『プーと大人になった僕』:2018、アメリカ&イギリス
クリストファー・ロビン少年は100エーカーの森で、くまのプーやロバのイーヨー、子豚のピグレット、虎のティガーたちと楽しい日々を過ごしていた。しかしクリストファーは寄宿学校への入学が決まったため、プーたちは寂しさを抱えながらもお別れのパーティーを開いた。クリストファーはプーとギャレオンくぼ地へ行き、「一番大好きなのは、なんにもしないこと。でも寄宿学校では許してくれない」と語った。プーが「君が僕を忘れちゃったら、どうしよう」と不安を漏らすと、彼は「僕は絶対に君を忘れない」と約束した。
家を出て寄宿学校に入学したクリストファーは、授業中にプーの絵を落書きして教師に叱られた。父が病死し、彼は「これからは貴方が家を支えるのよ」と告げられた。大人になったクリストファーは、イヴリンと出会って恋に落ちた。クリストファーは出征し、イヴリンは彼を待つ間に娘のマデリンを出産した。戦争が終わって帰還したクリストファーは、マデリンと初めて会った。彼は3人で暮らし始め、家具や小物を製作するウィンズロウ・エンタープライゼス社の鞄部門で働き始めた。
数年後、クリストファーは経費削減の圧力を受け、部下たちに努力を求めていた。そんな中、彼は社長の息子で鞄部門の責任者を務めるジャイルズから、20%の経費削減を命じられた。来週の月曜には社長が緊急理事会を開くことになっており、その場で案を発表できないと終わりだと彼は説明した。クリストファーは週末に子供時代を過ごしたコテージへ家族と出掛ける予定だったが、ジャイルズは何も案を思い付かなければ大勢の部下が解雇されると通告した。
クリストファーは夜遅くに帰宅し、コテージに行けなくなったことをイヴリンに伝えた。今まで何度も仕事で予定をキャンセルされていたイヴリンは、「いつものことね」と諦めたように告げた。クリストファーは週末を楽しみにしていたマデリンにも、一緒に行けなくなったことを話す。残念そうなマデリンに、彼は「お父さんだって休みたい。でも何も無い所からは、何も生まれないんだ」と説いた。マデリンが寝る前に本を読んでほしいと頼むと、クリストファーは快諾する。しかし彼がイギリスの歴史に関する小難しい本を読み始めたため、マデリンは「もう眠くなった」と嘘をついた。
イヴリンは最近のクリストファーが笑わなくなったことを指摘し、このままだと壊れると告げた。一方、プーは目を覚ましてハチミツを食べようとするが、壺が空っぽになっていた。プーは仲間に呼び掛けるが返事は無く、クリストファーが使っていたドアを発見した。プーがドアを開けて穴を通り抜けると、都会の街に出た。プーは公園に置いてあるベンチに座り、クリストファーと再会した。クリストファーはストレスによる幻覚だろうと考えるが、プーに手を伸ばすと触れることが出来た。
公園に隣人のマシューが来たので、クリストファーはプーを隠して誤魔化した。彼はプーを自宅に連れ帰り、妻と娘がコテージに行っていることを話す。プーはハチミツの付いた足で家を歩き回り、蓄音機を破壊した。仲間を捜す手伝いを求められたクリストファーは、仕事で忙しいので無理だと断った。プーがソファーで眠り込んだので、クリストファーはベッドで休ませた。翌朝、クリストファーが起床すると、プーはキッチンの棚や食器を破壊した。
仕事を邪魔されたくないクリストファーは、プーへサセックスまで連れて行くことにした。彼は言うことを聞かないプーに振り回されつつ、何とか汽車に乗り込んだ。汽車の中でもクリストファーは仕事に向き合い、話し掛けて来るプーに苛立った。サセックスに到着した彼はコテージを訪れ、気付かれないようにイヴリンとマデリンの様子を覗き込んだ。彼は森へ行き、プーを木の穴へ案内した。プーに帰るよう告げて立ち去ろうとしたクリストファーだが、気になって一緒に行くことにした。
クリストファーが穴を通って100エーカーの森に出ると、深い霧に覆われていた。プーから「今は何をしてるの?」と問われた彼は、鞄を作る会社で効率化主任を務めていると答えた。「そこに友達はいる?」とプーに質問された彼は、「部下はたくさんいる。切り捨てるのが辛くなるから、部下を友達とは思わない」と語る。プーが「僕のことも捨てたの?」と訊くと、クリストファーは少し考えてから「そうかもしれない」と述べた。
クリストファーはコンパスを使い、北へ向かおうとする。プーが見せてほしいと頼むので、彼はコンパスを渡した。しかしプーが足跡を辿ってコンパスを見なかったため、クリストファーは同じ場所に戻って来てしまう。彼が怒るとプーは謝罪し、鞄にコンパスを入れようとする。しかし転倒して鞄が開き、風で書類が飛ばされた。クリストファーは慌てて書類を集め、プーに激怒した。ブーがズオウという生物を恐れるので、クリストファーは架空の存在だと説明する。だが、プーは全く聞き入れようとしなかった。
クリストファーはプーの言動に我慢できず、「人生は風船とハチミツだけじゃない。どうして現れた?僕には大人の責任があるんだ」と声を荒らげた。「だってクリストファー・ロビンでしょ」とプーが語ると、彼は「君の覚えてる僕とは違う」と告げる。プーは「そうだね。いいよ、僕を捨てても」と言い、クリストファーが目を離した隙に姿を消した。プーを捜索したクリストファーは深い穴に落ち、そこから出られなくなる。大雨が降り出して水が穴に注ぎ込まれ、クリストファーは意識を失った。
クリストファーが目を覚ますと雨は止んでおり、彼は穴から脱出した。彼が橋に行くと、イーヨーが川に浮かんでいた。イーヨーが流れに身を任せているので、クリストファーは川に入って引き上げた。不気味な音が聞こえると、イーヨーは「ズオウが呼んでる」と怯えた。クリストファーが調べに行くとオウルの小屋が木から落下し、風見鶏が不気味な音を鳴らしていた。小屋の様子を見たクリストファーは、ティガーたちが集まっていたが、ズオウが来たと思い込んで飛び出しのだろうと推理した。
クリストファーが周辺を調べると、ティガーたちが隠れていた。彼らはクリストファーが声を掛けても、ズオウだと決め付けて怖がった。ティガーたちは本物だという証拠として、ズオウを倒すようクリストファーに求めた。クリストファーはズオウを倒す芝居を見せて、彼らに信じてもらった。彼はプーとはぐれたことを話し、一緒に捜すことにした。ティガーたちと話したクリストファーは、プーがギャレオンくぼ地にいると確信した。
クリストファーはギャレオンくぼ地を訪れ、プーに謝罪して抱き締めた。いつの間にか眠り込んだ彼が目を覚ますと、翌日になっていた。会議に出席するため、彼はプーたちに別れを告げて走り去る。森を去ったクリストファーはマデリンに気付かれ、慌てて誤魔化した。彼が会議のためにロンドンヘ行くことを話すと、マデリンは一緒にいられないことを寂しがった。イヴリンはクリストファーに、「早く行けば。もうしばらく、ここにいるわ」と告げた。
マデリンが部屋で荒れているのを見たイヴリンは、お父さんは色々と大変なことを抱えているのよ。でも、いつか帰って来るわ」と話す。「もうすぐ寄宿学校が始まる。あと少ししか時間が無いの」とマデリンが言うと、彼女は「たらか貴方は、外で遊んでらっしゃい」と促す。イヴリンは「探検を楽しみなさい」と告げ、マデリンを送り出した。一方、プーはティガーがクリストファーの鞄の中身を入れ替えたと知り、大事な書類を届けるために皆でロンドンへ行くことにした…。監督はマーク・フォースター、キャラクター創作はA・A・ミルン&E・H・シェパード、原案はグレッグ・ブルッカー&マーク・スティーヴン・ジョンソン、脚本はトアレックス・ロス・ペリー&トム・マッカーシー&アリソン・シュローダー、製作はブリガム・テイラー&クリスティン・バー、製作総指揮はルネー・ウォルフ&ジェレミー・ジョンズ、共同製作はスティーヴ・ガウブ、撮影はマティアス・コーニッグスウィッサー、美術はジェニファー・ウィリアムズ、編集はマット・チェシー、衣装はジェニー・ビーヴァン、視覚効果監修はクリストファー・ローレンス、アニメーション・スーパーバイザーはマイケル・イームス、音楽はジェフ・ザネリ&ジョン・ブライオン。
出演はユアン・マクレガー、ヘイリー・アトウェル、ブロンテ・カーマイケル、マーク・ゲイティス、オリヴァー・フォード・デイヴィース、ロンケ・アデコルージョ、エイドリアン・スカーボロー、ロジャー・アシュトン=グリフィス、ケン・ヌウォス、ジョン・ダグレイシュ、アマンダ・ローレンス、オートン・オブライエン、キャティー・カーマイケル、トリスタン・スターロック、ジャスミン=シモーヌ・チャールズ、ポール・シャヒディー、マット・ギャヴァン、ギャレス・メイソン、サマー・ブルックス他。
声の出演はジム・カミングス、ブラッド・ギャレット、トビー・ジョーンズ、ニック・モハメッド、ピーター・カパルディー、ソフィー・オコネドー他。
A・A・ミルンの児童小説『クマのプーさん』シリーズと、それを基にしたディズニーアニメ『くまのプーさん』シリーズをモチーフにした作品。
監督は『ワールド・ウォーZ』『かごの中の瞳』のマーク・フォースター。
脚本は『彼女のいた日々』のトム・マッカーシー、『スポットライト 世紀のスクープ』のアレックス・ロス・ペリー、『ドリーム』のアリソン・シュローダーによる共同。
クリストファーをユアン・マクレガー、イヴリンをヘイリー・アトウェル、マデリンをブロンテ・カーマイケル、ジャイルズをマーク・ゲイティス、ウィンズロウをオリヴァー・フォード・デイヴィース演じている。
プー&ティガーの声をジム・カミングス、イーヨーをブラッド・ギャレット、オウルをトビー・ジョーンズが担当している。「なんでこんな陰気で暗い映画にしちゃうのか」ってのが、最初に浮かんだ感想だ。どうして、ここまで寂しさや苦しさを感じるような映画にしちゃうのか。
クリストファーは仕事のせいでトゲトゲしくなっており、やたらと苛立っている。以前のようにマッタリ&ノンビリでドジもやらかすプーは、そんな彼の怒りを何度も浴びる羽目になる。
だから、もちろんクリストファーの気持ちは分かるけど、プーが可哀想になってしまう。
クリストファーがイライラしたり怒鳴ったりしても、それが「マイペースなプーにクリストファーが振り回されて」みたいにコメディーとして表現されていれば別にいいのよ。だけど、すんげえマジなテストで笑いは皆無だし。クリストファーは少年時代、行きたくもないのに寄宿学校に通わされた。それなのに大人になった彼は、娘が望んだわけでもないのに寄宿学校に行かせている。
クリストファーは子供時代にプーたちと楽しく遊び、「なんにもしないこと」が一番好きだった。
でも大人になった彼は、娘に勤勉に勉強することを求め、読み聞かせでも堅苦しくて退屈な本を選ぶ。
「子供は遊ぶことも必要だし大切」という考えは完全に抜け落ちており、「現実と向き合うべき」と主張する。クリストファーは自分が子供時代に嫌だったこと、望まなかったことを、ことごとく娘に押し付けている。それが正しいと思い込んでいる。
「大人になった時、自分の子供時代の感覚は完全に忘れてしまう」という、とても分かりやすいパターンに陥っている。
そういうのは良くある話だし、映画でも昔から多く描かれて来た。
そういう作品では、「主人公が子供の頃の気持ちを思い出して反省し、態度や考えを改める」という結末が100%と言ってもいいだろう。
なので本作品も、そういう展開になる。大人になっても子供の頃の気持ちを忘れないとか、子供の頃の純真さを思い出すとか、そういうのを肯定したり賞賛したりするのは別に構わないと思うのよ。
ただ、大人になって家族を持った時、責任を持った行動を取ろうとするのも、決して否定されるべきではないはずで。
ところが本作品だと、「子供の頃の気持ちを失うのは悪いことだ」という全否定になっちゃってるので、それはいかがなものかと。
それに、後で詳しく書くけど、そもそもプーたちってイマジナリー・フレンドみたいな存在なわけで。それを成長するにつれて切り捨てたり忘れたりするのって、人間が成長する上で当たり前のことじゃないかと。
それは大人になるための第一歩でもあり、人間的な成長として前向きに捉えて悪くないモノじゃないかと。冒頭で描かれるクリストファーとプーたちとの別れは、映画オリジナルで用意されたシーンではない。原作の『クマのプーさん』の続編、『プー横丁にたった家』の最後に描かれたシーンだ。クリストファーとプーは、原作の最後に再会を約束して別れているのだ。
なので、そこから物語を始めて再会シーンを描くのは、「原作を大切にしている」「原作ファンに寄り添っている」と言えるのかもしれない。
ただ、どれぐらいの原作ファンが『プー横丁にたった家』の「その後」を本当に見たいと思っていたのかと考えた時、そこは疑問が浮かぶのだ。
原作は綺麗に物語を畳んでいたし、仮に後日談があるとしても読者の想像に委ねた方がいいんじゃないかと。
この後日談は、とても無粋で野暮なことをやっているような気もするのだ。説明は要らないかもしれないが、原作のプーやティガーたちは幼いクリストファー・ロビンが遊んでいるヌイグルミであり、言ってみりゃイマジナリー・フレンドだ。
プーたちはクリストファーが100エーカーの森を訪れた時だけ出現し、自由に動いたり喋ったりするのだ。
なのでプーがロンドンの町に迷い込んでクリストファー再会する時点で、ちょっと引っ掛かる。
それでも明るく楽しい物語が展開すれば忘れられたかもしれないけど、そうじゃないので引っ掛かったままになる。ネタバレになるが、粗筋に書いた内容の後、マデリンが動いて喋るプーたちと出会って一緒に行動する展開が用意されている。
マデリンはクリストファーの娘だし、父が描いたプーたちの絵も見ている。なのでクリストファーのイマジナリー・フレンドであるプーたちと普通に接することが出来ても、そこは何の問題も無い。
イヴリンもプーたちと出会うが、ここも許容範囲だ。
ただし、出会うのは100エーカーの森に限定すべきだろう。そこは絶対に守るべきルールじゃないかと思うぞ。なので、これまた完全ネタバレになるが、プーたちがロンドンの町に現れ、一般市民が喋って動く彼らを認識する様子が描かれると、それはダメだろうと言いたくなるのだ。
プーたちを明確に「実際に喋ったり動いたりできる存在」として描いちゃうと、ファンタジーとしてのリアリティー・ラインを大幅に逸脱してしまう。
「プーたちはクリストファーのイマジナリー・フレンド」という部分を曖昧にしておく程度なら、別にいいよ。
だけど、逆に「想像上の生き物じゃなくて実際に生きている」と明言しちゃうのはアウトだわ。(観賞日:2024年1月19日)