『ブルース・オールマイティ』:2003、アメリカ

バッファローの町でTVリポーターとして働くブルース・ノーランは、今の仕事に満足していない。彼はクッキー店の取材を担当するが、不満で一杯だった。同棲しているグレースの前でも、彼は「クッキーの話題なんて誰も興味を持たない」と苛立ちを吐露した。ブルースは視聴者から馬鹿にされる道化役に納得できず、「こんな仕事をしていたらアンカーマンになれない」と言う。翌朝、ブルースは保育園で働くグレースを送り届け、車でテレビ局へ向かう。渋滞に巻き込まれた彼は、激しく苛立った。
テレビ局に到着したブルースは慌てて会議の場へ赴き、プロデューサーのジャック・ベイラーやディレクターのアリー・ローマンたちと会う。ジャックはブルースに、今日の番組では市長のセックスを扱ったエヴァン・バクスターのリポートを使うと告げる。「そちらの方が数字がいい」と言われ、ブルースは仕方なく受け入れる。エヴァンから馬鹿にされたブルースは、嫌味で切り返した。会議の後、ブルースはジャックに「もう40歳なのに、いつまでリポーターを続ければいい?」と陳情する。彼はエヴァンの方が美味しいネタを取材していると感じ、「エヴァンになりたい」と愚痴をこぼした。
ブルースはジャックに「君はエヴァンにはなれない。君はユーモアがある優秀なレポーターだ」と言われ、大いに落胆する。しかし彼は視聴率週間にナイアガラの滝からの生中継を任されたので、喜んで現場へ向かう。ブルースはグレースに電話を入れ、「きっとアンカーの最終テストだ。これはスーザンがアンカーになった時と全く同じ手順だ」と言う。ピート・ファインマンとスーザン・オルテガがアンカーを務めるニュース番組が始まり、グレースはテレビの前で待機する。スーザンは番組の冒頭、引退するピートの後任としてエヴァンを紹介した。ショックを受けたブルースは生中継で苛立ちをぶちまけ、テレビ局を解雇された。
ホームレスがチンピラたちに絡まれているのを見たブルースは注意するが、激しい暴行を受けた。帰宅したブルースは、グレースの前で「せいぜい神に感謝しなくちゃな」と皮肉めいた言い方をする。グレースが「全ての出来事には理由があるのよ」と告げると、彼は「僕はそうは思わない。何が神だ。ぼくは奪われるばかりだ。神に無視されてる」と声を荒らげる。グレースがなだめようとしても彼の怒りは収まらず、「こんな冴えない人生に満足できるか」と荒れる。グレースが抗議すると、彼は苛立ったまま家を飛び出した。
当ても無く車を走らせたブルースは、電子掲示板に「前方に注意」と表示されたことに気付かなかった。「神様、僕を助けてほしい」と願った直後、タイヤが水たまりにハマって車が揺れる。グレースから貰ったお守りが落ちたのでブルースは拾い上げるが、前方不注意で車を柱に衝突させてしまった。幸いにもけがは無かったが車は損傷し、また彼は神への怒りをぶちまけた。その直後にポケベルが鳴ったが、知らない番号なのでブルースは無視した。
翌朝にも同じ番号から連絡が来るが、ブルースはポケベルを窓から投げ捨てた。しかし車に踏み潰されたポケベルが鳴ったので、彼は拾い上げて電話を掛けた。すると住所を指定して来るよう言われ、ブルースが出向くと「万能社」というビルがあった。彼がビルに入ると無人のフロアで清掃員が床を掃除しており、7階へ行くよう促した。ブルースが7階に着くと、さっきの清掃員が現れた。彼はブルースの父親について語り、「君のことなら何でも知っている。全てファイルにしてある」と語った。
ブルースのファイルを見た清掃員は、最近の神に対する冒涜の言葉を列挙した。「アンタは誰だ?」とブルースが尋ねると、「私は神だ」と彼は告げる。ブルースは全く信じずに試すような質問を投げるが、神の力を見て怖くなる。「君は言い訳ばかりだ。私の仕事を与えよう。文句があるなら君がやればいい。ここを出た瞬間、私のパワーを全て授ける」と神が話すと、ブルースは怯えてビルから逃げ出した。自宅へ戻る途中、彼は心で思ったことや口に出したことが全て現実になると気付いた。
ブルースの前に神が現れ、「君にパワーを授ける。好きに使っていい。ルールは2つ。誰にも正体を明かすな。そして人の心を操るな」と説明した。神は落ちていたグレースのお守りを拾い、「君が要らないなら私が貰おう。何かの役に立つかもしれない」と告げてバカンスに出掛けた。ブルースは自分を暴行したチンピラたちを目撃し、神の力で復讐した。御機嫌で帰宅した彼はグレースにキスし、気付かれないように神の力を使った。月を近付けたせいで日本では大津波が発生するが、彼は全く気付かなかった。
次の朝、ブルースが目を覚ますと神に救いを求める人々の声が聞こえたが、彼は全く気にしなかった。ブルースは自分の車を高級車に変身させ、渋滞を起こしている他の車を退かせた。警察犬訓練センターへ赴いた彼は、2つの特ダネを作ってリポートした。ジャックに呼び出された彼は復帰を持ち掛けられ、その場で快諾した。その後もブルースは次々に特ダネを作って取材し、世間の注目を集める存在になる。グレースは姉のデビーに、ブルースから高級レストラン「ブルー・パーム」での夕食に誘われたことを話す。プロポーズする気だろうと言われたグレースは「まさか」と言うが、その顔は緩んでいた。
その夜、ブルースは生放送中のエヴァンに失態を演じさせ、満足そうな笑みを浮かべた。グレースとの夕食に出向いた彼は、エヴァンがクビになってアンカーになったことを報告する。プロポーズだと思い込んでいたグレースは、困惑の表情を浮かべた。その直後、神に祈る人々の声が脳内に聞こえて来たので、ブルースは慌てて店外へ出た。すると神が現れ、「祈りの言葉だ。ずっと無視してきたので溜まっている」と教える。「ただの騒音にしか聞こえない」とブルースが言うと、神は「それは聞こうとしないからだ」と述べた。
「私のパワーを授けてから1週間で、何人を救った?」と問われたブルースは、「その前にやることがあったんだ。他の人はこれからだ。世界中の人を救うよ」と釈明した。すると神は、「君に聞こえるのはバッフォローの人々の声だけだ。最初から世界は任せられん。仕事を引き受けた以上、責任を果たしたまえ」と語った。ブルースが全ての祈りをパソコンのファイルに変換すると、150万を軽く超える数になった。彼は全ての祈りに対し、「イエス」の返答を送信した。
ブルースはアンカー就任パーティーに出席するが、グレースは同伴しないだけでなく電話にも出なかった。そこでブルースは神の力を使い、グレースが会場へ来るように仕向けた。しかしブルースはスーザンに言い寄られてキスしている現場を目撃され、グレースを怒らせてしまう。ブルースは慌てて後を追うが、グレースは「姉さんの家に行くわ」と車で去った。ショックを受けたブルースが屋内を水浸しにしたため、客は一斉に帰ってしまった。
パーティーを中止させたブルースの前に、神が姿を現した。「グレースに捨てられた。人の心を操らずに、好かれる方法は無いの?」とブルースが問い掛けると、神は「私もずっと探している。答えが分かったら教えてくれ」と告げた。次の日、ブルースは様々なメッセージをグレースの周囲に散りばめて何とかヨリを戻そうとするが、望ましい反応は得られなかった。その夜、ブルースはスザンナとコンビを組み、アンカーとしてのデビューを迎える…。

監督はトム・シャドヤック、原案はスティーヴ・コレン&マーク・オキーフ、脚本はスティーヴ・コレン&マーク・オキーフ&スティーヴ・オーデカーク、製作はトム・シャドヤック&ジム・キャリー&ジェームズ・D・ブルベイカー&マイケル・ボスティック&スティーヴ・コレン&マーク・オキーフ、製作総指揮はゲイリー・バーバー&ロジャー・バーンバウム&スティーヴ・オーデカーク&リンダ・フィールズ・ヒル&ジャネット・ワトルズ&ジョナサン・M・ワトソン、撮影はディーン・セムラー、美術はリンダ・デシーナ、編集はスコット・ヒル、衣装はジュディー・ラスキン・ハウエル、視覚効果監修はビル・テイラー、音楽はジョン・デブニー、音楽監修はジェフ・カーソン。
出演はジム・キャリー、モーガン・フリーマン、ジェニファー・アニストン、フィリップ・ベイカー・ホール、キャサリン・ベル、リサ・アン・ウォルター、スティーヴ・カレル、ノーラ・ダン、エディー・ジェイミソン、サリー・カークランド、ポール・サッターフィールド、マーク・キーリー、トニー・ベネット、ティモシー・ディプリ、ブライアン・タハッシュ、ルー・フェルダー、リリアン・アダムス、クリストファー・ダーガ、ジャック・ジョゼフソン、マーク・アデア=リオス、エンリケ・アルメイダ、ノエル・グリエルミ、ローランド・モリーナ、エミリオ・リヴェラ、アルバート・P・サントス他。


『エース・ベンチュラ』『ライアーライアー』に続いて、監督のトム・シャドヤックと主演のジム・キャリーがタッグを組んだ作品。
脚本は『スーパースター 爆笑スター誕生計画』のスティーヴ・コレン、TVシリーズ『ポリティカリー・インコレクト』のマーク・オキーフ、『ジム・キャリーのエースにおまかせ!』のスティーヴ・オーデカークによる共同。
ブルースをジム・キャリー、神をモーガン・フリーマン、グレースをジェニファー・アニストン、ジャックをフィリップ・ベイカー・ホール、スーザンをキャサリン・ベル、デビーをリサ・アン・ウォルター、エヴァンをスティーヴ・カレル、アリーをノーラ・ダンが演じている。

冒頭、ブルースは大きなクッキーを焼いて新記録に挑戦するクッキー店を取材する。彼は衛生上の理由でネットを被ることを指示され、「髪が乱れる」と愚痴をこぼす。ここで初めて画面にブルースが登場し、「神様、そんなに僕が嫌いですか」と漏らす。
だけど、まだ彼は「ネットを被らされて髪が乱れた」という程度の状態にしかなっていないので、「その程度で神様に愚痴を漏らすのか」と言いたくなる。
リポートの仕事にしても、そんなに理不尽なことを要求されているわけではない。トラブルが続くとか、厄介な人間ばかり相手にするとか、そういうわけでもない。
なので、「ブルースが不満そうにしている」ってのが、どうにも受け入れ難い。

グレースと会話を交わすシーンで、ブルースが「クッキー店の話題など誰も興味を示さない。アンカーマンになりたいのに、こんな仕事を続けていたら無理だ」という意味で強い不満を抱いていることが明らかになる。
ここで彼が不満そうにしている理由については、一応の理解が出来る形となっている。
ただ、理解は出来るが、共感は全くしない。
ここは「ツキが無いと感じることばかりが続いてウンザリ」という形にでもしておいた方が良かったんじゃないか。それで共感できるかどうかは分からないけど、少なくとも本作品よりはマシだろう。
なんかねえ、おとなしいのよね、喜劇としての導入部の描写が。

序盤、ブルースは献血に積極的なグレースに、「血なんて外に出すもんじゃない」と否定的なことを語る。事故が起きて怪我人が救急車で運ばれているのに、渋滞への不満ばかり漏らす。テレビ局の前にはホームレスがいるが、金を恵んでやらず冷たく立ち去る。
こういう様子を描いているのは、もちろん後に繋がる伏線のはずだ。
それを考えると、テレビ局を解雇されたブルースが不良たちに絡まれるホームレスを助けるのは、整合性が取れない。中途半端に善良さを示さず、冷たく無視すべきだ。
そこでは「車にイタズラ書きされている」という描写もあって、どうやら「運が悪い」ってことをアピールしたかったようだ。ただ、それなら前述したように、最初から「ツキが無い」という方向で徹底しておくべきだ。
解雇された途端、急に運の悪さをアピールするのは上手くない。

前述したように、ブルースは冒頭で「神様、そんなに僕が嫌いですか」と言う。そしてクビになると、「神に無視されてる」と文句を言う。
ただ、彼が神への憤懣を貯め込んでいるってことを描きたいのなら、彼と神の関係性を描くための手順が弱すぎる。
だから、彼が神に言及する箇所が、取って付けたような印象になっている。
ここを改善する方法は簡単で、彼の周囲(っていうか限定するならグレース)を「信心深くて常に神への感謝を忘れない人物」として造形しておけば済む。それによって、分かりやすい対比も出来るし。

ブルースは万能社のビルで神と会った時、「いかにも胡散臭い奴だ」といった感じでニヤニヤしながら話す。そして自分のファイルがあると聞き、それを見るために引き出しを開ける。するとファイルの分量が多いので引き出しが異常に長く、ブルースは取っ手を掴んだまま部屋の隅まで一気に押される形となる。
ここで初めて「現実離れした現象」が明確な形に描かれることになる。
その前に「1階にいた神がエレベーターも使わず、ブルースより先に7階へ来ている」という現象はあるが、そこは「神が不思議な力で7階へ来る」という様子を描いていないからね。
で、ともかく「引き出しが異常に長くて」ってのが最初の「不思議な現象」なんだけど、「それは違うだろ」と強く言いたい。
最初にブルースが不思議な現象を体験するのは、絶対に「神の力」を見るシーンであるべきだ。「引き出しが異常に長い」とか、心底から「どうでもいいわ」と言いたくなる。

神が自己紹介しても、もちろんブルースは信じずに笑い飛ばす。しかし引き出しに何の仕掛けも無いことを知り、背中に両手を回して指を何本立てているか当てさせる。神は次々に的中させ、5本なのに「7本」と言うがブルースが「外れ」と片手を出すと指が7本になっている。
そりゃあ指が7本になれば怖いだろうけど、それは「神の力」の見せ方として違うんじゃないかと。
だって、「外れたと思わせておいて指を7本に増やす」って、ある種の反則でしょ。
そこは普通に奇跡の力を見せた方がいいよ。

ブルースはビルから逃げ出した後、心で思ったことや口に出したことが全て現実になると気付く。ダイナーに立ち寄った彼はスープ皿に両手をかざして念じ、スープが2つに割れるのを見て嬉しそうな表情を浮かべる。
もちろん、ここは『十戒』の有名なシーンのパロディーをやっているのだが、そういうのを見せるとブルースが神の力を楽しんでいることになっちゃうでしょ。
っていうか実際にそうなんだけど、それは早すぎるなあ。全体の尺からの逆算なんだろうけど、もう少し怯えの時間帯を持たせた方がいいんじゃないか。
「神の力を手に入れる」ということに対するブルースの認識が、とても40歳を目前にした大人とは思えない幼稚さなのよね。最初から「年齢は大人だけど中身は子供」ってのを全面に押し出しているならともかく、そうじゃないからね。

ブルースが神の力を授かって何をやるかというと、まずは「グレースとのセックスを盛り上げる」という作業。それからリポーターに復帰して特ダネを次々に取り、エヴァンにヘマをさせてアンカーに就任する。
でも、全知全能の力を得たのに、その程度のことで満足なのかと。
それにアンカーになる夢を叶えるにしても、「特ダネを取材してリポーターに復帰し、その後も特ダネを次々にゲットし、エヴァンにヘマをさせてクビに追い込み」という手順を踏むのは、ものすごく愚かしい。
いや、もちろんブルースはバカなんだけどさ、そういう展開だと「神の力を授かった男」という仕掛けを充分に活用できているとは思えないんだよな。

ブルースは人々の祈りの声を無視し、それが溜まると今度は全ての答えを「イエス」で返す。
その後、隕石落下による停電が頻発する中で、宝くじの結果に不満を持った市民が暴動を起こす。責任を感じたブルースは、神に助けを求める。
でも、今まで周囲で何があろうと完全に無視を決め込んでいたブルースが、そこで急に責任を感じるってのは、残り時間が少なくなってきて慌てて舵を切っているようにしか思えないんだよね。
結末からの逆算を失敗して、上手いコース取りが出来ていないようにしか思えないんだよね。

ブルースが神に助けを求めると、「何もかも神に頼るのは、自分の中にあるパワーに気付いていないのだ。奇跡が見たいのなら、自分で起こせ」と言われる。ブルースは困っている人を助け、エヴァンに謝罪してリポーターに復帰する。
その後、グレースが今も自分を愛しているが傷付きたくないと泣いているのを知った彼は、大雨に打たれて「こんなパワーを取り上げてくれ。僕の運命は貴方が決めてくれ」と神に呼び掛ける。すると彼はトラックにはねられて天国へ行き、神から祈るよう諭されて現世に戻る。
そもそもハートウォーミングへの傾きが強すぎる時点で引っ掛かるが、啓蒙映画みたいになっちゃってるのが気持ち悪いなあ。
あと、「ブルースとグレースがヨリを戻す」という恋愛劇に結末を任せるのも、「なんか違うなあ」と感じるし。

(観賞日:2020年12月5日)

 

*ポンコツ映画愛護協会