『ファミリービジネス』:1989、アメリカ
ユダヤ人のエレイン・マクマレンは過ぎ越しの祭りを祝うため、夫のヴィトーを連れて両親が暮らすブロンクスの家へ赴いた。エレインはヴィトーに、息子のアダムが来ていても争わないでくれと釘を刺した。夫婦が家に入ると、既にアダムが来ていた。アダムは大学を3ヶ月で辞めてニューヨークへ戻って来たが、ヴィトーの前には全く姿を見せていなかった。アダムは祖父のジェシーから電話を受けて、「いつ出られるの?」と尋ねた。
ヴィトーは家を出てから、アダムにジェシーの電話の要件を尋ねた。アダムは「保釈金を作ってくれと頼まれた」と明かし、ジェシーが非番の警官を殴って捕まったことを説明した。アダムはヴィトーと距離を置く一方、ジェシーとは内緒で仲良くしていた。保釈金を貸してほしいと言われたヴィトーは、「3年前にも立て替えたが、そのままだ」と渋る。しかしアダムが「僕が借りるんだ」と返済を約束すると、仕方なく金を出した。
ヴィトーは自分が子供の頃にジェシーから何度も泥棒を手伝わされたことを語り、アダムに「彼には近付くな」と忠告した。しかしアダムは全く耳を貸さず、保釈金を払ってジェシーを留置場から出した。彼はジェシーに、100万ドルが手に入る泥棒計画を持ち掛けた。2人はダニー・ドヘイニーのバーにヴィトーを呼び出し、計画を明かして参加を促した。かつてヴィトーはポーランド人と組んだ窃盗に失敗し、刑務所に収監されたことがあった。そんな苦い経験もあり、ヴィトーは二度と泥棒稼業に戻るまいと決めていた。
アダムはヴィトーに、「パパが飲まなくてもやるよ。パパには止められない」と告げた。ジェシーはヴィトーと2人になり、「上手い話だ。3人目の候補もいる」と語った。彼が名前を挙げたジョニー・ハントは、ヴィトーも知っている使えない男だった。経営する精肉工場に戻ったヴィトーは、従業員のトレスが肉を盗んでいると知ってクビを通告した。トレスが悪びれないどころか生意気な態度で捨て台詞を吐くと、ヴィトーは怒って殴り倒した。
ダニーの葬儀に出席したヴィトーは、アダムの説得を試みるが失敗に終わった。アダムはヴィトーに、計画の詳細を説明した。彼が通っていた大学のジミー・チュー教授は、窒素を利用した新しい農業用酵母の研究に関わっていた。しかしチームから外され、別のスポンサーがバックアップに乗り出した。しかし研究所の窒素固定酵母を必要としており、試験官とデータ帳を盗み出せば100万ドルになるとアダムは語った。ヴィトーは少し迷いながらも、計画に乗ることを決めた。
ジェシーはレストランで商売女のマーゴとデニスを口説き、ヴィトーは呆れて「女を買うのは勝手だが、俺はパスだ」と告げた。アダムはジェシーやヴィトーとの昼食に、恋人のクリスティンを同伴した。マンションを売って稼いでいるクリスティンに、ヴィトーは「競争が激しいだろう」と問い掛けた。クリスティンは「裏があるの」と言い、事情を説明した。市立病院で受付をしている友人から、癌患者が入院している情報を教えてもらう。マンハッタンのマンションに住んでいる患者もいる。住んでいる人が居住権を主張して居座られたら、普通はお手上げだ。しかし死ぬと分かっていれば、何の心配も無い。そこを狙うのだと彼女は語った。
クリスティンが「今も7人の癌患者のマンションを持ってるわ」と得意げに語ると、ヴィトーたちは困惑の表情を浮かべた。クリスティンが「いずれマンションは誰かの手に渡る。私たちが儲けるのが悪いの?」と言うと、ジェシーは「人の不幸をエサに金儲けをしてる。法に触れず、危険を冒さず、盗みをするのは倫理に反する。寄生虫だ」と扱き下ろした。エレインが「法を破ることが倫理的だと言うの?」と反論すると、ジェシーは「君は倫理と合理性を混同してる」と告げた。
「この社会派法を基準にしている」とエレインが言うと、ジェシーは「それが正しい社会なのか?」と問い掛けた。アダムはエレインから「お前も法を無視していいと思うの?」と意見を求められ、「それより食事を」と誤魔化した。ヴィトーは関わることを避けていたが、後でエレインから「味方してくれないなんて」と責められた。エレインは「ジェシーは彼女の正体を暴いた。だからアダムは貴方より彼を尊敬するのよ」と語り、アダムに甘すぎるヴィトーの態度を批判した。
ヴィトーは研究所の警備員が1人だと確認し、ジェシーとアダムに知らせた。警備員が拳銃を所持していると知ったアダムが動揺すると、ヴィトーは「当たり前だ。それが現実だ」と冷静に告げる。ジェシーが全員で拳銃を持って行く考えを口にすると、ヴィトーは「アダムに持たせるなら俺は降りる」と反対した。研究所に侵入した3人は警備員を捕縛し、試験管を見つけて外へ出た。アダムはデータ帳を盗んでいないと気付いて戻るが、カードキーを入れ忘れたので警報ベルが鳴ってしまった。
アダムが研究所を飛び出すと、パトカーで駆け付けた警官たちに包囲された。車で待機していたジェシーとヴィトーは、仕方なく逃走した。アダムは警察署に連行されるが、ジェシーとヴィトーのことは言わなかった。ジェシーとヴィトーが弁護士のミッシェル・デンプシーに会うと、高額の報酬を請求された。彼女は「共犯者の名前を明かさないので、アダムは保釈されない。検事は取引したがっており、被害に遭った会社も穏便に済ませたがっている」と説明し、共犯者を明かして酵母を返せば懲役6ヶ月で済むと告げた。
このままだとアダムは懲役15年を食らうと聞いたヴィトーは、ジェシーに「試験管とデータ帳を持って自首しよう」と持ち掛けた。しかしジェシーは「焦るな」となだめ、「面会に行け。弁護士とは俺が話を付ける」と言う。ヴィトーが「俺が話を付ける」と告げると、その間にジェシーはアダムの面会へ赴いた。ジェシーが「ヴィトーはブツを持って自首しようと言ってる。お前は釈放だ。でなきゃ懲役15年だと弁護士が話してた」と伝えると、アダムは「料金を吊り上げる口実さ。1年で出られるよ」と告げた。
アダムが「弁護士に10万ドル、残りの30万ずつを山分けだ」と懲役刑を受け入れる考えを明かすと、ジェシーは「さすがは私の孫だ」と褒めて去った。遅れて面会に訪れたヴィトーは係員から「面会は1日に1人です」と止められ、ジェシーが来たことを知った。ヴィトーがジェシーのアパートへ押し掛けると、彼は不在だった。ヴィトーはジェシーの恋人であるマージーの部屋に乗り込み、試験管を探した。マージーはヴィトーに、ジェシーから「旅行に出る。ここに探し物は無い」と伝えるよう指示されたことを語った。ヴィトーはマージーに事情を説明し、アダムを助けたいと訴えた。マージーはジェシーがアダムを巻き込んだことに反発を覚え、試験管の入ったケースを渡す。しかし試験管の中身は、ただの水道水だった…。監督はシドニー・ルメット、原作はヴィンセント・パトリック、脚本はヴィンセント・パトリック、製作はローレンス・ゴードン、製作総指揮はジェニファー・オグデン&バート・ハリス、撮影はアンジェイ・バートコウィアク、美術はフィリップ・ローゼンバーグ、編集はアンドリュー・モンドシェイン、衣装はアン・ロス、音楽はサイ・コールマン。
出演はショーン・コネリー、ダスティン・ホフマン、マシュー・ブロデリック、ロザンナ・デ・ソート、ジャネット・キャロル、ヴィクトリア・ジャクソン、ビル・マッカチオン、デボラ・ラッシュ、マリリン・クーパー、セーラム・ルドウィック、レックス・エヴァーハート、イザベル・オコナー、マリリン・ソコル、トーマス・A・カーリン、トニー・ディベネデット、イザベル・モンク、ウェンデル・ピアース、ジェームズ・カルザース、ジャック・オコネル、ジョン・C・カポダイス、ルイス・ガスマン他。
ヴィンセント・パトリックの同名小説を基にした作品。
監督は『モーニングアフター』『旅立ちの時』のシドニー・ルメット。
原作者のヴィンセント・パトリックが脚本を執筆している。
ジェシーをショーン・コネリー、ヴィトーをダスティン・ホフマン、アダムをマシュー・ブロデリック、エレインをロザンナ・デ・ソート、マージーをジャネット・キャロル、クリスティンをヴィクトリア・ジャクソン、ドヘイニーをビル・マッカチオン、ミッシェルをデボラ・ラッシュが演じている。私はガチガチのモラリストではないので、「泥棒が主役なんて許せない」とか「何があろうと犯罪、ダメ、ゼッタイ」なんてことは微塵も思わない。
これまで多くの犯罪映画を見て来たし、泥棒が主人公でも一向に構わない。
しかし本作品の場合、ジェシーが「愛すべき泥棒」とは到底言えないキャラクターになっている。
ヴィトーの説明によれば、ジェシーは息子が7歳の時に泥棒の見張りをさせたり、12歳の時に手伝わせたりしているんだよね。それだけでも、大きな減点と言わざるを得ない。さらにジェシーは、非番の警官を殴っている。詳細は分からないけど、先に手を出したことをジェシーは得意げに語っている。
そんな態度には、嫌な感じしか無いぞ。
ジェシーを好感の持てるキャラクターにするための用意が、全く整っていないんだよね。その全てをショーン・コネリーに委ねているような感じだ。
だけど、幾らショーン・コネリーが人気の高い俳優であっても、それだけで好感度ゼロから大幅に上積みするのは無理がある。アダムがジェシーに懐いて心酔しているのも、泥棒の計画を持ち掛けるのも、「ケツの青いガキが浅はかな考えで動いてるな」と感じる。
「その計画は失敗するだろうし、失敗してほしいな」と感じる。そしてヴィトーはともかく、少なくとも余裕たっぷりのアダムは捕まって痛い目を見てほしいと感じる。
「決まった人生を送りたくない。レールの上を歩きたくない」ってのは、いかにも若者らしい反発だし、それは別にいいのよ。
だけど、その泥棒計画は、温かい目で見守ってあげたいとは思わせないのよ。粗筋で触れたように、ジェシーがクリスティンを扱き下ろすシーンがある。
確かにクリスティンの商売は、決して褒められたモノではない。だが、それをジェシーが扱き下ろすと、「どの口が言うのか」と呆れてしまう。
すぐにエレインが反論しているように、ジェシーの主張は歪んでいる。自身の泥棒稼業を正当化するための詭弁に過ぎない。
「法を破ることが倫理的だと言うの?」という問い掛けに対する「君は倫理と合理性を混同してる」という返答も、ズレているとしか思えない。ジェシーは泥棒稼業が悪いことだと認識しているのかと思ったが、「法的には罪かもしれないけど、悪いことじゃないだろ」という考えの持ち主なのだ。
どうやら、「間違っているのは社会であって自分ではない」と思っているようだが、それはメチャクチャな責任転嫁でしかない。
理屈も何も無くて、ただ「俺は悪くない」と主張しているだけだ。聞き分けの無いガキみたいなモンなのよ。
いや、いっそのこと、父つぁん坊やみたいなキャラの方が遥かにマシだわ。
だけど、泥棒稼業に関する腐り切った考え以外は、完全に成熟した大人なんだよね。なので、余計にタチが悪いのだ。研究所に侵入する時、アダムは暗証番号のボタンを素手で押そうとしてヴィトーに「手袋は」と注意される。アダムは持ってきておらず、ヴィトーが自分の手袋を貸す。
奥へ進んだアダムは、扉を閉めたかどうか覚えておらず、またヴィトーに注意される。彼は試験管を発見するが、データ帳の存在に気が回らずに外へ出てしまう。
思い出して研究所へ戻るが、カードキーを使わなかったので警官が来てしまう。
コメディーならともかくシリアスなテイストなので、そのボンクラぶりには呆れ果てる。アダムは初めて泥棒をするわけだから、まだ手袋とか扉のミスについては仕方ない部分もあるだろう。
だけど「試験管とデータ帳を盗む」という目的で研究所に侵入しているわけだから、それでデータ帳を忘れるとか、あまりにもアホすぎるだろ。
それで焦って研究所に戻り、カードキーを入れ忘れたので警報ベルが鳴って警官に捕まるわけで、どうしようもないぞ。
自分がヘマを重ねたせいで失敗しただけなので、何の同情も出来ないよ。アダムが捕まると、ヴィトーは試験管とデータ帳を渡して自首しようとする。それは息子を助けたい父親の愛情が感じられる考えであり、当然っちゃあ当然の行動だ。
しかしジェシーは自分を慕っているアダムを切り捨て、試験管を隠して姿を消そうとする。ただのクソジジイじゃねえか。
アダムは「1年で出られる」と軽く見ているが、ジェシーは自身の経験もあるし、それで済まないことは分かっているはず。実際、後で捕まったジェシーが懲役15年を宣告されており、ミッチェルの説明は正しいのだ。
ようするにジェシーは、アダムが甘く見ているのをいいことに、全ての罪を彼に押し付けて自分は助かろうと目論んでいるのだ。試験管の中身が水道水と知ったヴィトーは、ジェシーが本物と入れ替えたと思い込む。それは間違いで、ジェシーはジミーを見つけて問い詰める。
これにより、ジミーは酵母を発見できておらず、それを隠すために盗難騒ぎで時間を稼ごうと目論んだことが判明する。
だけど、それをジェシーが知ったところで、どうなるわけでもないんだよね。それでアダムが無罪放免になるわけじゃないんだし。
ジミーにアダムの減刑を求めるよう要求したっぽい台詞はあるけど、それも「結果としての行動」に過ぎないし。
中身が水道水と知らなかったら、そのまま逃げていたわけだし。ヴィトーはアダムを救うために自首し、ジェシーも捕まる。この行為をアダムは「ヴィトーがジェシーを売った」と激怒するが、ジェシーは逮捕されて当然の男なのよ。その結果として高齢なのに15年の実刑を食らっても、全く同情心は湧かないのよ。
これを理由にアダムがヴィトーを憎んで拒絶するようになるのも、「アダムが間違っている」としか感じない。「どちらの主張も分かるだけに、親子の対立が痛くて辛い」みたいなドラマとしての深みや厚みには繋がらないのよ。
あと、映画はジェシーの死まで描き、まるで「ジェシーは立派な男だった」みたいに美化しているけど、いや無理だろ。
どこにジェシーを持ち上げられる要素があるのかと。(観賞日:2024年10月7日)