時代をルーシーに重ね合わせる」ってのを狙っているんじゃないかと思うけど、まるで重ならないしね。
そもそも、ケイティーとルーシーでは、両親との関係や失った状況も全く異なるし。
終盤になるとルーシーが里親に貰われることが決定し、それは「幸せな結末」のはずなのだが、「ケイティーとルーシーの物語を雑に放り出している」という印象になっている。

過去のパートは「ジェイクの物語」であって、「幼いケイティーの物語」でも「幼いケイティーが見たジェイクの物語」でもない。
現在のパートでは、ケイティーがジェイクの死を引きずっているとか、彼のことを思い出すとか、そういう描写がほとんど見られない。
2つのストーリーを繋ぐ物が、ものすごく弱い。その印象は、最後まで全く変わらない。
当初はジェイクのストーリーだけで構成する予定だったらしいのだが、それが正解だったんじゃないかと思うぞ。

ケイティーがキャメロンに声を掛けられたのにセックスに誘わない理由が、全く分からない。
ケイティーがセックスに誘い、キャメロンが遠慮し、そこから「ケイティーが他の男とは違う気持ちでキャメロンと接するようになる」という流れへ移るのなら分かるのよ。だけど、最初からキャメロンだけは特別扱いなのよね。
あえて理由を探すなら、「父の遺作が愛読書だったから」ってことがあるのかもしれない。
ただし、「父の遺作が愛読書だったからセックスに誘わなかった」ってのは、方程式として成り立っていると思えないし。

ケイティーがキャメロンと知り合った後、本気で惹かれて行くドラマが描かれるのかと思いきや、これも全く用意されていない。2人がデートしている様子に、サラッと触れているだけなのだ。
だから、ケイティーがキャメロンに本気で惹かれた理由、ようやく人を本気で愛することが出来た理由は、全く分からないのだ。
あと、セックス依存症ってのは、本人にとっては深刻な問題だろうし、辛いこともあるだろう。ただ、ようやく本気で愛する相手が出来たはずのケイティーが他の男とセックスしちゃうと、もはや全く同情できなくなってしまう。
最後にキャメロンが全てを許してケイティーを受け入れても、まるで祝福できないよ。

そもそも、彼女のセックス依存症と過去のパートが上手く連動していない。
一応、「母親を事故で亡くし、ジェイクも病気で死んだ。大切な人が次々に死んでしまったので、ケイティーは本気で愛することが怖くなってしまった」という理由を用意している。理屈は通っているし、設定としては理解できる。
ただ、ジェイクはケイティーを愛していたし、死の間際まで彼女のために必死で頑張っていた。
それなのに「ジェイクが早く死んだせいでセックス依存症になりました」ってことだと、まるで報われないでしょ。

(観賞日:2017年6月16日)

 

*ポンコツ映画愛護協会