『ブリックレイヤー』:2023、アメリカ
ギリシャのテッサロニキ。ヴィクター・ラデックはドイツ人記者のグレタ・ベッカーをホテルの部屋に呼び出し、「アメリカ諜報機関の責任を追及したいなら力を貸してやろう」と極秘資料を見せた。「証拠は譲れないが、写真は撮っていい」と彼は言い、グレタは写真を撮りながら「アメリカを破滅させるネタよ」と興奮した。ラデックは彼女の意見に同意し、拳銃を構えた。彼は「君には悪いが、自分の手で伝えたい」と述べ、グレタを射殺した。
グレタの殺害事件は、すぐに大きく報じられた。これで殺された記者は3人目となり、全員がアメリカの諜報活動に批判的だった。一連の事件を受け、ギリシャ外務副大臣のコスタス・リオンタレスは「長年にわたってアメリカは他国の主張を無視して来た。CIAのヨーロッパに対する不当な扱いは看過できない」と強い不満を表明した。CIAの新人諜報員であるケイト・バノンはテッサロニキ駅の防犯カメラ映像を改めて調べ、ラデックが映っていることに気付いてオマリー長官に報告した。
ラデックは2つのロシアマフィアを仲介するCIA諜報員だったが、1年半前に死んだはずだった。オマリーとケイトはフィラデルフィアへ赴き、ラデックと親しかったスティーヴ・ヴェイルと会った。ヴェイルは元CIAで、現在はレンガ職人として働いていた。オマリーは旧友のヴェイルに、「ラデックがアメリカに批判的なジャーナリストを殺害し、CIAの仕業に見せ掛けている。しかも、我々のスパイ網を壊滅させる情報を握っている」と語った。
ヴェイルが「奴は罪無き者を殺さない。それに俺の前で死んだ」と言うと、オマリーはロシアの密輸業者であるボーリス・ポポヴの名前を出した。ラデックはCIAの指示を受け、ポポヴを事故に見せ掛けて殺害していた。そのポポヴの写真がグレタの遺体発見現場にあったことを、オマリーはヴェイルに教えた。彼はラデックか秘密を暴こうとしているので身柄を確保してほしいと要請し、ケイトと一緒にギリシャへ行くよう告げる。ケイトにとっても初耳なので、彼女は困惑の表情を浮かべた。
オマリーはヴェイルに、非公式の任務だと話す。ケイトは自分を軽く見るヴェイルに、腹を立てた。ヴェイルは「CIAとは縁を切った」と言い、オマリーの依頼を断った。しかし彼はラデックの差し向けた刺客に襲われて返り討ちに遭わせ、ギリシャへ向かうことにした。彼はケイトと共に輸送機へ乗り込むが、CIAのやり方に従うつもりは無かった。ケイトはヴェイルが眠っている間に、ラデックの資料を調べた。彼女はラデックがヴェイルとの撃ち合いで死んだとされていること、妻子が殺されていることを知った。
ギリシャに到着したヴェイルはケイトの計画を無視し、旧友で補給員のパトリシオを訪ねた。ケイトが勝手な行動に反発すると、ヴェイルは「これが俺のやり方だ」と口にした。彼はケイトに、自分たちの設定を海運王のトーランスと妻に変更すると告げた。パトリシオは必要なパスポートや免許などを調達しており、ヴェイルとケイトは着替えを済ませた。2人はパトリシオが用意しておいたメルセデスに乗り、テッサロニキの高級ホテルへ赴いた。
ヴェイルはケイトにシャワーを浴びるよう促し、その隙にホテルを抜け出した。彼は十二使徒教会を訪れ、プリペイド携帯を隠した。彼はCIAギリシャ支局長のタイ・デルソンを訪ね、「CIAはラデックが記者殺しの黒幕だと思っている」と話す。タイがオマリーの指示で来たと知って「何も聞いてない」と当惑すると、ヴェイルは「内通者がいて、ラデックに機密情報を流したとか」と語った。彼は協力を要請し、自分とラデック汚れ仕事を下請けしていたステンについて尋ねた。するとタイは、ステファノポロスと改名してクラブ経営者になっていることを教えた。
ヴェイルはステンのクラブへ行き、「ラデックを捜してる」と告げる。「奴は死んだ」とステンが言うと、彼は「お前の背後に誰かいるんだろ」と問い掛ける。ステンが協力を拒んで威圧すると、ヴェイルは手下たちを襲って逃亡した。ケイトがレンタカーで駆け付け、彼を助手席に乗せた。ヴェイルはケイトが襟の裏に発信機を仕込んでいたと知っており、それをステンに取り付けていた。ケイトからラデックに何があったか話すよう求められた彼は、「奴は2つのマフィアの仲介役を装い、CIAの任務で潜入していた。しかし正体かバレてロシアマフィアに妻と娘を殺された。奴は復讐に燃え、ロシア人を次々に殺した。俺は説得を命じられたが無理だった」と語った。
ラデックはCIAのサイトをハッキングし、「アメリカが世界各国で犯した罪を暴露されたくなければ、仮装通貨で1億ドルを用意しろ」と要求した。ヴェイルとケイトはステンを発見し、外出を待って屋敷に潜入した。ヴェイルは隠されていたグレタの携帯や、記者のアレコス・メラスが書いたアメリカ政府を批判する記事を発見した。ステンの手下が入って来たので、ヴェイルは格闘の末に始末した。パトリシオからの連絡で、彼はメラスがエンポリオ・スクエアにいることを知った。
ヴェイルはラデックの次の標的でメラスだと確信し、ケイトとパトリシオの3人でカフェにいる彼を張り込んだ。ヴェイルはラデックから連絡を受け、ケイトには気付かれないように通話する。「見逃す代わりに、永遠に姿を消すと約束したはずだ」と彼が言うと、ラデックは「俺の正体がバレた理由は分からないままだった。だが犯人はCIAだと突き止めた」と語った。「なぜCIAが?」とヴェイルが驚くと、彼は「分かってるだろ。任務をやり残したからだ」と述べた。
ヴェイルが「だとしてもお前のやり方は間違ってる」と告げると、ラデックは「一度だけ警告する。邪魔するな。それが彼女のためだ」と言い放つ。ラデックは「彼女」がケイトのことだと語り、「俺の家族を守れなかったお前に、彼女を守れると思うか?」と問い掛けた。彼はメラスを射殺し、現場から逃走した。現場にはタブレットが遺されており、パトリシオはハードディスクの解析を買って出た。現場にはタブレットだけでなく、キューバの国連大使であるルイス・デルガドの写真も残されていた。
ケイトが「オマリーに伝えなきゃ」と言うと、ヴェイルが制止した。彼はオマリーに内通者の可能性があると言い、CIAの人間は誰も信用するなとケイトに警告した。ケイトは激しく反発し、ヴェイルがタイを訪ねた事実を指摘した。「なぜ彼女だけは信じるの?」と問われたヴェイルは、「タイは古い友人だ」と答えた。彼はタイの元へ行き、「ラデックの正体をバラしたのはCIAだ」と話す。するとタイは以前から知っていたらしく、「前の支局長から必要悪だったと聞いた。ラデックが一方的に任務を放棄したのよ」と述べた。
ヴェイルが「あの日、君を待ってた。一緒に逃げる約束だったのに、なせ来なかった?」と尋ねると、タイは怖くなったのだと弁明した。タイと抱き合ったヴェイルは、そのまま彼女の家で一夜を過ごした。ヴェイルは夢の中で、政治家殺しを命じられたラデックから「俺には無理だ」と告白された時のことを思い出した。「だが、断ったらお前は終わりだ」とヴェイルが忠告すると、ラデックは家族を連れて一緒に逃げる約束を交わした。その際、ヴェイルはタイも誘っていたのだ。
目を覚ましたヴェイルは、タイから「手掛かりがあるかもしれないからタブレットを渡して」と言われる。ヴェイルが断ってもタイは承諾せず、「部下を取りに行かせるわ」と告げる。ヴェイルは「これは俺の仕事だ。ラデックを救えるかもしれない」と語り、その場を去った。彼がホテルに戻ると、ケイトが拳銃を向けた。彼女はヴェイルが1年半前にラデックを逃がしたと確信し、内通者の疑いを抱いていた。ヴェイルは今回の事件でラデックと接触したことは認めたが、「君の思ってる理由じゃない」と告げた。2人がパトリシオの元へ行くと、何者かに殺されていた。そこにステンの一味が現れ、銃撃戦になった。ヴェイルは次々に敵を倒すが、ケイトを人質に取られた。ヴェイルは身代わりを申し出てケイトを逃がし、その後でステン一味を爆殺した…。監督はレニー・ハーリン、原作はノア・ボイド、脚本はハンナ・ウェグ&マット・ジョンソン、製作はジェフリー・グリーンスタイン&ヤリフ・ラーナー&ジョナサン・ヤンガー&ハイディ・ジョー・マーケル&ロバート・ヴァン・ノーデン、製作総指揮はアヴィ・ラーナー&ダリナ・パヴロワ&ボアズ・デヴィッドソン&エリック・リンゼイ&タナー・モーブリー&レス・ウェルドン、共同製作はクリスティーナ・セラフィニ&ジョン・ヤリンシク&コナー・チャールズ&ヨハンナ・ハーリン&ニコール・スウィンフォード、共同製作総指揮はヴィクター・ハディダ&ロニー・ラマティー&サノス・レオンタリス&セバスチャン・セレル=ワッツ&スティーヴン・R・フォレント、撮影はマッティー・エーリカイネン、美術はフィリップ・マーフィー、編集はイアン・アースキン&クリス・ギル、衣装はイリーナ・コチェヴァ、音楽はヴァルター・マイア、音楽監修はライアン・スヴェンドセン。
主演はアーロン・エッカート、ニーナ・ドブレフ、ティム・ブレイク・ネルソン、イルフェネシュ・ハデラ、クリフトン・コリンズJr.、オリヴァー・トレヴェナ、オリ・フェッファー、アキス・サケラリオウ、ジョン・T・ウッズ、コンスタンティン・アダエフ、ザッカリー・ウィリス、デヴィッド・ケネディー、ヴェロニカ・フェレス、ヨハンナ・ハーリン、アナスタシア・ドゥームトシス、ミカエル・シリオプロース、テオドーラ・ジュリッチ、クリスティーナ・セラフィニ、ローラ・ホッパー、ヴァシリス・カネロプーロス他。
FBIでの勤務経験を持つポール・リンゼイが「ノア・ボイド」名義で発表した小説『脅迫』を基にした作品。
監督は『ザ・ヘラクレス』『ザ・ミスフィッツ』のレニー・ハーリン。
脚本は『ボーダー 自由への扉/シーラーズの9月』のハンナ・ウェグと『アンリミテッド』のマット・ジョンソンによる共同。
ヴェイルをアーロン・エッカート、ケイトをニーナ・ドブレフ、オマリーをティム・ブレイク・ネルソン、タイをイルフェネシュ・ハデラ、ラデックをクリフトン・コリンズJr.、パトリシオをオリヴァー・トレヴェナ、ステンをオリ・フェッファーが演じている。ラデックの行動は、何から何までデタラメだ。それは冒頭の登場シーンから、ハッキリと見える形になっている。
粗筋で書いたように、彼はグレタに機密情報を見せて「撮影だけならOK」と言い、写真を撮影させてから射殺する。
こういう書き方をしただけで分かる人もいるだろうけど、機密情報を見せて撮影させる意味が全く無いのよ。グレタがホテルに来たら、すぐに殺せばいいのよ。
だってラデックは最初から、グレタを殺すために呼び出したわけで。そのシーンは、「観客に情報を示すため」という作劇上の都合で擁護することも出来ない。グレタがCIAに批判的なのも、ラデックが機密情報を持っているのも、その後の展開で触れているからだ。
なので、そのタイミングで絶対に示しておかなきゃいけないってわけじゃない。
もっと言っちゃうと、グレタを呼び出して殺すという行動からしてデタラメなのだ。
ラデックの目的は、CIAへの復讐のはず。CIAを批判しているグレタは、どちらかと言えば大枠では自分側の人間だ。そういう立場の記者を次々に殺すって、どういうつもりなのかと。
CIAの仕業に見せ掛けるという意図は説明されているけど、復讐の方法としては、あまりにも回りくどいし無駄な犠牲が多い。しかも、そうやって何の関係も無い記者を3人も殺しておいて、その挙句に取った行動が「CIAに1億ドルの仮装通貨を要求する」という脅迫だ。
それのどこが復讐なんだよ。どこが妻子の仇討ちなんだよ。そんなんじゃCIAは潰せないぞ。
そもそも、CIAは巨大な組織であり、自分も所属していたんだから「下っ端は命令に従って動くだけの駒」と分かっているはず。自分の情報を漏らすよう提案した奴や、それを承諾した上司がいるはず。
そういう連中を特定して始末するのが、復讐としては、あるべき姿なんじゃないかと。
それなのに、そういう個人を特定しようとする意識が皆無なのは、どうしてなのかと。ラデックのことばかり書いてきたが、ヴェイルの行動にも不可解な点は大いにある。
特に引っ掛かるのが、ケイトの計画を無視して海運王のトーランスと妻に化けるという行動。
わざわざ着替えたり高級車に乗って高級ホテルに泊まったりするんだから、それが意味を持つ展開になるものだと思うのは当然のことだろう。
しかし実際には、そんな詐称が何の役にも立たないのだ。それを役に立たせるような行動を、ヴェイルは何一つとして取らないのだ。ラデックに関しては、「レンガ職人」という職業設定も無意味に等しくなっている。
一応、ステンの屋敷を探るシーンでは、「壁のレンガを1つ抜き取って、その奥に隠されていた携帯電話や新聞を発見する」というシーンが用意されている。レンガの違和感を覚えて、そこを調べたってことだ。なので、そこで意味を持たせていると言えなくはない。
だけど、そこは無理に場面を作っている印象が否めないのよ。
ステンが壁に穴を開けて携帯や新聞を隠しているってことは、「誰かが侵入して調べる」ってのが前提での対応でしょ。
だけど侵入されている時点でセキュリティー的にダメだし、そもそも携帯や新聞記事なんて処分しておけば済むことだし。ラデックの戦闘能力は、そんなに高くない。そこは「CIAを辞めてブランクがあるから」と解釈すべきなのか。でも、そういうことなら、それを脚本の中に落とし込むべきであって。
そういう作業が無いってことは、シンプルに「アクションシーンの描写が下手」ってことだ。
ラデックの手下たちに襲われるシーンでは4分ほど使っているが、まだヴェイルが仕事に取り掛かる前なんだから、そこはサクッと簡単に片付ければいい。
クラブでの乱闘は、自分からステンを挑発し、自分から喧嘩を仕掛ける形なので、アホにしか見えない。エンポリオ・スクエアのシーンでは、メラスが命を狙われていることは確信しているんだから、目を離さずに警戒しておかなきゃダメなはずだ。
ところがヴェイルはラデックと電話で話すことを優先し、メラスから目を離してウロウロと歩き回る。
そのせいでラデックは簡単にメラスの前に歩み寄り、射殺して逃げている。
一応は「ラデックが影武者を用意しており、そいつにヴェイルが騙される」という仕掛けがあるけど、それ以前の問題なのよ、ヴェイルの不注意で不用意な行動は。粗筋で触れたように、メラスを殺したラデックが逃亡した時、現場にはタブレット端末だけでなくルイス・デルガドの写真も残されている。
だから次はデルガドが狙われる展開があるのかと思ったら、そういうことは無い。それどころか、「次はデルガトが標的」ってことに関連したストーリー展開も無い。
ケイトがオマリーに報告しようとするのは、写真が無くても成立する展開だし。
だったら、そこの要素は邪魔でしょ。ラデックが現場に残すのはタブレットだけでいいでしょ。ヴェイルはオマリーが内通者だと決め付け、ケイトに「CIAの人間は信用するな」と連絡しないよう求める。そう言っておきながら、自分はタイと会って「ラデックの正体をバラしたのはCIAだ」などと大事な情報をベラベラ喋る。
幾ら元恋人という設定であろうとも、そんな言い訳が全く擁護する材料にならないほどアホすぎる。
何しろ、彼が余計な情報を簡単に漏らしたせいで、パトリシオが殺されるんだから。
そうそう、もう完全ネタバレになっちゃうけど、内通者はオマリーじゃなくてタイだからね。そもそも、ヴェイルにはラデックの妻子を守れなかった過去がある。そしてラデックを逃がしたせいで、今回が起きている。
今回も自分の口が軽かったせいで、パトリシオが殺されている。
ようするにヴェイルって、テメオが何度もヘマをやらかして、その後始末をしているだけなのよ。周囲に多大な迷惑を掛けながらのマッチポンプなのよ。
それなのに、自分のヘマでメラスが殺されても、パトリシオが惨殺されても、後悔とか反省とか罪悪感とか、そういうのが全く無いんだよね。ヴェイルからするとラデックは親友なので、最初は信じようとしているし、助けたいと思っている。でも次々に人を殺しているので、それを放置することは出来ない。そもそもラデックの妻子を守れなかった過去があるので、負い目も感じているはずだ。
だから、そこでの苦悩や葛藤、「逃がした判断は正しかったのか」といった心の揺らぎなんかを厚く描けば、そこに人間ドラマの面白さが出ただろう。
また、ラデック側にも妻子を失った悲しみや強い怒りがあるので、ヴェィルと互いの感情をぶつけ合うようなことがあれば、観客を引き付ける力になっただろう。
だが、ヴェイルの心情を深く掘り下げることは無いし、ラデックも中身の薄い悪人になっている。終盤に入ると、ラデックはコスタスの殺害を企む。粗筋では触れなかったが、かつて彼が任務を放棄した時の標的がコスタスだ。
なのに、今さら「やり残した任務がある」ってことでコスタスを始末して、どうしたいのかと。
「リストだけでは説得力が無い」とか言ってるけど、行動がメチャクチャなのよ。
「CIAの指示でコスタスを殺した」と声明を出すことで、CIAの地位を失墜させようってのが狙いらしいが、やってることがデタラメすぎる。物語の決着は、しょっぱいの一言だ。
ヴェイルはラデックと対決して倒すが、まだ内通者の件が残っている。ヴェイルはタイが内通者だと気付いて部屋へ出向くが、拳銃を向けられて逃げるのを見送るだけ。タイの差し向けた刺客たちは爆殺するが、自分も吹き飛ばされて窓から道路へ転落する。
動けなくなったヴェイルは、タイにひき殺されそうになる。そこへケイトが駆け付け、タイを射殺してヴェィルを助ける。
ようするに、最後の最後でヴェイルは「王子様に守られるお姫様」と化すのだ。なんだかなあ。(観賞日:2025年12月24日)