『ファーストフード・ネイション』:2006、アメリカ&イギリス

メキシコ、国境の町。シルヴィアと妹のココ、シルヴィアの恋人のラウルや友人のロベルトたちは斡旋業者に金を渡し、アメリカへ密入国することにした。カリフォルニア州アナハイム。ハンバーガー・チェーン「ミッキーズ」の本社では幹部会議が開かれ、人気商品であるビッグ・ワンの売り上げが大ヒットしていることが報告される。リトル・ビッグ・ワンについて社長に訊かれたマーケティング部門の部長を務めるドン・アンダーソンは、子供たちの試食会で好評だったことを説明した。
開発部へ赴いたドンは、ハンバーガーに使う香料に指示を出した。社長から呼び出されたドンは、「シカゴ支店の副社長を務めるハリー・ライデルが出入り業者と親しすぎる」と言われる。「どういうことです?」とドンが尋ねると、社長は「友人がテキサスの大学で細菌学を教えてる。教え子の大学院生たちがハンバーガーのパテを調査し、ビッグ・ワンから糞便性大腸菌が大量に検出された」と話した。ドンが全く理解できない様子を見せると、社長は「牛の糞が混ざってたんだ」と告げた。
帰宅したドンは息子のジェイに、「木曜の研究発表会には行けない。コロラドへ出張に行くんだ」と語った。彼は妻のデビーに、「病原菌が出た。肉に牛の糞が混ざってたらしい」と話した。「結局はマーケティングの問題でしょ。ハンバーガーを食べて子供が死んだら商売あがったり」と妻が言うので、彼は「その通り」と返した。アメリカへ向かって歩いていたシルヴィアたちは、警備隊に見つかりそうになって身を隠した。ロベルトが行方不明になるが、他の面々は迎えに来たベニーの車に乗り込んだ。車はコロラド州のコーディーに到着し、シルヴィアたちはモーテルの一室で缶詰めにされた。夜になるとマイクという男が現れ、ラウルとホルヘを連れ出した。
ドンはコーディーのミッキーズを訪れ、アルバイト店員で高校生のアンバーが応対した。ドンはビッグ・ワンを注文して素性を明かして、パテを作っているユニグローブの精肉工場を視察することを教えた。ラウルたちはユニグローブ精肉会社のコーディー工場へ連れて行かれ、そこで働くことになった。帰宅したアンバーは母のシンディーから、電気代の支払いを頼まれた。「車の保険料もあるの」とアンバーが言うと、母は「払えるだけでいいの」と述べた。
翌朝、仕事を終えたラウルたちはモーテルに戻った。ラウルはシルヴィアとココに、「仕事は工場の掃除。高圧ホースで屠畜された牛の血や脂を洗い流す」と話す。ココが怖がると、彼は「大丈夫。女はやらない。きっと精肉店みたいに肉を切る仕事だ」と言い、稼いだ80ドルを見せた。ドンは精肉工場を視察し、作業の工程に関する説明を受けた。ドンがトレーニング室へ案内されると、シルヴィアやココたちが安全対策に関するビデオを見ていた。
登校したアンバーは、同僚のブライアンからマクドナルドで強盗事件が起きたことを知らされる。コーディーでは強盗事件が続発しており、ブライアンは「次はウチかも」と口にした。ココは工場の監督であるマイクを見て、シルヴィアに「体が大きくて、たくましそう」と言う。シルヴィアはココに、「この工場は嫌いよ。他の仕事を探したい」と告げた。ドンは部下のトニーに、「精肉工場へ行ったことはあるか?色んな評判があるね」と語る。「悪い評判なら良く聞きます。友達が働いていましたが、かなり前のことなので」とトニーが話すと、ドンは「ユニグローブを視察したが、完璧だった」と言いながらも「その友達に連絡を取れないか」と口にする。トニーは「随分と前に引っ越したので」と言うが、牛の卸業者である妻の叔父のルーディーなら紹介できると告げた。
マイクは作業中のココに近付いて尻を撫で回し、「可愛いな」と告げて去った。ココは先輩の女性工員から、「彼には気を付けて。新入りの美人は手当たり次第。寝て薬をやらせて、弄んで飽きたら捨てる」と忠告された。しかしココは耳を貸さず、マイクと肉体関係を持った。ブライアンは同僚のケヴィンに、「トニーの金庫には毎晩、6千ドルもある。なのに俺たちはタダ同然で扱き使われてる」と不満を吐露した。ケヴィンは「強盗は夜が多いから、警察も張り込んでるはずだ。やるんだったら朝が一番だ」と語るが、ブライアンが具体的な計画を語ると「そんな勇気があればな」と口にした。
シルヴィアはホテルの清掃係として働き始め、先輩のヴィッキーから「私もあの工場で2週間働いて辞めた。ここより給料はいいけど、指や手を切断されたら大変」と聞かされた。ドンはルーディーと会い、数年前に地元の牧場業者が銀行に土地を追われたこと、自分は2度も死体を投げ込まれる嫌がらせを受けたこと、来週には道路を通そうとする企業との裁判を控えていることを聞かされた。精肉工場の人間についてドンが尋ねると、彼は「利益のためなら何だってやる。金に汚くて偉そうな奴らだ」と吐き捨てた。ドンが「彼らは汚染を知っていても出荷するかな?」と尋ねると、ルーディーは「奴らは工員が腕を切断しても知らん顔だ」と述べた。
「どうして牛の糞がパテに混ざるんだ?」とドンが疑問を呈すると、ルーディーは兄が工場で働いている使用人のリタに説明するよう促す。するとリタは内臓を取り除くラインの流れが早すぎて間に合わないこと、だから途中で手元が狂うこと、毎日起きていることを教えた。ルーディーはドンに、「大企業にとって大事なのは目先の金だけだ。君はいい奴だが、君の会社のハンバーガーは食えたもんじゃない」と語った。ラウルは同僚のフランシスコから銀行口座を開くよう勧められるが、不安が大きいので断った。
ドンはハリーと会い、「精肉工場で何が起きてる?あちこちで悪い噂を聞いた」と言う。肉が汚染されているという情報についてドンが指摘すると、ハリーは「肉に糞は付き物だ。違法な行為は何も起きていない。肉を焼けば済む話だ」と何食わぬ顔で語る。彼が肉の汚染を黙認していたと知り、ドンは驚いた。するとハリーは、「広い目で見るべきだ。大勢が死んでいるからって自動車の生産は中止すべきか?メキシコの貧困は酷いが、この国の精肉工場で働けば、日給は祖国の1ヶ月分だ。どこに問題がある?無理に働かせてるわけじゃない」と話す。「だが、起きている問題は見過ごせない。全て社長に報告する」とドンが言うと、「俺だったら、社長とは距離を取る。もうすぐ彼は刑務所行きだ。帳簿の改ざんや経費の不正請求で調査が入ってる。それに秘書との不倫問題もあるしな。君がいるのは、そういう酷い会社だ」とハリーは語った。
2ヶ月後。ラウルはシルヴィアとデートに出掛け、いつかシボレー手に入れると話す。アンバーが自宅で生物のレポートを作成しているとシンディーが帰宅し、勉強熱心な様子に感心する。シンディーは「店に新しい子犬が入ったの。連れて帰りたい。可哀想よ」と語って、アンバーに見に来るよう促した。ココはシルヴィアから連日の夜遊びやドラッグに手を出していることを注意され、「工場の監督が私の恋人だから妬いてるのね」と反発する。「どこが恋人なの?」とシルヴィアが口を尖らせると、彼女は「半年後、どっちが幸せかしら?」と嘲笑して外出した。ラウルが「工場じゃ大勢がクスリをやってる。仕方が無いさ」と言うと、シルヴィアは「貴方まで妹の肩を持つの」と腹を立てた。
アンバーは母の弟のピートが家を訪ねて来たので、久々の再会を喜び合った。ピートはアンバーを連れて、バーに出掛けた。彼はファストフード店を毛嫌いしており、アンバーがミッキーズで働いていることも快く思っていなかった。「子供の頃、ミッキーズに連れて行ってくれたでしょ?」とアンバーが言うと、ピートは「1号店だけならいいが、大量にあるとウンザリだ」と口にした。ピートが「他の仕事は無かったのか?」と訊くと、アンバーは「初めて雇ってもらえたの。友達も働いてたし」と告げた。
「責めてるわけじゃない。でも街を出る気は無いのか」というピートの言葉に、アンバーは「大学へ行く。航空工学を勉強したい。将来は宇宙飛行士」と話す。ピートは「そのためには何としても街を出なきゃ」と言い、「今の仕事に満足してる?」と問われて「悪くないと思ってる」と答えた。帰宅したアンバーとピートがゲームをしていると、シンディーが仕事を終えて戻って来た。ピートが「この街はガキの頃に比べてマシになった?」と質問すると、シンディーは「言いたいことは分かってる。貴方はこの街が嫌いなんでしょ。でも昔より発展してる」と語った。
シンディーはアンバーに、ピートが大学を退学させられてキャンピングカーで18ヶ月も暮らしていたことを教える。するとピートは、大学が南アフリカに投資したことに抗議し、仲間と学長室を占拠したのだと説明した。ピートはアンバーに、「その1年後、大学は南アフリカの持ち株を全て売却し、ネルソン・マンデラは釈放された。大事なのは、みんなが真面目に考えて行動すれば、世界は変わるってことさ。次はお前の番だぞ」と語った。
シルヴィアは仕事中に、同僚のグロリアから息子たちを越境させるためエステバンに前金を支払ったことを話す。ココはマイクと親密になった同僚に腹を立てて歩み寄り、「二度と彼に近付くな」とナイフで脅す。マイクが駆け付けて制止し、「ラインを遅らせたらクビだ」とココを怒鳴り付けた。ラインに戻ったココは、シルヴィアに声を掛けられても全く反応しなかった。彼女は意識を失って倒れ、医務室に運ばれた。ココが回復するとマイクが現れ、仕事に戻るよう指示した。ココは「またアンタが触ったらアンタを殺す」と言い、マイクにキスをした。マイクは「お前は疲れてる。ラインから外して他の仕事に回してやる」と言い、彼女とセックスした…。

監督はリチャード・リンクレイター、原作はエリック・シュローサー、脚本はエリック・シュローサー&リチャード・リンクレイター、製作はジェレミー・トーマス&ジェフリー・スコール&マルコム・マクラーレン、撮影はリー・ダニエル、美術はブルース・カーティス、編集はサンドラ・エイデアー、衣装はカリ・パーキンス&リー・ハンサカー、音楽はフレンズ・オブ・ディーン・マルティネス。
出演はパトリシア・アークエット、ボビー・カナヴェイル、ポール・ダノ、ルイス・ガスマン、イーサン・ホーク、アシュレイ・ジョンソン、グレッグ・キニア、クリス・クリストファーソン、アヴリル・ラヴィーン、イーサイ・モラレス、カタリーナ・サンディノ・モレノ、ルー・テイラー・プッチ、アナ・クラウディア・タランコン、ウィルマー・バルデラマ、ブルース・ウィリス、アーロン・ヒメルスタイン、チェラミ・リー、グレン・パウエル、マット・ヘンサーリング、フランク・アートル、ダナ・ウィーラー=ニコルソン、マルコ・ペレラ、フアン・カルロス・セラン、ミレイディー・モロン・マーチャント、ヤレリ・アリズメンディー、マイケル・コンウェイ、ミッチ・ベイカー他。


エリック・シュローサーの調査報道をまとめたノンフィクション書籍『ファストフードが世界を食いつくす』を基にした作品。
監督は『スクール・オブ・ロック』『ビフォア・サンセット』のリチャード・リンクレイター。
脚本は原作者のエリック・シュローサーと監督のリチャード・リンクレイターによる共同。
シンディーをパトリシア・アークエット、マイクをボビー・カナヴェイル、ブライアンをポール・ダノ、ベニーをルイス・ガスマン、ピートをイーサン・ホーク、アンバーをアシュレイ・ジョンソン、ドンをグレッグ・キニア、ルーディーをクリス・クリストファーソン、シルヴィアをカタリーナ・サンディノ・モレノ、ラウルをウィルマー・バルデラマ、ハリーをブルース・ウィリスが演じている。

エリック・シュローサーは当初、ドキュメンタリー作品としての映像化を考えていたらしい。しかし撮影が難しいという判断で、劇映画に変更したそうだ。
ドキュメンタリーとして製作する場合、マクドナルドを始めとする有名なハンバーガー・チェーン店や関連企業への取材が必須となる。
しかしリアルな現場を撮影したり、関係者から都合の悪い真実を聞き出したりすることは、そう簡単な作業ではないだろう。
なので劇映画として作るという判断は、分からなくもない。

しかし残念ながら、それが本作品の大きな失敗に繋がっている。
特に痛いのは、架空のハンバーガーチェーン店を舞台にしたことだ。
いや、もちろん劇映画として作ることに決めた時点で、実際の企業名が使えないのは分かるよ。許可を取らずに使わざるを得なくなるだろうし、そんなことをすれば訴訟問題に発展するだろうし。
だけど架空の企業にしたせいで、「実際に起きているファストフード企業に関する問題提起」という方向性が、すっかり薄れちゃってるのよね。

さらに問題なのは、「物語の主軸や作品のテーマが最後までボンヤリしたままで終わっている」ってことだ。
もちろん、「ファストフード企業に関する問題提起」ってのを意図していることは分かる。
ただ、もっと具体的な部分まで絞り込まなきゃダメなのに、上っ面を軽くなぞるだけに終始しているような印象なのだ。
そんなことになってしまった最大の原因は、たぶん「原作に記されている全ての内容を詰め込もうとした」ってことじゃないだろうかと推測される。

そもそも原作で取り扱っている問題は、「消費者を取り込むための策略」「低賃金で店員を働かせている問題」「製品の均一化」「精肉業界の労働問題」「移民労働者の現実」「食の安全に関する問題」など、かなり多岐に渡っている。
それを全て含有した内容にしようと考えたのが、失敗だったんじゃないか。
これがドキュメンタリー映画で、チャプター形式で1つずつ問題を取り上げる構成であれば、その全てを描くことが出来たかもしれない。
しかし「1本の長編劇映画」として構築し、その中で多くの問題を一緒に扱ってしまったことで、「何が描きたいのか良く分からない」という状態になっているのだ。

例えば、この映画では「メキシコからの不法移民をが低賃金&劣悪な環境で扱き使われている」という問題が描かれている。だが、それはファストフード店に限った問題ではないだろう。
また、「ハンバーガー店が肉の汚染を知りながら黙認している」という問題と、「工場が移民を扱き使っている」という問題は、切り分けて考えるべきじゃないかと感じる。
移民が酷い目に遭うのは、そこへ連れて来る業者にも問題はあるわけだし。
そしてハリーが指摘するように、メキシコの貧困という問題も切り離せないはずだし。

トニーが酷い奴なのは個人の資質の問題であり、ファストフード店のシステムや体制の問題ではない。
銀行が牧場の所有者を追い出して土地を不動産投機に使う問題も、ファストフード店とは別の問題だ。
そんな風に、焦点がズレているとしか思えない描写も少なくないのだ。
話が進むにつれて、「私は何の映画を見せられているんだろうか」という気持ちになってくる。
次から次へと様々な情報は提示されるが、心に刺さらずに通り過ぎて行くのだ。

さらに致命的な問題を指摘すると、「そんなこと、もう知ってますから」「ハッキリとは知らなかったけど、そんなに驚きはありませんから」という描写が多いんだよね。
「メキシコから仕事を求めてアメリカへ来る大勢の不法入国者がいる」とか、「移民が低賃金で劣悪な環境での労働を強いられている」とか、「精肉工場の管理体制は杜撰で環境は不衛生」とか、たぶん製作サイドは「現実を知ってほしい」と思って提示しているんじゃないかと思う描写が幾つもある。
でも、その大半が、いや全てと言ってもいいかもしれないが、何の衝撃も感じないことなんだよね。
あと、次から次に情報を提示することで、1つ1つの印象が弱くなっている部分もあるし。

ジャックとハリーの社内でのパワーゲームとか、中間管理職のような立場のドンが苦悩するとか、そういうのもファストフード店の問題とは関係ない。
ココがマイクと親密になってドラッグに手を出すとか、シンディーが金を稼ぐためにマイクに体を売るとか、そういうのもファストフード店の問題とは関係ない。
アンバーが将来の目標について語ったり、ピートが早く街を出るよう助言するシーンなんかも、これまたファストフード店の問題とは全く関係ない。
ピートが故郷の街を嫌っているとか、活動家だった彼がアンバーに行動を促すとか、そういうのもファストフード店の問題とは何の関係も無い。

ファストフード店の問題とは無関係な人間ドラマを色々と持ち込んでいるのは、ひょっとすると「劇映画としての面白さを考えた結果」ということなのかもしれない。
しかし、どういう理由があったにせよ、結果としては完全に裏目に出ていると言わざるを得ない。
リチャード・リンクレイターとエリック・シュローサーの間で、ホントに意見の擦り合わせが出来ていたのかと疑いたくなるほどだ。
原作のテーマやメッセージを考えれば、余計なトコに手を広げ過ぎているんじゃないかと。

終盤、アンバーは環境保護を訴えるグループのアリス(演じているのはアヴリル・ラヴィーン)たちと出会い、「木材会社や製材会社が国有林を乱伐している」「石炭会社は“綺麗な空気”という嘘のスローガンを掲げている」などと聞かされる。
彼女はミッキーズの仕事を辞め、「ユニグローブの肥育場には10万頭の牛がいて糞尿を食べ、大量の汚物を排出している。それをポンプで垂れ流し、川を汚染している」「牛は狭い柵に閉じ込められ、遺伝子まみれの穀物を食べさせられている」などと聞いて行動を起こす。
この時、環境テロリスト団体のグリーンピースが「行動を起こす立派な団体」として手本に掲げられているけど、「そういうつもりなのね」と理解した。
なので、仮にテーマが明確になっていたとしても、やっぱりポンコツ扱いは変わらなかっただろう。

(観賞日:2021年10月19日)

 

*ポンコツ映画愛護協会