『FALL/フォール』:2022、アメリカ

ベッキーと夫のダン、友人のハンターは巨大な岩壁を登っていた。ダンが落下して宙吊りになり、岩壁に捕まろうとするがロープの長さが足りなかった。彼はベッキーにロープを外すよう頼み、「外したら岩に飛び付く」と告げた。しかしロープが岩から外れ、ダンは墜落死した。51週間後、ベッキーは夫の死から立ち直れず、酒に溺れる日々を過ごしていた。父のジェームズが「辛いのは分かるが、自分の人生を生きてくれ」と説いても、彼女は耳を貸さずに反発するだけだった。
旅から戻ったハンターがベッキーを訪ね、一緒に冒険しようと持ち掛けた。彼女はジェームズから「娘が塞ぎ込んでいる」と電話があったことを明かし、週末にB67テレビ塔に登る計画を伝えた。「頂上からダンの遺灰を撒けばいい」と彼女は提案するが、ベッキーは断った。しかし翌朝になってベッキーは考え直し、一緒に登ることにした。ハンターは冒険の動画をネットに上げており、今回の計画も撮影することを話す。彼女はベッキーに、「旅を続けるには動画の収入が必要だし、私はスリルが無いと生きていけない」と語った。
かつてテレビ塔は国内で最も高い建造物だったが、今では過去の遺物と化し、冬には取り壊される予定となっていた。ハンターはスマホで動画を撮影しながら、ベッキーを車に乗せてテレビ塔へ向かった。2人は立ち入り禁止区域に侵入し、ハゲタカがコヨーテの死骸を貪る様子を目にした。テレビ塔に到着した2人は動画を撮影しながら、鉄骨部の内側にある550メートルのハシゴを登った。そこを抜けると、今度は外付けのハシゴを登って60メートル先の頂上を目指した。
ベッキーとハンターは頂上に到達し、スマホで動画を撮影した。ハンターはドローンを飛ばして映像を撮影し、操縦をベッキーに任せる。彼女は足場を掴んで身を乗り出し、その様子をベッキーに撮影させた。「アンタの番よ」と言われたベッキーは一度は断るが、「昔ならやってた」と言われたので承諾した。ベッキーは泣きながらダンに話し掛け、遺灰を撒いた。ベッキーはハーネスを付けて鉄塔を下りようとするが、ハシゴが外れて宙吊りになる。ハンターが命綱を掴んで引っ張り上げるが、ハシゴは地上へ落下した。
足掛かりになる物が無くなったため、ベッキーとハンターは鉄塔から下りられなくなった。スマホは圏外になっており、助けを呼ぶことも出来なかった。ベッキーは頂上の小箱に気付き、双眼鏡とフレアガンを発見した。水の入った鞄は放送用アンテナに引っ掛かっており、2人は水分摂取さえ出来ない状態に陥った。ハンターは「ハシゴが崩れる音を聞いて、誰かが警察に連絡してくれるはず。助けを待とう」と言い、ベッキーの左太腿の怪我に気付いて止血した。
5時間が経過しても助けは来ず、ハンターは「鉄塔の下では電波が入ってた。放送用アンテナが邪魔してるのかも」と言い出した。彼女はロープの先にスマホを結び、フォロワーに通報を求めるメッセージを投稿しようと考える。しかしロープを垂らしても、スマホの通知音は鳴らなかった。ベッキーは鉄塔の下に落とすよう持ち掛け、ハンターは衝撃を和らげるためにスマホをスニーカーに入れた。彼女は靴下とブラジャーを緩衝材代わりに詰めてスニーカーを落とすが、音が聞こえる距離ではないので成功かどうかは分からなかった。
双眼鏡を覗いたハンターは、犬を連れているスティーヴという男を発見した。ベッキーとハンターは大声で呼び掛けるが、声は届かない。ベッキーはスニーカーを投げ落とすが、スティーヴは2人に気付かなかった。ハンターはキャンピングカーに歩いて行くスティーヴを観察し、ランディーという仲間もいることを知った。ベッキーが日没を待ってからフレアガンを打つと、スティーヴとランディーが気付いた。しかし彼らはベッキーとハンターの車を見つけると、それを盗んで逃亡した。
ベッキーは動画とハンターの足の刺青を見て、ダンと不倫していたことを悟った。ハンターはベッキーに問い詰められ、ダンと4ヶ月間付き合っていたことを告白した。彼女は大きな過ちだったと謝罪し、ダンから誘われたこと、好きだったので関係を続けたことを話した。さらに彼女は、「花嫁の介添人を頼まれた時、胸が張り裂けそうだった。彼を愛してたけど、アンタが大事だから別れた」と告げた。翌朝、スマホを落としてから24時間が経つが助けは現れず、失敗だったことが明らかになった。
ハンターは水の入った鞄を取りに行くと決め、「ロープだけで下りられる」と口にした。ベッキーは反対するが、ハンターは「やるしかない。私たちは弱る一方よ」と告げた。ハンターは鉄塔にロープを括り付け、放送用アンテナへ向かった。手が届かないので彼女はロープを外し、アンテナに飛び降りた。鞄を拾い上げたハンターは、どうやって戻って来るのかとベッキーに訊かれる。少し考えたハンターは、自撮り棒の先に鞄を結び付けた。彼女は鞄をロープに引っ掛け、飛び移って引っ張り上げてもらおうと考えたのだ…。

監督はスコット・マン、脚本はジョナサン・フランク&スコット・マン、製作はジェームズ・ハリス&マーク・レイン&スコット・マン&デヴィッド・ハリング&クリスチャン・マーキュリー、製作総指揮はロマン・ヴィアリ&ジョン・ロング&ダン・アスマ、製作協力はアシュリー・ウォルドロン、撮影はマグレガー、美術はスコット・ダニエル、編集はロブ・ホール、衣装はリサ・カタリナ、視覚効果監修はマット・ガードッキー、音楽はティム・デスピック。
出演はグレイス・キャロライン・カリー、ヴァージニア・ガードナー、メイソン・グッディング、ジェフリー・ディーン・モーガン、ジャスパー・コール、ダーレル・デニス、バム・エリクセン、ジュリア・ミッチェル、エヴィー・マン、ジョセフ・マン、ニック・ライオンズ、ブランデン・カーリー。


『ザ・トーナメント』『ファイナル・スコア』のスコット・マンが監督を務めた作品。
脚本は同じく『ザ・トーナメント』『ファイナル・スコア』のジョナサン・フランクとスコット・マン監督による共同。
ベッキーをグレイス・キャロライン・カリー、ハンターをヴァージニア・ガードナー、ダンをメイソン・グッディング、ジェームズをジェフリー・ディーン・モーガン、スティーヴをジャスパー・コール、ランディーをダーレル・デニスが演じている。

粗筋を読めば分かると思うが、「テレビ塔の頂上に登る」という目的は、特に大きなトラブルに見舞われることもなく、あっさりと達成される。開始から30分ほどでベッキーとハンターは鉄塔の頂上に着いており、そこから下りようとする時に問題が発生している。
「登山は山を下りるまでが登山」という言葉があるけど、そんな感じだね。
さらに言うと、後半のミッションは「無事に鉄塔を下りる」ってのを達成目標に設定していない。救助チームが到着した時点で実質的にミッション・コンプリートとなっており、「無事に救助されて鉄塔から下りる」というトコは大胆に省略されている。
警察が装備を用意して到着した時点で、「もう助かることは確定」ってことだ。

この映画のセールスポイントが「高所の恐怖」にあることは、言うまでもないだろう。
撮影用に鉄塔のセットを組んで実際にグレイス・キャロライン・カリーとヴァージニア・ガードナーが登り、カメラワークによって「いかに高い場所にいるか」ってのが伝わるように演出している。
高所恐怖症の人だと、ちょっと厳しいかもしれない。
ただ、「ベッキーとハンターが助かってほしい」と思うから、「落ちるかもしれない」というトコでハラハラドキドキする部分は大きいと思うんだよね。

でも残念ながら、ベッキーとハンターに対して、そんな気持ちは微塵も抱かないのよ。「別に落ちようが死のうが、どうでもいいかな」と、冷たい気持ちになっちゃうのよね。
ベッキーとハンターは2人だけで決めて急に鉄塔に登るので、充分な準備が全く出来ていない。鉄塔の下で待機して、トラブル発生時に対応するようなサポートの人員もいない。
事前の備えがちゃんと整っていないから、ハシゴが落ちて下りられなくなってから慌てるハメになっている。
これだけでも厳しいが、他にも色々と問題はある。

ベッキーはダンの死から1年が過ぎても、全く立ち直れず酒浸りの日々を過ごしている。ジェームズが励ましても反発し、まるで変化の兆しは見られない。
ところがハンターが冒険に誘うと、すぐに「立ち直らなきゃ」という気持ちに変化する。
ハンターは「今こそ悲しみに立ち向かわなきゃ。ダンが良く言ってたでしょ」と口にするが、ダンの大事な言葉については「生きたければ死ぬな、だっけ?死ぬまで生きろ、だっけ?」と、ちゃんと覚えていない。
でも、ベッキーは「生きることを恐れるな」だと思い出し、冒険に行くと決める。
その展開からして、なかなかの都合の良さではある。

ただ、もっと問題なのは、「なんでテレビ塔に登るのか」ってことだ。
ベッキーが「区切りを付けなきゃ」「立ち直らなきゃ」と思うのは、一向に構わないのよ。だけど、「そのためにテレビ塔に登って遺灰を頂上から撒こう」ってのは、どういう理屈なのかと。
テレビ塔がダンにとって大事な場所だったり、夫婦にとって思い出の場所だったりするならともかく、そうじゃないし。
ダンが生前に「死んだら遺灰をテレビ塔から撒いてくれ」と頼んでいたとか、「テレビ塔に登りたい」と言っていたとか、そういうことでもないし。

登る場所が山や岩壁じゃなくて取り壊されるテレビ塔ってのも、「なんでだよ」と言いたくなる。
冒頭シーンからすると、たぶんベッキーとダンってフリークライマー夫婦なんでしょ。フリークライマーが果たして鉄塔に登りたいと思うのかと考えた時、そこには大いに疑問が沸くのだ。
ハンターに関しては分かるのよ。どうやら彼女はクライマーじゃなくて、ただスリルを味わいたいだけの人だから。
なので動画では、クライミング以外のこともやっているし。

ハンターはスリルを味わうための活動を撮影し、その動画をネットに上げて収入を得ている。テレビ塔に登るのも、動画で収入を得るための行動だ。
そんな行動にハンターが誘うのも、それにベッキーが乗るのも、やっぱり「なんでだよ」と言いたくなる。
ようするにハンターは、金を稼ぐために法を破って危険を冒す迷惑なユーチューバーなのだ。
そして彼女の計画に乗ったベッキーも、同類と言わざるを得ない。
なので、その結果として2人が危険な目に遭おうと命を落とそうと、完全に自業自得でしかない。

テレビ塔へ向かう途中、ハンターは車を運転しながらスマホで動画を撮影している。彼女が余所見をしたせいで、トラックとぶつかりそうになっている。
この時点で、もう「ホントに迷惑なユーチューバーだな」と呆れる。
テレビ塔に登り始めても、わざとハシゴを揺らしてベッキーを怖がらせるハンターに「クソだな」と言いたくなる。そんな冗談が許される状況なのかと。
目の前でダンの墜落死を見ているし、ベッキーの悲しみも知っているはずなのに、そんなことが良く出来たモンだなと。
そんな愚かしい行動のせいでハシゴを固定していたボルトが外れてしまうのだが、マジで自業自得でしかないからね。

ベッキーとハンターが頂上の足場を掴んで宙吊りになる遊びをする時、命綱は付けていない。
少しでもミスをしたら腕が離れて転落死するようなことを、軽い遊び感覚でやっているわけだ。
そんなのを撮影して喜んでいるのは、「アホだな」と呆れてしまう。
いや別に自分たちが楽しいのなら勝手にすればいいけどさ、それが仮にミスをして死んだとしても、完全に自業自得だからね。
なので、「落ちたらヤバい」というハラハラドキドキを感じないのよ。

粗筋の最後に書いたように、ハンターは鞄に飛び移ってベッキーに引っ張り上げてもらおうとする。この後、ハンターは鞄に飛び付いて頂上に戻り、ベッキーはドローンに手紙を付けてモーテルまで飛ばそうとする。しかしバッテリー切れになるので、諦めてドローンを戻す。
夜になり、ベッキーが目を覚ますとハンターがいない。ベッキーはハゲタカに襲われ、振り向くとハンターが死んでいる。
ここで目を覚まし、それが悪夢だったとベッキーは知る。
翌朝になり、ベッキーは細いアンテナを登り、電球のソケットを使って充電器をフルにする。
ベッキーは充電したドローンをモーテルに飛ばすが、トラックにぶつかって壊れてしまう。

ここまで描いた後、「実は」という種明かしがある。
完全ネタバレだが、「実はハンターが既に死んでいた」と明かされるのだ。ハンターは鞄に飛び付く時に失敗し、落下して死んだのだ。
これが明かされるのが、本編の残り10分ぐらいのタイミング。そこまでの20分ぐらいは、ベッキーがハンターの幻覚を見ていたわけだ。
でも、この仕掛けってホントに必要かね。脱力を誘うコケ脅しにしか思えないんだよね。
あと、そういう趣向を用意するなら、ベッキーがハンターの遺体を見て「実は夢でした」と明かすパートは無い方が良くないか。
「実はハンターが死んでいた」という種明かしに向けた布石や伏線のつもりかもしれないけど、むしろ邪魔だろ。

(観賞日:2024年10月10日)

 

*ポンコツ映画愛護協会