『ブロークンシティ』:2013、アメリカ

ニューヨーク市警のビリー・タガート刑事は、黒人のマイキー・タヴァレスを射殺した容疑で起訴された。法廷の前には「正義の裁きを」と訴える大勢の黒人たちが押し掛けた。ビリーの弁護士は、「相手が発砲して来た」と主張した。タヴァレスはヤセニア・バレアという16歳の少女をレイプして殺害した容疑者だったが、無罪放免となっていた。カール・フェアバンクス署長はニコラス・ホステラー市長と面会し、「ビリーのことで話が」と告げる。ホステラーは「必要ない。どうせ予審で終わる」と軽く述べた。
カールが「デモ隊は殺人だと信じてる」と言うと、ホステラーは「そうだとしても、レイプ犯が1人減った。タガートは英雄だ」と話す。「目撃者が署に来ました」とカールが明かすと、「君の望みは何だ」とホステラーは尋ねる。カールは「街の平和です」と答えた。検察側の証拠不充分ということで、審議は終了した。ビリーは傍聴席にいたナタリーと喜び合った後、カールとホステラーに呼ばれる。2人は「不愉快な証拠がある。明るみに出ると厄介だ」と言い、辞職を促した。ビリーは反発するが、説得を受けて仕方なく承諾した。
7年後、ビリーは私立探偵として働いている。市長選が目前に迫る中、ホステラーは世論調査で対立候補のヴァリアントにリードを許している。助手のケイティーが未回収金の取り立てに苦労しているのを見たビリーは、相手に電話を掛けて脅した。ホステラーに呼び出されたビリーは、市庁舎へ赴いた。ホステラーはボルトン・ヴィレッジを40億ドルで買収すると決定し、ヴァリアントに批判されていた。ビリーはホステラーから、妻であるキャサリンの浮気調査を依頼された。「記者に頼めばいい」と彼が言うと、ホステラーは「妻も相手も一枚上手だ」と話す。ホステラーは「選挙までに証拠を掴んでくれ」と告げ、ビリーは2万5千ドルの前金を受け取った。
帰宅したビリーは、同棲中のナタリーから夕食会のことを確認される。女優のナタリーは低予算映画で初主演を務めることになり、関係者との夕食会が翌日に入っていた。ビリーは「ゲイ野郎に囲まれたくない」と難色を示すが、ナタリーに頼まれて承諾した。キャサリンを尾行したビリーは男との密会現場を目撃するが、相手の顔は分からなかった。ケイティーは調査を進め、彼女の密会相手がヴァリアントの選対本部長を務めるポール・アンドリュースだと断定するが、ビリーは疑いを隠せなかった。
ホステラーは当選を不安視する後援者のサム・ランカスターから、「50万ドルを選挙資金に注ぎ込んだ。どう勝つのか教えてくれ」と質問される。ホステラーは「あらゆる新聞やテレビ局にヴァリアントのネタを送ってある。デタラメだが、奴の汚点になる」と述べた。ポールを尾行して電車に乗り込んだビリーは、声を掛けられた。選挙戦について尋ねられたビリーは、清掃局員だと嘘をついた。ビリーは別荘を張り込み、キャサリンとポールの密会現場を撮った。
ビリーはナタリーと共に、夕食会へ赴いた。男優のライアンから馴れ初めを問われたナタリーは、「彼は家族の友人なの」と言う。彼女はプエルトリコ人で、本名はナタリア・バレアだった。「白人を演じたいから改名を?」と訊かれた彼女は、「オーディションでヤセニア・バレアの親戚かって、いつも訊かれるからよ」と答える。「それ誰?」という質問に、ナタリーはレイプ事件のことを説明し、「ビリーのおかげで私の家族は立ち直れた」と述べた。
討論会の準備をしていたヴァリアントは、ホステラーを「悪党で嘘つきだ」と徹底的に非難しようとする。その作戦をポールが諌めると、彼は苛立った様子で「各紙にネタが出てる。ホステラーの仕業だが、反撃の材料が無い」と言う。ポールが「真実で押し返す。このままで勝てる。だが、討論会でネガティヴ作戦をやったら潰されるぞ」と忠告すると、ヴァリアントは「分かったから、仕事をしろ。攻撃する材料をくれ」と述べた。
ホステラー主催のパーティーが催されているホテルへ赴いたビリーは、元殺人課のマードックと再会した。マードックはサムの息子であるトッドの護衛を担当していた。会場にはホステラーの後援者たちの他に、本部長へ昇進したカール来ていた。呼び出しを受けたビリーが指定の部屋へ行くと、キャサリンが待ち受けていた。彼女はビリーの尾行を知っており、5万ドルで手を引くよう求めた。「契約がある」とビリーが断ると、彼女は「この7年が大事なら手を引きなさい。交際している彼女が大事なら手を引きなさい。これが浮気調査だと思うの?彼の本性が分かってない」と語った。
ビリーとキャサリンがエレベーターを降りると、ホステラーが待っていた。彼はキャサリンに、「タガートの情報は私の物だ」と言う。キャサリンは「分け合うことを知らないのね」と嫌味を浴びせ、その場を後にした。ホステラーから調査結果を問われたビリーは、「確認を取るのに数日掛かる」と嘘をついた。しかしホステラーは写真の入っている封筒が内ポケットに入っていると気付き、それを渡すよう要求した。ホステラーは写真を確認し、ビリーに残りの金を渡して「仕事は終わりだ」と告げた。
ビリーはナタリーと共に、彼女の主演作の試写会へ出向いた。ナタリーとライアンの激しい濡れ場を見て、ビリーはショックを受けた。試写会後のパーティーで、ビリーは7年前から断っていた酒を飲んで荒れた。ナタリーが止めに入ると、ビリーは「どこが芸術的なラブシーンだ」と怒鳴った。罵声を浴びせたビリーだが、ナタリーから別れを告げられると慌てて謝罪した。するとナタリーは「2人の間には何も無かった。死人が繋いでいた」と言う。ライアンが来ると、ビリーは掴み掛かった。ナタリーが「やめて」と制止すると、ビリーは「何が役者だ。こいつと寝ただろ」と罵って会場を出た。
ビリーはケイティーから連絡を受け、ポールが強盗事件に遭って殺害されたことを知った。事件現場へ赴いた彼はトニー・ジャンセン刑事に声を掛け、中に入れてもらう。トニーはビリーに、強盗事件というのがメディア向けの発表であることを教えた。そこへカールが現れ、ビリーがホステラーの資金集めパーティーに出席していたことへの疑問を口にした。ビリーは奥さんの写真を渡しただけだと話し、「それ以上は言えない」と告げた。
カールはビリーに、「ポールが殺された。これは暗殺だ。何かあると気付いていただろう」と質問する。ビリーが「仕事をしただけだ」と言うと、カールは「私はホステラーを潰す。協力しないと、一緒に檻の中だぞ」と述べた。カールはビリーを連れて、ヴァリアントの元を訪れた。ヴァリアントは2人に、「ポールはトッドに会いに出掛けた。昼間に電話があって、ポールに話すと言った。我々に協力するのは恥だが、父親はもっと恥だと。終わらせたいと言ってた」と語った。
ヴァリアントはビリーと2人きりになると、ポールを愛していたことを明かした。探偵事務所に戻ったビリーは、ケイティーに「ポールは奥さんと寝ていない。トッドの身辺と再開発事業の裏を探れ」と命じた。彼はボルトン・ヴィレッジへ行き、ナタリーの両親を訪ねた。ビリーの「なぜ、この家に、ここじゃ辛すぎる」という問い掛けに、父親は「ヤセニアを一人には出来ない。あの子は、ここにいる。あの時、君は大きな代償を支払ったが、おかげで我々は安らぎを得ることが出来た」と語った。
ビリーはキャサリンと会い、「ポールは大切な友人よ。貴方は正しい行動を取れたのに、拒否した」と責められる。ビリーは「その通りだ。市長にハメられた。破滅させてやる。どんな手を使っても奴を潰す」と言い、協力を求めた。キャサリンは「主人の狙いは私の情報源だった。私はポールから、主人に関する情報を入手した。公表されれば彼は終わり。離婚と財産分与で口をつぐむと持ち掛けたけど、彼は断った」と語る。彼女はビリーに、ボルトン・ヴィレッジの売却額が通常の倍であることを話す。ビリーはサムの会社へ行き、外のゴミ箱に捨てられた資料を探る。発砲を受けたビリーは車で逃走するが、すぐに追跡を受ける…。

監督はアレン・ヒューズ、脚本はブライアン・タッカー、製作はランドール・エメット&マーク・ウォールバーグ&スティーヴン・レヴィンソン&アーノン・ミルチャン&テディー・シュウォーツマン&アレン・ヒューズ&レミントン・チェイス、共同製作はブランドン・グライムス&ベン・スティルマン、製作総指揮はジョージ・ファーラ&ステパン・マーティローシアン&ウィリアム・S・ビーズレイ&ジェフ・ライス&スコット・ランバート&ブラント・アンダーセン&ブライアン・タッカー&ダニエル・ワグナー&フレデリク・マルムベルグ&アディ・シャンカール&スペンサー・シルナ&ミスター・マッド、撮影はベン・セレシン、編集はシンディー・モロ、美術はトム・ダフィールド、衣装はベッツィー・ハイマン、音楽はアッティカス・ロス&クローディア・サーン&レオポルド・ロス、音楽監修はスコット・ヴェナー&シーズン・ケント。
出演はマーク・ウォールバーグ、ラッセル・クロウ、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、ジェフリー・ライト、バリー・ペッパー、カイル・チャンドラー、ナタリー・マルティネス、ジャスティン・チェンバース、ジェームズ・ランソン、マイケル・ビーチ、アロナ・タル、グリフィン・ダン、オデッサ・サイクス、ブリトニー・テリオ、ルイス・トレンティーノ、トニー・ベントレー、アンドレア・フランクル、ウィリアム・ラグズデール、デイナ・グーリエ、アーロン・ゼル、スティーヴン・フィッシャー他。


兄のアルバートと共にザ・ヒューズ・ブラザーズとして『フロム・ヘル』『ザ・ウォーカー』を撮ったアレン・ヒューズが、初めて単独で監督を務めた作品。
脚本のブライアン・タッカーは、これがデビュー作。
ビリーをマーク・ウォールバーグ、ホステラーをラッセル・クロウ、キャスリーンをキャサリン・ゼタ=ジョーンズ、フェアバンクスをジェフリー・ライト、ヴァリアントをバリー・ペッパー、アンドリュースをカイル・チャンドラー、ナタリーをナタリー・マルティネス、ライアンをジャスティン・チェンバース、トッドをジェームズ・ランソン、トニーをマイケル・ビーチ、ケイティーをアロナ・タルが演じている。
フォーブスが発表した「2013年のコケた映画トップ10」の第5位に入っている。

事件を起こしたビリーが起訴されて辞職するまでを冒頭で描き、そこから7年後の話に入る構成は上手くない。
荒っぼい手口の私立探偵になっていることも含めて、後から「実は7年前、こういうことがあって」という経緯を説明する構成にした方が効果的だろう。
市長との関係性も、後から明かした方が話に深みが出るはずだ。証拠を持っている目撃者がいて、ビリーの発砲が正当防衛じゃないってのを最初からバラしちゃうのも得策じゃないし。
それと、7年前の出来事を冒頭で描くなら、その時点でキャサリンを登場させて、ビリーと対面させておいた方がいい。それによって、7年前にビリーが彼女に対して受けた印象と、「ポールと浮気している」という事実をビリーが頭の中で擦り合わせる作業に繋げた方がいい。
依頼を受けたビリーが調査を開始して、初めてキャサリンが登場するってのは、キャラクターの見せ方として上手くない。

開始から35分ほど経過した辺りで、ナタリーがヤセニア・バレアの姉であることが明かされるが、「そのタイミングで言っちゃうのね」と意外に感じた。あっさりしているなあという印象を受けた。
そこまで隠したまま話を進めたのなら、もうちょっと引っ張った方がいい。そこでバラしてしまうぐらいなら、最初から明かしておいてもいいんじゃないかと。
っていうか、その要素があまり有効活用されているとは言い難いので、要らないんじゃないかと思っちゃうのよ。
それどころか、ナタリーそのものが要らないんじゃないかと。

ナタリーが売れない女優だとか、濡れ場のことでビリーと喧嘩別れするとか、どうでもいいんだよな。本筋と全く絡まないし。
ビリーが感情的になるのなら、事件絡みで感情的になるべきだわ。
しかも、そこで別れた後、もう二度とナタリーは登場しないから、途中で放り出したようになっちゃうし。
ビリーとケイティーの関係は、そこを掘れば何かあるんじゃないかという可能性を感じさせるし、ケイティーもナタリーに比べて遥かに魅力的なので、そっちだけで恋愛劇を作った方がいいんじゃないかと。

ビリーがホステラーの依頼を承諾するのは、過去の事件で借りがあるからではなく、報酬が欲しかったからだ。
だが、そこで過去の事件を絡めないのなら、必要性が乏しいんじゃないかと思ってしまう。
で、ポールが殺されるとビリーはホステラーから受け取った小切手を破り捨てて調査に乗り出すのだが、そこで初めて「ホステラーにハメられた」と感じたのか、その前から「ひょっとして利用されているのではないか」と感じていたのか、その辺りはハッキリしない。
あと、彼はキャサリンに「ハメられた」と言っているが、金に吊られて片棒を担いでいるので、ちょっと乗りにくいモノがある。

ボルトン・ヴィレッジは7年前の事件が起きた場所であり、ナタリーの両親が今でも暮らしている場所だ。
しかし、ビリーがナタリーの両親を訪ねるシーンが描かれるまで、そのことは明らかにされていない。
そして、そのシーンが訪れるまで、ボルトン・ヴィレッジの売却と開発計画が報道されているのに、ビリーが気にする様子は全く無い。
そんなことを全く気にせず、開発計画を進めるホステラーの依頼を受けてホクホク顔になっている。

ビリーはキャサリンに「ホステラーを破滅させてやる」と息巻くが、強い復讐心を抱くほど酷い目に遭わされたわけではない。
情報源を突き止めて始末するために利用されたビリーだが、そのせいで彼が罪に問われるとか、何かを失うとか、そういう目に遭ったわけではない。
だから、そこのモチベーションは復讐心と言うより正義感や義憤であるべきなのだ。
だが、そこまでのビリーにはそういった感情が全く無かったので、そこで急に宗旨替えされても、こっちの気持ちが揺さぶられない。

ビリーが7年前に起こした事件ってのは、実はラスト寸前まで本筋に関わって来ない。
その要素を排除しても、「ビリーがホステラーから仕事を受けるが、利用されたと知って調査を進める」という筋書きには何の影響も及ぼさない。
前述したように、弱みがあるからビリーがホステラーの仕事を受けているわけではないし、「弱みがあるから一度はホステラーの言いなりになるが、苦悩した末に覚悟を決めて悪事を探ることにする」といった展開が用意されているわけでもないのだ。

残り時間が少なくなり、ビリーがホステラーの悪事を指摘したところで、7年前の証拠映像が提示される。
だが、「正当防衛という主張は嘘だった」ということを示す証拠を、そこまで引っ張っている効果が全く無い。
どうせ序盤で「証拠を持った目撃者がいる」という台詞があった時点で、ビリーの主張が虚偽なのは露呈しているんだし。
むしろ、そんな弱みなんて早い段階で明かし、「ホステラーから余計なことをしないよう脅されてビリーが苦悩するが、正義感や義憤が勝って行動を起こす」という部分に多くの時間を使った方が、間違いなくドラマに厚みや深みが出たはずだ。

ポールが殺された時点で、黒幕がホステラーだろうってのは誰でも容易に想像できるだろう。そこを裏切る展開など待ち受けておらず、予想通りの展開が用意されている。
また、完全ネタバレになるが、ホステラーが人を殺してでも隠蔽しようとした秘密は何なのかというと、それは「ボルトン・ヴィレッジを売却した会社は跡地に団地など建てず高層タワーの計画を立てており、その建設工事でホステラーとサムが大儲けを目論んでいる」ってことだ。
こちらも、何となく予想できるような内容であり、とても凡庸な真相だ。
だから、さんざん隠して引っ張った挙句に明かされる真実としては、「そんなことかよ」というガッカリ感が否めない。

(観賞日:2015年8月31日)

 

*ポンコツ映画愛護協会