『炎のランナー』:1981、イギリス

1919年、ユダヤ人のハロルド・エイブラハムズは、ケンブリッジ大に入学した。彼はアンドリューと共に、700年間も成功者がいないというカレッジ・ダッシュに挑戦した。アンドリューはわずかに遅れたが、ハロルドは見事に成功させた。
スコットランドのハイランド地方。宣教師の家に生まれたエリック・リデルは、地元のオープンレースで俊足を披露した。彼は誰もが認める優秀なランナーだったが、姉のジェニーは彼が早く陸上から足を洗い、布教の道に進むことを望んでいた。
1923年、スコットランドでフランスとの対抗競技会が開かれた。400メートルに出場したエリックは、途中で転倒しながらも1位になった。その様子を、客席にいたハロルドが見ていた。オペラ見物に出掛けたハロルドは歌手のシビルに惹かれ、付き合い始める。
同年、ロンドンで開かれた競技会で、ハロルドとエリックは対決した。わずかの差でエリックに敗れたハロルドは、プロのコーチであるサム・ムサビーニの指導を受けることにした。トリニティの学寮長とキースの学寮長は、アマチュア精神に反すると非難する。
ハロルドは100メートルと200メートルの選手として、障害物のアンドリュー、中距離のオーブリーとヘンリーと共に、第8回パリ・オリンピックに出場することになった。エリックも、100メートルの出場選手として選ばれた。だが、予選が日曜日に行われることを知ったエリックは、出場辞退を決める。日曜日は安息日のため、走ることは出来ないというのだ…。

監督はヒュー・ハドソン、原作&脚本はコリン・ウェランド、製作はデヴィッド・パットナム、製作協力はジェームズ・クロフォード、製作総指揮はドディ・ファイド、撮影はデヴィッド・ワトキン、編集はテリー・ローリングス、スーパーバイジング・アート・ディレクターはロジャー・ホール、衣装はミレーナ・カノネロ、音楽はヴァンゲリス・パパサナシュー。
出演はイアン・チャールソン、ベン・クロス、ナイジェル・ヘイヴァース、ニコラス・ファレル、ダニエル・ジェロル、イアン・ホルム、サー・ジョン・ギールグッド、リンゼイ・アンダーソン、ナイジェル・ダヴェンポート、シェリル・キャンベル、アリス・クリーグ、デニス・クリストファー、ブラッド・デイヴィス、パトリック・マギー、ピーター・イーガン、デヴィッド・イェーランド、ストラン・ロジャー他。


1924年のパリ・オリンピックに出場した2選手の実話を映画化した作品。アカデミー賞で作品賞・脚本賞・作曲賞・衣装デザイン賞を受賞した。ハロルドをイアン・チャールソン、エリックをベン・クロス、アンドリューをナイジェル・ヘイヴァース、オーブリーをニコラス・ファレル、ヘンリーをダニエル・ジェロル、ムサビーニをイアン・ホルムが演じている。

この作品、主要キャストの大半は若い男である。一応、ヒロインとしてシビルが登場するが、ハッキリ言って全く意味の無い人物だ。アイビー・ファッションに身を包んだグッド・ルッキング・ガイが大勢出てくるのだから、それだけで一部の人にはたまらないだろう。

何しろアカデミー賞で作品賞を獲得した作品なので、あまり細かい所を突くのは野暮というものだろう。
だから、「田舎の小さな200mレースでも少しの差でしか勝てなかった奴が、いくら400mとはいえ思いっきり転倒したのに1位になれるわけがない」とか、そんな真っ当なイチャモンを付けたりするのは、ものすごく野暮である。
他にも、「100mの選手が急に400mに出場できるのか。なんか軽いよな、オリンピックなのに」とか、「そもそも日曜日に走れない奴がオリンピック代表になっちゃダメだろ」とか、「これまでのレースは全て日曜日以外に行われていたのか」とか、「日程ぐらいちゃんと調べておけ」とか、そういった諸々のツッコミは、あまりに野暮というものだ。

ハロルドはユダヤ人差別との戦いとして走り、エリックは神を称えるために走る。しかし、それほど強くユダヤ人差別が描かれることも無いし、信仰心にしても後半までは同じく。
だから、彼らが走る気持ち、走らないと決める気持ちに乗って行くのは大変だ。
さて、前述したように、ハロルドはユダヤ人差別との戦いとして走り、エリックは神を称えるために走る。1度だけ2人は同じレースを走るが、そこから相手に対するライバル心を燃やすという展開にはならない。
2人とも、自分の目的のために走る。

ライバル心が高まっていくという展開が無いのであれば、友情の絆が深まって行くのかというと、それも無い。2人の関係は、かなり薄い。
だから、この映画は「たまたま1度だけ一緒に走ったことのある、ちょっとした知り合いの2人の話」になっている。
2人のそれぞれのドラマを、1本の作品の中で並行して描きました、という感じだ。

この話、一応はハロルドとエリックはダブル主役なのだろうが、後半に入ると完全にエリックの話が大きくなる。彼は信仰心から安息日に走ることを拒否するのだが、アンドリューが別の日に行われる400mの権利を譲ると言うので、そちらで走ることになる。
で、そういう提案を受けたエリックは、ホイホイとOKする。
なんか軽いな、おい。

エリックが予選での走りを拒否するのは、「信念の強さがあるからだ」と好意的に描かれている。しかし、別にクリスチャンが安息日に走ってはいけないという決まりはない。
つまり極端に言えば単なる思い込みであり、彼は信念の人というより頑固なだけにも思えてしまうが、きっと私はクリスチャンではないから、そんなことが言えるんだろう。
そもそも、他人を負かして勝利すること、オリンピックで優勝することを目指している時点で、それが本当に神を称えることになるのだろうかという疑問もあったりするのだが、やはり私はクリスチャンではないから、そんなことが言えるんだろう。

この映画、陸上競技が題材として使われている。
しかし、スポーツ映画ではない。
スポーツの持つ熱さ、興奮、迫力、そういうモノは無い。
ちなみに、やたらスローモーションが多用されるが、市川崑監督も『東京オリンピック』で同じようなことをやっていたっけ。

 

*ポンコツ映画愛護協会