『バレット モンク』:2003、アメリカ

チベット奥地の僧院で、一人の僧侶が高僧と格闘し、修行を終えた。高僧は60年に渡り、巻物を守護していた。その巻物は、この世を天国 にも地獄にも変えることのできる強大な力を秘めている。未の年が5度巡ると、巻物は新たな僧に受け継がれる。ただし、受け継ぐことが 出来る言い伝えにある三つの預言を成就した者だけだ。その預言は「その者、鶴が天空を回る間に敵の群れを打ち破るであろう」「その者、 浄土の愛を求めて戦うであろう」「その者、唯一の家族と見知らぬ兄弟を救うであろう」という内容だ。
高僧は預言を満たした名無しの僧を、巻物の部屋に案内した。そして高僧は、巻物に記された秘儀を名無しの僧に伝授した。その直後、 ナチスの将校ストラッカーの軍勢が寺院を襲撃し、高僧は命を落とした。僧侶たちは扉の前に立ち塞がり、軍勢の侵入を拒絶する。しかし ストラッカーの軍勢は僧侶を皆殺しにして、扉を開けた。名無しの僧が飛び出し、軍勢に戦いを挑んだ。ストラッカーの銃撃をかわした 名無しの僧は、崖に立った。彼はストラッカーの狙撃を胸に受け、谷底へ落ちて行った。
それから60年後、ニューヨーク。スリの青年カーは、地下鉄のビショップ・スクエア駅で刑事の懐から財布を抜き取った。カーは刑事を 手錠で拘束し、その場から逃げた。一方、名無しの僧は男たちに見つかり、地下鉄の構内に逃走した。その時、少女がホーム下に転落し、 線路に足を挟まれて動けなくなった。名無しの僧とカーは、少女を助けるため線路に飛び降りた。
カーは少女を救うため、戦利品のバッグを投げ捨てた。少女を助けた後、カーは名無しの僧のバッグから巻物を抜き取った。名無しの僧と 別れたカーは、地域を仕切るチンピラ、ミスター・ファンタスティックの一味にシマ荒らしとして捕まった。今後は儲けの一部を献上する よう要求されたカーは、巻物を渡して立ち去ろうとする。だが、ファンタスティックは巻物に何の価値も感じず、すぐに投げ捨てた。その 巻物を拾ったのは、密かにカーの様子を窺っていた名無しの僧だった。
カーはファンタスティックの一味に襲われるが、優れた格闘の能力を披露する。その戦いを見ていた名無しの僧は、第一の預言を脳裏に 思い浮かべた。一味の紅一点・ジェイドが「これ以上、相手にする必要は無い」とファンタスティックに告げたため、戦いは終わった。 名無しの僧から話し掛けられたカーは疎ましそうにあしらい、さっさと立ち去った。
カーは、コジマという日本人が営む中国映画専門の映画館ゴールデン・パレスに赴いた。カーは、そこで住み込みの映写技師として働いて いるのだ。カーが自分の部屋に行くと、そこにも名無しの僧は現れた。カーはジェイドのネックレスを密かに盗んでおり、それを落とし物 として届け、彼女を釣るつもりだった。それを聞いた名無しの僧は、「盗んだとバレたら逆効果だぞ」と微笑した。
人権保護機関の理事長ニナは、ニューヨークで人権保護の声明を発表した。彼女は、祖父であるストラッカーを出迎えた。人権保護機関は 隠れ蓑で、ストラッカーとニナは巻物を捜していた。ビショップ・スクエア駅で名無しの僧を追い掛けていたのは、ニナの手下だった。 ストラッカーは巻物の力で若さを手に入れ、劣等民族を浄化しようと企んでいた。
翌日、カーが外出すると、名無しの僧が付きまとって話し掛けた。そこへジェイドが現れ、カーにネックレスのことを尋ねた。彼女は 名無しの僧を見て、すぐにチベット僧だと気付いた。そこへニナの手下たちが現れたため、名無しの僧は逃げ出した。カーは悪党たちの追跡を 妨害し、名無しの僧と共に逃走する。名無しの僧は二丁拳銃で悪党を攻撃し、追跡を撒いた。
名無しの僧はカーを連れて、チベット僧が集まっている地下寺院に入った。60年前に名無しの僧の修行を見ていた少年の甥が、その寺院を 取り仕切っていた。彼は未の年に合わせて、強いチベット僧を結集させていた。しかし名無しの僧は、カーに預言を感じるのだと告げた。 名無しの僧はカーを倉庫に連れて行き、助けてもらった礼として、空気を自由に操って戦う方法を教えた。
倉庫を悪党のヘリコプターが襲撃したため、名無しの僧とカーは建物の屋上へ逃げた。名無しの僧はカーに巻物の入ったバッグを渡し、 ヘリコプターに飛び移った。名無しの僧はヘリの連中を攻撃し、カーは屋上に来た連中と戦った。名無しの僧は悪党を撤退に追い込むが、 カーは巻物を屋上から落としてしまった。それを拾ったのは、車で現れたニナだった。
名無しの僧はカーから事情説明を求められ、ストラッカーが巻物を狙っていることから語り始めた。そして名無しの僧は、奪われた巻物が 偽物だと明かした。本物の巻物は、自分の頭と体にあるのだという。さらに彼は、巻物を守護する者は時の信託を得て、怪我をしても必ず 治癒することを話した。一方、ニナは手下を引き連れてゴールデン・パレスに現れ、コジマを殺害した。
名無しの僧とカーがゴールデン・パレスに行くと、コジマが死んでいた。名無しの僧は、カーを巻き込んだことを詫び、別行動を取ろうと する。しかしコジマの死に怒りを覚えたカーは、名無しの僧と行動を共にすることを決めた。一方、ニナたちは地下寺院を襲撃していた。 僧侶の中に裏切り者がいたのだ。しかしストラッカーは、裏切り者の僧侶を最初から使い捨てにするつもりだった。ストラッカーは、その 僧侶の脳内を特殊な装置でスキャンし、欲しい情報を持っていないと知った。
名無しの僧とカーはジェイドの住む豪邸に潜入し、彼女がロシアン・マフィアの娘だと知った。カーは名無しの僧や巻物に関する説明を するが、ジェイドにとっては突拍子も無い話だ。そこへニナたちの襲撃があり、銃弾を浴びた名無しの僧はストラッカーの秘密基地へと 連れ去られてしまう。ニナは名無しの僧を装置に拘束し、彼の体に刻まれた巻物の内容をスキャンしようとする。カーとジェイドは名無し の僧を救出するため、秘密基地へと向かう…。

監督はポール・ハンター、脚本はイーサン・リーフ&サイラス・ヴォリス、製作はチャールズ・ローヴェン&ダグラス・シーガル& テレンス・チャン&ジョン・ウー、製作総指揮はゴッサム・チョプラ&キャロライン・マコーレー、ケリー・スミス=ウェイト&マイケル ・ヤノーヴァー、撮影はステファン・チャプスキー、編集はロバート・K・ランバート、美術はデボラ・エヴァンス、衣装はデルフィーネ ・ホワイト、音楽はエリック・セラ。
出演はチョウ・ユンファ、ショーン・ウィリアム・スコット、ジェイミー・キング、カレル・ローデン、ヴィクトリア・スマーフィット、 マーカス・ジャン・ピレー、マコ、ロジャー・ユアン、クリス・コリンズ、ショーン・ベル、キシャナ・ダッドリー、ロブ・アーチャー、 マウリシオ・ローダス、バヨ・アキンフェミ、ラッセル・ユエン、アルバート・チュン他。


原作の表記は無いが、同じ原題のアメコミを基にした作品(原作の編集者だったゴッサム・チョプラは製作総指揮として参加)。
監督はミュージック・フィルムの世界で活躍してきた22歳のポール・ハンターで、これが映画デビュー。
名無しの僧をチョウ・ユンファ、 カーをショーン・ウィリアム・スコット、ジェイドをジェイミー・キング、ストラッカーをカレル・ローデン、ニナをヴィクトリア・ スマーフィット、ミスター・ファンタスティックをマーカス・ジャン・ピレー、コジマをマコが演じている。

ハリウッドで流行のカンフー・アクションをやりたかったのは分かるけど、大きな勘違いがあるぞ。
『グリーン・ディスティニー』でも見て起用したのかもしれんが、そもそもチョウ・ユンファはカンフー・スターじゃない。
もっと言えば、『男たちの挽歌』シリーズでは主演していたが、アクション俳優でもないよな。
ともかく、カンフーがやりたいなら、せめてカンフースターを起用しろよ。
監督がアクション映画のベテランならともかく、駆け出しなんだからさ。

冒頭、名無しの僧が修行を終えて巻物を受け継ぐ様子を、少年僧がじっと見ている。
なので、この少年僧が後の物語で重要なキャラクターになってくるのかと思いきや、そこだけで出番は終わり。
一応、ニューヨークの地下寺院のボスを少年の甥という設定にしてあるけど、それほど話に絡んでくるわけでもなく、少年僧自身は出て 来ない。
何だったんだ、あの意味ありげな少年僧の存在アピールは。

カシミールの寺院をストラッカー達が襲った時、チベット僧の面々は扉の前に立ちはだかるだけで、何の抵抗もせず撃ち殺される。
いや、お前らは巻物を守るために修行を積んでいたんじゃないのかよ。そりゃ徒手空拳だから銃には敵わないかもしれんが、無抵抗って 何だよ。
あと名無しの僧も、ストラッカーの銃撃からは逃げるだけ。
近くにある物を投げたりすれば反撃のチャンスはあるように思えるが、最後はわざと撃たれた感じで谷底へ落下する。
なぜ、そこで敵を倒そうとしないのか。

で、それから60年に渡って、名無しの僧はストラッカーたちとの鬼ごっこを続けている。
なんじゃらホイ。火事場で人助けをしている暇があったら、ストラッカーたちに反撃して組織を壊滅させろよ。
駅で見つかった時も、すぐに逃げ出すが、戦ったら勝てるだろうに。
おまけに名無しの僧は、カーに巻物を抜き取られるんだよな。
それまで60年に渡って大事に守ってきた物を、一時的とは言え、そんなに簡単に盗まれてもいいのかよ。

ポール・ハンター監督は、いかにもMTV出身の人らしく、ビートの効いた音楽に乗せて、細かくカットを割って格闘シーンを 演出する。
で、カットが目まぐるしく切り替わるために、何がどう動いているのかサッパリ分からない。
カーの格闘を見た名無しの僧が「凄い腕だ」と感嘆するが、何が凄いのか全く伝わらない。
たぶん監督が狙っているほどのスピード感も出ていない。

格闘現場にあるクレーン(crane)を見た名無しの僧が、一つ目の預言の「鶴(crane)」に引っ掛けて「カーが後継者かもしれない」と 思う馬鹿馬鹿しさ。それで名無しの僧がカーを後継者候補として考えるってのは、説得力が無さ過ぎる。
もう、どうせバカ満開な映画なんだから、いっそカーが戦う時に、VFXによるオーラでも発せられるようにしておけば良かったかもね。
もしくは、ニューヨークに来る前にカーが後継者候補として浮上しており、それを確かめるために接触したことにしておけばどうよ。
大体、ストラッカーたちに追われながら後継者候補を捜すのでは、その後継者に面倒を押し付けたいのかと思ってしまうぞ。
で、その後継者候補のカーは、映画館でカンフー映画を見て真似をしていたので、格闘の技術が身に付いたという設定だ。
いや、おバカなコメディーなら、その設定もアリかもしれんよ。だけど、こと格闘に関しては、そこまでバカ満開ってわけじゃないでしょ。

ジェイドからチベットの言葉で話し掛けられた名無しの僧は、チベット語で返している。
でも冒頭、チベットの寺院にいる時は、彼も仲間の僧侶も、みんな英語で喋っているのよね。
どういうことやねん。
そのジェイドとの会話の後、名無しの僧は一味に追われて逃げる途中、二丁拳銃で反撃する。
徒手空拳だけでなく銃まで使いこなすのなら、圧倒的に強いじゃねえか。
しかも、その後は飛んで来た弾丸を見極めて回避するという技まで披露している。
やっぱり逃げ一辺倒の意味が無いぞ。

ビルでヘリコプターの襲撃を受けた時、カーは巻物を落としてしまうが、そもそも、なぜ名無しの僧が彼にバッグを預けているのかと。
カーだって敵と戦っているんだし、名無しの僧が持っていた方が安全じゃないのか。それに、仮に奪われても偽物なんだから、ますます カーに預ける意味が無い。それによって、カーを危険に巻き込んでいるだけだ。
アホすぎるぞ。
偽の巻物を奪われた後、名無しの僧はカーに「巻物を守護する人間は、怪我も必ず治る」などと説明している。
治癒能力まであるのなら、ますます無敵じゃねえか。なんで戦わないのかと。
一方、ニナはコジマを殺して映画館を去るが、その行動の意味が不明。コジマを殺して、巻物が手に入るわけでもあるまいに。コジマを 人質にして巻物を要求するなら、まだ分からないでもないが。

コジマの死体を発見した後、名無しの僧は「巻物を守るのは、この俺だ」とカーに力強く言うが、だったら最初から巻き込むなよ。
あと「あと60年でも守ってみせる」とも言うが、今年は後継者に巻物を譲り渡す年でしょうに。
60年毎の引き継ぎが無くても構わないということなら、カーを後継者かどうか見極める作業なんて必要が無いってことになるぞ。
で、また悪党が来るので名無しの僧は逃げるんだが、巻物を守るってのは逃げることとイコールなのかよ。

後半に入って、急にSFチックな脳内スキャン装置というものを悪党が使うのにも呆れた。
それは裏切り者が欲しい情報を持っているのか確認するために使用されるが、そんなの、わざわざ機械を使う必要があるのかね。
と思っていたら、その装置は終盤に、全く別の用途で使われる。
カーとジェイドが基地のダクトから潜入した時、装置の動力源である水が流れ込んで来てピンチに陥るというところで使われて いるのだ。
その御都合主義のために、そんな妙な装置を登場させておいたのね。
って観客をバカにしてんのか。

ジェイドは、もっと話に絡んでくるのかと思ったが、そうでもない。終盤に至るまで、カーや名無しの僧とストラッカーたちとの関わりを 全く知らないぐらいだ。
残り30分ぐらいになって、ネックレスをカーが盗んだとか、くだらない言い合いをされても困るよ。
そこでカーが事情を説明して、初めてジェイドは巻物やストラッカーたちのことを知る。
だけど、最終的に、ジェイドも巻物を受け継ぐ人間になるんだぜ。だったら、もっと深く関与させるべきだろ。それこそカーと同じぐらい 、名無しの僧と絡ませてもいいぐらいだ。

ジェイドの屋敷で、初めて彼女がロシアン・マフィアの娘だと判明するが、それもタイミングが遅すぎる。もっと早い内に明かして おけよ。
あと、そこで名無しの僧が「預言にあった“浄土”はジェイドのことだ」という語呂合わせで「カーは2つ目の預言を満たしている」と 考えるのには呆れた。そんなことでいいのなら、もう何でもありだぞ。
ジェイドが名無しの僧を助けるため、命懸けの戦いに赴くのも、「アンタ、そこまで彼と深く関わっていないのに、なぜそこまでするのか」 と思ってしまう。
あと、それまで一度も格闘の技術を披露していないニナがジェイドとタイマン対決するが、「だったら、その強さを今までのシーンで 見せておけよ」と思う。ジェイドにしても序盤でカーと戦っただけだから、アピールは物足りないし。

ジェイドの屋敷に悪党が来た時には、名無しの僧はあっさり銃弾を浴びている。
でもアンタ、前半で銃弾を目で見て、スッと回避していたでしょうに。パワー調整が適当すぎるぞ。
それと、人権保護機関の理事長であるニナが、その素顔をさらして悪事をやりまくっているのもアホすぎる。
人権保護機関が隠れ蓑の意味を成してないでしょうに。せめて顔ぐらいは隠せよ。

最終決戦で、名無しの僧はやや手こずるものの(巻物からパワーを貰っているんじゃないのかよ)、やはりストラッカーには 勝利する。
っていうか、そこで苦戦する程度のパワーしか貰えないのなら、巻物のパワーなんて大したことが無いんじゃないのか。
で、「60年間、私はお前が変わるのを待った」と名無しの僧は言うが、それが戦わずに逃げ続けた理由かと。アホらし。
名無しの僧は長く修行を積んで、ようやく巻物を受け継ぐことが出来た。しかしカーは何の修行もせず、すぐに巻物を与えられる。さらに 「ジェイドもカーと2人で預言を満たした」ということで、その場で急に後継者として認められるんだが、もうバカバカしいったらありゃ しない。
で、ミスター・ファンタスティックって一体、何のために登場したんだろうね。

(観賞日:2008年12月11日)

 

*ポンコツ映画愛護協会