『バブル・ボーイ』:2001、アメリカ

先天性免疫不全のジミー・リヴィングストンは、産まれた直後から無菌室に収容された。4歳で退院した彼は、実家のパームデイルへ戻る。両親は彼を守るため、絶対に外へ出さないように決めていた。2人は子供部屋に無菌状態を保つドーム状のバブル・ルームを用意し、その中にベッドや玩具を入れた。ジミーに触れるように、ゴム製の手袋が付いたアームも設置されていた。母は息子を清らかに育てようと考え、特定の本やテレビ番組しか見せなかった。
近所の子供たちが庭へ押し掛けてジミーを「バブル・ボーイ」と馬鹿にすると、母は憤慨して追い払った。両親はジミーが欲しい物を何でも与え、16歳の誕生日にはエレキギターをプレゼントした。ある日、隣の家に一家が引っ越してきた。一家の娘であるクロエを窓から見たジミーは、すっかり心を奪われた。初めて勃起した彼はパニックに陥り、母に相談する。母は狼狽し、落ち着いて誓いの言葉を唱えるよう指示した。
クロエはジミーが気になり、リヴィングストン家のドアをノックした。応対した父は何も考えずに手招きし、クロエはジミーのいる2階へ向かった。クロエを見て驚いたジミーは、母から教えられたように彼女を「ビッチ」と呼ぶ。クロエは腹を立てずに会話を交わし、次の日も来ることを約束して立ち去った。翌日以降、クロエは何度もジミーの元を訪れ、2人は仲良くなる。クロエの誕生日、彼女はパーティーを抜け出してジミーの部屋を訪れた。彼女はジミーにキスを迫り、バブル・ルームの中へ入ろうとする。慌てたジミーが止めようとしていると、クロエは眠り込んでしまった。
クロエは恋人のマークを連れて来て、ジミーに紹介した。彼女はマークにプロポーズされたことや、ナイアガラの滝で挙式することを、嬉しそうな様子でジミーに打ち明けた。「どう思う?彼でいいかしら?」と相談されたジミーは、以前に貰ったバブルモルモットを不機嫌そうに返した。クロエが去った後、ジミーは彼女が残した箱を開ける。そこに「アイ・ラブ・ユー」のメッセージを見た彼は、3日後の結婚式までにクロエの元へ向かおうと決意する。
ジミーはバブル・スーツを作成し、両親が寝ている間に外へ飛び出した。彼はカルト宗教集団「ブライト・アンド・シャイニー」の信者たちに気に入られ、一行のバスに同乗させてもらった。彼らは全ての男がトッド、全ての女がロレインと呼ばれており、性欲も財産も放棄することを教祖のギルから求められていた。ギルに財産を騙し取られていると確信したジミーは嘲笑し、砂漠で放り出された。ジミーが消えたと知った両親は、慌てて捜索に出た。2人はバス停の従業員と会い、ジミーがバスでラスベガスへ向かったと知った。
バイクを修理しているスリムという男と遭遇したジミーは、手伝いを申し出た。ギルの元へ到着した信者たちは、「選ばれし者は地上に降り立った」と告げられる。ギルは石に描かれた人物の絵を見せ、「その者は球体の中に閉じ込められている。お告げがあった」と説明した。「彼を解放すれば我々を神の元へ導いてくれる」と言われた信者たちは、すぐにジミーのことを思い浮かべた。スリムはジミーから愛する女の所へ向かうと聞き、バイクでラスベガスまで連れて行く。スリムはカジノで旅費を稼ごうとするが、所持金を全て使い果たした。ジミーはミニスクーターを勝ち取り、スリムには何も言わずに先を急いだ。
ジミーを捜していたスリムは、カルト集団のバスにバイクを破壊された。リヴィングストン夫妻はジミーを発見するが、誤って彼を弾き飛ばしてしまった。貨物列車に飛び込んだジミーは、旅興行をしているドクター・フリークの一団に出会った。ジミーはフリークから自分のショーに出ろと要求されるが、弾き飛ばして拒絶した。ショーの団員であるフリークスのチキン・マンたちはジミーを気に入り、付いて行こうとする。しかしジミーは一人で行かせてほしいと頼み、彼らと別れた。
ダイナーに立ち寄った彼は、インド人のプッシュポップを嘲笑する一団を見て注意した。ジミーは菌を蔓延させる危険人物だと誤解され、客は一斉に逃げ出した。保安官は店を隔離してジミーを閉じ込め、その際に火事が発生する。プッシュポップが裏口からジミーを退避させ、自分の運転するアイスクリームとカレーの販売車に乗せた。プッシュポップはジミーの目的を聞き、ナイアガラまで連れて行くことを引き受けた。しかし誤って牛をひき殺してしまったため、「罪を償わないと」と告げてジミーと別れた。
ジミーの両親はフリークと出会い、息子の情報を尋ねる。母はクロエに電話を掛けてジミーがナイアガラヘ向かったことを話し、「貴方のせいよ」と非難した。ショーの団員たちは、ジミーの両親の車を奪ってナイアガラヘ向かった。ジミーの両親とフリークはトラックで、スリムはバイカー仲間と共に、カルト集団はバスで、それぞれナイアガラへ向かう。スリムたちはカルト集団にバイクを破壊されたため、プッシュポップの車に乗せてもらう。ジミーはパピーという老人の車に乗せてもらう代金を稼ぐため、泥レスリングの試合に参加する。試合に勝利して賞金を貰ったジミーだが、カルト集団に拉致されてしまう。そこへフリークスたちが駆け付けてジミーを連れ出すが、誤解したスリムたちと喧嘩になってしまう。彼らが揉めている間に、ジミーはパピーの車に飛び乗ってナイアガラへ向かう…。

監督はブレア・ヘイズ、脚本はシンコ・ポール&ケン・ダウリオ、製作はボー・フリン、製作総指揮はエリック・マクラウド、撮影はジャージー・ジーリンスキー、美術はバリー・ロビソン、編集はパメラ・マーティン、衣装はクリストファー・ローレンス、音楽はジョン・オットマン、音楽監修はジョン・フーリハン。
出演はジェイク・ギレンホール、スウージー・カーツ、マーリー・シェルトン、ダニー・トレホ、ジョン・キャロル・リンチ、ファビオ、スティーヴン・スピネラ、ヴァーン・トロイヤー、デイヴ・シェリダン、ブライアン・ジョージ、パトリック・クランショウ、アーデン・マーリン、エヴァー・キャラダイン、パブロ・シュレイバー、ジェフリー・アレンド、ビートルジュース、マシュー・マッグローリー、ボニー・モーガン、レオ・フィッツパトリック、マール・ケネディー、ジェイソン・スクラー、ランディー・スクラー他。


『遠い空の向こうに』のジェイク・ギレンホールが主演を務め、『オースティン・パワーズ』『オースティン・パワーズ:デラックス』のエリック・マクラウドが製作総指揮で参加した作品。
監督のブレア・ヘイズ、脚本のシンコ・ポール&ケン・ダウリオは、いずれも本作品がデビュー作。
ジミーをジェイク・ギレンホール、母をスウージー・カーツ、クロエをマーリー・シェルトン、スリムをダニー・トレホ、父をジョン・キャロル・リンチ、ギルをファビオが演じている。

最初の時点では、両親がジミーを外の世界に触れさせないよう、バブル・ルームを作って守ろうとしていることが描かれる。主導的な立場を取っているのは母だが、父も賛同しているように見える。
ところがクロエが訪れた時、父は本を読みながらクロエの顔も見ずドアを開け、手招きして立ち去っている。
外の人間が入って来ることによって何があるか分からないのに、かなり不用意な対応だ。
それは「病気の息子を菌から守ろうとする」という目的を考えると、違和感が強い。

その前には、父がジミーをバブル・ルームの中で自転車に乗せ、母から注意されている様子が描かれていた。なので、母に比べれば父は「ジミーを清らかに保たないと」という過保護な部分は低いということなんだろう。
ただ、そうであっても、外の人間が来た時、まるで気にせず家に入れてしまうのはワケが違う。
もしもクロエの不注意でバブル・ルームに問題が生じたら、ジミーは大変なことになってしまうわけで。
せめて父がクロエを家に入れるシーンが喜劇として弾けていればともかく、そういうわけでもないのだ。

一方の母も、クロエが来たと知って露骨に不快感を示し、除菌スプレーを神経質に噴射しながら「あんな子と友達になっちゃダメ」と注意しているにも関わらず、翌日以降も彼女が訪れている。
つまり、それを邪魔していないってことになる。それだけでなく、近所の小さな子供たちが来るのも止めていない。
それはキャラの動かし方として、中途半端だろう。
ものすごく過保護に息子を守ろうとしている母親のキャラ設定なんだから、そこは外部の人間が来ることを徹底的に排除しようとするべきじゃないかと。

クロエの動かし方も、やはり上手くない。
彼女はジミーに興味を抱き、自分から積極的に交流しようとしている。それだけでなく、誕生日にはわざわざパーティーを抜け出し、ジミーにキスを迫っている。
にも関わらず、その次のシーンではマークという「いかにも遊び人で軽薄な野郎でござい」という男を連れて来て、そいつと2年も交際している設定が明らかになる。
そうなると、ジミーの母が評していた「アバズレ」ってのが当たらずとも遠からずじゃないかと言いたくなってしまう。

その直前、クロエがジミーとキスしようとするが、バブル・ルームに邪魔されるというシーンがある。
だが、それによってクロエがジミーと恋人になることを諦めたという様子は見えない。しかも、その前からマークと付き合っているし、彼に求婚されたことを喜んでジミーに話している。
そうなると、「ジミーのことは最初から友達としか考えていなかった」としか受け取れない。
だが、それならジミーにキスを迫ったのは、やはりアバズレとしての不誠実な行為ってことになってしまう。

そんなクロエはマークから求婚されたことを嬉しそうに話したのに、「どう思う?彼でいいかしら?」とジミーに相談する。だが、ジミーが不機嫌な様子で彼女から以前にプレゼントされたバブル・モルモットを返却すると、「それだけ?それでいいのね?」と険しい表情で立ち去る。
それは反応として、不可解極まりない。
「どう思う?」ってのが「ホントは止めてほしい」という意味を込めての言葉だとすれば、嬉しそうに報告するのは間違っている。単純に「友人としての後押しや祝福が欲しかった」ということであっても、その反応は不可解だ。
どっちにしろ、そこの描写は「間違っている」と断言できる。

クロエが去った後、ジミーが彼女の置いていった箱を開けると、「アイ・ラブ・ユー」というメッセージの入ったウォータードームが入っている。
そうなると、「クロエはジミーが好き」ってことになるが、だったらマークのプロポーズを嬉しそうに報告するのは絶対に違うでしょ。
マークに求婚されても、ジミーのことが好きなら、それを嬉しいとは思えないはずだ。
「ジミーに止めてほしい」という目的で相談するのなら、それに見合った態度や表情を取らせるべきだ。

「主人公がバブル・スーツで外を歩き回る」という風変わりな冒険劇を描こうってのが、たぶん本作品の一番の目的だろうと思うのだ。だから、そこからの逆算として「どういう動機で主人公が外へ出るのか」という部分を考えればいいわけだ。
そして、その部分で、この映画は計算を失敗している。
「惚れた女のために」という動機が悪いわけではない。それは何の問題も無いが、そこに至るまでのジミーとクロエの恋愛関係を表現する部分を間違えているのだ。
そんなに難しいことを、求められているわけではない。シンプルに考えて、色んなトコを少しずつ改変すれば済むことだ。

例えば、ジミーとクロエを幼馴染にしておけば、もっと楽にストーリーを進行できただろう。
クロエの結婚については、「本人は望んでいないけど」という状況を作ればいい。分かりやすいケースだったら、政略結婚という方法もある。
で、「クロエはジミーが好きだけど、諸々の事情を考えると拒否するのも難しいので悩む」という形にした上で、クロエがジミーに相談するシーンを配置すればいい。そして、クロエは「ジミーに止めてほしい」という気持ちを分かりやすく示し、一方のジミーは「自分では彼女を幸せに出来ないと考え、弱腰になって反対できない」という動かし方にすればいい。
その直前に婚約者やクロエの親が訪ねて来て、「君がクロエを幸せに出来るのか」と問い掛けるシーンを用意しておくのもいいだろう。

ジミーはバブルスーツを簡単に完成させるが、とても雑な作りであり、とても無菌状態を完璧に保てるとは思えない。そもそも、思い切り両足が外へ突き出しているし、その時点で無菌状態じゃないだろ。
コメディー映画だし、あまり細かいことをマジに指摘するべきじゃないかもしれないけど、そこは大いに引っ掛かるなあ。
もっと引っ掛かるのは、バブル・スーツが破損しそうな状況でも実際は破損しないし、ジミーも全く気にしないこと。
つまり、ジミーがバブル・ルームやバブル・スーツで守られているという設定は、単にビジュアルと「何かにぶつかると弾け飛ぶ」という要素を使っているだけなのだ。
先天性免疫不全という病気をシリアスに捉えろとは言わないけど、それは扱いが雑すぎるでしょ。

ジミーが外に出たら「様々な人と出会ったり、初めての出来事を体験したりして、今まで知らなかった世界に触れる」という様子が描写されるのかと思ったら、そうではない。
一応は様々な人と出会うが、そこを掘り下げたり厚みを持たせたりすることは無い。
そもそも上映時間が84分と短めなので、あまり1つ1つのエピソードに手間や時間を掛けている余裕が無い。
それだけでなく、焦点が定まっていないという問題もある。

ジミーの冒険だけを描くわけではなく、彼を追う複数のグループも描いている。
それによって、肝心なジミーの旅物語は薄っぺらくなっている。
こいつだけがバブル・スーツという特殊な道具を使っているのに、他のキャラと大して変わらない使い方をしている。
では他の連中のエピソードが充実していて面白いのかというと、そういうわけでもない。ガチャガチャと大勢のキャラクターが動きまくっているけど、ただ無闇に騒がしいだけ。

あと、ジミーが世話になった面々を放っておいて先へ進むってのは、どうにかならんのか。
スリムがラスベガスへ連れて行ってくれたのに、何も言わずにスクーターで去ってしまう。フリークスとスリムたちが揉め始めると、それを止めずに老人の車でナイアガラへ向かう。
そりゃあ、「一刻も早くクロエの元へ辿り着きたい」という気持ちが強いのは分かるよ。
ただ、だからって世話になった面々への恩義より、そっちを優先してばかりってのは、主人公としていかがなものかと。それが笑いに繋がっているわけでもなくて、地味に主人公の好感度を下げているだけなんだよね。

ラスト直前になって、「実は4歳の時に免疫が出来ていて、ジミーは外に出ても全く問題の無い体だった」という事実が明らかにされる。それを両親は知っていながら、ずっと内緒にしていたのだ。
それが分かると、「ジミーのバブル・スーツが雑でも大丈夫なのか」という部分の疑問は解消される。
ただ、そういう問題ではないよな。
あと、どうしてもジミーを外に出したくなかった母はともかく、父まで内緒にしていたのは疑問が湧くぞ。そもそも4歳で免疫が出来ていたのなら、本格的な無菌室を用意する必要なんて無かったはずで。ジミーを騙すためだけの装置で良かったはずで。

もちろん物語のクライマックスとしては、「ジミーがクロエの結婚式を妨害し、彼女とカップルになる」というゴールが用意されている。
だけど、段取りに見合ったドラマが無いので全く盛り上がらない。
クロエのジミーに対する恋心が、終盤までは全く見えない状態なのよね。ナイアガラへ去るまでのシーンでは見えていたけど、それ以降は見えなくなっている。そもそも出番が少ないし。
マークの姉と話す時、ようやく「もしかしたら」という程度でジミーへの恋心がチラッと見えるけど、ものすごく弱いのよね。
だから「惹かれ合う2人の物語」としては、かなりのハード・ランディングとなっている。

(観賞日:2018年1月29日)


第24回スティンカーズ最悪映画賞(2001年)

ノミネート:【最悪のヘアスタイル】部門[ジェイク・ギレンホール]

 

*ポンコツ映画愛護協会