『ブルータル・ジャスティス』:2018、カナダ&アメリカ

出所したばかりのヘンリー・ジョンズは、売春婦になった幼馴染のラナと肉体関係を持った。ヘンリーはラナをんだ相棒のビスケットに礼を言い、「火曜日にアンドレと会う。興味があるか?」と訊かれる。ヘンリーは「次の仕事をする前にシャバに慣れないと」と告げて、アパートに戻る。彼は母のジェニファーが売春の仕事で客を取っていると知り、バットを握って怒鳴る。ヘンリーは客を追い払い、「店員の仕事は?」と母に尋ねる。「クビになった」とジェニファーが答えると、彼は「刑務所に入る前に渡した金は?」と訊く。ジェニファーは覚醒剤で金を使い果たし、家賃の滞納していた。ヘンリーは売春と薬から足を洗うよう要求し、「後は俺に任せろ」と言う。彼は車椅子で暮らす弟のイーサンと話し、「生活を立て直すまで、しばらくここに住む」と述べた。
3週間後。ブルワーク警察のブレット・リッジマンと相棒のトニー・ルラセッティーは、ヤクの売人であるヴァスケスのアパートへ赴いた。2人は窓から逃亡を図ったヴァスケスを捕まえ、部屋にいた恋人のロザリンダを脅す。ブレットは協力すれば見逃すと持ち掛け、ヤクの入った鞄の隠し場所を教えるよう要求した。ロザリンダが鞄の場所を教えると、ブレットは約束を無かったことにした。署に戻った2人はカルバート警部に呼ばれ、乱暴な逮捕に市民から苦情が届いていることを知らされた。ヴァスケスの頭を踏み付ける映像も残っており、カルバートは「昇進と昇給の話は消えたな。メキシコ系の署長は見逃してくれない」と6週間の停職を言い渡した。
ブレットの娘のサラが歩いていると、黒人少年が自転車で走って来た。少年は近くにいた仲間のオレンジソーダを奪い取り、サラの顔面に浴びせた。帰宅したサラは、母のメラニーに抱き付いて泣いた。トニーはダイヤの指輪を買うため、宝石店へ出掛けた。結婚を考えている恋人のデニースに贈るための指輪だったが、値段が高額なのでトニーは動揺を隠せなかった。ロレンズ・ヴォーゲルマンは「金庫2Bの中身を確認した。保管期間は不明」というメールを受け取り、電話で「明晩までに準備しろ」と指示した。
ヘンリーはビスケットの車に乗り、「怪しい仕事はやりたくない」と言う。ビスケットが「俺もそうだ。だけど実行日が繰り上げられた。前払い金は貰った。アンドレが保証してる」と話すと、ヘンリーは「そのアンドレが怪しい」と述べた。ビスケットは彼を説き伏せ、用意した拳銃を確認した。覆面強盗はコンビニに乗り込み、客と店主を射殺してレジの金を奪い去った。帰宅したブレットは、メラニーから娘が黒人4人組に襲われたと聞かされる。メラニーは「もう5回目よ。治安が悪化してる。町を出ましょう」と言い、引っ越し費用のために働こうと考える。ブレットが「ダメだ。芋を剥くにも鎮痛剤が必要なのに」と反対すると、彼女は「母親として、元警官として、娘のために何かしないと」と語る。ブレットは「名案がある。それが何かは言えない」と告げ、メラニーを納得させた。
ブレットは高級紳士服店を訪れ、経営者のフリードリヒと会う。かつてブレットは彼の息子が犯した罪を見逃した貸しがあり、ドラッグの売人か買い手の情報を教えるよう要求した。彼はトニーに電話を掛け、目立たない格好で来るよう指示した。ブレットは車で来たトニーと合流し、目的地に向かわせた。彼は「あの建物の633号室で、ヴォーゲルマンという男が大量のヘロインを扱ってる」と説明し、追跡して計画を突き止める考えを明かす。取引の金を奪うことにトニーは難色を示すが、結局はブレットの話に乗った。
覆面強盗は小切手両替所から出て来た男たちを射殺し、鞄を奪った。彼はブルワーク警備会社を偽装した現金輸送車を受け取り、用意した男に鞄を渡した。デニースは一緒に夕食を取ったトニーの態度を怪しみ、「キャリアを棒に振らないで」と心配した。ブレットと合流したトニーは、「デニースに会って気付いた。これが終わるまで結婚できない」と告げる。ブレットが「家まで送る。お前には未来がある」と言うと、彼は「約束した。義理は果たす」と述べた。
ヘンリーとビスケットが建物に入り、しばらくするとヴォーゲルマンと一緒に出て来た。3人が車で出発したので、ブレットとトニーは後を追った。ブレットはトニーに、銃を組み立てておくよう指示した。トニーが「強盗のために人を殺さないことを確認したい」と言うと、彼は「誰も殺さない」と約束した。ヴォーゲルマンたちのクルマは金融街に入り、建設中のビルの地下駐車場に消えた。ブレットは取引があると確信し、夜明けを待って動くことにした。
ヘンリーとビスケットは顔を塗って白人に化け、ヴォーゲルマンは覆面強盗で金を稼いだ仲間のブラック&グレーと合流した。警備会社の輸送車が駐車場から出て来ると、トニーは運転しているのがヴォーゲルマンと一緒にいた黒人だと気付いた。ブレットとトニーは尾行し、強盗を起こすつもりだろうと推理した。銀行員のケリー・サマーはバスで出勤するのを思い留まり、自宅に戻った。彼女が生後間もない息子のジャクソンに会おうとすると、夫のジェフリーは「産休は4週間前に明けた。あの子は僕が世話する。今日こそ仕事に行くんだ」と諭す。ケリーが「息子を置いて銀行口座の話なんか出来ない」と泣きながら訴えると、ジェフリーは「君の稼ぎは僕より多い」と告げる。ケリーはジャクソンに触らせてもらう条件で、仕事へ出掛けた。
ケリーが銀行に到着すると、エドミントン支店長や同僚たちが復帰を歓迎した。そこへ覆面を被ったヴォーゲルマン&ブラック&グレーが武装して押し入り、ヘンリーとビスケットは輸送車で待機する。ヴォーゲルマンはケリーに全員の両手を縛るよう命じ、「何かあれば処刑する」と通告した。男性行員は一味の隙を見てパソコンで「強盗が入った。警察に連絡を」とメールを打ち、ケリーに送信を指示する。ケリーが嫌がると、彼は自分で送信しようとする。慌てて止めに入ったケリーは、ヴォーゲルマンに射殺された。
ブレットとトニーは銀行の近くを通り、一味が強盗を起こしたと悟る。2人が少し離れた場所で張り込んでいると、一味が銀行から出て来た。輸送車が出発したので、ブレットたちは尾行する。銀行の前を通った時、2人は犠牲者が出たことを知る。トニーが「防げたのに、見殺しにした」と言うと、ブレットは「気付いた時点で手遅れだった」と冷淡に告げた。ヘンリーが「あれはやり過ぎだ」と口にすると、ビスケットは「黙れ」と諌めた。女性行員を連行しているヴォーゲルマンは、ヘンリーとビスケットに「銃をグローブボックスに入れろ」と命じた。輸送車を尾行したブレットとトニーは、5人が死亡して2人が重傷、1人が行方不明だとニュースで知った…。

脚本&監督はS・クレイグ・ザラー、製作はキース・キャルバル&ダラス・ソニアー&ジャック・ヘラー&タイラー・ジャクソン&セフトン・フィンカム、共同製作はアマンダ・プレスミク、製作総指揮はウェイン・マーク・ゴッドフリー&ロバート・ジョーンズ&シャフィン・ダイアモンド・テジャニ&レヴィ・シェック&マイク・ロウ&ディーン・ブキャナン&ベン・ラフマン、撮影はベンジ・バクシ、美術はブライアン・デイヴィー、編集はグレッグ・ダウリア、衣装はタニア・リプケ、音楽はジェフ・ヘリオット&S・クレイグ・ザラー。
出演はメル・ギブソン、ヴィンス・ヴォーン、トリー・キトルズ、マイケル・ジェイ・ホワイト、ドン・ジョンソン、トーマス・クレッチマン、ジェニファー・カーペンター、ローリー・ホールデン、フレッド・メラメッド、ウド・キア、タティアナ・ジョーンズ、ジャスティン・ワシントン、ジョーダン・アシュレイ・オルソン、マイルズ・トゥルート、ヴァネッサ・ベル・キャロウェイ、ノエル・G、プリモ・アロン、マシュー・マッコール、クレア・フィリポウ、リチャード・ニューマン、ヴィヴィアン・ン、アンドリュー・ダンバー、アレクサンダー・ソト、トリスタン・ジェンセン、エリック・ペンポン他。


『トマホーク ガンマンvs食人族』『デンジャラス・プリズン 牢獄の処刑人』のS・クレイグ・ザラーが脚本&監督を務めた作品。
ブレットをメル・ギブソン、トニーをヴィンス・ヴォーン、ヘンリーをトリー・キトルズ、ビスケットをマイケル・ジェイ・ホワイト、カルバートをドン・ジョンソン、ヴォーゲルマンをトーマス・クレッチマン、ケリーをジェニファー・カーペンター、メラニーをローリー・ホールデン、エドミントンをフレッド・メラメッド、フリードリヒをウド・キアが演じている。

ブレットは古い考え方に凝り固まっており、人種差別から来る言動を平気で取る。
カルバートに「現代における人種差別主義者は、50年代の共産主義者だな。私的な会話でも不適切な発言はマズい」と言われた時、ブレットは「最善と思うことをやってる。アンタと組んでた時と変わらない」と主張する。
だが、彼は時代の変化に全く順応できていないのだ。
しかもカルバートからは、自分が組んでいた時より横暴になったと指摘されている。

ブレットは「俺は来月、60歳になる。27歳の時と階級は同じだ。長い間、仕事の内容が評価されて報われると思ってた。俺の苦手な政治や変化が、仕事より重要だったとはな」「俺たちが捕まえた悪党を数えたら、州刑務所を2棟か3棟は満員に出来る。適切な報酬を受け取る権利がある」と言う。
だが、彼が「評価されるべき」と主張する仕事の内容が間違っているのだ。
検挙率は高くても、「逮捕のためなら何をやっても許される」という感覚が歪んでいるのだ。
それを彼は「本来は不要な政治」と捉えているが、強盗に手を染める前から悪徳刑事に片足を突っ込んでいるのだ。

これが単に「時代遅れで新しい文明や流行に付いて行けない年寄り」ってだけなら、軽いギャグで済むかもしれない。
しかし人種や性別における差別意識が強いとか、自分が正義だと思うことなら過剰な暴力も容認されるという認識とか、そういうことになると、「そりゃあ停職処分も仕方がない」と言わざるを得ない。
逮捕する時に頭を踏み付ける必要なんて全く無かったし、そこで馬鹿にしたように笑う必要も無い。
相手がメキシカンだからってことじゃなくて、白人であってもアウトだろう。

っていうか、たぶんブレットとトニーは相手が白人なら、そういう行動には出ていないのだ。犯人がメキシカンだから、差別意識が行動に出ているってことなのだ。
これを演じているのがゴリゴリのトランプ派であるメル・ギブソンとヴィンス・ヴォーンってのが、なかなかのキャスティングである。
しかも、黒人のせいで街の治安が悪くなっているとか、黒人による犯罪の蔓延に危機感を覚えるとか、白人の立場から描いている。
かなりデリケートな問題ではあるのだが、まるで気にしていないのだ。

悪党には悪党としての覚悟や執念があるということでもなく、トニーは迷いを抱えているし、ヘンリーは強盗事件で犠牲者が出たことで怖くなる。
徹底して冷酷非道なのは、ヴォーゲルマンの一味だけだ。
そして本作品は、悪党どもによる容赦の無い暴力劇でもない。普通に暮らしていた無関係な一般市民が犠牲になる。犯罪者同士が争うような展開は、終盤に入るまで訪れない。
犠牲になる一般市民の代表格が、銀行で犠牲になるケリーだ。っていうか一般市民の犠牲者で明確に名前が出るのは、彼女ぐらいだ。

そんなケリーは、登場して「こういう事情を持つ人物です」ってのが紹介された直後、すぐに殺される。
ようするに、「ヴォーゲルマンたちは残忍な連中ですよ」「一般市民が理不尽に殺されることもありますよ」ってのを示すため、そして残酷描写のためだけに登場している。
キャラクターの使い方としては、かなり不細工だ。
序盤から出番を与えてストーリーに関与させておけば、「ただの殺され要員」とは感じず、「主要キャラが無慈悲に殺される」ってことでインパクトを与えることも出来ただろう。

ブレットは妻が病気を抱えており、娘は黒人少年から攻撃を受け続けている。トニーは恋人のデニースと結婚したいが、先立つ物が無い。
ヘンリーは足の悪い弟がいて、母は生活の困窮で売春を始めている。
それぞれに同情を誘う設定は何かしら用意されているが、そんなことが屁のツッパリにもならない犯罪に手を染める。
邦題には「ジャスティス」の文字があるが、この映画に正義など無い。
誰も「自分なりの正義」で行動しているわけではない。犯罪だと分かった上で動いている。

むしろ同情するとすれば、ブレットたちよりも事件に巻き込まれて命を落とす面々だ。S・クレイグ・ザラー監督は明らかに、無慈悲な暴力で一般人を惨殺させている。
たぶん、「どんな人でも理不尽な暴力の犠牲になることは起きる」ってことが言いたいんだろう。実際にその通りではあるだろうけど、それを娯楽映画で見せられてもなあ。
当然のことではあるが、決して心地良いモノではない。スカっとするタイプの暴力映画もあるけど、この作品は違う。
いや、たぶん、これでもスカッと壮快な気持ちになれるタイプの人はいるんだろうなあ。
でもワシは無理。こうなると完全に趣味嗜好の問題だけど、ワシは好きになれないタイプの暴力描写だわ。

完全ネタバレだが、最終的には犯罪に加担したヘンリー以外の男たちが全て死ぬ。
ブレットやトニーには同情させる要素もあるものの、命を落とすことについては自業自得だと感じるだけだ。
いっそのこと、ヘンリーも死ぬ結末で良かったんじゃないかとさえ感じるぐらいだ。そうしておけば、最後に「11ヶ月後」のシーンを用意し、蛇足みたいな印象を与えることも無かっただろうし。
ヘンリーがブレットとの約束を守って家族に金を届ける様子が描かれるけど、ケリーの幼い息子には何の救いも無いので大いに引っ掛かるし。

(観賞日:2022年5月26日)


第40回ゴールデン・ラズベリー賞(2019年)

ノミネート:最も人命と公共財産に無関心な作品賞

 

*ポンコツ映画愛護協会