『ブラック・ダイヤモンド』:2003、アメリカ

カリフォルニアのダイヤモンド取引所。フェイトが率いる窃盗団はクリストフという男の依頼を受け、ダイヤモンドを盗み出そうとしている。フェイトの仲間はダリア、トミー、それにマイルズの3人だ。同じ頃、高層マンションで暮らすクリストフの元に、ダンカン・スーという男が姿を現した。スーはクリストフから、フェイトたちの行動について聞き出した。
フェイトたちは金庫に侵入し、ダイヤモンドを集め始める。その時、フェイトの携帯が鳴った。相手はスーだ。スーは「黒い石だけは盗むな」と告げるが、フェイトは無視した。フェイトは黒いダイヤも含めて、宝石をバッグに詰めて逃亡する。1人だけ別ルートで逃亡したマイルズの前にスーが現れ、宝石入りのバッグを奪った。だが、そこに目当ての黒い石は無かった。
香港から来たリンという男は、手下のソナから黒い石が奪われたことを聞かされる。彼はクリストフを脅し、詳しい事情を聞きだした。フェイトは黒い石を武器商人アーチーの元へ持ち込み、鑑定を依頼した。それから彼は、クリストフのマンションを訪れた。しかし彼は死んでおり、部屋にはスーの姿があった。スーはクリストフの殺害を否定し、黒い石を渡すよう要求した。
フェイトの携帯に、リンから電話が掛かってきた。リンは黒い石を渡せと告げるが、フェイトは拒否した。マンションを去ったフェイトはアジア系の男たちに襲撃されるが、スーが助っ人に駆け付けた。アーチーから連絡を受けて彼の事務所を訪れたフェイトは、男たちが来て黒い石を奪い去ったことを聞かされる。フェイトは、それが街を牛耳るジャンプ・チェンバースの手下だと確信する。
スーはフェイトとアーチーに、自分が台湾の諜報部員だと明かした。再びリンから電話が掛かり、石を渡すよう要求してきた。ただし今度は、フェイトの娘ヴァネッサを人質に取っていた。スーとフェイトは、黒い石とヴァネッサを奪還するため協力することにした。2人は刑務所にいるチェンバースの元を訪れるが、彼は全く聞く耳を持たなかった。しかしフェイトは、黒い石がチェンバースの所有するクラブにあると確信した。
フェイトはスーに、アーチーに会って事務所に来た男のことを思い出させるよう頼んだ。スーはアーチーに連れられ、賭け格闘技が開催されている会員制クラブへ出向く。一方、フェイトは仲間たちと共に、チェンバースの手下オディオンが店長を務めるクラブに足を向ける。フェイトはオディオンのオフィスに侵入して石を見つけ出そうとするが、オディオンに気付かれ、警察に捕まってしまう・・・。

監督はアンジェイ・バートコウィアク、原案はジョン・オブライエン、脚本はジョン・オブライエン&チャニング・ギブソン、製作はジョエル・シルヴァー、共同製作はスーザン・レヴィン&メリーナ・ケヴォーキアン、製作総指揮はレイ・コープランド&ハーバート・W・ゲインズ、撮影はダリン・オカダ、編集はデレク・G・ブレッチン、美術はデヴィッド・クラッセン、衣装はハ・ニューエン、音楽はジョン・フリーゼル&デイモン・“グリース”・ブラックマン、マーシャル・アーツ・コレオグラファーはコーリー・ユエン。
出演はジェット・リー、DMX、ガブリエル・ユニオン、マーク・ダカスコス、アンソニー・アンダーソン、ケリー・フー、トム・アーノルド、マイケル・ジェイス、ドラッグ=オン、ペイジ・ハード、ロン・ユアン、パオロ・セガンティー、リチャード・トラップ、パク・ウンヤン、ジョニー・ニューエン、マーカス・ヤング、スティーヴン・クアドロス、ショーン・コーリー他。


『ロミオ・マスト・ダイ』と同じく、監督アンジェイ・バートコウィアク、主演ジェット・リー、製作ジョエル・シルヴァーという組み合わせで作られたアクション映画。
スーをジェット・リー、フェイトをDMX、ダリアをガブリエル・ユニオン、リンをマーク・ダカスコス、トミーをアンソニー・アンダーソン、ソナをケリー・フーが演じている。
他に、アーチーをトム・アーノルド、オディオンをマイケル・ジェイス、マイルズをドラッグ=オン、ヴァネッサをペイジ・ハード、リンの手下の技術者レーザー・テックをロン・ユアン、ハゲ頭の手下をパク・ウンヤンが演じている。
アンクレジットだが、チェンバースを演じるのはチ・マクブライド。また、ダニエル・デイ・キムも出ているようだが、どこにいたのかは未確認。

話は薄っぺらいが、アンジェイ・バートコウィアク監督の作品という時点で物語の充実には何も期待していないので、別に構わない。
余計なことをしてアクションの邪魔さえしなければ、それでいい。
もはやハリウッド進出後のジェット・リーがジャン・クロード=ヴァン・ダムの如きB級路線を歩もうとしていることは明らかで、ヴァン・ダム的映画に物語の厚みなんて求めないし。

とはいえ、薄いモノをさらに薄めて引き伸ばしているので、ちとキツい。
例えば何度も電話が掛かるのだが、リンからフェイトへの電話は一度で済む。
具体的に言うと、マンションでフェイトに電話を掛ける時点でヴァネッサを誘拐しておけば、二度手間は避けることが出来る。
でも、そこは無理に話を引き伸ばすために、一度目はただ電話を掛けるだけにしてあるわけだ。
他にも、アンソニー・アンダーソン&トム・アーノルドがコメディー・リリーフの域を超えて疎ましい存在になっていたり、こじつけ感ありまくりな展開によって賭け格闘技のシーンが捻じ込まれたりという引っ掛かりがある。
ちなみに、その賭け格闘技の選手として、UFCのランディ・クートゥアやチャック・リデル、ティト・オーティズが顔を見せている。

リンは前半でフェイトを脅した後、存在感を失ったまま終盤まで話が進んでいく。
なので、せっかくジェット・リーとマーク・ダカスコスの夢の対決が待っているのに、そこに向けた盛り上がりが無い。
あと、スーとフェイトの行動が目的達成のために何の役にも立たず、終盤に自力で拘束を解いたヴァネッサから電話が掛かり、それで敵の居場所が分かるというのは、展開としてヘロヘロじゃないか。

ジョエル・シルヴァーは黒人をターゲットにした格闘系のアクション映画が美味しい商売になると確信したのか、「アクション俳優と黒人俳優にコンビを組ませてヒップホップをBGMに使う」というフォーマットの映画を、『ロミオ・マスト・ダイ』『DENGEKI 電撃』『ブラック・ダイヤモンド』と3本作っている。
どれも監督はバートコウィアクで、DMXが出演している。
その黒人向けの格闘アクション映画シリーズでは、てんでダメになっていたスティーヴン・セガールに再び脚光を浴びる機会を与えたという貢献はあるものの、ジェット・リーの使い方に関しては全く誉められたものではない。
というか、ジョエル・シルヴァーにしろバートコウィアクにしろ、もう格闘系アクション俳優には手を出さないでほしいと思う。

クレジット順の最初はジェット・リーだが、キャラクターの扱いとしてはスーよりフェイトの方が上だろう。フェイトには仲間との関係や娘との関係が用意されているが、スーには何も無い。フェイトとの間に友情が芽生えるわけでもないし、ロマンスが用意されていることもない。かつてリンと同僚だったという設定も、申し訳程度にサラッと語られるだけだ。
キャラの味付けが超薄味な分、アクションの部分で思い切りジェットだけをフィーチャーしてくれればいいのに、困ったことにDMXやガブリエル・ユニオンもアクションに色気を見せてしまうのである。
しかもカーアクションやガンアクションに特化してくれればまだしも、2人とも格闘アクションに手も足も出してしまうのである。
最後のファイトにしても、せっかくジェット・リーとマーク・ダカスコスが1対1で戦うというのに、それをDMX対パク・ウンヤン、ガブリエル・ユニオン対ケリー・フーと並列に扱ってしまう。
なので結局、ジェットとダカスコスの戦いは2分足らず。
その戦いの終え方も、「スーがプルトニウムをリンに飲み込ませて殺す」というのは酷いよ。最後は派手な大技で退治すべきじゃないのか。

最もダメなのは、格闘アクションの見せ方をDMXやガブリエル・ユニオンのレヴェルに合わせてしまっていることだ。
つまり、これはダメな格闘アクション映画の批評で何度も書いているのだが、細かくカットを割ってしまうということだ。
それなら、ジェット・リーとマーク・ダカスコスを起用した意味が全く無いじゃねえか。
もうね、アンジェイ・バートコウィアクは割ったカットとカットの間に挟まれて苦しめと言いたいよ。

 

*ポンコツ映画愛護協会