『遥かなる大地へ』:1992、アメリカ

1892年、西アイルランド。農家の息子ジョセフ・ドネリーは、父ジョーと2人の兄と共に暮らしている。ある時、小作人達が地主ダニエル・クリスティーに対して反乱を起こした。その騒ぎに巻き込まれたジョセフの父は、深い傷を負って死んでしまった。
葬儀の日、ジョセフの家は、ダニエルの手下によって焼き討ちに遭う。復讐心に燃えたジョセフはクリスティー邸に忍び込み、そこでダニエルの娘シャノンと出会った。ジョセフは、ダニエルが農民への仕打ちを指示しておらず、全てシャノンの婚約者スティーヴンがやっていたことを知る。ジョセフは、スティーヴンと決闘することになった。
ジョセフはシャノンから、アメリカのオクラホマに行けば無償で自分の土地を手に入れることが出来るというポスターを見せられる。ジョセフは決闘の最中にシャノンに誘われ、共にアメリカへ渡る。だが、ボストンに到着した時、荷物を全て奪われてしまう。
ジョセフは地元の顔役マイク・ケリーに気に入られ、彼の紹介で宿に泊まることが出来た。ジョセフはマイクの酒場で行われる拳闘試合に出場し、勝利を続けて金を稼ぐ。一方、ジョセフへの対抗意識を燃やしたシャノンは、酒場のダンサーになる。
ジョセフは市会議員のバークが用意したイタリア人の男と、大金を賭けた勝負をすることになる。だが、ジョセフはバークがシャノンに手を出していることに気を取られ、惨敗する。ジョセフとシャノンは今まで貯めた金を奪われ、宿を追い出されてしまう…。

監督はロン・ハワード、原案はロン・ハワード&ボブ・ドルマン、脚本はボブ・ドルマン、製作はブライアン・グレイザー&ロン・ハワード、共同製作はラリー・デウェイ&ボブ・ドルマン、製作総指揮はトッド・ハロウェル、撮影はミカエル・サロモン、編集はマイケル・ヒル&ダニエル・ハンリー、美術はアラン・キャメロン&ジャック・T・コリス、衣装はジョアンナ・ジョンストン、音楽はジョン・ウィリアムズ。
出演はトム・クルーズ、ニコール・キッドマン、トーマス・ギブソン、ロバート・プロスキー、バーバラ・バブコック、シリル・キューザック、コルム・ミーニー、アイリーン・ポロック、ミシェル・ジョンソン、ダグラス・ジリソン、ウェイン・グレイス、バリー・マクガヴァン、ニオール・トイビン、ランス・ハワード、クリント・ハワード、ゲイリー・リー・デイヴィス、ジャレッド・ハリス、スティーヴン・オドネル他。


70ミリのフィルムで撮影された作品。ジョセフ役がトム・クルーズ、シャノン役がニコール・キッドマンという、当時の新婚夫婦の共演作だ。他に、スティーヴンをトーマス・ギブソン、ダニエルをロバート・プロスキー、その妻ノーラをバーバラ・バブコックが演じている。

この映画って、西部開拓時代のアメリカを描きたいだけなんだよね、たぶん。
だから、最初のアイルランドを舞台にした部分って、あんまり意味が無い。
アメリカン・ドリームを分かりやすくするために、主人公を移民という設定にしたかっただけだろう。
だから別にメキシコでもいいんだろうだけど、それだと英語圏じゃないからね。

ジョーが巻き込まれる争いは、そんなに激しい印象を与えるものではなく、殺伐とした雰囲気も薄い。そして、ジョーが負傷してから死ぬまでの様子にも、あまり悲劇的な匂いは強くない。妙にノンビリしているし、死にそうな父親の前でジョセフの2人の兄は全く悲しそうじゃないし、ちょっとコメディーかと思えるような空気になってるし。
その後の、家に火を放たれるシーンも、淡々と描かれており、悲劇性に欠けている。アイルランドの牧歌的な風景のせいで、演出まで牧歌的になったのか。もっと主人公が悲しみと怒りの感情を強く持つようにしないと、復讐への推進力にならない。

で、あんまり見えてこないが、おそらくジョセフは強い復讐の気持ちでクリスティー邸に乗り込んだはず。ところが、シャノンを見て、ちょっと気を取られたりしてる。ここでも、銃が暴発するわ、顔がススだらけになるわと、コメディーみたいなノリになっている。そんなノホホンとした話を描くために、ジョーは死んでしまったのか。
で、なし崩し的に、復讐の話はフェードアウトする。復讐を果たしたわけではないのに、いつの間にやら、「アメリカで土地を持つこと」に、ジョセフの行動目的が変わってしまう。いやいや、あの始まり方だと、復讐心はずっと引っ張らないとダメなのでは。復讐を途中で放り出して、アメリカに逃げ出しちゃって、どうするのよ。

この話、ただ「自分の土地を手に入れる」だけで、本当にいいのだろうか。他の国に行って土地を手に入れるのなら、最初にあったアイルランド人の誇りはどこへ行ったの。地主に奪われたアイルランドの土地を、父親の土地を取り戻してこそ、本当に目的を達成したことになるような気がするんだけど。結局、父親は無駄死にっぽい。
大体、そこまでジョセフやシャノンが自分の土地に執着する気持ちが、ほとんど伝わってこないぞ。土地に対する強い欲求がアピールされないままアメリカに渡って、ボストンで話が進む内に、土地のために行動しているという意識が消える。「土地を入手するための行動と、それを阻もうとする障害」という構図も、あまり見えてこない。

エピソードとエピソードの繋がりが悪いせいか、壮大な大河ロマンのはずなのに、そう感じない。ジョセフが大事な拳闘試合に挑むシーンなどは、盛り上げ方と締め方がズレている(あの盛り上げ方だと、苦戦しながらも勝たなきゃイカンでしょ)。

たぶん、この映画、最後の馬によるレースを見せたかっただけだと思う。広大な荒れ地を無数の馬が駆ける様子は、まさに圧巻だ。
で、そこまで、どうやって引っ張って行くかという部分を、あんまり考えていないんじゃないだろうか。
土煙を上げ、馬車が激しく転倒する様子は、迫力がある。トム・クルーズが馬を勢い良く走らせる姿は、かっこいい。
だけどね、だったら、そのレースに向けた話を描くために、もっと時間を割いて、そんでクライマックスに向けて盛り上げて行こうよ。


第13回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低オリジナル歌曲賞「Book Of Days」

 

*ポンコツ映画愛護協会