『伯爵夫人』:1967、イギリス

2つの大戦を経験した香港では、ロシア貴族の婦人達が身を売るような生活をしている。そんな香港に停泊する船の中に、オグデン・ミアーズがいた。彼は世界的石油王の息子で、サウジアラビア大使になることが決定。不仲の妻との離婚が近い。
父親の会社の重役クラークに紹介され、オグデンは3人の伯爵夫人と会った。彼はその中の一人、ナターシャと親しく接する。翌朝、彼が自室で目覚めると既に船は香港を出航していた。着替えようとクローゼットを開けたオグデンは、そこにナターシャが隠れているのを発見する。
アメリカへ密航すると言うナターシャを何とか追い出そうとするオグデン。しかし彼女は言うことを聞かず、オグデンはひとまず自室でかくまうことにする。秘密を知ったオグデンの友人ハーヴェイもナターシャを説得しようとするが、アメリカに行きたいという彼女の気持ちは変わらない。
ずっと一緒にいる内に、オグデンとナターシャは惹かれ合うようになっていた。オグデンはナターシャを自分の秘書ハドソンの妻ということにして、アメリカへ入国させようと考える。船はワイキキへ到着するが、そこへオグデンの妻マーサがやって来て…。

監督&脚本&音楽はチャールズ・チャップリン、製作はジェローム・エプスタイン&チャールズ・チャップリン、撮影はアーサー・イベットソン、編集はゴードン・ヘイルズ。
出演はマーロン・ブランド、ソフィア・ローレン、シドニー・チャップリン、ティッピー・ヘドレン、パトリック・カーギル、マイケル・メドウィン、オリバー・ジョンストン、ジョン・ポール、アンジェラ・スコウラー、マーガレット・ラザフォード、ピーター・バートレット、ビル・ネイギー、ディリーズ・レイ、アンジェラ・プリングル、ジェニー・ブリッジス、アーサー・グロス他。


チャールズ・チャップリンにとって初のカラー作品であり、最後の監督作品。『チャップリンの伯爵夫人』という別タイトルもある。オグデンをマーロン・ブランド、ナターシャをソフィア・ローレン、マーサをティッピー・ヘドレンが演じている。

チャップリンは、ボーイ役で数カットしか出演していない。
チャップリン監督作品としては、彼が主役を演じていないというのは異質と言える。
その代わりと言ってはなんだが、次男のシドニーがハーヴェイを演じている他、長女ジェラルディン、二女ジョセフィン、三女ヴィクトリアと、チャップリンのファミリーがこぞって出演している。

喜劇王と称されるぐらいに、チャールズ・チャップリンという人は偉大な人物である。
彼は映画史に残るような名作や、絶賛されるような喜劇を、何本も作り上げた。
全く受け付けないという人もいるだろうが、一般的に彼の評価が高いことは間違い無い。

しかし、そんな彼も寄る年波には勝てなかったのか。
あるいは時代に乗り遅れてしまったのか。
この映画は、ひどく時代遅れなシロモノになっている。
最初は、そりゃ古い作品だから、ヌルいと思うのは当たり前だと思った。
しかし、やがて違うことに気付いた。
時代の問題を差し引いても、ヌルいだと言わざるを得ない作品だったのだ。

オグデンの部屋を誰かがノックするたびにアタフタする、というコントが延々と続く。
ギャグの賞味期限は短いので、この作品で今の人が笑うのは難しいだろう。
つまらないと思ってしまうのは仕方の無いことだ。
だが、「作られた時代が古いから」というのが免罪符として成立しないほどに、この映画は凡庸で締まりが無い。

パトリック・カージル演じるハドソンや、マーガレット・ラザフォード演じるガウルスワロー婦人といったキャラクターは、それなりに愉快だ。しかし、やはり全体としては、ノスタルジーだけが漂う、たてがみの無いライオンのような作品という印象だ。

『チャップリンの最後の監督作で、唯一のカラー作品で、マーロン・ブランドとソフィア・ローレンというビッグ・スターが共演していて、チャップリンはボーイ役で数カットしか出演していない作品』というのが、この映画の位置付けだろう。
それ以上のモノは無い。

 

*ポンコツ映画愛護協会